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第七十四話


「直美……敵が……来る」


オオサカを待っている間、手持無沙汰だった直美はキャビネットの中身を漁っていた。新品の酸素ボンベを見つけたので、喜んで自分の船外服の酸素ボンベと交換してると、リム=ザップのボソリとした声がヘルメットのスピーカーを通して聞こえた。


「え! どっちから?」


リム=ザップが指をさしたのは、直美たちが入っていた扉とは反対側の扉だった。


「隠れろ……俺が――」


リム=ザップが言い終わる前に、直美は素早く救命カプセルの陰に隠れた。一方、リム=ザップも扉の陰に隠れ、太ももに備え付けられたホルスターから大型の銃を抜き出した。

その銃身を見た途端、直美はギョッとした。その大型の銃はキャノンブラスターと呼ばれていたことを思い出したのだ。キャノンという名がついている通り大砲レベルの銃だ。


直美はカプセルの陰から慌てて這い出ると、ケーブルを繋げたまま、タブレットを抱えて、蓋の開いているカプセルの中に身を躍らせた。その途端、強い光が辺りを照らしたと思うと、色々な残骸が凄まじい音を立ててカプセルにぶつかって来た。


「あっぶなー。外に居たら船外服を破ってたかも」


救命カプセルは、その役割から頑丈に作れているので、宇宙空間に漂う少々のデブリに当たっても耐えれるようになっている。

戦闘が終わるまで、中に居た方が良さそうだと判断した直美は、おとなしくカプセルの中でジッと待つことにした。中にいてもカプセルの外で強い光と何かがぶつかって来る衝撃が伝わって来る。


「艦長はん、終わったけど問題が……って何、寝てんねん」オオサカの声がヘルメットのスピーカーを通じて聞こえてきた。


「いやー、だって敵が攻めて来たから、とりあえず退避?」


「えぇぇぇ!! アカンって、はよ脱出してくれんと! ワープの準備開始してもうたで」


「え! だって、今、救命カプセル中に入っているけど、外はリム=ザップが戦闘中なんだよ。私が出れるわけないじゃない。直ぐにミンチにされちゃうよ。ワープをもう少し遅らせないの?」


「それは困ったわ。あのAI、せっかち君でな。ちょっとビビらせたら過剰反応しやがって、もう人の言う事を聞かんのや、それで……すぐにでもワープする気や。とりあえずバロックはんには伝えるけど……すまんけど、何とか脱出でけへん?」


「直美……救命カプセルで……脱出しろ……」


「それや! 艦長はん、操作パネルは中からでも操作できるやろ。急いでや!」


「駄目だよ! リム=ザップはどうするのよ!」


「俺は……真空でも……しばらく持つ……後で迎えを……」


「本当に大丈夫なんだよね! 絶対に死んじゃ駄目だからね。オオサカ、ワープ地点は重力圏の一歩手前に変更できる? あの落ちる瀬戸際あたり!」


「それぐらいなら何とか、ねじ込んだるわ!」


直美はオオサカの返事を聞くと、急いで頭上の操作パネルを起動させた。


カプセル内の操作パネルが青く光り、起動を開始した。ゆっくりと蓋を閉じて行く。慌ててタブレットからケーブルを引き抜く。


「えーっと行先は、とりあえずコロニーで良いよね。良しできた! じゃあ、リム=ザップ、私は先に出るけど、ぜったいに死んじゃ駄目だかね! 約束だよ!!」


直美はリム=ザップに声を掛けると、寝返りをうって仰向けの体勢に変えた。ガコンという振動の後、救命カプセルが射出口へと運ばれ行く。


「……ん? あれれ?? 止まった!! 何でよ!」


後は、脱出口が開いて射出されるだけのはずが、何故か動きが止まった。慌てて体よ捩らせて、うつ伏せなりながら操作パネルの表示を目で追っていく。


「はぁ? エラーってあぁ! 脱出口が閉じられている?」


「何やて! AIは脱出を許可しとるのに……そうか! 艦長権限か! あのクソガキ! 何をやって――」


「あ、オオサカ!? ちょっと、オオサカ!!」


その瞬間、直美は軽い眩暈を感じ、自分たちが亜空間に入ったことが分かった。


「うぇー飛んじゃったよ! グリムリーパーはちゃんと離れてたかな。って落ち着いている場合じゃないな。どうやって重力圏から脱出すかだよね。連絡艇じゃ無理だし。やっぱり、この救命カプセルの射出を動かすしかないかな」


