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第二話


「それで、私は本当に転生してしまったのかな? なんか自覚も無いし、アニメにあるような神様的な人にもあっていないし……これは夢とか? 目が覚めたら病院のベットの上とか??」


直美は未だ、自分の環境に納得がいかなかった。


「うん。残念やけど、これが現実や。それで転生やなくって、転移な。たぶん見た目とかも変わってないし、魔力もガッツリあるから生まれたてって訳でもないやろう。そやから、そのまま移動してきた感じやな」


「見た目か……うーん。そうね。たぶん変わってなさそう。あ、そうそう。その魔力ってのは? ここって宇宙でしょう。という事は科学の世界って感じがするのに、そこに魔力ってのが良く分からないのよね」


直美は、操縦桿を握ったまま、ガラスパネルが反射して映る自分の顔を眺めた。


「魔力ってのは、生き物に備わっている生命力に近い物や。それは鍛錬でも多少は増やせれるけど、基本は生まれ持ったものやな。今から二千五百年ほど前に発見されて、それを単純なエネルギーに変換できる装置が生まれた。それを魔導エンジンと呼ぶんや。この魔導エンジンが発明されて人は宇宙への進出が始まったんや」


オオサカは、それから人類が宇宙へと出るようになり、宇宙空間にコロニーと呼ばれる居住空間を作り、コロニーごとに自治政府が立ち上がっていく歴史を話した。しかし、宇宙への進出してからも人は、争いを忘れはしなかった。


「当時は『より遠くへ、もっと遠くに』をモットーに銀河系のあちらこちらに進出し、各地にコロニーを建設していった。けどな、コロニーを建築するにしても資源が必要になるわけやな。そうなると資源をめぐって諍いが始まった。これが星間戦争となったんや。星間戦争は百年ほど続き、人々も疲弊していった。そこで出来たのがヴァルディス銀河帝国っちゅう訳や。この帝国が星間戦争を勝ち抜き、銀河系内を

統治したんや」


「ふーん。それじゃあ今は戦争も収まって、その銀河帝国が全体を治めているのね」


「まあ、そんな感じや。ただ、ワイもここで百年ほど漂ってたから、最新情報は知らんけ、まぁ心配せんでもええ。ワイとねえちゃんやったら、なんとかなるやろ。とりあえず船も、当分は大丈夫やな」


「えぇ! 変なフラグ立てないでよ~」


ビィィ―、ビィィ―。


二人の会話を遮るように、けたたましい警告音が艦内に鳴り響いた。それと共に、操縦席の端末に表示された赤い警告ウィンドウを見て直美は言葉を失った。


≪メインエンジン 【停止】≫

≪主電源     【低下】≫

≪酸素濃度    【低下】≫

≪二酸化炭素濃度 【上昇】≫

≪人工重力炉   【停止】≫


どれも、これも危険な香りがする文字が光り輝いている。


「ねぇ……ちょっと、“当分は大丈夫”って言わなかった?」


「いやぁ~……ワイ、そんなん言うたっけ?」


「もぉーさっそくフラグ回収しないでよ。それより……これ。なんか不味くない? 嫌な文字が並んでいるみたいだけど」


「はっはは。ねえちゃん。ほんまについて無いな。マジで壊れ始めたみたいや。百年もったんやけど、ちょっと無茶させたからな」


オオサカと名乗る少年のホログラムが操縦席の横で呆れた顔で頷いている。


「いや、いや。そんな事言っている場合じゃないよね! 何とか出来ないの??」


空調のお陰で適温を保たれているはずの艦内で、直美は背中を一筋の汗が流れるのを感じた。とにかくタッチパネルをタップして警告音を止める。この辺の感覚はスマホの操作に似ているので、特に教わらなくても出来る。


