第七十三話
直美は工具箱といつも使っているタブレットを腰に装着すると、リム=ザップを伴って船外ハッチへと向かった。ここからは時間との勝負だ。
一番困るのは、ユーグがデカブツごとグリムリーパーの破壊しろという指示を出す事だ。
デカブツの強度から考えると、デカブツに張り付いたグリムリーパーを外から攻撃をしてもデカブツは問題無いがグリムリーパーは破壊出来てしまう。
「ちょっと、リム=ザップって船外服を着なくても平気なの?」
「……問題無い……後でメンテナンスが必要」
直美がグリムリーパーの船外ハッチの準備をしていると、リム=ザップが普段着のまま待っていたので聞いて見たが、またしてもリム=ザップの人間離れした実態が明らかになっただけだった。
「すごいね!? 本当に無敵だね」直美も呆れるしかない状態だった。
リム=ザップと船外ハッチから出ると、直ぐにデカブツの艦体へと乗り移った。直美のブーツに取り付けられた電磁石が働き、艦体の表面を歩いて艦内に侵入できそうな場所を探す。
少し歩いた所に、魚雷によって装甲が破壊された場所があった。
しかし、そこは熱によって装甲が融けて歪に結合されている。
面倒ではあるが、融けた部分は放置して、さらに広範囲から剥がすために工具を取り出そうとしていると、リム=ザップが装甲の端を掴んでいるのが見えた。
直美も、まさかとは思ったがリム=ザップの様子を見ていると、彼は力任せに装甲を引きはがしていく。
時折、リム=ザップの体からブシューという音と共に各関節部分に内蔵されているモーターが発した熱が体外に排出されているようだ。
「ふぇー、なるほどドッグでの修理が捗った訳だ。解体するのに工具や機械を使わなくて良いんだものね」
「……フレームまで歪むから……破棄する部分だけ……」
リム=ザップの受け答えを聞きながらも、直美は便利そうだなと感心していた。
それだけ、グリムリーパーを修理するときは、歪んだネジや融けて溶接されてしまった部分を外すのに苦戦したのだ。
「よし……俺から……入る」
リム=ザップが装甲を剥がして、更には内部構造の防熱材や気密材を取り除いて入って行く。直美は船外服を引っかけないように気を付けながらリム=ザップの後に付いていく。
艦内は、既に気密が破られていたようで空気は無い。おそらく気密が保てなくなったブロックごと閉鎖したのだろう。
気密扉の傍までくると、リム=ザップが、おもむろに壁に向かって腕を振り上げた。何をしているのかと直美が見ていると、リム=ザップはその腕を思いっきり壁に叩きつけた。
メコッと言う音と共に艦内の内壁に穴が開いた。
「普通、殴ったぐらいで穴が開くかね。せっかくバーナー持って来たのに、リム=ザップが居ればこれも要らないの?」
内壁は石膏ボードで出来ているのかと思えるほど簡単に穴が開いている。もちろん普通は出来ない。直美もバーナーで内壁を焼き切るつもりだったのだ。
「ここから……制御ケーブルを……」
確かに、初期のグリムリーパーでも気密扉が閉鎖された近くに制御ケーブルが通って居たことを思い出した。その時も、ケーブルが切断されていたせいでオオサカが扉の開閉が出来なかったのだ。
「オオサカ、ここから制御できる?」
リム=ザップが引きずりだしたケーブルをタブレットのカメラに見せる。
「うん。見ただけやと分からんわ。とりあえずタブレットに繋いでくれるか。リム=ザップはん、そのケーブルの赤の線と白の線をタブレットのコネクターに繋いでほしいんや、白をピンの二十五番、これはグランドやな。それで赤を十六番やこれで一旦、読み取ってみるわ」
リム=ザップが引きずり出したケーブルの被膜をむしり取ると、タブレットのコネクターのピンに直接ケーブルを差し込んでいく。
