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第四十四話


多くの艦体がデブリとなって漂う戦闘宙域から、直美たちグリムリーパーの面々は銀翼の艦隊に守られるようにゴルディア・セントラルに向かうことにした。

その一方で、エンジンを損傷しているアビスは、一旦、ペストホロウに寄港することになった。グリムリーパーのように細身の軽巡ならともかく、アビスは巡洋艦クラスと大きい為、他の戦艦に縛り付けて無理やりワープを行うというのは無理があったのだ。

そのため、ペストホロウでエンジンの修復を行ったうえで、後から直美たちを追いかけて来ることにした。


アビスを残すことを決定すると、グレムリンも合わせて残ることにした。

もっともグレムリンの場合は、カシアの意向も大きかった。現在のペストホロウには、星間航行が出来るだけの船は残っていない。帝国軍が攻めて来た際に住民たちの避難に使い果たしてしまっていた。

今の、この状況で、再びペストホロウが帝国軍に襲われると、まともに動けないアビスだけでは逃げる手段が無い。その事をカシアが指摘し、脱出の艦体として、グレムリンも残ることにしたのだ。



フェルマント侯爵の領宙域はペルセウス流の中にあった。銀河系は、星やガスが密集した領域が、帯状になって銀河の中心から螺旋状らせんじょうに伸びている。その渦巻く帯状の物を“流(りゅう)”と呼んでいるのだとオオサカが語った。

今から向かう、ペルセウス流は銀河の中心から最も遠い外回りを囲むように広がっており、セレナの母星ペルデギウスが存在するノーマ流という最も銀河の中心に近い流からは遠く離れた位置になるそうだ。


直美は、オオサカから長々と銀河における位置関係の説明を聞かされていた。


「ねぇ、そしたら、オリオン流ってのもある?」


直美は高校の科学の授業で聞いたことを思い出しながらオオサカに聞いてみた。高校では“オリオン腕”と習った気がするが、同じ銀河であれば、ひょっとすると太陽系が存在しており、そこには地球も存在しているのはと思ったのだ。


「オリオン流? いや、そんなのは聞いたことが無いな。中心から近い順に言うと、ノーマ、ケンタウルス、サギタレアス、ペルセウスやな」


「ふーん。やっぱり世界が違うのか……お母さんとお父さんは元気かな……いや、一人娘が死んじゃったか、居なくなったんだから、元気って訳にはいかないか」


「まもなく、ワープアウトします」というシノの声を聞いて、直美は暗くなった気分を追い出した。


グリムリーパーは銀翼の艦隊に守られながら、ゴルディア・セントラルの入港ゲートへと近づいていく。

ゴルディア・セントラルは直美が今まで見たことがある伯爵領のルーナ・ベータや廃棄されたコロニーと呼ばれるペストホロウなどと比べると、とてつもなく大きなコロニーだった。


「ふぁ、流石、侯爵家のコロニーだね。すっごい大きいな」


「ふっふ、そうですわね。おじい様のコロニーは随分古いようですが、何度も増設されて、今の大きさになったそうですわ」


セレナの声を聞きながら、モニターを眺めていると、入港ゲートは今向かっている軍港以外にも沢山設けられているようで、大小の様々な船があちらこちらからコロニーを出たり入ったりしているのが見えた。



軍港に入る直前、侯爵家の艦体たちが、それぞれ超信地旋回を始めているのが見えた。


「艦長、アウレリア・セラフィムから映像付き通信です」


「うん。それじゃ、繋いでくれる」


『初めまして、私は軍務長官のオルヴァン・クロイツと言います。今はアウレリア・セラフィムの副艦長をしています。今回、我々は後ろ向きで入港しますが、直美さまたちは、通常どおり前向きで入港してください』


銀髪の男性がモニターに映し出された。彼の眼光の鋭さが、彼が歴戦の軍人であることを物語っているようだった。


「うーん。大丈夫です! 私も後ろ向きで入港しますよ。私にとってこっちの方が慣れていますので」


直美は、そう答えると。グリムリーパーを超信地旋回させ始めた。以前にセレナから聞いた話では、前向きで入港しているのだろうが、今回はあえて後ろ向きに入港させている。という事は、オルヴァンたちにとっても、今は平常時では無く、臨戦態勢を取っているという事だと直美は理解した。

そうであれば、直美も何かあった時にすぐに出航出来るように後ろ向きに入れておいた方が良いと判断したのだ。


『そうですか、それでは十八番ゲートの桟橋に接続してください。後でお迎えにあがります』


オルヴァンは、そう言いながら少し口角を上げたように見えた。


「艦長はん、一応言っておくけど、後ろの外部モニターは、ほぼ全滅しとるかなら。第三主砲とミサイルの発射口を持ってかれたときにモニターもやられてもうたで」


「うん。大丈夫だよ。モニターの一部が壊れた状態なんて戦闘シミュレーションでは、ちょくちょくあったから、それも慣れたよ」


直美はそう言うと、操縦桿とアクセルペダルを少しづつ動かしながら、正面のモニターに映る桟橋の端とゲートの入口だけを頼りに距離を詰めて行く。

慣性制御装置を効かせて、ブレーキをかけると同時にトン! という軽い音と共に艦長席に桟橋への接続が完了したというメッセージが流れた。


「うわー。艦長ってすごい操縦テクニックを持ってるんですね。修正なしの一発接続ですか!?」


シノが管制席から振り返って、直美に声を掛ける。


「はっは、これぐらい出来ないとシミュレーションでは生きていけなかったんだよ。それにさんざん、この艦体は自分で修理したからね。長さも幅も感覚で分かるようになったよ」


直美は、ごく普通に答えたが、世の中には、それが出来る人間なんて、そうそう居ないという事に気づいていなかった。

オオサカの用意した戦闘シミュレーションが大戦中に用意された、とんでもない難易度のシミュレーションを凝縮したものとは知らずに実施したからだ。


桟橋に接続して、しばらく待っていると、お迎えの軍人がハッチまで来てくれた。

その人の後に付いてゾロゾロと降りて行くと、今度は、軍港内を走る車に乗ってフェルマント侯爵邸にまで運んでくれた。


「ふぅーなんか久しぶりに重力を感じるよ。あ、そういえば、こんな感じで重力を感じている場所で、リム=ザップたちに追われたんだっけ」


直美は、以前にリム=ザップとバロック、カシアに追われた時の事を思い出した。


「あー、そうでしたわね。あの時は。本当にどうなるかと思いましたわ。まさか、私がゴミ箱の中に入る羽目になるなんてね」


セレナも、あの時の臭いを思い出したみたいで、その整った顔をしかめた。


「うっ……すまない……ご、ゴミ箱?」


リム=ザップは、あの時、直美たちに逃げられたと思って居たが、初めて、あの時の顛末を聞かされ、角にあったゴミ箱の中に直美たちが、隠れていたことを知り唖然としていた。


「はっはは。最近はリム=ザップの表情が、何となく分かるようになって来たよ」


リム=ザップの頭部や顔は金属で出来ており、表情という物は存在していない。それでも、直美には表情があるように思えていた。


直美たちの乗った車は、振動も物音も立てることなく、豪邸と言っても過言ではない大きな洋館へと辿り着いた。

洋館のエントランスの前に停車した車から降りると、如何にもメイドと思われる女性たちとピシッと執事服を着こなした初老の男性が待っていた。


「セレナお嬢様、お待ちしておりました。よくぞご無事で……」


最後は言葉にならない感じだったが、執事の男性、セバスに連れられて、一行は侯爵家の客室へと案内された。



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