第五十五話
幸いなことに敵の数が多く、デブリの罠によって、自然と密集状態となった帝国軍は対艦ミサイルを発射する事が出来なくなっていた。
対艦ミサイルはその特性上、放物線を描きながら発射され、その後、目標に向かって飛んでいく。その為、陣形が乱れた状態で、迂闊に発射すると放物線を描いている最中に味方の艦に当たる恐れがなるのだ。
「デカブツから高エネルギ反応! 斉射来ます!」
「正面、防御シールド最大出力! カシア後ろに隠れて!」
「あのデカブツ何をしやがる! 味方が巻き添えになるぞ!」
バロックが叫ぶ、グレムリンが何とかグリムリーパーの後ろに滑り込んだ。
その時――
超大型戦艦の主砲から一斉射撃された光の槍のようなものがグリムリーパーの正面に迫って来る。他の艦体の主砲を光の矢というなら、超大型戦艦の主砲は投槍に匹敵するだろう。そのぐらい力強さに差がある。
「こっのぉ!!」
直美の叫び声と共にグリムリーパーがわずかに艦首を横に振る。
外部モニターが一面真っ赤に染まる。艦長席のモニターに各種警告表示が灯るが気にはしていられない。
「信じられん。あ、あれを耐えたのか……」
バロックが信じられないような声を上げながら振り返って直美を見つめる。
「バロック! 戦艦三を牽制射撃!」
直美の声に我に返ったバロックが、射撃モニターに目を戻して戦艦三に向けて主砲を交互撃ちで牽制を掛ける。
その間に、直美は超大型戦艦から来る単発の砲撃をわずかに防御シールドで逸らしながら、戦艦三に向かって突進していく――と見せかけて、急旋回して巡洋四の側面にグリムリーパーの天上部を向けた。
「オオサカ対艦ミサイル――撃て!」
超至近距離で発射された対艦ミサイル二発が、発射されてすぐに、巡洋四の艦体に吸い込まれて行く。
真っ赤な炎を吹き出しながら、急激に膨らんでいく艦体。
「巡洋四、轟沈します!」
シノの声と共に、直美は操縦桿を引いて、爆発のエネルギーを避けるため大きく避けると、そのまま敵艦隊から離れた。
「ふぅ。オオサカ被害状況」
一旦、戦線を離脱して体制を立て直す間に、直美は先ほどの超大型戦艦から受けたダメージ確認に取り掛った。
「大丈夫や、左舷側の副砲がちょっと、持ってかれただけや。まだまだ耐えれるで――」
「敵艦隊前方に空間異常感知! 味方です。銀翼の艦隊とサルモワール軍ですよ」
「はぁ、やっと来たかのかよ。おっせーよ」
オオサカの被害状況報告を遮るように、レーダーを見ていたシノから援軍が到着したという報告が入った。
バロックの言う通り、想定よりも遅い到着であったが、超大型戦艦を相手するには全艦隊の飽和攻撃が必須であっただけに、無事、到着しただけでも直美はホッとした。
「シノ、味方の数は?」
「はい。あれ? 聞いていた話しより減っていますね。銀翼の艦隊が十八隻は想定通りですが、サルモワール軍が揚陸艦二隻と駆逐艦二隻ですね。三隻少ないです」
「何だよ。遅れてきたうえに、数も足りねえじゃないか」
「うーん。その辺は、後でオルヴァンさんに聞いてみるか、敵の残数は、どう?」
「えっと、巡洋二隻、重巡三隻、戦艦三隻、デカブツ一隻です。あ、艦長、銀翼の旗艦アウレリア・セラフィムから映像通信です」
シノの言葉に直美が頷くと、直ぐに正面モニターにオルヴァンの姿が映し出された。周辺に仕掛けられたジャミングに影響を受けないように短距離通信だった。
「直美、お待たせして済まない。随分と削ってくれたようだが、そっちは無事か?」
「大丈夫ですよ。罠はほとんど使っちゃいましたけどね。それにしても、サルモワール軍が想定よりも揚陸艦一隻と駆逐艦二隻少ないようですが、何かありましたか?」
「簡単に言うと、サルモワール上院議員が嫡男を乗せたいと言い出してな。揚陸艦と駆逐艦二隻がゴルディア・セントラルに入港したんだ。まあ、これだけ直美たちが減らしてくれたおかげで、この艦体数でも大丈夫だ。それでは、少し直美たちは休んでいてくれ。次は我々が敵を蹴散らせてやろう」
既に帝国の艦体数は超大型戦艦を含めて九隻。一方、連邦軍は、援軍が二十二隻と直美たちの二隻がある。超大型戦艦は脅威だが数のうえでは有利な状況だった。
オルヴァンとの通信を切ろうとしたその時――
