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第六話


直美が救命カプセルの中を覗いていると、眠っていた少女が目を覚ましたようだ。

少女が、ゆっくりと瞬きをした。彼女の瞳は宝石のような青。


「……ペルデギウス……では無いですよね、ここは、一体どこですの?」


少女はゆっくりと起き上がると、あたりを見渡した。


「良かった……本当に生きてたよ」


直美は、戸惑っている少女の様子を見ながらも、安堵の表情を浮かべた。


「そうやな。生きてるどころか、めっちゃ覚醒早いな」


少女はふらりと立ち上がると、直美の前に歩み寄り、優雅にスカートの端を摘んでお辞儀をした。


「……貴女が、わたくしを助けてくれたのですね? 感謝しますわ。わたくしの名は……セレナですわ」


「……へぇ。あ、あのー。失礼ですけど、皇女様なのですか?」


優雅な挨拶を見て、惚けてしまった直美は、間抜けな声を漏らしたが、何とか意識を持ち直して確認をすることにした。


「あら、そんなに簡単にバレてしまいましたか。はい。私の正式な名前は、セレナ・ルクシア・ヴァルディスですわ。バレてしまったのなら隠しても仕方がありませんね。ヴァルディス帝国の第七皇女ですわ」


「えっと……皇女様……って、何歳? ……ですか?」


見た感じ自分と同じぐらいか、少し年上かと思ったが、気の利いた会話が思いつかず、だからと言って、宇宙で天気の話をするわけに行かなかったので、苦し紛れに年齢を聞いてみることにした。


「セレナと呼んでいいですわよ? わたくしは十六歳ですわ。正確には……ええと、今、銀河歴何年かしら?」


「今は銀河歴二三二五年のはずや。長い事、外部と繋がってないけど原子時計は狂ってないから合ってるで」


「…………二十六歳! なんでぇぇ! 何で、そんなに時間が経っているのよ!」


九歳も年上には見えない少女――セレナが、ふらふらと艦内を歩き回りながら、ぶつくさと言っている。


「……マジか……年上だったよ。あー、それより事情を聴かないとね。えっと、セレナ様。なんで救命カプセルなんかに入っていたのですか?」


「あー。様は要らないわ。公式の場でもないんですから、セレナと呼んでください。えっと、貴女のお名前は?」


「あ、失礼しました。高坂直美です。えっと、高坂が苗字で直美が名前です。年齢は十七歳です。」


直美は自分の名前を名乗っていなかったことに、マナー違反だったと恥ずかしさを感じていた。


「あら、じゃあ、直美の方が年上なのですね!」


「え、二十六歳では……」


「嫌よ! 寝ている間に十歳も年を取っていたなんて、認めないわ。だから、私は十六歳よ!」


セレナは頬を膨らませながら言った。


――ふっふふ。まぁ、私でも嫌だものね。じゃあ十六歳として扱いますかね。



その後、二人で艦橋に移動して、ゆっくりと話を聞くことにした。


「それで、何で救命カプセルに乗って漂流していたのですか?」


「それは、あの日――」とセレナは語り始めた。



――回想:銀河歴二三一五年 ヴァルディス帝国最後の視察航行


艦隊は荘厳だった。白銀の戦艦に囲まれ、帝国旗を掲げた巨大戦艦セレスティアルが、緩やかに星系間を航行していた。


「父上、これから向かうコロニーは何という名ですの?」


「ヴェルデ・アーシュ。農業特化型の新設領地だ。セレナ、これから出会う民の笑顔をしっかりと見て忘れるなよ。我らの力の意味は、彼らのためにあるのだ」


セレナの父、レオネウス・アレクシオン・ヴァルディス皇帝の声は穏やかだった。セレナには六人の姉と二人の兄が居た。それでも父、レオネウスはセレナを可愛がっていた。末っ子というのあるだろうが、親子としても一番馬が合ったのだろう。そのため、近場の視察では、よく連れまわしていたのだ。


――だが、その穏やかさは唐突に砕けた。


艦内に響く非常警報。護衛艦の一部が突然砲門を向けたのだ。


「艦長! 護衛艦シュベルッタがこちらに砲塔を!! 高エネルギー反応!!」


「っな!! どういうつもりだ! 通信回線を開け!」


艦長のゴルバフスキーが通信手に指示を出すが、


「あ、空間振動をキャッチしました! 座標、ゼロ距離。何者かがワープアウトしてきます!」


通信手の回答を聞く前に、レーダーを監視している別の者によって遮られた。


「艦長! 飛んできた者をモニターに!」


「はっ!」


皇帝の言葉に艦長が素早く反応する。


バッァァン!!


