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第七十七話


「直美……大丈夫か……聞こえるか……」


「あ、リム=ザップ! これは? 何があったの……私、操縦に集中しちゃってた」


「……直美らしいな……」


リム=ザップのボソボソとした説明で、ようやく、何が起きたのか把握してきた。

始めに人工重力が止まり、酸素生成や空調も止まった。ただこれだけなら、数時間は問題無い。

致命的だったのが発電の停止だ。複数の発電設備があり、艦を生かすための電気は供給されているようで、艦長席の操縦桿や各種パネル、それ以外に艦が進むのに必要な発電は問題なく動いている。しかし、乗組員の生命維持に必要な発電設備は停止していた。


「それで、他の人たちやユーグは?」


直美の質問にリム=ザップがゆっくりと答えてくれた。

停電したことで油圧維持出来ずに低下したのだろうという推測。その結果、気密扉の密閉性が弱まり空気漏れが始まったこと。

ユーグたちは慌ててヘルメットや船外服を取ろうとしていたようだが、既に無重力の何もない場所に浮かんでいたユーグは、その場で手足をバタつかせるだけで終わってしまったこと。


「普通……生命維持装置が……最優先。……しかし、なぜか……艦を動かすことを……AIが優先した」


これは、合理的に考えれば、ヘリオスに墜落すると確実に全滅する。そこで一人でも生存者を救うため艦の推進を優先させただけかも知れない。

それでも、直美にはコンゴウが直美の指示を最優先にしたのではないかと思えた。


「えーっと、それじゃ、暗くって見えていないけど、その辺に遺体が浮いているって事かな?」


直美は、ふっと今自分が居る空間がどのような状況なのか思い出した。確か数人の人が居たはずだ。


「そうだな……俺が……片付けよう……」


リム=ザップが居たはずの方角からバツン、バツンという音が聞こえて来る。まあ、あの程度の拘束具なんて簡単に千切れるだろうなとは思って居たので、特に驚きはない。


直美は再びモニターに目を移した。暗闇の中、何か目の端を大きな物体が行き来しているような気はするが、見えなければ問題はない。

きっと、リム=ザップが何かの荷物を移動させているに違いない。


「ヘリオスの重力圏から脱出に成功したし、これでもう大丈夫だ。……機関出力を最微速にしてっと、後は生命維持に関わる部分を起動しておくか」


直美は機関出力に全フリしていた魔力を、生命維持に関わる方へと回した。電力も回復し油圧が戻る。


「ふぅー、これで酸素も供給されてくるし、室温も戻って来る。ワープするだけの魔力はないけど、空気と温度が何とかなったら、少し休憩して魔力を回復させないとね。それにお腹もすいたから、飲み物や食べ物も探さないとな。あ! コンゴウおはよう! 再起動終わったね。」


直美がこれからの行動を考えていると、電力が回復したことでデスカリオンのAI、コンゴウが再起動した。


「直美艦長、おはようございます! 艦長は随分とお疲れのようですね。先に艦長室を快適な空間にしておきますので、しばらく艦長室でお休みになられてはいかがでしょうか?」


「うぁーそうか。艦長室なんて個室があるんだね。贅沢~!! でも、そうさせてもらおうかな。私が寝ていても魔力供給は大丈夫?」


「はい。寝ている最中も頂きますが、環境調整に必要な魔力以外は魔力タンクに蓄積しておきますね」


「うん。それでよろしく、リム=ザップも休めたら休んでおいてよー。それじゃ、コンゴウ、進路はゴルディア・セントラルに向けてね。何かあったら起こしてね」


直美はそう言うと、艦橋を出て艦長室へと向かった。

艦長室は艦橋のすぐ近くにあった。部屋の中は綺麗に整理されており、私物は少なめに感じた。部屋の中の調度品は流石に帝国の皇族が乗る艦だけあって豪華な感じがする。艦の中はグリムリーパーもそうだが、金属が多く使われているのだが、この艦長室は木が多く使われていた。


「へぇーこの世界でも、木の方が高級感があるって感じなのかな? フェルマントさんの執務室も木製の調度品があったもんね。えっとベッドはあるけど、どうしょっかなー」


念のために、センサーで空気や温度の確認をしたあと、久しぶりにヘルメットを脱いでベッドの周りをクンクンと匂いを嗅いでみたが、特に前の人の匂いがするわけでもないし、ベッドカバーも新しい物と交換されているようだったので、そのまま横になることにした。