スピーカーから「うお!」というオルヴァンの声に続いて、アウレリア・セラフィムの乗組員たちの叫び声が聞こえた。
「オルヴァンさん、どうしたのですか?」
直美の呼びかけの応じることなく、画像の向こうで乗組員たちが右往左往している様子が映し出される。
「大丈夫だ。大丈夫だが……サルモワール軍が裏切ったようだ。我々に向けて砲撃してあと、突如、戦線を離脱して短距離ワープをした。ああ、砲撃のダメージは大した事は無いが……奴ら何を考えているんだ」
映像が若干乱れているが、オルヴァンは無事そうだった。しかし、オルヴァンから何が起きたか聞いたが、いったい、何の目的でそんな事をしたのか理解できず直美の頭は混乱していた。
「艦長はん! エルザはんから、緊急通信!」
オオサカの声が直美の思考に割り込みを掛けた。「繋いで!」と叫ぶと、オオサカは直ぐにエルザからの音声通信を艦内に流した。
「直美! 襲撃されたわ。もちろん、セレナ無事よ。ただ……リム=ザップが襲ってきた連中の四肢を砕いて瀕死にしちゃったのよ。まったく私の仕事がふえるじゃないねぇ。ま、それは良いけど。それよりも、襲ってきた一味にサルモワール上院議員の嫡男がいたの、だからサルモワール軍には気を付けて」
エルザから情報量多めの通信。直美は何とか聞きながら頭の中で情報を整理する。
「えっと、とにかくセレナに怪我は無いね?」
「ええ、それは大丈夫。ちょっと私が、かすり傷を負った程度で大丈夫よ。でもそっちにサルモワール軍が行っているのよね? 気を付けてよ」
「うん。先ほど、こっちでも、やってくれたよ。銀翼の艦隊に砲撃して逃げて行った。あいつら、もう一度そっちに行くつもりかも知れないから、気を付けてね」
「なるほど。それじゃ、セレナを誘拐して合流するつもりだったかも知れないけど……こっちに来ていた艦は動けないと思うわ。だってリム=ザップが奴らの艦内にミサイル投げ込んで壊しちゃったし」
「へ? ミサイルって簡単に投げ込めるものかな?」
「……気合で……」
リム=ザップがエルザの隣にいるのか、本人が答えてくれた。
「ああ、そりゃお前なら対艦ミサイルぐらい担いで投げれるだろうけどよ。奴らの艦体は揚陸艦一隻と駆逐艦二隻と聞いていたが、全部始末したか?」
「三隻とも……ブリッジに……ミサイル届けた」
「っは、流石だな。お前、間違ってコロニーまで壊すなよ」
「ああ……気を付ける……」
リム=ザップとバロックの会話を聞いていた直美は、リム=ザップの事を過小評価していたことに気づかされた。前にリム=ザップを紹介したときに一個中隊ぐらいは平気だと言ったが、それは違っていたようだ。
生身の人間では数など関係が無かったようだ。むしろ、軍艦何隻分とかで表現する方が良いのかも知れないと認識を新たにした。
なんせ、コロニーを壊さないようにするためには、気を付け無いといけないレベルなんだ。もっとも駆逐艦程度がコロニーに突撃しても、コロニーが撃沈することは無いが、リム=ザップなら出来るかも知れない。
直美が、変な事を考えている間に通信は終わっていた。
「あれ? そう言えば、ジャミング中なのに、何でゴルディア・セントラルにいるエルザから通信が届いたの?」
直美は、ふと今の状況を思い出して首を傾げた。
「あんな、艦長はん。ジャミングは敵の通信を妨害して孤立化させることに意味があるんや。そやからと言って、自分も一緒に孤立したらアカンやろ」
オオサカの話では、コロニーから長距離通信による直通では無く、わざわざ短距離通信を使って、途中の宙域に設置された複数の中継機を経由しながら届けてもらっているそうだ。
当然、帝国軍は、後続部隊に連絡するために、中継機まで用意してまで短距離通信を使う事は無く、普通に長距離通信を使うはずだからジャミングが有効なのだそうだ。
「へぇー、なるほどね。長距離通信が使えないから、ここまで短距離通信を中継してきたんだ。色々な手を考えて凄いね!」
直美が感心したような声を上げた。
「艦長! 帝国軍が動き出しました!」
シノの声が直美の気を引き締める。
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