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第四十二話


直美は、戦艦二の後部に接触する寸前で、グリムリーパーをドリフトさせたのだ。


「あゎゎ、くぇらちゅいおぷ!!」


何を言っているのか分からない叫び声が操縦席から聞こえてくる。

エルザが叫びながら、操縦桿にしがみ付いて、まるで戦艦二を避けるように操縦桿を倒しているが操縦権限は艦長席に渡されているので、意味がない行動ではあった。

しかし、実際に操縦している直美にはエルザに声を掛けてあげる余裕は無い。


「リム=ザップ――撃て!!」


ズズン!!


第一、第二主砲が一斉に発射された。それは、戦艦二に対してほぼゼロ距離での発射だった。


防御シールドは粒子砲は防げても、物理的な質量攻撃は防げない。防御シールドの内側まで入り込んだグリムリーパーは、自分の艦首を戦艦二にくっつけるほど接近した状態で主砲を放ったのだ。


「よっしゃ! 逃げるよー」


直美は、そう言うと操縦桿を強く手前に引きバックで逃げ出す。


モニターに映る戦艦二のあちらこちらから火の手が上がっているのが見える。


「わっマズいです! 爆発します!!」 シノと思われる声が艦橋に響き渡るが、正確に誰の声とも判別がつかない。


さすがに、爆発に巻き込まれるとグリムリーパーも無事では済まない。

宇宙空間とは言え、後進するよりも、機能的には前進する方がはるかに早いのは分かっているが、今の時点で超信地旋回している場合では無い。直美も祈るような気持ちで全速後退をする。


戦艦二がついに膨張に耐えきれなくなって、巨大な火の玉となって爆発する。一瞬のうちに広がったエネルギーが再び爆心地に向かって収縮され、再び暴力的な膨張エネルギーとなって辺りに飛び広がっていく。


その様子がモニター越しに見える。グリムリーパーの鼻先に目掛けて高温の青白い炎が衝撃波と共に迫りくる。


「くうおお……」


操縦桿を目一杯引きながら、思わず声が漏れる。


艦内に警告音が流れ、艦長席のモニターに警告表示が現れるが、そんな事は言われなくても分かっている。

実際にはわずかな時間だったはずだが、直美には長い時間に感じられた。戦闘シミュレーションで味わった死の瞬間がまもなく訪れるのは無いかと。


正面のモニターに映る青白い炎が少し遠ざかったように見える。それは、徐々にではあったが、確実に遠のいている。

本当にギリギリではあったかもしれないが、グリムリーパーは、その暴力的な衝撃波から脱出に成功したのだ。


「はぁぁー。まさか一撃だけで、爆発まで行くとは思わなかった……危なかった……みんな、ごめんね。もう少しで巻き込んでしまうところだったよ」


「はぁ、はぁ、はぁ。もうぉ勘弁してくださいよ。本当に死ぬかと思いましたよー」


シノが管制席に抱き着くように倒れ込んで呟いた。


「あえっがぎけで……」エルザの言葉はまだ戻っていないようだ。


横を見ると、副官席のセレナは気を失っているようだ。


「ほんとうに、ごめんなさい……」


直美は、乗組員みんなの命を預かっている。しかも、これほどのリスク追ってまで、戦艦を沈める必要は無かった。つい、沈められた他の海賊たちの顔が、頭に浮かんでしまい行き過ぎた行動となってしまった。


「……でも、みんな……生きている!」


リム=ザップが親指を立てながら、ニカッと笑った。


「まあ、そうですね。確かに戦艦クラスが、まさか軽巡の主砲を喰らったぐらいで轟沈するとは思わないですものね?」


「あのシノ? ……グリムリーパーの主砲は換装していて……大口径の物が……ね」


「あぁ、そうでしたね。あれ? この艦体って軽巡であっているんですか? 攻撃力だけでも重巡クラス?」


「エンジンも……重巡クラス……艦長の魔力は……一人で戦艦クラス」


シノとリム=ザップ、の言葉を聞きながら、このグリムリーパーの異常性が身にしみてわかる。艦体のフレーム構造だけが軽巡で、それ以外は少なくとも重巡クラス。これってとんでもなく、ピーキーな魔改造になっていると直美は、今更ながら思っていた。


「ふふん、今更なに言うてんねん。ワイかて、もともとは戦略指揮艦用に開発されたAIやしな。だから、そこいらのAIサーバごときでは簡単にはバックアップも移植もできんのや」


さらに、この期に及んでオオサカがとんでもない事を言い出した。


「はぁ? なにそれ、私は聞いてないよ!? ……でも、聞いていたとしても、何も変わらないかな?」


「そやろ? ってそれよりも、戦闘は終わって無いんや。気合い入れんと、今度、爆散するのはワイらかもかもしれんで。グリムリーパーもいつまでバックさせるねん」


「おっと、そうだった。アクセルは戻していたけど、慣性航行でバックさせたままだった。このままでは戦場から離脱してしまうね」


直美は、前進用にメインエンジンを吹かせて戦場に進路を戻す。


「シノ、戦況はどうなっている?」


「はい。我々の戦闘で戦艦一、駆逐艦一が撃沈。銀翼の艦隊が、戦艦四、重巡四、駆逐艦六、七を撃沈しています。残りの艦は戦艦三と重巡三です。続いて、被害状況ですが、銀翼の艦隊の駆逐艦三、四が大破、重巡四が小破だけで撃沈はありません」


「へぇー。戦艦四と重巡四を沈めたにしては、思ったより被害は少ないね。オオサカ、この艦の被害状況を教えて、警告表示と警告メッセージはうっとおしいから消しちゃたんだ」


「まあ、そうやろな。ザックリ言うと、戦闘出来る状態や無いで。エンジンは無事やけど、装甲は壊滅状態やし副砲も全滅しとる。第一、第二主砲は生きてはいるけど、熱波を思いっきり受けたから、整備せんで撃つと暴発するかもしれん。外部モニターもほとんど映らんし、レーダーは辛うじて生きとるけど、いつ駄目になってもおかしくない感じや」


オオサカのザックリとした説明を聞いただけでも、このまま戦場に飛び込むのは得策では無い事だけは理解できた。


「ふぅー。やっぱり無理させすぎたか。第三主砲はとっくに無くなっているし、対艦ミサイルも発射不可と……武装も装甲も無しでは、仕方がないか。そもそも、さっきも皆を死なせそうになったことだし、ここはおとなしく見守ることにしよう」


直美が、そう言っている間にも、銀翼の艦隊はダメージを受けた艦体と無傷の艦体とを巧みに配置換えしながら、鋼の獅子艦隊に迫っている事がモニターから見て取れた。


「あ、敵の重巡三が撃沈しました」


シノの報告の後、しばらくすると残りの戦艦三も、他の艦体たちの後を追うように撃沈した。


「敵の殲滅に成功しました。この宙域に……敵対勢力はありません」


シノの声が艦橋内に浸透していく。


「よぉぉし! 勝ったぞ!!」


直美が両手を突き上げ叫んだ。シノとエルザが大きくため息をついたのが分かる。

リム=ザップは大きく頷いている。オオサカのホログラムも躍り上がって喜んでいる。

そんな中、ただ一人、直美の歓声で目を覚ましたセレナだけは副官席で、状況がつかめていないのかキョトンとしていた。


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