第五十六話
結局、サルモワール軍が裏切ったことで、また戦況が変化してしまった。帝国軍は超大型戦艦を含めて九隻に対し連邦軍は直美たちを含めて二十隻となった。
数の上では有利ではあるが、相手には超大型戦艦がいる状態は変わっていない。
「あのデカブツが、どう動くか次第だよね。今までの戦いでは、あえて温存していたような気がするし」
直美は敵の動きをモニターで確認しながら、何処を攻めるか悩んでいた。
連邦軍は、銀翼の艦隊と直美たちで、帝国軍を挟撃出来る体制ではあるが、だからと言って、超大型戦艦がこっちに攻めて来られると耐えられる自信は無い。
「あ、銀翼の艦隊から対艦ミサイルが多数発射されました、更にアウレリア・セラフィムから戦闘機が発進したようです」
「ああ、そうだったね。アウレリアは空母だもんね。オオサカ、私も後で見たいから、出来るだけで良いから戦闘機の戦い方を録画しておいてもらえる? さて、悩んでも仕方がない。私たちも、近くの敵から戦っていくしかないよね!」
直美は、そう言いながら、モニターで敵艦隊の配置を確認した。敵の陣形は銀翼の艦隊に向かって魚鱗の構え、直美たちに向かっては戦艦一を中心に巡洋一、二が相手になるようだ。
「ふーん。巡洋艦で速度を重視しつつ囲んで、戦艦の防御力と攻撃力で一撃をってところかな」
「連邦の対艦ミサイルが分裂しました! まるでチャフを撒いた様に見えますが……これは榴弾のようです」
「え、りゅうだん? オオサカ、りゅうだんって何?」
「そやな、力の使い方で言うと、通常の弾頭が一点を貫いてから炸裂することでダメージを広げるのに対して、榴弾は一点の貫通力は弱くなるけど広範囲にダメージを与えるようになっとるんや。昔は揚陸艦などに搭載しておいて、惑星の制圧や拠点の制圧に使ったけど、今は違う使い方しとるんやな」
直美はグリムリーパーを操縦して、自分たち向かってくる艦隊に近づきながら、オオサカの言葉を聞いていた。榴弾というのは目標に当たる前に、自らはじけて、ミサイル本体に内蔵されている小さな弾や破片を叩きつけるミサイルのようだった。
「たぶん、副砲狙いやと思うで。副砲は、そんなに頑丈や無いから、これで数を減らしておいて戦闘機が撃墜される確率を減らすんやないかな」
「おいおい、講釈は後にしろ。奴ら体制を整え始めたぞ」
「はーい。確かに、のんびりしていられないね」
バロックの言葉に、直美は肩をすくめながら返事をした。
「それじゃ、攻撃開始するよ。カシア。カシアは後方について、巡洋艦に攻撃を集中してね。オオサカ対艦ミサイル四発用意しておいてね」
「「はい(よ)」」
オオサカとカシアの返事が重なって聞こえた。
「第三戦速! 防御シールドは前面に展開! 目標は戦艦一 全主砲は左舷九十に、すれ違いざまに一斉射撃!」
直美はグリムリーパーの速度を上げる。グレムリンが付いて来れる速度と言う制限があるので全力では無いが、それでも後続のグレムリンにとっては、これで最大戦速だ。
敵艦隊の巡洋艦二隻が左右で張り出し、中央の戦艦はやや遅れて向かってくる。大きければ鶴翼の陣だが、三隻なのでⅤ字に見える。
敵の艦隊も更に速度を上げたようだ。お互いの距離が見る見る縮まって来る。
「来る!」と声を上げると同時に、わずかに艦首を傾ける。この距離まで来ると主砲の光がモニターに映った時には砲撃が届いてしまう。光る前に砲塔の動きを確認して、発射のタイミングは勘で動くしかない。その様は、相手の呼吸を読んで剣先を剣で受け流すようだった。
直美が艦首を傾けた瞬間、敵の砲撃は防御シールドに直撃せず赤く染まりながらも横に逸れて行く。
その後も、巡洋艦の射程有効距離に到達したのか、左右の巡洋艦から砲撃が始まった。相手に見せる面積が、なるべく最小となるように艦体を操作し、真正面を向ける。それでも敵の砲撃を真正面から受けないように艦首を小刻みに動かして逸らしていく。
真後ろに付いて来るグレムリンは、グリムリーパーの陰に、その艦体を潜めながら、しっかりと砲撃の準備を整え、魔力を溜めて行く。
「まだまだ、ここは我慢のしどころだよ!!」
直美は自分に言い聞かせるように叫ぶ。
敵巡洋艦二隻の間に突っ込むようにして戦艦一に迫る。敵巡洋艦も射角が取れるようになってきたので、グリムリーパーの後ろに隠れているグレムリンに砲撃先を切り替えた。グレムリンに巡洋艦の砲撃が飛んでくるが、それをグレムリンも防御シールドで防ぐながら、溜めていた砲撃を一気に解き放った。
「カシア、グリムリーパーから離れつつ巡洋艦を抑えて! オオサカ、対艦ミサイルを正面の戦艦一に発射!」「艦長! 対艦ミサイル八発来ます!」
直美の声に重なるように、シノも叫ぶ。帝国側も戦艦と巡洋艦が一斉に対艦ミサイルを発射してきた。
ズズズン!
