第八十一話
オオサカの無茶ぶりを聞きながらも、直美は外部カメラの映像を諦め、シノが見ているレーダー画像を艦長席に呼び出した。
カメラが壊れる直前まで見ていた戦艦の位置と、レーダーが捕らえている大まかな位置だけで戦艦の位置を予測する。
ガァァン!! という大きな音と共に、戦艦から放たれた主砲が、グリムリーパーの側面を削り落としていく。
「まだまだ!」直美はそう言うと操縦桿をわずかに横に倒して、迫ってきた戦艦とすれ違う。
「デカブツが!!」シノの声だ。
直美は素早く正面の大型モニターに後部カメラの画像を映し出す。そこには、真っ赤に膨張していく高エネルギーの火の玉が見えた。その姿は巨大で超新星爆発を思わせるほどであった。あたり一面を、その狂暴な爆発エネルギーが飲み込んでいく。
「うぉ!」モニターを見たバロックが席で、のけ反っている。
「間に合わないぃぃ!!」
超高温の爆発エネルギーがグリムリーパーの後部に到達する。警告表示など見なくても直美には分かる。まもなくメインの噴射ノズルが限界を迎え溶解するだろう。
そして最後はエンジンが耐えきれずに爆発する。最も、その時には艦橋も高温に晒されているので、人の体は耐えられない。
その時、艦長席のモニターに映し出していたレーダーが空間異常を検知した。
グリムリーパーの背後で空間が歪む。
バァァーーン!!
近距離でワープアウトしてきた影響を受けて、グリムリーパーに衝撃波が当たり、後ろから蹴り飛ばされたような衝撃を感じる。
「コンゴウ!!」
ワープアウトしてきたのは、デスカリオンであった。直美は思わず、デスカリオンのAIであるコンゴウの名を叫んだ。
「直美艦長!? だ、大丈夫ですか!」
その声はカシアだった。
「え? カシア、何で!?」
直美にも、訳が分からない。何でカシアがデスカリオンに乗って現れたのか。
「詳しい話は後で! とにかくデスカリオンの陰に入ったまま脱出しましょう」
直美は、カシアの言う通り、背後をデスカリオンに守られたまま爆発エネルギーから遠ざかることに成功した。
グラディオンの爆心地から離れたことで、直美は一息つくことが出来た。
「ありがとう、カシア。助かったよ。もう駄目かと思ったもん。それにしても、あのエネルギーが氾濫している状態の中を良くピンポイントで飛んで来れたね!?」
「それはオオサカがコンゴウを誘導してくれたからですよ。何もせずにデスカリオンがワープしたら、下手すればグリムリーパーを巻き込んで事故りますからね」
「そりゃ、ワイもギリギリやったで。あの一瞬で、艦長はんの作戦を応用した救援作戦を考えて、実行せなアカンかったからな。作戦を考えた時点でも、実現できるか分からんかったんや。上手いことカシアはんたちが、デスカリオンに乗っててくれたから動かすことが出来たけどな。あれで無人のままやったら詰んでたわ」
「はっは。私もデスカリオンを安全圏に動かそうと思って、魔力供給担当を連れて乗艦していたら、急にオオサカから連絡が入りましてね。何が何やら分からずにワープさせられましたよ。それでワープアウトしたと思ったら、爆発の真っ只中で、私の方こそ死ぬかと思いましたね」
どうやら、オオサカは、グラディオンの爆発に書き込まれると判断した瞬間に、直美が行ったグラディオンへの海賊行為のような戦法を応用して、デスカリオンをグリムリーパーの近くにワープアウトさせたのだ。
しかもAI同士で連携を取りながら行ったので、あのとてつもないエネルギーが荒れ狂う中をピンポイントで出現させる事に成功させた。
「あれは、かなり一か八かやったけどな。ワイも普通ならやらんで。けど、あのままやったら艦長はんが助かる可能性は無かったから、賭けに出るしかなかったんや」
「あ、それよりも帝国軍!」直美は慌ててレーダーを確認してみるが、レーダーは真っ白で何も判別が付かない。
「うーん、何も見えませんね。まるで、チャフを全域にぶちまけたみたいです。それに他の艦とも通信が繋がりません」
