第三十九話
やっぱり、今まで通りのスタイルに戻しました!
直美は、シノの発した、“フェルマント侯爵家”と“セレナ様”という言葉から、味方だろうという察しはついていたが、セレナとの関係が、いまいちピンと来ていない。セレナの名前は、セレナ・ルクシア・ヴァルディスだから苗字が違う。
「セレナの祖父母が統治しているコロニーは“ゴルディア・セントラル”って言っていたから違うだろうし、兄弟の嫁ぎ先とか?」
直美は首を傾げながら、副官席に座っていたセレナに聞いてみた。
「いえ、コロニーの名前は祖父の名前では無いですわよ。祖父の名前は、グレゴール・リュクシアン・フェルマントですの。今、シノが言ったフェルマント侯爵家の“銀翼の艦隊”というのはおじい様の艦隊ですわ」
セレナは嬉しそうに、そして、どっか誇らしげに言った。
「あらま? コロニーの名前と統治者の名前は関係ないのか。じゃあ、本当に味方ってことだなんだね!? 助かった~。今度こそ切り札を使うしか無いかと思ったよ」
「ええ、ええ。味方ですわ! シノ、ちょっと、おじい様と連絡が取りたいので、席を譲ってもらえて?」
セレナはそう言うと、副官席から立ちあがり、シノが座ってい管制席へと移動していった。
セレナがシノに接続コードの入力方法を教わりながら、祖父のフェルマント侯爵と連絡を取る。
「おじい様、聞こえますか? セレナです。セレナ・ルクシア・ヴァルディスです。今、グリムリーパーという軽巡に乗っていますわ」
セレナがフェルマント侯爵に呼びかける声だけが艦橋に流れた。先ほどまで戦闘中であったことを忘れさせるように静まり返る。
その時間は、わずかであったはずだが、直美には無限に長く感じられるほど緊張していた。ここで、セレナの事を拒絶されるようなことになると唯一の望みは絶たれることになるのだ。
「セレナか! 本当にセレナか! ワシじゃ、お前のおじい様、グレゴールだ。無事だったか……良かった、ほんとうに……本当に良かった……」
フェルマント侯爵の大きな声が、スピーカーから流れると、直美は大きく息を吐いた。声の様子からは敵対的な感じはしなかった。祖父が孫を心配している、まさにそんな感じに聞こえた。
「おじい様、私は無事です。しかし今、私たちは、目の前のヴァルクライネ辺境伯の“鋼の獅子”艦隊に襲われて危機的な状況になっています。助けて頂けますか?」
「当たり前だ!! 孫が困っておるのに助けん爺が何処におる! ヴァルクライネ辺境伯ごときが、ワシのかわいい孫に手を出すとは、いい度胸だ。セレナ、ちょっと待っとけよ。今から目の前のゴミを片付けるからな!」
フェルマント侯爵の言葉を聞いて、セレナは嬉しそうに何度もうなずいた。繋いでいる回線は音声通話だけなので、頷いても相手には見えていないが、そんな事はどうでも良いのだろう。
「シノ、フェルマントさんに海賊たちの識別信号を伝えて。オオサカ、フェルマントさんの艦隊にナンバリングをしておいて、それと亜空間魚雷は戻しておいて良いわよ」
「はいよ。……艦長はん、一応教えておくけど、“フェルマントさん”じゃなくって、貴族様なんやから、“フェルマント侯爵閣下”って呼ぶ方がええでって……よう考えたら、もっと上位の皇女様も呼び捨てにしてたわ……ほんま、艦長はんって無敵やな」
オオサカはそう言いながらも、フェルマント侯爵の艦隊、“銀翼の艦隊”の艦体に番号をつけてモニターに表示した。陣形は攻撃型の鋒矢の陣。旗艦は空母となっていた。
「ねぇ、空母って……宇宙空間で空母なんてあるの? 戦闘シミュレーションでは出てきたことなかったよね??」
直美は、正面のモニターに表示された銀翼の艦体の最後尾にいる“空母アウレリア・セラフィム”の文字に読み間違えしているのかと心配になりながらオオサカに聞いてみた。