ふぅーとため息をついたことまでは覚えているが、その後はいつの間にか眠っていたようだ。

何時間ほど寝たのか、時間を把握していなかったので分からないが、気怠さは無くなり、だいぶん楽になっていた。


「起こされなかったって事は、特に問題は起きていないってことだよね。とにかく、艦橋にもどってみるか」


直美は寝癖を手ぐしで整えてから部屋を出る。


「バロックたちは平気かな。皆の魔力では飛べないだろうから、こっちから戻るしかないよね……よく考えたら、ルミナスチャートってあるのかなここから戻るにしてもルミナスチャートが無いと飛べないんだっけ」


ブツブツ言いながら艦橋に入ると、中は照明が灯って、綺麗に片付けられていた。何が片付いているかは置いておくが。


「直美……もう、平気か?」


「ありがとうね。もう大丈夫だよ。大分良くなったから、ところで……ちょっとお腹がすいたけど、リム=ザップは平気?」


「そうだな……何か食べた方が……良いか。コンゴウ……何かあるか?」


「ええ、ありますよ! ただ、自動調理器具は止めていたので、直ぐにとなるとレーションぐらいになりますが」


「うーむむ。レーションか……まあ、前に食べたのは二百年ほど前の物だったからね。さすがに二百年もあれば、まともになっているはずだよね。うん、それで良いよ。何処にあるの?」


直美はグリムリーパーに残されていたレーションの味を思い出したが、さすがにあの不味さからは改良されていると信じることにした。

ゆっくり食事をとるよりも、簡単に栄養補給だけして、なるべく早くセレナたちに合流した方が良いだろうという考えだ。


「それでは案内いたしますので、そちらの端末に表示されている案内にしたがって移動してください」


コンゴウの言う端末というのは、腕時計に近い形をしていた。腕に装着することで、音声に従って画面を空中に照射して立体的な画像を表示してくれる。


「へぇー。オオサカのタブレットよりも進化している感じがするね」


「ふっふふ。そうですね。こちらの端末は艦内だけでは無く、ある程度、距離が離れていても通信が可能なんですよ」


コンゴウの話では、この腕時計型の端末で、四十万キロぐらいなら通信が可能のとのことだ。地球規模で換算すると、地球から月面まで通信出来る事になる。



コンゴウの案内で艦内をうろついて、レーションを手に入れて再び、艦橋へ戻ってきた。ついでに飲み物も忘れずに持って帰ってきた。

レーションのパッケージは、前に見た物よりも洗練されていて、どことなく、日本にあったカロリー何とかという物に似ている気がする。


「…………」


味は全く洗練されていなかった。仕方がないから食べはしたが、二度とレーションという物は口にしないと心に誓うレベルだった。


「まさか、二百年も味が変わらなかったって……まさか、これが帝国軍の伝統の味で二百年も、この味を守り続けて来たとか?」


そんな伝統は、とっととゴミ箱に捨てるか、白色矮星にでも叩き込むべきだと思ったが、ここで言っても仕方がない。


「絶対に連邦軍のレーションは、味の分かる人に開発してもらいたいわね。これは戻ったら提案しないと」


直美はビニールパウチに入った飲み物で無理やり流し込んだが、リム=ザップを見ると、特に何も言わずに次々と食べている。


「ねぇ、リム=ザップは、これおいしいの?」


「いや……不味い……」


直美はリム=ザップに頷いた。前にセレナも不味いと言っていたが、軍人にとってはおいしいのかとも思ったが、そうでは無いと聞いて安心した。


「さて、栄養も取ったし。……ねぇコンゴウ、ゴルディア・セントラルまでのルミナスチャートってある?」


「はい、大丈夫ですよ。オオサカ先輩から教えてもらっています。こちらは、直美艦長のみ開示可能の情報として受け取っています」


直美は、一瞬、オオサカ先輩ってと思ったが、おそらくオオサカが自分の事をそう呼ぶように言ったんだろうなと突っ込むのをやめた。


「良し、それじゃ。ゴルディア・セントラルに帰るとしますか!」



デスカリオンやユーグがボスではありませんでした!

いよいよ次回からラスボスの登場です。

今日の夕方にもう一本投稿する予定です!


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