第五十八話
直美はついに、取って置きの切り札である亜空間魚雷を使ってでも、超大型戦艦を沈める事を決心した。
「いや、それはアカンわ、あの拡散する粒子砲を搔い潜ってデカブツに当てるのは無理や、魚雷がワープアウトした途端、シールドで弾かれた粒子砲を浴びて爆発するだけや」
「ええ、駄目なの? じゃあ単独で撃つしかないの?」
いよいよ、切り札を完全公開することになるのかと、少し不安になった。
帝国軍は殲滅するから良いとしても、銀翼の艦隊の乗組員にバレる事で、そこから帝国側に情報が漏洩することを懸念しているのだ。
この場に居る者だけでも、末端の兵士を含めると千数百人がいる。秘密というのは、知っている者が多いほど漏れる可能性は高まるのだ。
「まあ、まあ、慌てなさんなって。せっかく罠を作ったのに、肝心のデカブツに使わんで小物相手に使い切る馬鹿が何処におんねん。ちゃんとデカブツ用も残してるわいな」
「なーんだ、良かった……って、それなら、早く言ってよ!」
「えぇ、ワイが言う前にオルヴァンはんと話してたやん」
「えっと、そうだったかも……それで、デカブツ用のは何処にあるの? 見た感じ全部使い切ったように見えるけど?」
「始まる直前まで、潜り込んでいた穴倉や。直径は約一キロの小惑星。前のデカブツに当てた岩より遥かに大きいで、ただ、ちょっと欠点があってな、速度が乗るまで時間がかかるねん。馬鹿でかいから、ジワジワ加速させんといかんのや」
オオサカの話では、細かい軌道修正も難しいようなので、敵をその場に釘付けにしておく必要があるそうだ。
「そうなると、さっきのように全艦隊からの砲撃を続けて、殴り合いって感じになりそうだが、奴の一発一発の強さが強烈だから一方的な消耗戦になるな」
バロックが言った事も、もっともだった。デカブツは攻撃力も防御力も高いのに、小惑星が来るまで、こっちが耐えれるのかという問題だ。
「艦長、敵の重巡四を撃沈しましたが、連邦側の戦艦二、重巡二が相次いで撃沈されました」
「ああもう! やるしかないのね。シノ、オルヴァンさんに繋いで。オオサカは小惑星の移動を開始しておいてね」
オオサカから聞いた内容をオルヴァンに説明していく。オルヴァンの顔が歪むのが分かる。この作戦では味方の消耗が激しいのだ。超大型戦艦が溜めをした状態で放った主砲や、複数の主砲を一気に放つ斉射を受けたら、防御シールドでは耐えれない。
「――ふむ。他に手は無い。無いなら難しくても、やるしかないという事だな」
オルヴァンは直美か聞いた作戦を実行に移すことにした。グリムリーパーからチャフ搭載の対艦ミサイルを四発。それに合わせれ銀翼の艦隊からも対艦ミサイルとチャフミサイルを数発発射することにした。これで帝国軍の視界を遮って、接近してくる小惑星に気づかれないようにするのだ。
帝国軍を挟んで前後から発射されたミサイルは、当然のごとく撃ち落とされて行く。戦艦二隻と超大型戦艦を合わせた副砲の数は、大量のミサイルも容易く無力化していった。しかし、そこにはチャフが搭載されていた。破壊されたミサイルから散らばるように小さな、妨害電波を流す装置やレーダーを反射する素材などが辺り一面にばらまかれる。
そこに、再び空母アウレリア・セラフィムから発進した戦闘機が雲霞のごとく帝国軍に襲い掛かった。
「なるほどな、戦闘機からのミサイルで牽制するのか、それでも奴らの副砲、結構残ってたみたいやけど、ほんま大丈夫かいな」
オオサカが懸念した通り、外部モニターには、次々と戦闘機が帝国軍の放つ副砲によって爆散し宇宙の塵となっていく。
「えぇ、あれって人が乗っているんだよね。いや、まあ、私が撃沈した艦にも乗っていたけど、何だか生々しいな……」
直美は戦闘シミュレーションでも多くの敵を倒して来たし、実戦でも多くの艦体を撃沈してきた。それでも、それほど良心を痛める事なく戦えたのは人間の存在を無意識に外していたのかも知れない。