「あー、これはアカンわ。扉など艦内設備の制御は出来るけど、艦体自体に影響を与えるのは無理やな。けど、面白い事を思いついたで。ここから制御できる範囲だけやけど、全部ブロックの気密扉開けたるわ! リム=ザップはん、艦長はんが飛ばされんように掴んどいてな」
「おう……」
リム=ザップはそう言うと直美の抱きかかえるようにして壁に押し付けた。更にリム=ザップは両腕を内壁に突き刺すように穴を開けて、内部のフレームを掴んだ。直美には、リム=ザップがロッククライミングに使うアンカーボルトのように見える。
ガゴンという音が聞こえたと思うと、続けてゴォォという凄まじい風切り音と共に体が引っ張られる。リム=ザップがいなければ、直美の体なんて簡単に吹き飛ばされてしまっていただろう。
直美のヘルメットの外から聞こえてくる轟音に思わず叫びそうになる。
そう、この音は、戦闘シミュレーションで何度か聞いたことがある。これは艦内にいる人間にとっては死の音。空気が大量に漏れている音だ。
暫く続いた轟音の後、艦内が静かになった。
「これって、もしかして、艦内の人は全滅したとか?」
直美は船外服に取り付けられている外気温を確認した。腕に取り付けれたデジタル表示にはマイナス二百七十度、いわゆる絶対零度に近い。
この気温と真空という環境では、人間は、十秒程度で意識を失い、長くても一、二分で死亡するという、訓練中に教わった知識を思い出していた。
「いや、艦内全域が真空になった訳や無いで、少なくとも艦橋に居る者は生きとるわ。艦橋部分は二重三重の安全装置を備えとるから、ここの一系統だけでは、無理なんや。気密扉の制御系統は三本あるから、何処かの区域に、生き残りはおるはずやから注意してや」
「うん、わかった。それじゃあ、この後どこに行けば良いかわかる?」
「そやな、一系統だけでも張りめぐらされたネットワークで大体の予測は出来るわ。このまま真っすぐ通路を進んで、右に曲がれるところで曲がると突き当りに緊急脱出システムがあるわ。皇女ちゃんが乗っていたようなカプセルの射出装置やな。これはAIが管理しとるから、ここからハッキングするのが楽そうやで」
直美とリム=ザップは、オオサカから聞いた内容に従って通路を進んでいく。真空となった艦内は音も無く、どことなく不気味な感じが漂っている。
「まあ、白色矮星ヘリオスに漂っていた宇宙船の墓場よりはマシか」
直美が、誰にともなくつぶやいた。
「艦長はん、流石やな。なるほどな、ヘリオスか、それはエエな。重力圏内に一気に飛ばしたら脱出は無理や!」
どうやら、オオサカはデスカリオンを前の古巣?に案内してあげることにしたようだ。
暫くオオサカに言われた通りに進むと、銀色に鈍く光る金属製の扉が見えてきた。どうやらここが目的地のようだ。この扉は施錠はされておらず、簡単に開くことが出来た。部屋の中も当然、真空状態になっている。
部屋の壁沿いに備え付けれていたキャビネットがいくつか開いており中身が辺りに散乱している。幸いにも人らしきものは居ない。
脱出装置だから通常は人が居ないのだろう。
直美がタブレットを持ってぐるりと周りの様子を映す。
「そこの制御パネルを開けてくれるか?」
オオサカの声に反応して、リム=ザップが制御パネルの側面を覆っている外装を掴むと、そのまま引き剥がした。
「えっと、そのネジを外したら、普通に開けれた思うけど……ま、良いか」
リム=ザップの豪快な開け方に呆れながらも、中を覗き込む。
「ああ、これ制御コードだよね。前にセレナのカプセルで見たのと同じだ」
「そうそう、それや。それを十六番に入れて、それからそっちの赤白のまだらな線を九番にいれて、後は白の線を二十五番や」
オオサカの言う通り配線をタブレットのコネクターに直接突き刺していく。
「よっしゃ、乗っ取り開始するで! このまま数分待っててな」
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