第四十六話
三連休最後のなので、追加投稿です!
執務室で、フェルマント侯爵とセレナを交えて話を聞いたあと、直美は自分に当てられた客室のベッドで横になっていた。この後、軍務長官のオルヴァンと宰相のアントワーヌという人を交えて、今後の事を話し合うことになっている。
「ふぅ。本格的に帝国と戦うことになるのは、今更だから問題ないけど、フェルマントさんが言っていた近衛騎士ってどうなんだろうね」
「はっはは、それこそ今更や無いか? 既に皇女ちゃんを守って来たんやから近衛騎士と言っても過言ではないわな。それに艦長はんも自分の役割ちゅうもんを探してたやん。それが言葉になって明確になっただけちゃうんか?」
直美が常に持ち歩いていたタブレットからオオサカが答えてくれた。
侯爵と会っている時もタブレットだけは持っていたのだ。色々な知識が足りていない直美にとって、オオサカの知識は重要だったので、分からないことは後で聞けるようにと持ち歩いていたのだ。
「うん。そうだね。私はセレナを守りたいし、戦う力も持っているような気がする。組織って枠組みに入るのは少し抵抗があるけど、だからと言って一人でセレナを守れるとも思っていない。だったら、正式な立場で堂々と守れるようにすべきなんだね」
オオサカとの会話を通じて、直美の中に、まだ小さいが強く輝く決意が生まれた。
少し前まで、どこにでもいる普通の女子高生だった彼女にとって、これからの人生を左右する重大な決断ではあった。しかし、ここで、セレナのことを侯爵家の人々に任せて、自分は別の道を歩んでいくというは何か違うと思ったのだ。
「良し決めた! 私は、やっぱりセレナを守る。その為には近衛騎士でも何でもやってやるよ! まあ、小さいころに思っていた生き方とは違うけど、この方が私らしいかもね」
直美の意思は固まった。そのタイミングを見計らったように、ドアをノックする音が聞こえた。
「直美様、皆様がお揃いになりましたので会議室にご案内します」
執事のセバスがドアの向こうから声を掛けて来た。
「ありがとうございます。今、行きます」
ベッドから勢いよく起き上がると、タブレットを片手に直美は扉を開けた。
セバスに連れられて入った部屋は、侯爵の執務室とは違った長い会議用のテーブルが置かれた部屋だった。しかし、直美が想像していた会議室という感じではなく、どこか高級なホテルにありそうなサロンという感じが漂う部屋だった。
壁には高そうなお酒とグラスが並んだカップボードが備え付けられ、暖炉があり、長机には一人掛けのソファーが並んでいる。
思わず気おくれする直美を、セバスが席に案内してくれた。彼女の席はセレナの隣だった。彼女たちの正面にオルヴァンと、もう一人の男性が座っていた。
その男性はオルヴァンの細身の体形に比べて、少しふっくらとしており、どこか愛嬌があるように思えたが、その彼の目に宿る、往年の落ち着いた貫禄が、彼を政治家であると思わせた。
「初めまして、直美様。私は宰相をしているアントワーヌ・ド・ベルフォールと言います。以後お見知りおきください」
彼は柔らかな物腰と穏やかな声で笑みを浮かべて、直美に話しかけた。
「ありがとうございます。私は――」
直美は、少し緊張しながらも、侯爵に挨拶した時と同じ内容で自己紹介をすることにした。
「さて、皆集まったようだな。まずは、改めて、直美。この度はワシの孫娘セレナを助けてくれて、本当にありがとう。ここに居る者はワシの腹心中の腹心だ。安心して話してもらって構わん。ただ、その前に直美のこれからについて確認しておかなければならんのだ」
侯爵が話を切り出した。
「えっと、私のこれからの事ですか?」
直美は、侯爵が言った言葉の意図を掴み切れていなかった。キョトキョトと周りの人たちを見渡してみるが皆の顔からは、その意図は見えてこなかった。
「うむ。これから話す内容は、かなり危険な話になるだろう。話を聞いてしまうと直美にも身の危険が及ぶことになる。もし、直美自身がそこまで関わるつもりが無いのであれば、聞かん方が良いことになる」
