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第四話


「オオサカ、どう? これで酸素は何とかなりそう?」


船内に戻った直美はヘルメットだけ外して、オオサカに呼びかけた。


「いや、残念なんやけど、出ている警告表示の二酸化炭素については何とかなるけど、酸素は足りんな。二酸化炭素から炭素を除去して少しはリサイクルできるだけで抜本的な解決にはなってへんのや。とりあえず、一旦回収した機材を修理工房に運んでくれるか、炭素除去装置だけでも修理するわ」


直美は小さなタブレット端末を持ちながら、回収デッキに向かった。そこは小さめの体育館のような倉庫のような空間。その空間の天井部分には大きな開閉式の扉があり、先ほど、直美が船外で回収した機材を入れている時は扉を全開にしていた。

今は、その扉は閉じられ、広いデッキ内に空気を送り込んでいる音が聞こえてくる。


「これって、また、空気の残量が減ったって事?」


直美は、シュウシュウと音を立てているデッキをガラス越しに眺めた。

ガラスの向こうには先ほど他の残骸から回収した機材が網に包まれた状態で積まれ、壁からのびるマニュピレータが網を取り除いて、機材をより分けているのが見えた。


「いや、このデッキも船外ハッチと同じで、扉を開く前に空気を吸い取って、ほぼ真空にしてから扉を開くから、丸々、空気を失ったりしているわけやないんや。そりゃ、一切ロスが無いとは言わんけどな」


直美が持っているタブレットからオオサカの声が流れた。


「ふーん。良かったー。こんなに広い空間の酸素が無くなったのかと心配になったよ」


「はっは、それは大丈夫や。けど、残量が心配なのは変わらんな。今、マニュピレータで取り分けた機材を修理工房の方に運んでくれるか」


タブレットのカメラを機材の方に向けて、オオサカに確認しながら必要な機材を運び出していく。ゆっくりと船内を移動させながら、オオサカが修理工房と言った部屋に運び込んだ。そこには天井から伸びる沢山のマニュピレータがワサワサと動き直美から受け取った機材を運んでいった。その様子は巨大なカニを連想させた。


「よっしゃ、次はグリムリーパーの壊れている炭素除去装置を外しに行こうや」


直美が眺めるタブレット端末の中で、グリムリーパーの構成図が表示される。目的の部分が赤く点滅する。


「ああ、艦橋のすぐ下にあるのね。ここが船体の後ろのほうだから……こっちか」


段々、無重力に慣れて来たのか、直美は船内の廊下をスムーズに飛んでいく。曲がり角が来ると体を反転させて、足で壁に着地して方向を変えた。

しばらく進むと艦橋に上がるための階段が見えてきた。直美は、階段の手すりを掴んで体を止めると、階段の下に向かって腕の力で体を押し出した。


「ふーむ。何だかこの移動方法に慣れてくると、楽だけど足の筋肉が低下しそうね」


「そやな。だから通常は人工重力を使って普通に歩けるようにしているんや、そもそも人間の体は重力がある前提で出来てるからな」


「あはは。そりゃそうか。このままだったら、地上を歩けなくなっちゃうものね。お、着いたよ。オオサカ、この部屋かな? うーん。やっぱり読めない。言葉は通じるけど、文字は日本語じゃないのか、っていうか、そもそも見たこともない文字だね」


その部屋の扉には、何やら象形文字と英文字を合わせたような文字が記載されたプレートがついていた。


「ああ、そうやったな、ねえちゃんは転移してきたものな、他の世界、異世界から来たのかもな。でも文字は読めた方がええな。そのうちワイが教えたるわ」


「そうね。その方が良さそうね。うーーん。何だかバタバタしていたから忘れていたけど、私って、元の世界に戻れないのかな? 元の世界では行方不明になっているのかな。それとも死んじゃったのかな……トラックだったものね。生きていないか――」