眼には見えない空間の急激な歪みが、衝撃波となって、巨大戦艦セレスティアルを叩く。

衝撃が収まると、そこに漆黒の艦体が光を裂いて現れた。艦体にはノイ=ヴァルド家の紋章。

戦艦インペルダスだった。


「グランツ公……まさか兄上が……!」


皇帝陛下の顔に、深い絶望の色が浮かぶ。よもや、これが正常な艦隊行動とは思えないし、決して友好的な行動にも思えない。しかし、戦艦セレスティアルとその護衛艦は一瞬動きを止めてしまったのだ。完全な思考停止。何が起きたのか理解が追い付かない。


ドドドン!!


隣にいたはずの護衛艦から近距離で砲撃を受ける。軍艦といえども、通常の航行中に防御シールドは展開していない。そのノーガード状態の横っ腹に、強烈なボディブローを受けたのだから、たまったものではない。

わずか一撃でブリッジは炎に包まれた。

他の護衛艦も混乱しつつ反撃を開始するが、既に艦隊は瓦解寸前。ましてや戦艦セレスティアルの致命傷は覆らない。

また、セレスティアを守る護衛艦も、戦艦インペルダスの砲撃を受けて爆発、炎上していく。


「セレナ、これを持って逃げなさい。いいか、必ず生き延びるのだ」


皇帝が娘の額に口づけをし、小さなペンダント共に彼女を救命カプセルへ押し込んだ。


「父上――!!」


扉が閉じられ、宇宙へ放たれた小さなカプセル。その中で、セレナはひとり、真空の闇に抱かれながら泣き続けた。



――現在



「父の兄、グランツ公爵の母親は愛妾でした。そのため皇族としては扱われず、当然、皇帝の継承権もありませんでした。伯父はそのことに妬みがあったのかもしれませんわ」


セレナは、どこか寂しげな顔だった。世間一般から見ると十年も前の過去の話。

しかし、救命カプセルで眠らされていたセレナにとっては、つい先日の話なのだ。


「父上は、あの後、どうなったのでしょう。十年も前の事なら、直美は知っていますか?」


「いやー、それがね――」


直美は自分がここに居る理由とオオサカについても話した。当然、直美はこの世界の十年前の事件など知る由もなく、オオサカも、遠距離通信の機能も壊れており、ここ百年ぐらいの情報が入手出来ていない。


「ごめんね。役に立たなくって」


「いえいえ。私も心の準備が出来る方が良いかも知れませんわ。あの状況を考えると、父上は、あのまま戦死した可能性が高いというのも理解しているのです。それでも、何とか生きていてほしいと思っているだけなのです」


セレナは寂しそうに微笑んだ。


「あー……。空気を読まずにすんませんが、ねえちゃん、酸素の事なんやけど、元々の計算はねえちゃんだけで見積もってたけど、今、皇女ちゃんが追加されたので消費量が二倍になってもうてな。ちぃっと急がんとアカンのや」


直美はギョッとした顔をした。すっかり忘れていた。確かに二人になって酸素の減りが早くなっている。

元々、酸素ボンベまで使って少し余裕がある程度で出発したが、途中でセレナの救命カプセルを回収したりで時間を使ってしまったので、直美一人でもギリギリになっていた。


「あぁぁ。マズイね。どうしようか。もう一度宇宙船の墓場に戻って探してみる?」


「いや、それがな。多少は何とかなりそうやねん。皇女ちゃんの救命カプセルを使えばな。皇女ちゃんの救命カプセルは皇族用の超高級仕様や。酸素供給システムも十分備わっているんや。これをグリムリーパーに移植すれば、ちょっとは改善するで」


「はぁぁー良かった。本当に駄目かもしれないと思ったよ。もう、オオサカも先に大丈夫だって話をしてよ」


直美は安堵のあまりシートに沈み込んでしまった。


「いや、いや、ねえちゃん。ほんまに、ゆっくりしとる場合や無いねん。すぐに取り掛った方がええ。酸素濃度が下がると意識障害が出始めるから作業が出来なくなってしまうんや。せやから、いまから取り掛からんとアカンねんって」


ビィィ―、ビィィ―。


オオサカの言葉を裏付けるかのように、『酸素濃度低下』の警告音が艦内に鳴り始めた。


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