第二十六話
辺り一面には小さな氷の塊が飛び交い渦巻いている。直美たちはそんな渦の中心部とも言える場所にワープアウトしてきた。
直美が、バロックから前哨基地の事を聞いたとき、台風の目をイメージしたのも、その特徴的な渦の影響だろう。とはいえ、台風の目に位置するその場所は、海賊たちがアジトにするだけの事はあって、それなりの広さはある。
戦艦二隻、巡洋艦三隻、駆逐艦七隻、揚陸艦一隻を相手に戦いが始まった。
「進路、右舷三十二度、仰角八度! 最大戦速のまま突撃! 右舷側に防御シールド展開!」
開始早々、自分の艦を基準にして、右舷に位置する駆逐艦に攻撃を仕掛ける。敵の配置は戦艦二隻を縦に並べ、その前と左右に巡洋艦、それらを囲うように駆逐艦が配置されている。形的には魚鱗の陣形と言えるだろう。
グリムリーパーの右舷側に位置する敵に向かって斜めに突き進む。
ドォン! ドォン! ドォン!
リム=ザップが駆逐艦目掛けて連続して主砲を放つ。
「……ミサイル発射」
ボソリとリム=ザップの声がしたと思うと艦体をズンといった振動が三度響き渡った。
しかし、相手もおとなしく撃たれるつもりは無いようで、巡洋艦と戦艦からの砲撃が光の奔流がグリムリーパーに向かってくる。
「おりゃぁ!」
直美が掛け声と共に操縦桿をひねり倒す。グリムリーパーの細い船体が光線の隙間を戦闘機のように捩じり込んでいく。戦闘シミュレーションで百六十八時間も、ぶっ続けで戦い続けて培った操縦技術は、ここでも活かされる。
艦長席のモニターが外部の様子を映し出し、状況を知らせてくる。
グリムリーパーから放たれた対艦ミサイルを巡洋艦たちが迎撃している隙に、駆逐艦二を目掛けて主砲を放つ。
しかし、グリムリーパーが放った粒子砲は駆逐艦の防御シールドに阻まれた。シールドによって弾かれ、赤い光の束となって周囲に拡散されていく。
「駄目だ……防御シールドに……阻まれた」
お互いの奇襲は失敗したようだが、直美は気にしていなかった。まずは敵の初手を躱すことを優先していたからだ。
「そのまま、時計回りで背後に向かうので、右舷方向の駆逐艦に砲撃!」
直美は、リム=ザップに指示を飛ばす。
「敵艦隊も、こちらに合わせて転回中!」
シノが敵の動きを知らせてくる。
「艦隊で動いているなら、単体のこちらの方が速い。集中砲火を受けないように動き続けるよ。駆逐艦一に第一、第二で斉射!」
ドドォン!
リム=ザップが直美の言葉に反応して、グリムリーパーの前方に取り付けられている主砲の一斉射撃をする。
「駆逐艦一、被弾! 船足止まります。戦艦一および二から高エネルギー反応!! 砲撃来ます!」
ドガァン! という振動が艦体を揺らす。
「オオサカ! 被害状況!」
「大丈夫や全然問題ないで! 防御シールドをちょっと掠っただけや」
戦艦クラスの砲撃は軽巡クラスとは雲泥の差がある。わずかに掠っただけでも破壊されそうな気がする。
「オオサカ、対艦ミサイル一にチャフ搭載。ミサイル三発の発射準備。戦艦の目を潰すよ。防御シールドは天上に展開。リム=ザップ、全主砲及び副砲を天上方向に」
そう言うと、直美は操縦桿を引き起こしながら、捩じることで上下反転させる。敵から見ると背面飛行の状態となる。そのグリムリーパーを目掛けて帝国軍の艦隊からも砲撃が飛んでくる。直美は操縦桿を小刻みに動かして出来るだけ直撃を避ける。
それでも何発かの砲撃が防御シールドを叩き光の束をまき散らす。グリムリーパーは常に艦体を小突かれるような振動を受けながら戦艦一の直上を取る。
「リム=ザップ、全砲各個射撃! オオサカ、ミサイル三発、戦艦一に向かって――撃て!」
グリムリーパーは背面飛行のまま、その背はハリネズミのように主砲、副砲問わず光の矢となって帝国艦隊に降り注ぐ。それが艦隊を横断しているあいだ続くのだ。
