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第八十二話

あぁ、物語が終わってしまいます。

始まりがあれば、終わりがあるのは当たり前なのですが、作者として寂しく思ってしまうのですよー。

次回、最終回です! 9/15の19時頃に投稿予定です!


ゴルディア・セントラル宙域で起きたノイ=ヴァルド銀河帝国と新生の連邦政府との間で起きた最終決戦は、辛うじて連邦政府の勝利で終わった。

フェルマントが再び全銀河へ向けて勝利宣言が放たれた。それに対して、ノイ=ヴァルド銀河帝国は沈黙で応えた。


「ふぅ、とりあえず勝ったけど、この後、帝国がどう動くのか分かっていないのよね。宰相のアントワーヌさんが帝国と連絡を取り合っているようだけど、ここで決裂したら、まだ戦争は続くのかな?」


直美はフェルマント邸のサロンで紅茶を頂きながら、横に座るセレナに話しかけた。


「そうですわね。もう、戦争は十分だと思うのですが……ライナルト・フリードリヒがどう判断するか次第ですわね」


ライナルト・フリードリヒ・ノイ=ヴァルド、彼は皇太子だ。グランツ皇帝亡き後、順当に考えれば彼が皇帝の座を引き継ぐはずだ。


「あら、ライナルトは戦争なんて続けないと思うわよ。あの子は、争いごとには向いていないわ。問題は彼の周りね。無理矢理ライナルトを担ぎ上げなければ良いけど。今日にでも何らかの返事が来るらしいわよ」


セレナのおばあ様、イザベル・セレフィーナ・フェルマント元侯爵夫人が言った。セレナが言うには、イザベル様は帝国宮廷でも名高い知識人であり、詩や礼儀作法に通じた方で、様々な婦人たちと交流があったそうだ。いわゆる奥様ネットワークというやつだろう。

それだけに帝国から離れた今でも、彼女は帝国内の噂話から権力者の情報に至るまで色々と詳しいのだ。


「それじゃ――」


直美が言いかけたとき、ドアをノックする音が聞こえた。執事のセバスだった。彼もフェルマント邸が襲撃にあった時に負傷したが大事に至らなく、無事に職場復帰していた。


「失礼します。奥様。グレゴール様が直美様とセレナお嬢様をお呼びです」


「あら、噂をすればって事かしらね」イザベルがシレっと言った。


直美には、イザベルは、既に何かしらの情報を握っていたのではないかと思ったが、今から分かることだと思い直し、おとなしくセレナに付いて行くことにした。

てっきり、フェルマントの執務室へ行くのかと思っていると、前に入ったことがある会議室へと誘われた。


会議室に入ると、フェルマントとアントワーヌそして、オルヴァンの三人以外に、始めて見る男性が二人居た。一人は四十台ぐらいの年齢で、やせ型、シルバーグレーの髪の男性。もう一人は背が高く、三十代後半ぐらいで青い瞳に金髪、そして何処か、ユーグに似ていると直美は気がついた。


「セレナ、直美。こちらが、ライナルト・フリードリヒ・ノイ=ヴァルド皇帝陛下とゲオルグ・ヴァイゼンベルク宰相だ」


思わず、息を飲む。彼がライナルト・フリードリヒでは無いかとは思ったが、まさか皇帝と紹介されるとは思って居なかった。

その、大銀河帝国の皇帝は、玉座でもなく普通の会議室のソファーに座っているのだ。

しかも、直美としては何とも気まずい。彼の父と弟を殺めた張本人なのだから、彼から恨まれても仕方がない。


思わず身構える直美に向かって、ライナルトたちは、すっと立ち上がると、直美とセレナに対して頭を下げたのだ。


「な、何をされているのですか? ライナルト様、貴方は皇帝ですよ。簡単に頭を下げてはいけませんわ」


セレナが慌ててライナルトに言った。直美でも王家や皇族が容易く頭を下げる事はしないと知っている。それでもライナルトは頭を下げたのだ。


「停戦を協議したく、馳せ参じました。この度の戦は、我が帝国軍が無理難題を押し付けたうえでの暴挙でありました。我が首を差し出したい所ではありますが、現状、それも難しく、こうして頭を下げるしかありません」


