第六十二話
「まずは対艦ミサイル発射! 続けて亜空間魚雷も全弾発射!」
直美は亜空間魚雷の進路が確保できたと見ると、迷わず切り札である亜空間魚雷を発射させた。
先に発射した対艦ミサイルが陽動で、本命が亜空間魚雷だ。発射された対艦ミサイルが、始めは放物線を描き、その後、目標物目掛けて加速し追尾を始める。
その為、初期段階では天上方向からの攻撃を警戒し、狙われた艦は天上方向へ副砲を向ける。
一方、亜空間魚雷は目標に対して天下方向の位置でワープアウトし迫ってくる。もちろん追尾機能もあるが、それに頼る段階になったら、対艦ミサイルと変わらないため、なるべくワープアウトして直ぐに命中させてこそ意味があるのだ。
「オオサカ、亜空間魚雷四発用意、目標、空母一、二」
直美は空母の前に立ちふさがっている戦艦と重巡が撃沈できると踏んで、先に空母への魚雷攻撃に移った。しかし、敵も穴を塞ぐために駆逐艦たちが殺到してくる。ここはスピード優先で足の早い駆逐艦が向かってきたのだ。
「もぉ、邪魔だな。バロック、カシア、オオサカ、近づいて来る駆逐艦二隻と巡洋艦二隻、排除出来る?」
「やってみます!」「おう」「任せとき」
三者三様の口調であったが、三人に任せて、直美は空母を狙えるコース取りに掛かりっきりになっていた。
「対艦ミサイル全弾、迎撃され――あ、亜空間魚雷、全弾命中です!」
シノが嬉しそうな声を上げた。しかし、直美には戦果を確認している余裕はない。迫り来る駆逐艦と巡洋艦の攻撃を躱しながら、空母まで通る射線を外部モニター越しに探していた。
「亜空間魚雷を受けた戦艦十と重巡一、二が撃沈します。ただ、戦艦一と九、重巡三、九がフォローに入りました」
「うわー、ドンドンやって来るね。せっかく穴開けたのに、また埋まっちゃっ――おっと敵の艦載機だ! 副砲、自動迎撃開始!」
公爵家の空母から発艦していた艦載機たちを呼び戻して、直美たちの対応に当たらせる事にしたようだ。
数十を超える小型の艦載機が対艦ミサイルを抱えて飛び込んでくる。これらは一撃離脱でミサイルを発射すると、空母に戻ってミサイルを補充して、再び戻って来る。
「はぁ、敵対すると空母って、かなり鬱陶しいね。オオサカ、これって対応方法無いの?」
「そやな。残念やけど、地道に艦載機の数を減らすしかないな。ワイの操縦している艦載機もミサイル撃ち尽くしたら、そのまま機銃で敵の艦載機を攻撃するわ。どうせ、グレムリンに戻っても収容しとる暇はないしな」
直美は敵の多さから、迂闊に近づくことが出来ずに苦戦を強いられてしまった。
「艦長、チャフが晴れてきました。敵が分裂するみたいです。一部がこちらに正対してきます」
直美たちは、公爵家の艦隊に対して後方から攻めて行った形であったので、有利な状態であったが、敵の一部が旋回を開始したようだ。
通常なら敵前で超信地旋回などすると絶好の的になるだけだが、これだけ数に差があると旋回中の艦を他の艦が守ることが出来てしまうため実現出来てしまうのだろう。
「旋回中は火力が弱まる。今の内に潰しに掛るよ。巡洋艦一を撃破して旋回中の戦艦九を叩く! カシアは離れて牽制しておいて機関、最大戦速! バロック巡洋艦一を第一、第二、第三主砲で斉射、その後、溜めておいて、全主砲で戦艦九に斉射するよ」
直美は、ここで遂にグリムリーパーの最高速度で突撃を開始した。
「複数の艦、依然旋回中。巡洋艦一、駆逐艦二十、十四、十七接近中」