「あ、あかん。あかん。まだ振り返ってる場合やないで、このままやったら、酸欠でこっちでも死んでまうで」


オオサカに急かされて、扉を開けると、そこには大きな装置が並んで立っていた。それぞれの装置から太いパイプが船の壁に繋がっている。


「ああ、あの装置、さっきの物に似ているね。あれが炭素除去装置だよね?」


「そう、そう。少し形が違うけど、中身は似たような物やから、部品は流用できるんや。この装置ごと外してさっきのとこまで運んでほしいんや」


「ほい、ほい。さっき宇宙で外したから、やり方はわかるよ」


直美は、装置の電源を止めると、てきぱきと壁に繋がっているパイプを外していき、船体との装置を止めている部分も外していった。


「ほう。慣れるのが早いな。一度外しただけで、もう覚えたんか」


「へっへへ。DIYとか好きなんだ。だからこういうのも結構好きなんだよ」


言葉通り、てきぱきとパイプ類や設備を船体に固定している金具も外して、修理工房へ運んでいく。

修理工房で忙しく動いているマニュピレータに渡すと、スルスルと運ばれて行き、さっそく外装を取り外して部品の交換作業を開始したようだった。


「ほな、三十分ほどで交換作業は出来るから、それまで休憩するか? なんやったら、文字の基礎でも教えよか?」


「うーん。そうね。じゃあ、今のうちに少し文字を教えてもらっておこうかな。たぶん、会話は出来るから読めさえすれば意味は分かりそうな気がするんだ」


――三十分後


「だめだー! 読み方が難しい!! 文字の組み合わせで、読み方が変わるのか……いや、ちょっとローマ字に近いのかな、えぇっと、子音と母音の位置を反転させて母音をちょっと多くする感じかな。これって昔のイとヰの違いみたいなものまであるのかな?? オオサカ、これは何て読むの? ……じゃ、こっちは……うん、違いが判らん!」


「はっはは。読み方は、一緒やけど文字にするときは慣用的に使い分けてるんや。まあ、慣れやから、そのうち何とかなるんちゃうか」


ホログラムのオオサカは呑気にソファーに座ってお茶を飲んでいる。


「まあ、考えてみたら、日本語みたいに漢字と平仮名とカタカナ、更に英語とローマ字と和製英語まで入り乱れた言語よりはシンプルなんだろうけど、慣れるかな。ちょっと心配になって来たよ。あ、そろそろ修理は終わったみたいだよ。ちょっと受け取ってくるよ」


マニュピレータから装置を受け取ると、再び艦橋下の空調室に戻って来た。


「あ、空調室!! なるほど、これで空調室って読むのか。……ではさっそく修理できた装置を取り付けますかね」


オオサカから文字の読み書きを少しを教わって、小部屋の扉に取り付けられたプレートを読むことが出来た。


「なあ、ねえちゃん、アホの子みたいに見えるから人前では、いちいち読み上げん方がええで」


「するか!!」



「さぁて、これで取り付け完了だよ。少しは酸欠までの時間は伸びた?」


「えっとな、四十五時間やな。これでも一番近いコロニーまで、辿り着かんけど、足りない部分は船外服の酸素を使いながら行くしかないな。酸素の生成装置が修理できたらよかったけど、無い物はしゃあない。それで、この後の事やけど、どうするかは、ねえちゃん次第やわ」


オオサカが言うには、このまま宇宙船の墓場で酸素の生成装置の部品を探すか、それとも今ある酸素と最後は船外服の酸素ボンベを使って近くのコロニーに行くかのどちらからしい。前者は当然、見つかる保証も無いので、見つからなかったら後は無い。後者も後者で本当にギリギリのようでまたどこかが故障したら、辿り着けずに、そこで終わる可能性もある。


「墓場はまだ調べていない所もいっぱいあるから、確かに見つかる可能性もあるけど……たどり着ける可能性があるうちに、コロニーに向かう方が無難なのかな……」


直美はしばらく目を瞑った。


「よし、決めた! ここでもう少し探そう。この短時間で炭素除去を見つけたんだから、酸素生成装置も見つかるかも知れない。それに船外服も探して酸素ボンベも手に入れよう」



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