第五十七話
直美は、正面の大きく広がっているモニターを睨みつけるようにして見つめていた。
拡大などすれば遠距離も見れることは分かっているが、その変化の最中にミサイルを見逃すかも知れないと思うと、このまま動かさないで、注視した方が良いと判断したのだ。
「ふぅぅ、ミサイルは熱波にでも飲み込まれて爆発したみたいだね」
ようやく一息つく。ミサイルとの距離を考えると、まだ追って来ていたのなら既に到達しているはずだからだ。
「カシア、無事かな? シノ、レーダーで見える?」
「……見えました! 無事ですが、巡洋艦と戦闘中のようですね。えっと巡洋艦が一隻しか見当たらないので、一隻は沈めたのでしょうね」
「それじゃ、掩護しに行こう。カシア、聞こえる? これから掩護しに行くよ」
「直美艦長、はい。よろしくお願いします。何とか一隻は沈めたのですが、こちらの魔力担当が持ちそうに無いので、来ていただけると助かります」
カシアの声は元気そうだったが、魔力共有の担当者の消耗が激しいようだ。戦艦一に突撃するときも、取り巻きの巡洋艦から砲撃を受けていたので、その時に、防御シールドに魔力を消耗させてしまったのかも知れない。直美は、グリムリーパーの速度を上げて、早急にグレムリンの所に戻ることにした。
「シノ、銀翼の艦隊と帝国軍の状況は分かる?」
直美は、グリムリーパーをグレムリンの所に向かわせながら、シノに周りの状況について確認した。
「被害状況ですが、駆逐艦一、五、重巡七が撃沈した模様です。帝国側は重巡二が大破しているようですが、他は残っているようです」
「うーん。こっちの被害に比べて、思ったより帝国側が残っているね」
「それじゃ、とっととカシアと戦っている巡洋艦を沈めて掩護に向かわんとな。のんびりしていたら帝国の本体が来るかもしれんぞ」
直美とシノの会話を聞いていたバロックが口を挟む。
「うわわ、それは困るよ。グレムリンも休ませたいし、銀翼も削られているから連戦はマズいね」
直美はそう言ったが、頭の中ではサルモワール軍の動向も気になっていた。果たして、裏切り者はサルモワール伯爵だけなのか分かっていないのだ。万が一、もう一人の伯爵、ラジェールまで裏切り者だと非常に困ったことになるのだ。彼の持つ高速戦艦はグリムリーパーに似たような戦力だけに、敵に回すと苦戦しそうな気がするのだ。
◇ ◇ ◇
グレムリンと合流しての戦闘は、あっけないほど簡単に方が付いた。直美とっても、二対一で巡洋艦に負けるとは思って居なかったが、それでもグリムリーパーの主砲の威力は絶大だった。
グレムリンとの戦いに疲れていた巡洋艦は防御シールドの出力も弱まっており、グリムリーパーの戦艦クラスに強化された主砲に耐えるだけの魔力は既に残っていなかったのかも知れない。
「よし、それじゃ残りの連中を倒しに行くけど……カシア、グレムリンは残っておいた方が良いよ。魔力が枯渇しているんでしょ?」
「そうですね。このまま行っても足手まといになるだけですから、私たちは、ここで待機させて頂きます」
直美の問いかけに、モニターの向こうでカシアが苦笑いで返した。
「うん。それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
直美はそう言うと、グリムリーパーの艦首を銀翼の艦隊と戦っている帝国軍へと向けた。
「シノ、敵の状況は変化ない?」
「そうですね。大破した重巡二が遅れているので、こちらに一番近いですが、他の敵艦は銀翼の艦隊に囲まれつつも中央突破を図っているようですね。こちらの被害は、新たに重巡五が撃沈したようです」
シノはそう言って、現在の艦体数を教えてくれた。
銀翼の艦隊は空母一隻、戦艦五隻、重巡五隻、駆逐艦三隻の合計十四隻。
帝国側は超大型戦艦一隻、戦艦二隻、重巡一隻、大破した重巡一隻の合計六隻という状況のようだ。
「えぇ、重巡が一隻減っただけで、全然減ってないのね」
