第二十四話
直美の小さな呟きに、皆の視線が向く。
「あーピケット艦というはだな。周りの状況や、敵の体制を見るために偵察する――」
「バロック、ちょっと待ちな」
横にいたバロックがピケット艦の役割について、直美に説明しようとしたが、そこに、アンヌが口を挟んだ。
「直美、何か気になるのかい? くだらん事でも良いから言ってみな」
アンヌは、まるで怯える子供から何かを聞き出すように、優しく声を掛けてきた。
「はい。えっと……ピケット艦を出す意味が分からないのです」
「ん? どうゆう意味だ? ピケットを出すのは艦隊を進めるには必要な手筈だ。情報も無しで迂闊な事をすると大事故になる」
バロックが直美に聞くが、直美は首を横に振った。
「先ほど話にあったアンガーシアという人が捕まって、ルミナスチャートを解析されたのであれば、帝国軍は一気に攻めるべきだと思うのです。わざわざ索敵艦を出して我々に警戒されるような事をするメリットがありません。それじゃ、まるで今から行くから、逃げてくださいって言っているようなものです」
直美は新人と紹介されたことを良いことに、素人丸出しの話かもしれないが、気になったことを素直に言ってみることにした。
「ほう、それじゃあ、お前は私の情報が誤っているとでも? 新参者が知ったような口を聞くなよ。これで帝国軍が攻めてきたら、お前はどう責任を取るつもりだ?」
ジラールが腰を浮かせて、噛みつくように直美に言い放った。
「まあ待てジラール。何も直美は、お前の情報が誤っているとは言っておらん。他にも何か隠れた意図があるのではと言っているのだ」
ジェンガ―がジラールを抑えるように言った。ジラールは、まだ納得できない様子で、渋々ではあったが腰をおろした。
「それで、直美はどうするのが良いと思って居るのかい? 私たちもジラールの言う通り、何もせずに、楽観的に構えておくわけには行かない。最悪を想定して行動を執らないと命に係わるんだ」
アンヌが直美に先を促す。直美はしばらく考えをまとめて、ゆっくりと話し出した。
「現状分かっている事から、考えられるのは、まず、帝国軍はアンガーシアを捕らえたが、ルミナスチャートは入手出来なかった。しかし、おおよその場所は分かっているからピケット艦を出してルートの確定を行っているですね。ただし、この場合、海賊たちに逃げられる可能性が高く、帝国軍としても無駄足になる可能性が高い」
ここで一旦話を区切る。周りの反応を見て、自分の考え方と、海賊たちの考え方に齟齬が無いのか確認したのだ。
「次に考えられるのは、帝国軍は正確にルミナスチャートを入手できたが、一気に攻め込むには何らかの問題があって、やりたくない場合だと思います。このやりたくない理由は私よりも皆さんの方が思いつくかもしれませんが、例えば一気に攻め込んでも逃げられる可能性があるとか、ここで戦うには不都合があって、別の場所に追い込みたいとか? そう考えると、理由はとにかく、帝国軍は我々をここから追い出して、どこかで待ち伏せして、一網打尽を狙っているのではと思ったのです」
直美が話し終えても、誰も口を開くものは居なかった。直美は、皆の顔をキョロキョロと見渡したが、各自が目の前の机の一点や自分の手元を見ているだけで身動き一つしない。
これは余計な事を言ってしまったのだろうかと、心臓が早鐘のように打ち鳴らされ、宇宙空間に一人で漂っているかのような漠然とした不安感が押し寄せてくる。
「こりゃ、とんだ新人だな。なるほどデスカリオンを相手に喧嘩出来るだけの事はある」
静まり返った空間を打ち破るように、髭面のカーシリスがため息交じりに言った。
「ふむ、こりゃワシらも引退を考えんといかんかもな。しかし、どうやって我々を特定の場所に追い込むつもりだ?」
ジェンガ―がブツブツと呟くように言いながらも、目は楽しそうに直美を見ていた。
「あのー、皆さんは、ここが危ないとなったら、第二のアジトのような場所があるのですか?」
直美が全体を見渡しながら聞く。
「ああ、そりゃあるぞ。補給などは出来んが、一時的に隠れるには良い場所がな。それが先ほどジラールが言ったが、小惑星帯にある旧型前哨基地だ。そうなると、お前さんは、その前哨基地には帝国軍が待ち構えているという言っているのだな」
浅黒い漁師のようなローランドが、直美の質問に答えてくれた。
その後、話し合いで、前哨基地に帝国が待ち構えているのか確認することは決定された。次に話題は、誰が確認しに行くかだったが、これは話を言い出したジラールと、前哨基地に帝国が待ち構えているかも知れないと言い出した直美が行くことになってしまった。
途中で、バロックも一緒に行くと言いそうになったので、それは直美が止めた。罠かも知れない所に、セレナを乗せたアビスまで連れて行くのは危険だと思ったのだ。
出航は三日後、それまでの間に補給物資の積み込みと、グリムリーパーの修理を終わらせる必要がある。
直美たちは簡易ドックに戻てくると、さっそく直美はオオサカとセレナ相手に愚痴っていた。
「はぁぁ、なんで私が行かないといけないのやら。罠の可能性が高いって言った本人が行く羽目になるなんて」
「まあ、しゃあないな。それに皇女ちゃんを連れて行くわけには行かんし、他の者に預けるのも信用出来んからな。皇女ちゃんをグリムリーパーに
移動してもらって、バロックに行かせるっちゅう手もあるけど、それも話の流れ的に変やしな」
「ごめんなさいね。私は全然行ってもよろしいのですが、私が付いて行っても役には立たないし、むしろ捕まったら直美たちの足手まといになるだけですわ」
「セレナは良いのよ。私やバロックが守るのは当たり前のことだから。うーん。仕方がない出来るだけ準備して行くしかないか。はぁぁ、嫌な予感しか、しないんだけどなぁ」
こうして、三日間、直美とアビスのメンバーで、みっちりと修理に精を出してグリムリーパーを万全の状態に仕上げて行った。