ワープ中もリム=ザップが派手に暴れているのが感じられた。カプセルの蓋越しに、光がちらちらと見える。


「リム=ザップ……デカブツ壊さないよね。亜空間で壊れるとか嫌なんだけど」などと考えていると通常空間に抜け出たのが分かった。


「リム=ザップ、聞こえる? 外に出ても平気?」


「ああ……大丈夫だ……近くに敵は居ない……」


直美は、再びカプセルの蓋を開けた。恐る恐る、カプセルの外を見ると、そこはカプセルに入る前とは随分と様変わりしていた。

いや、散らかっているのは変わらないが、何故か壁の一部が無くなっている。


「いったいどんな戦い方をしたら、壁が無くなるのよ。とにかくリム=ザップ、怪我はしていない?」


「大丈夫……鍛えている……」


一部の臓器と脳以外は人工的な機械である彼が、何をどうやって鍛えるのか分からないけど大丈夫そうなので直美は安心した。


「こんなことをしている場合じゃない。急がないとヘリオスに落ちる! リム=ザップ、艦橋に行こう! 脱出カプセルのロックを解除して逃げないと、私たちまで

死んでしまうよ」


「場所が……わからない……」


デカブツというあだ名をつけるだけあって超大型戦艦の内部は広い。そもそも現在位置も分からないのに、艦橋が何処にあるのかなど分かるはずも無い。

当然だが案内板などが艦内にあるはずも無い。


「誰かに案内させ……」


「すまん……皆、話せない……と思う」


そこらには、焼け焦げた状態で散らばっている船外服らしきものが見える。


「あー、そのようね。それじゃ探すしか無いか……オオサカと繋がることが出来たら、簡単にわかるんだけど、さすがに本体と離れすぎか」


直美たちは時間も無い事から、乗組員か艦橋の位置がわかる物を探しながら歩いて回った。



「人、全然居ないねー。たまに人を見つけたーって思っても、冷凍マグロならぬ冷凍人間だっりするし」


オオサカが気密扉を開放したのは、かなりダメージがあったようだ。ただ、オオサカの話では三系統あるうちの一つだけ開けたはずだから、絶対に生存者は居るはずなのだが。


暫く艦内をウロついていると、遂に気密扉が閉じられているブロックに出た。

空気の状態を示す表示が、扉の向こう側には空気があることを表している。


「さて、この扉を無理やり開けたら、また冷凍人間が量産される事になりそうだけど、素早く入って、中から閉じてみるか」


気密扉は基本、電気と油圧で開け閉めが出来るようになっている。しかし、緊急時に手動でも開け閉めが出来るように扉の横に手回し出来るハンドルが付いているのだ。


気密扉に付いている窓から、向こうを覗いてみるが、人の気配は無い。

直美は、リム=ザップに抱えてもらいながら、気密扉の下にある小さな蓋を開けた。そこにあるハンドルをゆっくりと回す。

暫く回すと、ブシュー―という空気の抜ける音と、わずかに扉に隙間が出来た。敵が来る前に突破したいので、必死にハンドルを回して、リム=ザップが通れるぐらいまで、扉を開けて行く。


「良し! 行こう!」


直美がリム=ザップに声を掛けると、リム=ザップは直美を抱えたまま、扉を通って中に入る。

リム=ザップは慎重にあたりの様子を伺っているようだ。彼が備えている各種センサーを使って、辺りを確認しているのだろう。



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