その後、何とかライナルトたちを座らせて停戦に向けた調整に入って行った。戦後処理の落とし処など分からない直美はおとなしく聞いているだけだったが、かなり連邦側に有利な条件で停戦協定を結ぶことができたようだった。

調印式は、明日行うことにして、その日の会議は終了した。



会議を終えて、サロンに戻ると直美は長い息をついた。


「ふぁぁ……やっと終わった。なんだか慣れないことだから気疲れしたよ」


重厚なサロンのソファーに身を沈め、ぐったりと脱力する。

直美の姿を見て、セレナも隣に腰を下ろし、同じく肩を落とした。


「そうですわね……私も、疲れましたわ。後は晩餐会だけなので、気が楽ですわね。……あっ!」


突然、セレナが弾かれたように顔を上げる。


「直美、ドレスは持っていまして?」


「へぁ? ド、ドレス? そんなものグリムリーパーにあると思う?」


「……! 大変ですわ! おばあ様ぁぁぁ!!」


セレナは元皇女とは思えぬ勢いでドアを開け放ち、ドタドタと廊下を駆けていった。

直美はただ呆然と、その背中を見送るしかなかった。



ややあって戻ってきたセレナの後ろには、イザベル夫人がしかめっ面で立っていた。


「まったく……セレナ、淑女が廊下を走るなどはしたない!」


「ご、ごめんなさいおばあ様。でも、ドレスが無いなんて一大事ですの!」


イザベル夫人はため息をつき、しかし直美を見るとにこりと微笑んだ。

その笑みは堂々としたものでありながら、どこか温かさを含んでいた。


「心配いりませんよ、直美さん。セレナのお古が山ほどあります。背丈も近いし、針子たちに手直しさせれば、今夜に間に合うでしょう」


「えっ、でもそんな……悪いですよ」


「気にすることはありません。女は時に戦場に出るよりも、こういう場で装う方が重要ですからね」


そう言ってイザベル夫人がパンパンと手を鳴らす。すると奥から、すでに呼び出されていた数人の針子たちが布と道具を抱えて現れた。

直美は、思わず戦場で敵に囲まれた時のような緊張を覚える。


「はい、腕を広げて! こちらの丈を少し詰めます」


「ウエストの締め具合はどうです?」


「胸元は……少し工夫が要りますね」


「え、ちょっ……ちょっと待って、苦しいってば! あ、そこ引っ張らないで!」


直美は慣れない作業に翻弄され、声を上げるが、針子たちは容赦しない。

セレナは横でにこにこしながら眺めていた。


「ふふふ、直美。これが“お姫様遊び”の本番ですわよ」


「遊びってレベルじゃないってば! これ、戦闘訓練より疲れるよ!」


「まぁ、慣れてしまえば楽なものですわ。――おばあ様、どうでしょう?」


イザベル夫人は少し離れた位置で腕を組み、じっと仕立ての様子を見ていた。

やがて頷き、落ち着いた声で告げる。


「……うん、見られる姿になってきましたね。水色のドレスなら直美さんの雰囲気にも合う。あとは肩にケープを掛ければ完璧です」



最終調整を終え、鏡の前に立った直美は、自分の姿に思わず目を見張った。

薄い水色のドレスにケープをまとい、シンプルながら清楚で凛とした佇まいを見せている。

普段の服装からは想像もできない“女性らしさ”が、そこにはあった。


「……わぁ。思ったより軽いんだね。中世のドレスみたいに重くて息苦しいものかとばかり」


「ちゅうせい……? 何のことか分かりませんが、そんな拷問のような服を着るはずがありませんわ」


セレナはあきれたように言い、自分も淡いピンクのドレスにレースのボレロをまとって鏡の前に並んだ。


並んだ二人の姿はまるで姉妹のようで、イザベル夫人は微笑みを浮かべた。


「よろしい。これで晩餐会も恥をかかずに済むでしょう。……ただし」


夫人の目が鋭く光り、二人は背筋を伸ばした。


「直美さん、セレナ。姿は淑女になったのです。晩餐の席でも振る舞いに気をつけなさい。ナイフとフォークを振り回すなど、決してなさらぬように」


「……振り回したりしませんって!」


「え、えっと……気をつけますわ」


そんな調子で、晩餐会前の午後は笑いと慌ただしさに満ちて過ぎていった。


本日19時頃に最終話を投稿予定です!

是非見てくださいね!!

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