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第二十五話


罠がある可能性が高い前哨基地に行かないといけないという直美の沈んだ心とは裏腹に、グリムリーパーの出航準備は無事整った。


「直美……準備は出来た……そろそろ……ジラールと合流」


リム=ザップが出航を促す。


「うん、そうね。それじゃ、メインエンジン始動シーケンス開始!」


艦長席のパネルに光がともる。艦橋内の照明とメインモニターが外部の様子を映し出す。


「各種レーダー異常なし」


シノの声が管制席から聞こえる。


「オオサカ、エンジンの調子はどう? 問題はない?」


「全く問題なしや! 絶好調や。いつでも行けるで」


「それでは、グリムリーパー発進! 巡航速度で約二千キロまで直進」


グリムリーパーは簡易ドックの気密ゲートを抜けて、再び宇宙空間へと出ていた。


「ところで、バロック。本当に良かったの? 二人を私に付けてくれて」


「なーに。これも本人たちの希望だからな。良い指揮官は部下の意向もちゃんと聞くもんだ。それに何が起きるか分からんからな。この二人は白兵戦も出来るからお前の身を守るぐらいできるさ」


モニター越しにバロックはニヤリと笑った。


「ふっ。艦長は自分が行くと言って最後までゴネていましたがね」


「シノ。お前、な、何を言ってんだ。俺はただ、他の海賊と連携なんぞ、不慣れな直美だけではと思ってだな――」


「はいはい。それでは通信を切りますねー」


バロックが反論しようとしているところをシノは無情にも回線を切断してしまった。


「ん? バロックはこっちに来たがっていたの?」


直美が艦長席から管制席に座っているシノに聞いた。


「ええ、そうですよ。まったく素直ではありませんからね。直美さんが心配だったんだと思いますよ」


シノの言葉を聞いても、しばらく直美は首を傾げていたが、気を取り直してジラールの揚陸艦グレムリンが補足できるか確認をした。


「見えました。識別信号も問題ないですね。グレムリンです。接触予定時間を艦長席に転送します」


シノは管制席をクルっと回して、艦長席を見上げた。艦長席は艦橋の中でも一段高い位置にあり、艦橋全体を見渡しやすいようになっている。艦長席の正面には誰も座っていないが操縦席があり、右にはレーダーや通信を担当する管制席。左には火器制御を行う射撃席。


『よお、新米。ビビッて来ないかと思ったぞ。今日はおもり役は居ないから、俺の足は引っ張らずに、ちゃんと指示に従えよ』


さっそく、ジラールから秘匿回線で通信が届いた。


「なんなのよ。こいつは、偉そうに。別に上官でもないんだから、あんたに指示される謂れはないよ」


直美はブツブツと文句を言いながらも返事をしないわけにもいかないので、マイクを握った。


『グリムリーパーからグレムリン。せーんぱいっ。しっかりと道案内をしてくださいね』


「プッ、彼らは道案内扱いですか。直美さんの煽りは相変わらずですね。初めて聞いた時、アビスのブリッジスタッフは全員で唖然としましたからね。きっとグレムリンでも同じことが起きていると思いますよ」


「そおぉ? だって失礼な奴に、私は、まじめに答える気は無いよ」


グレムリンからの通信は、それっきり止まった。沈黙のまま合流地点に到着すると、グレムリンから一方的に現在地から目的地に向かうルートに絞ったルミナスチャートが送られてきた。


「オオサカ、このルミナスチャートを分析して、こっちの持っている情報で確認しておいて。あと、これとは違う脱出ルートの選定もしておいてね」


「はいよー……グレムリンからのチャートは、こっちで持っているのと同じやから大丈夫やったで。……あと、行き道と違う脱出ルートは三本作れたからシノはんにも送っとくわ」


