第二十三話
翌日から購入した商品が届き、次々と修理作業を行っていった。
直美は、今日も朝からエンジンと魔導タンクとの接続を行おうと思って居たところ、急にバロックに連れ出されてしまった。
直美と、バロックはコロニーに中心部に向かって歩いていた。
コロニーの外観は穴だらけで破棄されているように見えるが、一部の中心部分は人工重力を含めて、まともに動いていた。直美は、久しぶりに重力を感じながら、自分の足で歩いていた。
「それで、バロック、今日はいったい何の用なの?」
「これから、海賊船の船長同士の会合があってな。どうもキナ臭い話になりそうだから、お前も参加してくれ」
「えぇ! 海賊たちの話なんでしょ? なんで、そこに私が参加するのよ。完全に部外者じゃない」
直美は困惑した表情を受けべながら、バロックを見上げた。直美はバロックが並んで歩くと、バロックの胸のあたり直美の頭が来る。その為、どうしても見上げるような形になるのだ。
「うーん。それが、完全に部外者って訳にも行かないようでな。帝国軍の奴らが何か本腰をあげて海賊狩りを始めたようなんだ」
「あ、それって、やっぱりグリムリーパーを探しているってことだよね」
「ああ、正確にはセレナ様が乗っているグリムリーパーをさらった海賊を探しているんだろうな」
「むむむ。そうか……それなら無関係って訳にもいかないけど、私みたいな小娘が出てもいい会合なの?」
「そりゃ、海賊に年齢は関係ない無いからな。だから直美も海賊だって顔しておけば問題ねぇよ」
「あ、やっぱり海賊って扱いは確定なんだね」
直美は、小さくため息をついて、立場については諦めることにした。
一応はグリムリーパーの艦長ではあるが、それだけで、何をやっているのかと言うと、何も言える物が無い。“何々屋の直美”とか言えれば良いが、今の自分は何者だって言えるような立場は持っていない事に気がついた。
直美が悩んでいるうちに、目的の場所についてしまった。
そこは古びた小さな建物で、直美には公民館などの公共施設を思い浮かべるような、元は白塗りされていたと思われるコンクリート製の建物だった。
建物内は飾りもなく、そっけない感じがする。照明もどこか薄暗く細い廊下と二階に上がる階段が見えた。バロックは迷うことなく、二階に上がっていく。直美もここまで来て立ち止まっているわけにもいかないので、急いで付いていく。
さほど大きくも無い両開きの扉を開けると、長いテーブルがロの字形に並べられており、そこには五人の男性と一人の女性が座っていた。
直美は、なるべく不躾にならない程度に全員の顔を見渡した。
「なんだ!? バロックよ。人さらいかでもしたのか? やめとけって、そんなもん儲からんぞ」
扉の近くに座っていた髭面の男が直美の顔を見ながら言った。
「バーカ、ちげぇよ。こいつは新米だ。今は訳あって、面倒を見ているだけだ」
バロックが反論するが、すぐに別の所からも声が上がる。
「おいおい。こんな所に子供を連れてくるなよ。なぁお嬢ちゃん、家に帰っておままごとでもしときな」
直美がそっちを見ると、浅黒い漁師のおじさんって感じの風貌であったが、その細い目は笑っていない。
「うるさい爺どもだな。いつからここは年齢制限が必要になったんだ? 大体、こいつは、お前たちがビビってる第一天宙艦隊を相手に大立ち回りしてデスカリオンを中破したんだぞ。てめえらの方がおままごとしてた方が良いんじゃねえか?」
「な、なんだと。あの超大型戦艦を中破しただと。てめぇ、吹かしてんじゃねぇぞ」
髭面の男が立ち上がり、バロックの胸元を掴んだ。
「やめとけ、カーシリス。お前、ケツに穴開けられるぞ。……なるほど。確かに度胸はありそうだね。それじゃ、新入りさん名乗りな」
唯一の女性が髭面の男を睨みつけながら言った。
カーシリスと呼ばれた髭面がギョッとして後ろを振り向くと、そこには、レーザーガンを構えた直美が立っていた。
「は、はい。グリムリーパーという軽巡の艦長をしている直美です。よろしくお願いします」
直美が銃を戻して頭を下げると、髭面の男はつまらなさそうに、バロックを離して席についてた。
「それで、あのデスカリオンを中破したってのは、本当かね」
漁師のような男が、タバコを咥えながら、直美に話しかけた。
「はい。超大型戦艦一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦七隻の艦隊でした。超大型戦艦デスカリオンにはユーグって人が乗っていました。駆逐艦二隻撃沈、巡洋艦一隻大破、駆逐艦一隻小破したのですが、しつこく追ってきたので、最後にデスカリオンに小惑星をぶっつけてやりました」
「それをお前さんの軽巡一隻でやったのかい? バロック本当か?」
漁師のような男が片方の眉だけを器用に上げてバロックを見上げた。
「ああ、間違いない。俺が行った時には、既にデスカリオンの横っ腹に小惑星が突き刺さって火吹いていたからな。その後、戦闘ログも見せて貰ったから他の戦果も間違いない。こいつの軽巡一隻だけで帝国軍をひっかきまわしたみたいだ」
「ははっ、そいつは良いね。しつこい男は嫌われるのは、何処でも一緒さね」
おとなしく話を聞いていた、女性の海賊も満足したように笑った。
「ガハハッ、あのクソ偉そうなデカブツに一泡吹かせたか! ワシも若かったら参戦したかったの。さぁって新人の自己紹介も済んだところで、二人とも座ってくれ、新人だけ自己紹介させておくのも何だから、簡単に名前だけ言っておくぞ、ワシの名はジェンガ―だ。隣のおばさんはアンヌ。その隣のキザっぽいのはルクレール。こっちの黒い奴はローランド。その隣の狐目の奴はジラール、髭男はカーシリスだ」
好々爺風の人、ジェンガ―が愉快そうに笑いながら、全員を紹介してくれて会議を進行し始めた。
隣で、おばさん呼ばわりされたアンヌがジェンガ―の事を睨んでいるけど、それを無視したまま進める。
ジェンガ―が目でジラールに合図を送った。今回の議題はジラールという人が持ち込んだ内容のようだ。
「今回、集まってもらったのは、アンガーシアの件だ。皆さんも情報は聞いていると思いますが、こぐま座矮小星雲の近郊で帝国軍と戦闘があった事は、近くを通った輸送船団の情報から掴んでいる。しかし、その後の消息が分からない。撃沈されたのなら、残骸があるはずだが、それも無いそうだ。残骸目当てで向かったジャンク回収業者からの情報だ。その事から、アンガーシアは帝国軍に捕獲されたと推察される」
そう言うと、ジラールは、自分の言った言葉が浸透したのか確認するように皆の顔を眺めた。
「その後、帝国軍は、このコロニー《アジト》方面に向かって索敵艦《ピケット艦》まで出して来た。これは奴のルミナスチャートが漏れたという事だ。このままでは、このアジトが見つかるのも時間の問題だ。俺は、すぐにでも前哨基地に逃げるべきだと思っているが、念のため、皆さんの今後の動向を確認したい」
ジラールは、自分の言いたいことは言い切ったと席に着いた。
「えっ、ピケット艦?」
直美は、ボソッと呟いたつもりだったが、意外にも、その声に皆の視線が集まってしまった。