「そうやな、ワイが全盛期の頃には、ほとんどなかったから、シミュレーションでも出て来てないかもな。だから、ワイも空母の事は良く分からんのや。まあ、そういう意味では、艦長はんにとって、戦いにくい相手やから、今回は味方で良かったわ。」
「えぇ、そうなの!? 帝国軍に居たらマズかったね。でも、そうなんだ。空母って居るんだね。リム=ザップやシノは帝国軍にいるかどうか知ってる?」
「えっ!? 私は分かりませんね。私が帝国軍をやっていたのはわずかな期間で……ほとんど、辺境の地で新兵の訓練を受けていただけなので」
シノが申し訳なさそうに言った。
「あ、そうか。そういえば、十年ほど前の話になるんだっけ。シノって歳いくつなの?」
直美は、シノの年齢を聞いたことが無かった。しかもシノは猫族の獣人と呼ばれる種族の為、見た目だけで年齢を予想するのが難しいのだ。
「ああ、私は二十四歳ですよ。だから、十四歳のころに軍に入隊して訓練中に帝国の事変が起きてしまったのです。その後はバロックさんやリム=ザップさんと一緒に運送業をやったり、海賊まがいの事をやってました」
そんなに年上だったのかと驚いていたが、今更、敬語を使うのも変な感じがするので、自分で聞いておきながら、年齢の事はスルーして話を続けることにした。
「ん? 運送業??」
「はい。初めはコロニー間の物資の運搬を請け負って運送屋さんをしていたのですよ。それが、数年前に帝国軍がルミナスチャートを提示するように言ってきたので拒否したら、運送業の免許を取り消されてしまって……」
「ああ、なるほど。それで海賊になったのね」
「艦長はん、今はそんな呑気に昔話しとる場合や無いで、幸い、帝国軍も止まっとるんやから、今のうちに、ワイらも包囲網から脱出した方がええんとちゃうか!?」
オオサカの言葉に直美は現状を思い出した。
「おっと、そうだった。今のうちにバロックも連れて、フェルマント侯爵閣下の後ろに逃げ込もう! あっ、アンヌさんたちは大丈夫そう?」
「はい、アンヌさんとジェンガ―さんたちは、ゆっくりと帝国軍たちから距離を取りだしています。そうだ、侯爵閣下が味方だって伝えていないから、帝国軍の援軍が来たと思っているのかも知れませんね。連絡してあげないと……あっ、空間異常がぁ……すみません。アンヌさんたち、ワープして逃げてしまいました」
シノがアンヌたちと連絡を取ろうと、セレナと席を変わっている間にレッド・レクイエムとブラッディ・ローレライの二隻はワープしてしまったようだ。
「ありゃ、何だか二人には心配かけちゃったかもな。仕方がない。とりえず……バロック、カシア、聞こえる。おっと、バロックは回線が切れていた。シノ、バロックに映像付き回線を繋いで……ありがとう。さて、バロック、カシア聞こえる?」
「ああ、大丈夫だ。聞こえるぞ。あの艦隊、セレナ様の祖父フェルマント侯爵の銀翼の艦隊だな。って事は助かったのか!?」
何故か、バロックは少し照れくさそうに、モニターの向こうで赤毛の頭を掻いている。カシアは胃の痛みが酷くなっているのか、お腹を抑えながら青白い顔をしている。
戦闘が落ち着いたら、エルザに診て貰おうと直美は思いながらも会話を続けた。
「ええ、そうよ。それで、侯爵閣下の艦隊の後ろに逃げ込むから、二人とも私の後に付いて来て。隊列の殿はグレムリンで、アビスを間に挟んでいくよ」
「はい、その方が良さそうですね。バロック艦長は、後ろは気にせずに、左右の防御シールドだけ注意してください」
カシアがバロックの事を気遣いながら言った。
「へいへい。なんだか、介護が必要な老人になったような気分だが、おとなしく、二人のお世話になりますよ」
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