警告音を止めると、元々わずかに感じていた機械の振動音さえも無くなり、完全な無音が広がった。その中で真っ赤に点滅を繰り返している警告表示だけが目に付く。


「……」


静まり返った艦内。直美は、自分の心臓の音だけが響いているような気がした。


「…………はぁ。何とか主電源は再起動できたで。危なかった。電力も無くなったら危なかったわ」


オオサカの声が聞こえて、直美は少しホッとした。このまま無音の世界に自分だけが取り残されるのでは無いかという不安が心をよぎっていたのだ。

しかし、かろうじて主電源は自動で復旧したものの、推進系は沈黙したまま、酸素濃度も自転式浄化装置が停止中。

艦内の重力も、人工重力を失って時折ふわりとお尻がシートから浮かびそうになる。


「もう慌ててもしゃーないわ。ここは白色矮星のデブリ帯やから誰も来るわけない。酸素の残量は約三十二時間。メインエンジン無しで三十二時間以内に到着できるコロニーも無いし。人工重力はエンジンが動かんことにはどうにもならんけど、そんなもん些細な問題や。ねえちゃんにとって酸素が三十二時間しか持たんちゅうのが一番の問題やな」


オオサカの言葉を聞いて、直美はギョッとした。さすがに酸素が無い状態で生きていられるとは思えない。しかも、明確なタイムリミットまで宣告されてしまった。


「こうなったら、三十二時間以内に自力で直すしかないな。幸い、ここは元居た宇宙船の墓場まで近い。まあワイからしたら、また戻るんかと憂鬱な気分になるけどな」


「直すって、私が?? そんなのやったことないよ。知識も無いけど……でも、死にたくなかったら、やるしか無いんだよね。元居た世界でも死んじゃって、この世界に転移したと思ったら、いきなり、余命三十二時間って! 今度こそ長生きしてやるんだから!!」


直美はオオサカの指示に従って、補助エンジンを起動させてゆっくりと船の軌道修正を行う。一度、見えなくなっていた青白い白色矮星ヘリオスが、また、大きく正面のモニターに映し出されていく。


「ええか、この宇宙の墓場っちゅう所はな、微妙なバランスで成り立っとるねん。ちょっと軌道が逸れたらヘリオスの引力に引っ張られて引きづり込まれてしまうからな。メインエンジンも無しで脱出は無理や。ゆっくりと慎重に近づけな終わるで」


オオサカが余計なプレッシャーを与えてくる。

直美はオオサカの指示に従って操縦桿を動かす。


「ええか、そこのモニターにヘリオスとの相対速度と相対高度が出ているんやけど、相対速度はゼロ。相対高度は四十二万キロにしたいんやそれに合わせていくで。それと心は落ち着かせてな、変に感情が高ぶると、魔導エネルギーが過剰供給されて安定せえへんかなら」


「……うん。これだね」


直美は、デジタル表示されている数値を見ながら、大きく深呼吸をした。数値は落ち着きなく細かく変動して行っている。

相対高度を見る限り、高度は高すぎるし、速度は遅いようだ。


「もうちょっと、ペダルを踏み込んで……はい。そこでストップ! 操縦桿を少し右下に……はい。そこでストップ。そしたら今度は操縦桿を左上に……もうちょい左上……ストップ……あかん行き過ぎや。操縦桿を右下に倒したまま少し引いて、ペダルを小刻みに吹かせて……良し。操縦桿を戻して!!」


何度か繰り返しながら、グリムリーパーの位置を修正していく。直美が握る操縦桿は、手汗でじっとりと湿っている。

いつの間にか、直美は呼吸を止めていたようで、大きなため息を吐き出した。


「こ、これで安定した?」


「ああ、ええ感じや。初めてにしては上出来や。ねえちゃん意外と筋がええかもしれんで。後は時間との勝負や。残り二十九時間と三十分ぐらいや」


直美は唖然とした。いつの間にか、結構な時間が経っていたらしい。


「そんなに時間が経っていたの!? 急がないと!」


「まあ、時間は一時間半ってとこやけど、軌道修正に圧縮空気も使うから消費してもうたんや」


オオサカは呑気に語るが、直美はそれどころではない。修理に必要な時間が分かっていないのにタイムリミットだけが確実に近づいて来る。


「このまま、船は補助エンジンも停止して漂うだけの状態にしておくからな、これから、いよいよ修理開始やで、気合入れてな!」


オオサカの声に、直美は小さく頷いた。



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