「あー、艦長はん。あれなぁ――人は乗ってへんと思うで、たぶん、空母からモニター越しに操縦しとるんやろ、ワイも実際に確認したことないけどわざわざ、人が乗らなアカン理由が無いからな。こっちで確認しとると、生身の人間が乗ってたら出来ん動きすることがあるから、間違いないと思うわ」
直美は思わずポカンと口を開けた。
「――ええ、人乗ってないの?? てっきり乗っているんだと思っていたのに」
「いや、いや。わざわざ、そこに人員リソースを割り当てる必要は無いやろな。だから、妨害電波などを考慮すると運用できる距離は短いんやろな」
直美たちが空母の運用について、あれやこれやと言っている間も、帝国軍と連邦軍の間で砲撃の応酬は続いていた。もちろん、グリムリーパーからも砲撃は続いている。
「うぉー。戦闘機ちょっと邪魔だな。こっちの攻撃が当たりそうなんだが」
バロックがブツブツと文句を言いながら砲撃を放つ。
「よっしゃー、お待ちどうおさん。最終加速して突撃するから、皆避けるようにな」
待ちに待った、オオサカの声がスピーカーから流れた。
「おわわ、シノ、オルヴァンさんに知らせて!!」
シノがオルヴァンに連絡すると、オルヴァンが艦隊を移動させ始めた。
「来ました! レーダーに映りだしましたよ」
直美たちが見ている正面のモニターにも、その巨大な物体が映し出された。まだ距離はあるので、最大望遠での映像だったが、かなりの速度で迫ってきている事が分かる。
「オオサカ、私たちの場所は平気?」
直美の問いかけにオオサカは大丈夫という。
「進路、グリムリーパーの右舷四十五、仰角ゼロから来ます! 到達時間まで後十、九、八――」
シノが観測レーダーを解析して到達進路を報告すると、最接近までのカウントダウンを報告してくれる。
艦体がビリビリという鳴り響き、すぐ近くを大きな物体が横切ったのが、伝わって来る。
「デカブツの位置は?」
直美の声に応じて、正面のモニターが超大型戦艦がいるであろう方向を映し出した。しかし映像には帝国軍に向かっていく小惑星の後ろ姿しか見えない。
「今、速度を上げようとしていますが、もう、間に合いません。衝突します!」
正面のモニターは、依然、小惑星の後ろ姿しか見えないが、その小惑星の縁に沿って赤い光がわずかに見える。
艦橋内が静寂に包まれる。ここからでは、超大型戦艦の様子を捕らえる事が出来ない。ただ、ただ、遠ざかっていく小惑星の後ろ姿を全員が見つめる。
「チャフ晴れます――帝国軍、ロスト!! 消滅しました! 全滅です!」
「「うぉーー!」」直美とバロックの叫び声が重なった。
さすがの超大型戦艦でも、自分たちの何倍もある直径一キロの小惑星がぶつかってきたら、ひとたまりも無かったようだ。破壊され破片となった艦体が小惑星に飲み込まれながら宇宙の彼方へと連れ去られて行く。小惑星は推進機内に保持していた魔力を使い果たしても減速することなく、慣性に従って何かに衝突するまで飛び続ける。
「艦長、オルヴァンさんから映像通信です」
直美が頷くとシノは、正面のモニターにオルヴァンからの通信を映し出した。
「直美、我々の勝ちだ! ありがとう。君たちの活躍のお陰で何とか持ちこたえる事が出来たよ。君たちが先行して敵を削っておいてくれおかげで生き残ることが出来た」
オルヴァンからの通信は直美をねぎらってくれた。そして、オルヴァンたちからの視点で見えていた超大型戦艦の最後の様子を映像で送ってくれた。
「皆さんが、あのデカブツの足止めをしてくれたお陰です。あの足止めが無かったら、躱されていたかもしれません――」
直美からもオルヴァンたちの功績を称えようと言葉を続けていると。「ゴルディア・セントラルから緊急通信や!」とオオサカが割り込んだ。
モニターの向こうでもオルヴァンの動きが止まる。
毎度のお願いではありますが、
ブックマークと★評価をお願いします!