「はっはは、これは艦長はんぐらいしか出来んやろな。こんなに魔力を一斉放出したら、普通はぶっ倒れるで」
「うっぷ。き、気持ち悪ーい。えっと、駆逐艦一、七、撃沈。戦艦一小破、巡洋艦二小破」
猫族特有の反射神経と身体能力をもってしても目が回りそうになりながら、シノが必死に戦果報告を読み上げた。
直美は帝国軍の上を通り過ぎてた後、グリムリーパーを急降下させて、そのまま下に回り込むと、そこから急速反転して再び上昇へと切り替えて行く。そしてその進行方向には、ダークグリーンに彩られた揚陸艦、グレムリンの姿があった。
「全主砲左舷に! 防御シールド左舷!」
直美の言葉と同時にグレムリンも動き出していた。グレムリンは腹方向から突き上げるように迫って来るグリムリーパーに対して、火力を集中させるために左舷を下に横転を始める。
「でかい図体をして、判断が遅い!」
グレムリンが横倒しになる前に、既にグリムリーパーはグレムリンに迫っていた。その姿は横倒しのグレムリンの天上部を横切る形となる。
「全主砲一斉射撃――撃て!!」
グレムリンは左舷を下にして、防御シールドも左舷に集中させていた。それに対し、グリムリーパーはグレムリン左舷には攻撃をせずに横切り、グレムリンの直上部に斉射をくわえたのだ。
グレムリンとしては、帝国艦隊の背後で安全に戦況を見守っているつもりだった。それが、まさか帝国艦隊に一撃を喰らわせたうえ、自分たちに向かって来るとは思ってもいなかったのだろう。その油断が、咄嗟の行動に遅れをとってしまったのだ。
グレムリンは、至近距離で、しかも防御シールドも被弾面に集中させていない状態で一斉射撃を浴びてしまった。あちらこちらから火の手が上がり、火花を散らしながら大ダメージを受けて完全に動きは止まってしまった。耐久性は高いだけあって、撃沈こそはしなかったが、とても動ける状態ではない。
「残り、無傷の戦艦一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦五隻、小破戦艦一隻、巡洋艦一隻。あ、敵の陣形が崩れます……これは包囲戦……駆逐艦を前面にした鶴翼ですかね」
シノが監視レーダーにしがみ付くような体制のまま、敵の動きから予測する。
「陣形の変更は、こんなに目の前でやるべきではないよね。今のうちに大物を落とします! オオサカ亜空間魚雷六発準備! チャフミサイルを三発準備」
直美は、オオサカに対艦ミサイルにチャフと呼ばれる電波障害などを引きを超す素材や、ありもしない艦影をレーダーに映し出す欺瞞データを詰め合わせたものを弾薬の代わりに詰めたミサイルを用意させた。これも、以前に使ってから、一定数を修理工房で作成しているのですぐに用意が可能なのだ。
「よっっしゃ! いよいよ、亜空間魚雷の出番か! 目標はどれに、かましたる?」
「左舷方向から戦艦一に対して魚雷一から三番、戦艦二に対して四番から六番を狭角発射で準備。対艦ミサイルは戦艦一に一発、戦艦二に二発。リム=ザップ、右舷の駆逐艦たちに牽制射撃! 駆逐艦の間を抜けるよ!」
直美は再びアクセルペダルを踏み込むと速度を上げて、鶴翼の陣を形成しようとしている帝国艦隊の向かって右側に突っ込んで行く。
リム=ザップが主砲を使って右舷の駆逐艦の動きを牽制する。駆逐艦からも反撃を受け、お互いの防御シールドに幾重もの光の束が飛び散り、あたり一面を赤く染めて行く。グリムリーパーは、激しい砲撃を繰り返しながらも、駆逐艦五、六の間を突破するように最大戦速で駆け抜ける。
「オオサカ、対艦ミサイル一発射! 亜空間魚雷発射一から三、よぉーい ――撃てっ!」
主砲の発射音に紛れ込むように、対艦ミサイルを発射する音と、亜空間魚雷を発射するポンという軽い音が聞こえる。
「次、対艦ミサイル二と三発射! 亜空間魚雷三から六、よぉーい ――撃てっ!」