「そりゃ、帝国は密集隊形で超大型戦艦の火力で押しているから、銀翼も攻めあぐねているのだろうけどよ。もうちょっと減らしてほしかったな」
バロックも銀翼の艦隊が弱いとは思っていないのだろうが、それでも不満が漏れた。
「それだけ、デカブツが強いって事だろうね」
直美たちが、今の主戦場に戻って来ると、大破した敵重巡二に対して、銀翼の重巡六と駆逐艦四が襲い掛かっているのが見えてきた。
「ああ、ありゃ、直ぐに蹴りが付くな。あれは任せて俺たちは他のを狙おうぜ」
「そうね。バロックの言う通り、私たちは超大型戦艦の背後を叩こう」
「帝国軍は、デカブツを中心に密集隊形で鶴翼の陣の中央に食らいついとるな。予想では先頭におる帝国の重巡四は耐えきれんやろな。ただその後ろがデカブツと戦艦二隻やから火力はあるで。ワイらが後ろから攻撃しても、ちょっと離れたところからになるから、アイツらの突進力は削れんかもな」
オオサカが現状から予測を立てて直美に伝えてくる。
その予想進路からは、銀翼の右翼あたりを食い破るとなっている。その方向は銀翼の戦艦二と重巡二、駆逐艦二で固めているが総合火力では帝国側の方が強い。
直美はグリムリーパーを銀翼の艦隊の右翼側に進路を向けた。
「おっと、デカブツ。後方にも結構な火力を持っているね」
直美が操縦桿を横に倒すと、グリムリーパーの右舷をかすめるように二条の光の槍が通り過ぎた。
グリムリーパーが背後から近づいていることに気がついた超大型戦艦が後方に設置された主砲から砲撃を仕掛けてきたのだ。
それに合わせるように、敵の戦艦二、三からも後方の主砲が放たれてくる。
「あわわ、これは確かに近づきにくい」
直美の魔力なら戦艦の主砲でも防御シールドで防げるが過信は出来ない。戦艦の主砲を防いでいる最中に超大型戦艦の主砲を食らっては耐えきれる自信はない。
「あ、銀翼の駆逐艦二が戦艦の主砲を受けてしまいました……轟沈します!」
オオサカが予測した通り、右翼を担っていた駆逐艦二が爆散してしまった。モニターで見る限り、爆発に巻き込まれたのか、後続に居た重巡三も被害を受けているようだ。
超大型戦艦の正面に配置された主砲が、更に追い打ちをかけるように重巡三に集中砲火を浴びせる。
「駄目です。重巡三も轟沈ですね……」
「シノ、オルヴァンさんに繋いで」
直美も、ここまでくると攻めあぐねている場合では無かった。たとえ遠距離攻撃になったとしても、集中砲火で敵の防御シールドを突破しないとジリ貧に思えたのだ。
「オルヴァンさん、デカブツの防御シールドを削りましょう。こちらからも集中砲火を浴びせるので、そちらもよろしくお願いします」
「わかった。正面からの集中砲火はやってみたが突破できなかったが、背後からも同時なら行けるかもしれんな。それでは全艦隊、アビュリオンに向けて一斉射撃用意!」
オルヴァンの指示で一瞬だけ連邦軍の砲撃が止んだ。全艦が魔力を溜め一斉射撃の準備を行う。
バロックも攻撃をやめて、全主砲を超大型戦艦に定める。
「――撃て!」オルヴァンの声が連邦軍の全艦隊に響き渡った。
グリムリーパーも前方の三台の主砲を使った一斉射撃を超大型戦艦の後部目掛けて発射した。
音は伝わらないはずの宇宙空間にも関わらず、直美にはその雷にも似た轟音が聞こえたような気がした。
外部モニターから映し出される映像が真っ赤に染まる。超大型戦艦に連邦軍からの一斉砲撃が叩きつけられたのだ。
超大型戦艦の防御シールドが、いくつもの光の束を受け流すように逸らせていく、その様子は超大型戦艦が赤い糸で覆われているようだった。
「どうだ! やったか?」
バロックも腰を浮かせて、モニターに食い入るように見つめている。
赤い糸が流れ落ちると、そこには、ほとんど無傷と思われる超大型戦艦の姿があった。
「だぁぁ、何だよあいつは。あれだけ受けて無傷ってあるかよ!」
「オオサカ、亜空間魚雷を四発準備しておいて……もう一度斉射してもらって、その隙に撃ち込むよ! あいつはここで沈めないとユーグのデカブツと合流でもされたら、絶対に勝てなくなる」




