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第五十一話


フェルマント侯爵たちは、直美たちと会議した数日後、全銀河に対して銀河連邦政府の樹立を宣言する準備を整えていた。

銀河連邦政府には十一の貴族が賛同を表明した。しかし、この数は侯爵たちが当初想定していた三十家に比べ、三分の一にも満たない。


それでも、もはや一刻の猶予はなかった。帝国軍はすでにゴルディア・セントラルへ迫っている。

侯爵家の名で戦えば、帝国にとっては反逆者を裁く口実となるだけだ。


――ゆえに、この日、全銀河へ向けて一つの宣言が放たれることになった。


執務室の中央、黒曜石の台座に据えられた送信端末が静かに光を帯びる。銀河中継網がリンクを確立し、多くの視線がこの一点へと集まった。


フェルマント侯爵は軍装ではなく、簡素な濃紺の正装で立つ。

その背後には連邦の新しい旗――星々を環状に配した紋章が、静かに揺れている。


「諸君、私は今日をもってフェルマント侯爵の爵位を返上する」


低く、しかし確かな声が銀河を駆け抜けた。


「私も、我らと共に立つ者たちも、もはや貴族ではない。帝国の貴族政治は、星々をその私利私欲のために支配し、一般市民の声を踏みにじってきた。この専制を終わらせ、誰もが発言権と自治を持つ政治を築くため――我らは新たな政府を立ち上げる。我らは市民として、互いに対等な同盟を結び、この市民を守るために戦う。この日より、我らは――銀河連邦政府を樹立する」


宣言と同時に、背後の旗が鮮やかな光を放ち、画面は星々に溶けていく。


この映像通信は、銀河に展開されている全コロニーに向けて緊急通信として発信された。

侯爵家からの緊急通信であったため注目度は高く、各コロニーの要人は、もれなく全員が知ることとなった。もっとも、各コロニーに住む一般人は直接、映像を見る機会は無かったが、それも時間と共に噂として広がって行った。


◇ ◇ ◇


フェルマント侯爵とアントワーヌ宰相たちが政治を通じた戦略を展開してく中、直美たちとオルヴァン軍務長官は具体的な戦術レベルの準備を整えていった。

宣言はされたが、実際に連邦政府に加盟した元貴族たちの戦力集結するまで時間が掛る。まずは既に侵攻してきている先遣艦隊を手持ちの戦力で対処出来なければ始まらない。


「それで、直美。会議の中で言っていた“地形”を仕掛けるとは具体的にどうするのだ?」


「この作戦はね。前に聞いた話なんだけど――」


直美は、宇宙船の墓場で、ジャンク品を漁っている時にオオサカから聞いた話をオルヴァンに話した。

その話というのは、ジャンク回収業者の間は有名な話だ。もっとも、この話は、何も知らない新米をからかうための怪談与太話だ。


ジャンク品を回収して回る業者たちは、艦の残骸を漁っていくのだが、そこには元は人間だった一部などが見つかるのは良くあることだった。宇宙空間では凍ることはあるが、腐ることも土に還ることも無く、いつまでも漂っているのだ。

そこから生まれた話。真っ暗の中、突然動き出す機材や光る物体、誰も居ないのに動き出す幽霊船の話だ。


この話、実は、幽霊でもポルターガイストでもない。放置されたエンジンや魔導タンクに残されたわずかな魔力が何かの拍子に反応して、エンジンだけが動き出したり、変な化学反応で発光したり小爆発が起きて動き出しただけなのだ。


「なるほどな。直美はそれを人為的に再現した罠を張ろうと言うのだな」


オルヴァンが少し呆れたように直美を見た。


「ええ。これはジャンク回収業者には有名な話ですが、正規の軍人はジャンク品漁りの経験なんて無いと思うんですよね」


直美の言葉に、オルヴァンが頷く。まとも軍人がやることではない。


「だから突然、前触れも無く動き出すと焦るはずです。そこで、廃棄物や岩などに小型推進装置と爆薬を組み込み、遠隔操作で一斉に敵艦隊が航行中の進路へ押し出す。そりゃ、いくつかはミサイルや粒子砲で迎撃されるだろうけど、こちらの損失は無いに等しいから問題はない」