「なるほど。それは、私が、これ以上関わる覚悟があるのか? という事ですね」
直美は、静かに目を閉じて先ほど客室で考えた事をもう一度、頭の中で自問自答し、そして、しっかりとした意思を持って口を開いた。
「はい、先ほど客室に居た時も考えたのですが、私は、ここで退いてセレナを皆さんに全てを任せて逃げ出すのは、私自身、納得出来そうにありません。私の力なんて、たかが知れていますが、それでも、私もセレナを守って皆さんと共に戦いたいのです。だから私も参加させてください」
直美は侯爵の目を見ながら一気に言い切った。今までは、その場の環境や雰囲気に流されて、ここまで来てしまったが、今、自分の中で決めた道を自ら選択して進むべきだと。
「ありがとう。直美……命を助けてもらった上に、厄介なことに巻き込んでしまったわ」
セレナの目には涙が溜まっていた。おそらくセレナは申し訳ない気持ちで溢れているのだろう。
しかし――
「いいえ、違うわセレナ。前も言ったけど、私たちは友達でしょ。困った時に、助けるのが本当の友達よ」
「セレナは本当に良い友人を得たな。命がけで助けてくれる友人は、何物にも代えがたい。直美、今後もセレナ専属の近衛騎士として頼むぞ」
侯爵はそう言うと、目じりにしわを寄せて穏やかにほほ笑んだ。
「良し! 直美の覚悟は聞いた。それでは、これからの事を話そう――」
侯爵の話から始まり、ペンダントに隠されていたグランツ・ノイ=ヴァルドの弑逆の証拠の共有。さらには周りの貴族たちの動向。そして、直美からも第一天宙艦隊の旗艦、超大型戦艦デスカリオンの話と多岐に渡って情報交換が行われて行った。
「私の掴んだ情報では、ノイ=ヴァルドが所有している超大型戦艦は、デスカリオンだけでは無く他にも二艦あるようだ。そのうちの一つは皇太子の旗艦となっているようだが、最悪、その三艦全てを相手すると想定しておくべきでしょうな。それ以外にも戦艦や空母、重巡なども多数投入してくるとなると銀翼の
艦隊や領域の全ての守備隊を使っても厳しいですな」
オルヴァン軍務長官が言いながら、横に座っているアントワーヌ宰相に目をやった。
「ああ、そうですね。そこで私の出番って事ですよね。フェルマント侯爵家の寄子となっている子爵家や男爵家からも領軍の派遣を要請しつつ、同盟を結べそうな他の貴族にも当たってみましょう。現在のノイ=ヴァルド政権について不平不満を持っている貴族は、それなりに居ますから、勝てそうなら味方になるという日和見的な者も引っ張り込めそうなら引っ張り込みますよ」
アントワーヌはそう言うと、周辺貴族の勢力図をテーブルに広げて、フェルマントと共に交渉すべき相手を選んでいった。
直美には良く分からない話だったが、どう贔屓目に見ても有利とは言い難い情勢だという事は理解できる。
その後決まった事として、基本、セレナと侯爵は船には乗らず、コロニーに居て、全体の指揮を取りつつ安全を確保することになった。直美としても、それは当然の事に思えた。今まで直美は多くの敵の艦体を葬って来た。たとえ大型の戦艦でも当たり所次第では一撃で撃沈するのだ。そんな所にセレナや侯爵が居る必要は無いと思っていた。
そして、直美の扱いについても話し合われた。今から直美を領軍の中に取り込むのは、かえって連携が崩れる恐れがあること、また、直美としても組織的な戦闘に不慣れなことなどから、遊撃部隊として行動することが認められた。
「最後にワシから直美にお願いがある。万が一、この戦いに敗れるような事があった時、直美はセレナを連れて逃げてほしいんだ。その時は仇討ちや家の再興などは捨てて、ただの一人の人間として生き延びて欲しい」
侯爵はそう言うと、直美の目をしっかりと見つめた。彼の目に侯爵としての威厳ではなく、ただ一人の祖父が孫を思う気持ちが溢れていた。
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