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第五話


直美はこのまま、墓場に残って、さらに探すことにした。

一番の探索対象は酸素生成装置の部材、もしくは船外服に取り付ける酸素ボンベ、これらが見つかると、コロニーまでたどり着ける確率が上がる。

もちろん、これは賭けだ。探した結果、何も目ぼしいものが見つからなかったら。時間を無駄に使ったことになる。そうなると、コロニーまでたどり着くのは絶望的になるのだ。


――命を懸けた賭けだったが、無事、直美は勝った。


「良し! 結構、酸素ボンベは集まったね。まあ、酸素生成装置の必要な部品だけは見つからなかったけど、お金になりそうな機材や武器も見つかったから良かったのかもしれないね」


直美は、船外服に取り付けられているインカムを操作しながら言った。


「そうやな。これだけ酸素ボンベがあれば、留まった時間の分も稼げたし、ギリギリだったのが、ちょっとなら余裕が出て来たって所になったからな。これ以上は、難しそうやから、ぼちぼち出発した方がええで」


艦内のコンピューターに本体を持つAI、オオサカが応える。

直美はオオサカの言葉に従って、船外服の背中に取り付けられたセファーユニットという移動用の装置を操作して、グリムリーパーに向かって小さく噴射する。噴射の勢いで直美の体は、ゆっくりと命綱を回収しながら飛んでいく。


「ねぇ、オオサカ。お金が無いから、ジャンク品を持って行って売るというのは分かるけど、武器まで持って行く必要があるの? 別に私は戦いをしたい訳じゃないんだけど――」


直美は、腰のあたりについている小さな操縦桿で噴射ノズルを操作しながら、オオサカに話しかけた。


「ねえちゃん。あんなぁー、武器も持たんとウロウロするなんて、頭がおかしくなってる奴ぐらいしかおらんで。普通に死にたいのなら船外服脱いで宇宙空間を漂った方がマシや。数十秒程度で死ねるで」


「えぇ、何でよ。武器なんか持っているから戦いに巻き込まれるんじゃないの?」


「はっはは。どんなおとぎ話や。武器持って無いなら、相手に何されも文句言わんって事やん。そしたら、若い女性なら奴隷として色々使ったあと、体バラして臓器の切り売りってのが一般的なコースと思うで」


「げぇ、そんなに治安悪いの!? 警察とはいないの?」


「なんやそれ? まあ、言葉の雰囲気からみて、コロニーの警備隊に近いものやと思うけど、そんなもの、この広い宇宙で意味あると思うかぁ? 警備隊が、たまたまパトロール中に海賊を見つけたら戦うけど、それでも海賊船の中に捕まっている一般人が居てもいちいち助けへんで、まとめてズドンや。ねえちゃん、ちょっとボーっとしてそうやから、コロニーでも攫われんように気を付けてや」


直美は、ようやくこの世界でのルールを少し理解できた。平和な国、日本とは違って自分の身は自分で守る必要がある。グリムリーパーに戻る道すがら、オオサカから色々と学ぶことが出来た。この世界では銃火器を身に着けおくのは当たり前で子供でも持っていると。

船は、どんな商船でも武装し、更には護衛の船をつけている事も多い。

宇宙で知らない船には常に警戒すること、コロニーでは人でもお店でも信じたりせずに常に武器を身に着けて警戒すること。


船外ハッチを潜って、船内に戻って来た直美は、午後からずっと被っていたヘルメットを脱いだ。


「はぁーちょっと疲れたけど、成果はあったね。オオサカ、武器も修理工房に運べば良いの?」


直美は、オオサカにさんざん脅されて、現在の丸腰という状態でいることに不安を感じるようになって来た。


「そうやで。ようやく、ねえちゃんも安全面を気にするようになってくれたんやね」


「はっは、そりゃ私だって奴隷になったり、死体になっても切り刻まれるような事態には、なりたくないからね」


直美は、そう言いながら、墓場で拾った細身のハンドレーザーガンと、何に使うのかさっぱり分からないまま、オオサカに言われたとおり鉱石やら金属、更には大小さまざまな電子機器の回路を修理工房に運び込んだ。


修理工房から出て、艦橋に戻ろうとしていると、艦内に大きな警告音が鳴り響いた。


「ちょと、オオサカ。また何か壊れたの? 今日回収した物だけで直せそう?」


直美は、ちょっと呆れた顔でタブレットに表示されたオオサカに言った。


「いや、これは壊れた訳や無いで、救難信号をキャッチしたんや」


「えぇ、救難信号?? 海賊とかに襲われたのかな?」


矢継ぎ早にオオサカに尋ねる。


「うーん。ちょっと違うみたいや。別に、どこかの船や無くって、救命カプセルが自動で発信しているみたいやな。信号の位置は、ここからに十五分ぐらいの位置やな。軌道予測では、ワイらが回収せんと、四十分後には白色矮星の引力に捕まるな」