先ほど戦艦たちを撃沈した影響で、チャフが飛ばされ効果が無くなってしまったようだ。シノからもレーダー情報が入って来るようになった。
「オオサカ、対艦ミサイル四発用意しておいてね、さあ、引っ搔き回すよ」
駆逐艦の三隻が巡洋艦一を追い抜いて急速に近づいて来る。
「バロック、駆逐艦は無視で良いから巡洋艦一を狙ってね!」
駆逐艦三隻の主砲を防御シールドで防ぎながら、高速で横をすり抜ける。
「バロック、巡洋艦一目掛けて斉射用意! 防御シールド後方に展開!」
駆逐艦を背後に回して、高速で巡洋艦に向かって真正面から突っ込んでいく。このままでは、衝突するコースだ。巡洋艦一が焦ったのか軌道修正を始めた。
巡洋艦一の艦首が傾き、側面が見え始める。
「撃て!」という直美の声と同時に、第一、第二、第三主砲が一斉射撃する。
巡洋艦一隻に対して、戦艦クラスの主砲三発の斉射はオーバーキルと言っても良い状態だった。巡洋艦の防御シールドは全く意味をなさなかった。
グリムリーパーから放たれた高粒子は、三本の赤い光となって容易く防御シールドを食い破り巡洋艦の艦首とわずかに見せた側面に命中した。
巡洋艦の爆発に巻き込まれないように操縦桿を左に倒す。そちらには、今まさに旋回中の巡洋艦二、三と駆逐艦四がいる。
旋回中の巡洋艦からしたら、今来られたら、たまったものでは無い、旋回中の守り役だった巡洋艦一は一瞬で撃破され、駆逐艦三隻は置き去りにされてしまったのだ。明らかに艦の操縦手に焦りが出ている、旋回速度を速めようと、無理してエンジン出力を上げたため、艦体の動きにガタツキが見られる。
それに気づいた重巡三がフォローに入るため、巡洋艦二へと近づいて来る。
「残念! そっちじゃないんだな!」と直美は言うと今度は、大きく操縦桿を右に倒して、右のフットペダルを強く踏み込んだ。
旋回中の巡洋艦たちに、グリムリーパーの腹を見せながら、右に急速旋回をかける。
その進行方向には、こちらも旋回中の戦艦九が居る。
先ほどまで巡洋艦二のフォローに行こうとしていた重巡三も急速旋回して、戦艦九の守りに入ろうとするが、小回りの速度差からグリムリーパーに追い付けない。
グリムリーパーの後部目掛けて、重巡三が主砲を発射する。それを後部モニターで見ていた直美はグリムリーパーを横滑りさせて躱す。
「バロック、全主砲を左舷九十、仰角ゼロ」
前方の三つの主砲と後方に設置された第四主砲まで使った丁字戦法という全力の斉射だ。
「一斉射撃ようーい――撃て! オオサカ、対艦ミサイル四発。目標、空母二隻に向けて発射!」
旋回中の戦艦九とすれ違いざまに全主砲を使った一斉射撃を放った。戦艦も防御シールドで耐えようとするが、四つの戦艦クラスの主砲を近距離で、しかも旋回中に受けてしまったのだ。多少は減衰できたが、四発の主砲が戦艦に突き刺さる。
「バロック、前方主砲、真正面に! 斉射用意急いで。オオサカ、空母一、二に亜空間魚雷発射!」
直美は矢継ぎ早に指示を出して行く。敵の混乱に乗じて、出来るだけ削り取るのだ。
戦艦九が身もだえるように爆散する。その爆発している宙域を飛び越えるようにして、亜空間魚雷四発は空母一、二の目前でワープアウトした。
空母二隻を守っていた直掩機は空母の天上目掛けて飛来する対艦ミサイルの迎撃に専念している最中だった。そのため、空母の天下方向の近距離でワープアウトした魚雷まで対応が間に合わない。
「亜空間魚雷、全弾命中!」