グリムリーパーから対艦ミサイル四発が発射された音が艦内に響き渡る。
「副砲! 自動迎撃! バロック全主砲用意! 左舷九十、仰角十五」
直美の指示でバロックが主砲の角度を変更する。仰角十五という事は、戦艦一のやや腹下方向に動く予定ということだ。
「主砲用意! ――撃て!」
直美は、「用意」と言った瞬間に操縦桿を押し込んで、わずかに天下方向に進行方向をずらした。その角度は、まさに戦艦から見ると仰角マイナ十五。
グリムリーパーの天上を戦艦一の主砲が通り過ぎる。その瞬間グリムリーパー全四台の主砲が一斉砲撃を放った。
グリムリーパーの全力砲撃を、主砲戦艦一の脇腹を下から抉るような角度で打ち込む。
そのグリムリーパー目掛けて対艦ミサイル八発が向かってくる。
「第四主砲九十、仰角ゼロに向けて! 防御シールドは後方に集中!」
直美は叫びながらも操縦桿を捻りながらフットペダルを操作して、戦艦一の真後ろに抜ける。そのグリムリーパーにミサイルが殺到する。
「最大戦速!!」
グリムリーパーの速度が急激に上がったため、敵の対艦ミサイルがグリムリーパーの予想到達地点を誤る。
ミサイルは、グリムリーパーの動きに着いて行けず、一度グリムリーパーの天下方向へ通り過ぎるが、再び進路を変えてグリムリーパーを追って来る。グリムリーパーから見ると角度百八十、仰角マイナ四十五。ようするに、真後ろを斜め下から突き上げるような角度だ。
直美は、今度は操縦桿を引いてグリムリーパーの艦首を天上方向に向ける。その角度は四十五度。
グリムリーパーの後方に付いている第四主砲が敵のミサイルと正対する。
「第四主砲、目標は敵ミサイル群! 撃ちまくれ!」
バロックは必至で、迫り来るミサイルに向けて主砲を連続発射する。
主砲を連続発射すると魔力の溜めがない分、一発一発の出力は弱くなってしまうが、対艦ミサイル相手なら問題はない。
しかし、ミサイルも簡単には撃墜されないように、自動回避機能が働きバロックの攻撃を躱す。
「だぁぁ、当たれぇぇ!!」
バロックが叫びながら主砲を連射する。ミサイルが一発、二発と撃ち落されて行くが数が多い。このままでは、落としきれずにグリムリーパーに着弾するかと思われた。その時――
「敵戦艦一、轟沈します!」
監視レーダーを見張っていたシノの声が、直美には救いの声のように聞こえた。
グリムリーパーの後方から戦艦一が爆散する時に発したエネルギー波が熱波と共に押し寄せて来てグリムリーパーの艦体を揺らす。
艦内に警告音が鳴り響いたが、直美には、警報よりも迫って来ていたミサイルの行方の方が気になっていた。
「レーダーはホワイトアウト。ミサイル、ロスト」
シノの声を聞きながら、直美は念のために操縦桿を左に倒して、右足のフットペダルだけを踏み込んだ。グリムリーパーが横滑りするような形でドリフトする。
「防御シールド、正面に バロック、主砲第一から第三を角度ゼロで斉射! 全員、衝撃に備えて!」
バロックは、直美の急激な機動に目が回りそうになったが、とにかく指示通り、前面の全主砲を使って一斉射撃した。
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