「えっと、これって、何かの罠の可能性はあるかな?」


「おお、ねえちゃん。その感性が大事や! 常に最悪を想定して準備を怠ったらアカンで、それが出来ん奴から死んでまうからな。けど今回に限って言うと、罠の可能性は低いな」


「それは……ああ、そうか。私たちが無視したら、白色矮星に落ちちゃうって事だものね。それでも無人のカプセルで私たちが近づいた途端自爆するとかないよね?」


「ふっふふ。そうそう。そうやって色んな可能性も考えるんや。けど、そこまで考えたんなら、あのカプセルは無視するっちゅうのも手やな」


直美は、オオサカに即答せずに艦橋に戻ってくるなり、レーダー席に座った。


「オオサカ、レーダーの操作を教えて、近くに航行する船は無いか見たいの」


「ほう。なるほど、さっき言ってた罠を疑っているんやな。現在の表示では、生きている船は、ほぼないな。まあ、反応炉が生きている残骸から、エネルギー反応が出ているけど、この状態から通常機動まで持って行くのは時間がかかりすぎるから大丈夫や。それじゃあ、次に…その横のパネルでレンジを広げてみ。そうそう。それで精度は落ちるけど広範囲が見える。ふーむ。墓場らしく誰も生きてるのは、おらんな」


「何か動いている物が無いか監視できる? 自動操縦とか遠隔操縦とかしている物は無いか見れるかな?」


直美の言葉を聞いて、オオサカのホログラムは驚いたような顔をした。


「おお、ええな。対物センサーも起動しとこうか、現時点から動いた物があれば反応してくれるで。――良し。起動したで、これで何か動いたら警告音が出るわ」


思いつく限りのリスク確認を行った直美は艦長席に戻った。

「それじゃ、救命カプセルの回収に向かいます」と言いながら、直美は操縦桿を握った。


オオサカがサポートしながら、直美はゆっくりと操縦桿を動かし救命カプセルとランデブーコースをとる。


「良し、そのままやで、それじゃあマニュピレータを操作して回収しよか」


救命カプセルをアームで掴んで回収デッキに持って来ると、素早く索引ワイヤーをかける。

固定が出来たのを確認すると、船の進路を変更して、近くのコロニーに向けて進め始めた。


「オオサカ、さっき回収したレーザー銃の修理状況はどう?」


「おう。特に壊れていなかったから、簡単に整備しただけやけど、いつでも使える状態やで、そやけど、ねえちゃんは使ったことも無いやろうから危ないで」


「うん。たぶん使えないと思うけど、もしもの時に牽制ぐらいできるかなって思って」


直美も心配ではあったが、出来る限りの警戒はしようと心に決めた。

修理工房に寄って、小さなレーザーガンを受け取ると、回収デッキに向かった。


直美が回収デッキに着くと、既に空気は循環され、いつでも入れる状態になっていた。

回収デッキには、先ほど回収した様々な機材と共に大きな楕円形のカプセルが置いてあった。


「これが救命カプセル……ねえ、中にひとは居そう? 生きてるの?」


「そうやな、今、カプセルのデータとリンクしたけど、ずいぶん古いな。十年ぐらい宇宙空間を彷徨ってたみたいやで、中身は生きてそうや。ふーむ。これ……ちょっと面倒なことになりそうや。このカプセルの中身はヴァルディス銀河帝国の皇女みたいやで」


「えぇぇ!! 皇女って皇帝の娘さんって事だよね。何でそんな人が救命カプセル何かで彷徨っているのよ!」


「知らんけど、訳アリってやつやろな。今更捨てるのも、なんやし、対面してみるしかないやろ」


直美はそっと船外服のポケットの上からレーザーガンに触れた。オオサカがカプセルの解除を起動する。

プシューと言う音と共に冷気がカプセルの中から零れ落ち、カプセルの蓋が開いていく。


「……綺麗な人だね」


カプセルの中で眠る少女は十代半ばに見えた。長いまつ毛に霜がついてキラリと光る。彼女は高級そうな白いドレスに身を包み。手を胸元で祈るように添えている。


直美がジッと彼女の様子を見守っていると、わずかに彼女の手が動いた。


「あっ……」


閉じられたまぶたがわずかに動く。コールドスリープの状態から、徐々に目覚めていく。


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酸素足りるか足りないかって状態で(余裕は少しあるみたいだけど なんで拾ってすぐ起こすかな? せめてコロニーとかの近所に着いてからでも遅くなかろうに。。。
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