「まあ、元々はゴミだからな。ちょっと動かすだけなら観測機用の推進機でも付ければ動けるだろうな。だが、そんな都合よく岩や残骸を用意できるか……」


「それはね。前に私が戦ったペストホロウや第二のアジト周辺で、放置された残骸や岩塊を回収すれば良いですよ。それなら元手もかからないですからね」


直美の語った戦術は、やる方は簡単だが、やられると痛いという嫌がらせのような作戦だった。


「たしかに、防衛する側なら出来る作戦だな。殲滅は出来なくても戦力を削り、混乱に陥れる事は可能だろうな……直美が味方で良かったよ。俺もそんな罠を張られたら対処の方法が思いつかん」


オルヴァンは、自分を攻め手の立場に置き換えて考えたのか、心底嫌そうな顔をした。


直美の作戦は実行レベルへと移されて行った。銀翼の艦隊はジャンク回収業者になったかのようにジャンク品や岩などを集めて回った。

小さめの岩や残骸は爆薬と信管を取り付け、小型の推進装置を付けて行く。大きめの残骸や岩はそのまま推進装置だけを付けていく。それらを再び通常の航路上に乱雑に設置していくのだ。


ここでミソとなるのは、完全に航路を防がないことだ。あくまでも航路としては使える状態を維持しないといけない。航路の両脇にデブリ帯が広がっているだけという状態にしておかないと完全に迂回されては意味がなくなる。離れた所にデブリが散らかっているが安全に通れそうだと思わせないといけない。


◇ ◇ ◇


オルヴァンが率いる銀翼の艦隊がデブリの設置を終えたころ、新グリムリーパーもついに完成した。外観は軽巡だったころの大きさと、ほぼ変わらない形状だが前方の主砲は一台増設して三台となり、後方は以前と変わらず一台となった。


それらの主砲は全て戦艦クラス、エンジンも戦艦クラス。その状態は軽自動車にジェット機のエンジンを積むような物かも知れないが燃費も居住性も全く無視した姿に直美は満足していた。

さらにその裏では、グレムリンも多少手は手を加えていた。防御力の高い揚陸艦の特性を更に高めて攻撃力よりも防御力を重視した補助装甲パネルを外装に張りめぐらせたのだ。


「なぁ直美、このゴテゴテしたパネルって……やっぱり、カッコ悪くないか?」


バロックは完成したグレムリンを見上げながら言った。


「何よ。戦争にカッコ良さなんて求めても仕方がないでしょ。それよりも生き残ることが大事なの」


「はぁ、そうかな……しかしロマンや造形美ってものがだな」


「リム=ザップ、良く間に合わせてくれたわね。ありがとう。これで、少しでも死傷者が減ると思うわ」


バロックはブツブツと言っているが、直美は無視してリム=ザップに声をかけた。


「……ああ、一応……注文通り……出来た」


リム=ザップは言葉少なく答えてくれた。彼は表情の無い金属製の顔だが、それもで、十分にやり切ったという雰囲気が直美には伝わった。


「うん。完璧だよ。それじゃあ、後はエルザと共にセレナの護衛をよろしくね」


「ああ……大丈夫だ……グリムリーパーの装甲も……戦艦クラスだが……気を付けてな」


「うん。今度は、なるべく壊さないように気を付けるよ。敵の本体が来る前に動け無くなると困るもんね」


「……」


何故かリム=ザップが微妙な反応をしている。


「ああ、任せておけ、俺がこっちの方は気を付けておくさ」


直美の受け答えを横で聞いていたバロックが、少し苦笑いして直美の頭の上にポンポンと手を置いた。


「そうだな……バロック……よろしく」


直美は、何を言っているのか理解出ずに二人の事を見上げたが、二人の間では、話しが通じているようなので、放っておくことにした。


「艦長はん、いよいよ敵さん、お出ましになったようやで」


突然、オオサカが話に割り込んできた。


「え? 何であんたが、そんな事を知っているの」


「そりゃ、銀翼の艦隊で交わされている通信も傍受しとるからや」


オオサカはシレっと、とんでもないことを言った。


「ええ! いつの間に、そんな事が出来るようになっていたの!?」


「だから、ワイは戦略指揮艦のAIやで、味方の艦隊の通信ぐらい聞いとかんと判断間違うやん。だから、ちょっと銀翼の艦隊のAIに頼んでバックドア作って貰たんや」


「それって、コンピューターウィルスの不正侵入みたいじゃないの!?」


「大丈夫や、ちゃんとAI同士で話は付けとる。新規インターフェースを構築しただけや」


「うむむ。何だか違法スレスレのような気がするけどな」


「戦時中の超法規的措置って奴や」


「何か、違う気がするけど……まあいいや。とにかく帝国軍が来たんだよね。それじゃ二人とも、行くよ!」



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