第五十話
翌朝、直美たちは早速、人員の整理に取り掛った。カシアの指示で再訓練を受ける者を送り出して、バロックの指示でアビスの乗組員をグレムリンに配置していく。
そんな二人の様子を、直美は遠目に眺めていた。直美が何かする必要は無いのだが、一応、バロックたち遊撃隊をまとめる隊長のような役割になってしまったので、何となく見学するような形になってしまっていた。
「ねえオオサカ、今更だけど、何でアビスとかグレムリンは、乗組員があんなに必要なの? グリムリーパーなんて艦橋に最大でも五、六人で十分だし、最低、三人もいれば十分戦闘できると思うけど」
「艦長はん。それはめっちゃ今更やな。まあ、ええわ、簡単に言うとな、艦に搭載しとるAIの違いや。単なる自動制御だけやない。各種の計器から数値を拾い上げて、何をせなアカンのか、その優先度は効率はどうや、とかな色々とワイの方で考えて対応しとるから人手がなくてもグリムリーパーは動けるねん。前にも言ったけどワイは戦略指揮艦用に開発されたAIやで、一艦分のマルチタスクなんて余裕なんや」
「ふーん。じゃあ、グレムリンとか、アビスのAIをオオサカ並みに強化出来ないの?」
「それも難しいな――」
オオサカの話では、小型で高機能で高性能、おまけに大容量で超高速演算処理システムを搭載した艦体搭載用のサーバなどは最近作っていないそうだ。
技術の進歩はあったようだけど、平和になったことで利用用途も変わってしまい。施設に設置するようになったことで冷却装置がどうのう、こうのと、長く難しい話をしていたが、要するに、時代の変化で、艦体に搭載できる大きさで高性能な物は作ってもいないし、開発もしていないそうだ
「だから、AIの代わりに人力でカバーしているのか、何だかある意味では文明が後退している感じがするね」
「そうやな、文明発展の方向性が、歪なんかもな。ミサイル迎撃も優秀なAIがあるから副砲に頼ったけど、それを無視してくる亜空間魚雷には太刀打ち出来なくなっとるしな。そやから、艦長はんのようにイレギュラーな戦い方をされるとAIでは捌ききれんようになって、突破されてしまうんや」
オオサカからAIについて教えてもらいながら、二人の様子を見ていると、フェルマント侯爵邸から一台の車がやって来るのが見えた。
「直美様、グレゴール様がお呼びです」
執事のセバスが車から降るなりそう言った。彼にして珍しく急いでいるようだったので直美は急いで車に乗り込む。車はセバスと直美を乗せて、直ぐにフェルマント侯爵邸に到着した。
直美はエントランスに到着すると、急いで車を降りてフェルマントの執務室に向かって行く。何度も足を運んだ部屋だから、部屋の場所も覚えている。
いつもは、セバスが扉をノックして到着した事を知らせるが、急ぎ足で来てしまったので、セバスが追い付く前に扉の前まで来てしまった。
直美は、セバスがいつもするようにノックして名乗ると、扉越しに侯爵の声が、入って来るように言ってきた。
執務室に入ると、どこか空気が重ぐるしく感じる。薄いカーテン越しに差し込む陽光すら、どこか鈍く沈んで見える。
いつものソファーには、オルヴァン軍務長官とアントワーヌ宰相が並んで座っていた。
そしていつも通り、直美は二人の向かいの席に座った。その時見たアントワーヌ宰相の顔色は決して良いとは言えないような感じだった。直美の目の前には、メイドが用意してくれた紅茶が静かに湯気を揺らしていた。
今日の雰囲気は、どこか落ち着かない。
「閣下……結論から申し上げます」
アントワーヌは深く息をつき、低い声で切り出した。
「周辺国との同盟交渉は、寄子の子爵家、男爵家こそ承諾を得られましたが……大貴族は軒並み渋りました。正式に同盟を結ぶと答えたのは、想定の三分の一以下です」
侯爵の眉間に皺が寄る。
「セレナ皇女の存命やヴァルディス皇帝を弑逆した証拠を持っている話をしてもか……やはり、銀河帝国を恐れて腰が引けたか」
「どうやら、理由はそれだけでは無いようです」
宰相は苦く笑った。
「一部は帝国からの密約を受けている様子です。反逆者の領地を餌に……」
空気が一段と重くなった気がした。
ここでいう反逆者というのは、間違いなくフェルマント侯爵の事だろう。ここまで来ると、セレナが侯爵によって保護されていると銀河帝国は確信しているのだろう。
まあ、祖父と孫の関係だから、セレナが生きていて、取り逃したとなると逃げ込むところなど、そうあるわけでは無い。場所がある程度絞れるなら、情報の網だけ広げておけば見つけるのも容易かったのだろう。
「さらに、もう一つ報告ですが、帝国軍の先遣艦隊が、我々の監視網に引っ掛かりました。旗艦を含む複数艦が、このゴルディア・セントラルへ向かっています」
オルヴァンも話しだしたが声は鋼のように冷たい。
「何隻だ?」目をつむりながら侯爵が問う。
「確認されただけで二十二。偵察艦も伴い、戦艦や重巡も混じっております」
直美は湯気の向こうで紅茶を見つめながら、小さく息を吐いた。二十二隻の艦隊。聞くだけで胃が痛くなる数だ。
オルヴァンの口ぶりからして、これはまだ“先遣”に過ぎない。後続が控えているのは目に見えている。
「……つまり、援軍も時間も無いってことですね」
思わず口を開いた直美に、室内の視線が一斉に集まる。直美は紅茶を口に運んで、少し口元を湿らせた。
「じゃあ、こっちも迎撃の準備を急ぐしかないですよね。外交での増援が無理なら、物量不足は戦術で埋める。――そういう話ですよね?」
アントワーヌ宰相は苦笑しつつも、うなずいた。
「ええ。ですから、直美様の力をお借りしたいのです。我々が正面を抑えるので、あなたがたは遊撃部隊として、敵の後方攪乱をお願いしたい」
直美はカップを置き、ゆっくり背もたれに身を預ける。
「そうですね。後方攪乱作戦……なら、一つ思いついたのがありますよ」
侯爵と軍務長官、そして宰相の視線が集まる。
「帝国艦隊は、このあたりの航路に詳しいわけじゃないでしょう?――だったら、こっちが“地形”を仕掛けてやればいいのかも。虚偽の航路情報を流して、重力渦やデブリ帯、または機雷原に誘い込む」
「罠に嵌めると?」侯爵の声が低くなる。
「そうです。ただし派手にやる必要はないです。旗艦や重巡を足止めできれば、後続との連携を崩せる。あとは、こっちの小回りの利く艦で一点突破……先遣艦隊を半壊させれば、帝国の士気は落ちる」
宰相がわずかに口元を引き締める。
「……なるほど。正規軍では採用しづらい作戦だ」
「だから私がやる。遊撃部隊は二艦しかないから正面からじゃ勝てないけど、奇襲なら話は別」
直美の声は軽く響いたが、その奥にある決意が室内の空気を張り詰めさせた。
オルヴァン軍務長官は短く息を吐き、腕を組む。
「……やれるか?」
直美はわずかに笑ってみせた。
「やるしかないでしょ。――セレナを守るのが私の仕事ですからね!?」
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