「えっ。前哨基地のルートは残り二本のはずですが……なるほど、ヴァルディス帝国が持っていたルミナスチャートですか、そうなると軍事行動用のルートなのでしょうね」


シノが納得した表情で頷く。以前、セレナの持っていたペンダントから読み取ったヴァルディス帝国のルミナスチャートを、ちゃっかりとグリムリーパーに反映しておいたのだ。


「やっぱり、ジラールは一本のルートしか送って来なかったか」


直美は小さくつぶやいた。



「まもなくジラールが送って来た長距離ワープのポイントに到着します……あ、グレムリンがワープしました」


管制席のシノからの直美に声かかった。


「さぁて、私は罠に飛び込みますか。それと、念のためグレムリンも仮想敵とします! 変な動きをしたら迷うことなく撃沈すること」


直美は艦長席からリム=ザップ、シノの顔を順番に見て行った。グレムリンについては確証は無いが、二人からも異論は無かった。

セレナの乗っていた戦艦が護衛艦から攻撃されたことを聞いて、オオサカからも、宇宙で知らない船には常に注意することも聞いていた直美からすると、ジラールは知らない人に限りなく近い存在だ。散々な目にあった戦闘シミュレーションでも、同じようなシーンがあった。

直美にとって、油断も信用も出来るような点は何もない。


「それじゃ、リム=ザップ。戦闘準備! 第一主砲を右舷九十、第二主砲を左舷九十。共に仰角ゼロ。第三主砲は百八十、仰角ゼロ。対艦ミサイル発射準備。副砲は自動迎撃準備。正面最大防御シールド展開!」


直美はワープする前から戦闘態勢をとっておく。


「オオサカ、ワープアウト直後に最大戦速にするから準備しておいてよ」


直美はゆっくりと操縦桿を動かしワープポイントに移動していく。それでも、指定してされた地点よりも、少し手前。


「シノ、長距離ワープをお願いします」


「はい。長距離ワープ始動します。三、二、一。ワープ!」



「ワープアウトします。三、二、――」


ビィィ―、ビィィ―。


ワープアウトする直前から接近警報が鳴り響く。


「オオサカ! 最大戦速!」


直美はワープアウトのカウントダウンが最後の一を言い切る前に、最大速度で操縦桿を右下に倒すとフットペダルも右を強く踏み込み、艦体を大きく傾け左舷を上に向けて天下方向滑り落とす。


「全方位に帝国軍を確認! 対艦ミサイル八! 左舷側から来ます」


「リム=ザップ! 第二主砲と副砲で迎撃!」


シノが発したミサイルが来るという声をかき消すように、直美がリム=ザップに指示を出す。

直美の指示を聞いたリム=ザップも迷うことなく砲撃を開始した。

グリムリーパーの前方に取り付けられた第二主砲が唸りを上げて粒子砲を放った。圧縮粒子の奔流が接近してくる対艦ミサイルを捕らえる。

近距離でミサイルが爆発した影響で衝撃波がグリムリーパーの艦体を振動させる。


「対艦ミサイル迎撃に成功! 帝国軍です。戦艦二、巡洋艦三、駆逐艦七、グレムリンの揚陸艦一です」


「了解! はぁ、やっぱり黒だったか。これよりグレムリンは仮想ではなく敵艦とみなします。シノ、バロックか他の海賊に通信できる?」


「出来ません。広域ジャミングがかっています」


「まあ、そうなるわな。しゃないで、あとで、ゴタゴタ言われんように、ここの戦闘ログは外部モニターの画像付きでしっかり残しとくから安心して」


直美はシノやオオサカと会話しながらも軌道にひねりを加えて、砲撃を避けながら戦艦や巡洋艦の前に並んでいる駆逐艦目掛けて近づいていく。


「よっしゃ全員の背番号付け終わったで」


「リム=ザップ、砲撃で右舷にいる駆逐艦二から削っていくよ。すれ違いざまに対艦ミサイル三発を巡洋艦一に打ち込んでね」


直美はそう言うと操縦艦を横に少し傾ける。リム=ザップも第一、第二、第三主砲、更には後方の第三主砲も右舷に回転させ、ミサイルの発射パネルも準備を整えた。


「進路、右舷三十二度、仰角八度! 最大戦速のまま突撃! 右舷側に防御シールド展開!」



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