戦場にはエネルギー波と艦の残骸がデブリとなって飛び交い、レーダーの視界を遮っていた。通信も近くに居るデスカリオンは問題無いが、爆心地近くの艦とは通信も出来なくなっているようだ。
「オルヴァンさんたちは平気かな……グラディオンからは少し離れていたし、グリムリーパーが突撃を開始したら直ぐに離脱するように言っておいたけど」
直美も自信は無かった。これほどの爆発エネルギーが生み出されるとは想定外だったのだ。
◇ ◇ ◇
不思議な感覚だ。あれほどの激しい戦闘があったはずなのに、グリムリーパーの中では静まり返っていた。
リム=ザップだけが席を離れて、艦首の方で応急処置を行っている。本来であれば直美も行きたい所であったが、いつ戦況が動くか分からない状態で艦長がウロウロしている場合では無いと自粛しているのだ。
「オオサカ、被害状況は?」
「そうやな、一言で言うとボロボロやな。主砲は三番だけ生きとるけど、一度、精密検査した方がエエから、出来れば使わんといてほしいな。装甲は、無いと思った方が早いわ。今なら巡洋艦の副砲で貫通するで。エンジンは三から四割程度の出力なら出せるけど、まともな戦闘機動は無理やな。副砲なんて、ほんまに付いてたっけってレベルで台座ごと無くなってるわ」
「ふーむ。ようするに、これ以上は戦えないって事か……帝国、退いてくれるかな?」
「グランツ・ノイ=ヴァルド亡きあと、帝国もしばらく混乱するでしょうから、当分は連邦政府に手を出す余裕は無くなるはず、おそらく停戦するかと――直美、あなたのお陰で、父や母、兄弟たちの仇を取ることが出来ましたわ。本当にありがとう」
セレナの頬に一筋の涙があふれ落ていく。それまで気丈に話していたが、ついに言葉を詰まらせてしまった。
「そうだね。そうじゃないとね」
直美も色々な思いが、頭の中を駆け巡る。戦争の意義は何なのかと……これほど多く命と人生を賭ける必要があるのか。
「艦長、レーダーが少し晴れてきました……えっと、味方は五隻です。五隻残っています! ラジェール伯爵軍は高速戦艦一、銀翼の艦隊は空母一、戦艦一、アンヌさんの軽巡一、黒槍艦隊の戦艦一です。バロックさん……ドゥラン伯爵は無事ですよ!」
シノが艦橋に広がった重苦しい空気を一掃するかのように元気な声を上げた。
「っけ! あの親父が簡単にくたばるかよ。それにしてもあの黒槍艦隊が旗艦を残して全滅か……」
バロックが小さくため息をついたのを、直美は気がついた。彼のため息には、父親が無事だったという安堵と、かつての仲間だった艦隊のメンバーが居なくなったという悲しみが入り混じっているように見えた。
そして、直美もまた、オルヴァンとアンヌが無事だったことに少し安堵した。ジェンガ―の戦艦が沈んだ時にはアンヌも共にするのでは思ったが、軽巡という装甲の薄さから返って、戦艦たちに守られて陣の中ほどに居たことで生き延びる事ができたのだろう。
「グリムリーパーが単独でグラディオンの背後を突くには、陽動作戦として、皆に突撃をかけてもらう必要があった。私が、もっといい作戦が立てれたら被害も減らせたかもしれないのに……」
安堵はしても喜ぶことは出来ない。それだけ味方の被害も大きく失った命も多い。
「シノ、敵の数は?」
「それが……戦艦二隻と重巡一隻だけです。しかも、どれも救難信号を出しています。あ、オルヴァンの空母から救助艇が出て行くみたいですよ」
「それじゃ、敵は壊滅したって事だね! よっしゃ! 戦いは終わりだ!! いやー私も、グラディオンに特攻したときは死ぬかと思ったよ」
エルザが歓喜の声を上げた。彼女は軍医ではあり、戦闘員では無い。
グリムリーパーには、艦橋以外に部屋らしい部屋は無いのだ。その為、非戦闘員の彼女も艦橋で映し出される激しい戦闘を見続けることになったのだ。
その反動なのか、彼女にしては、はしゃいでいるように見える。
「うん。やはり部屋は必要だったかも知れないね」
エルザの様子を見て、直美はボソッと呟いた。
読者のみなさーん。
ブックマーク登録と★評価をお願いしますね!
この二つの数が作者の励みとなるので、
よろしくお願います!




