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第十八話


正面のモニターに、デスカリオンが星影を裂いて姿を現す。漆黒の船体に無数の艦載砲が沈黙のまま、全てをを飲み込むかのように、その巨体を現す。威圧感が真空のなかで響くようだった。


直美は、素早く操縦桿を倒して、隠れていた三番デブリから抜け出し、連鎖コンボを決めるために動かしたいデブリに向かう。

軽巡クラスのグリムリーパーは、防御力よりも敏捷性を重視した設計になっている。その敏捷性を生かして、細いデブリの隙間をすり抜け、デスカリオンからの攻撃を躱しながら走り抜けていく。

しかし、敵の砲撃が当たってしまうと、防御力の弱さが露呈してしまう。最大出力の防御シールドを軽々と突破されて船体が削られてしまうのだ。


装甲は随分と剥がれ、ボロボロになりながらも、微小な破片から巨大な岩塊まで、乱雑に回転しながら軌道を描いている中を、グリムリーパーは泳ぐようにすり抜けていく。それを追うようにデスカリオンの主砲が高密度の粒子を放つ。


ドガァァン!


グリムリーパーが隠れた、デブリの側面がデスカリオンの砲撃で削らり取られ、その衝撃で反対側に吹き飛ばされて行く。


「良し! 次は十七番……ちょっと遠いなぁー。デカブツの正面を横切るのは怖いけど、行くしかないか」


直美はペダルを強く踏みつけ、グリムリーパーを一気に加速した。そのグリムリーパー目掛けてデスカリオンからの砲撃が容赦なく襲い掛かる。

デスカリオンの副砲でもグリムリーパーの主砲並みの出力だった。その死の光が飛び交う中を、急旋回やストップなどでフェイントを行いながら走る。


「右舷側に防御シールドを集中!! あーマズイ! 砲撃を体で止めるよ、衝撃に備えて!!」


ドォン! という鈍い音と共の、もはや聞きなれた警告音が鳴る。


「あぁーもう! わかってるよー」


直美は乱暴に警告音を止める。

今回の攻撃も避けようと思えば避けれた。しかし、ここで避けてしまうと、グリムリーパーの背後に漂っているデブリに当たって、動き出してしまう。

これが動かれると計算が狂うので、直美はあえてグリムリーパーの防御シールドと船体で攻撃を逸らせたのだ。


「オオサカ、何処やられた?」


本来であれば、艦長席のモニターを操作すれば、何処にダメージを受けたのか分かるようになっている。しかし、今の直美には、それを見る余裕さえもない。


「第三主砲持ってかれたわ。これで戦闘能力は三割減ったで」


「修理部材無いのに。でもエンジン回りじゃなくって良かった。足が止まったら終わるからね。おっとと、危ないな!」


直美は喋りながらも、グリムリーパーを操縦して致命的な砲撃を避ける。砲撃は光の速度で到達する。距離もあるがそれでも避けるには勘と経験と技量、最後に運が試される。


「はぁ、何とか十七番に辿り着けた。で、ここは仰角十二度から顔を出してぇ――引っ込む!」


十七番と呼ばれる小惑星から、わずかに顔を出したグリムリーパーが、直ぐに引っ込むと、その部分にデスカリオンの砲撃が命中し、十七番がその衝撃反対方向に動き出す。艦隊司令が乗っている旗艦の砲撃手の腕はさすがだ。正確に撃って来る。


「ひょー危ない。船首かすりそうだった。これで十七番も動き出した。いよいよ最後の総仕上げだけど、これも別の意味で難しいんだよね」


動き出した十七番を放っておいて、最終機動を取り始める。これには複数の目的があった。


「正面に防御シールドを集中! そぉーれ。こっちだよ。しっかりと付いておいで!」


グリムリーパーの正面をデスカリオンに向けてたまま、斜め後ろに向けて進んでいく。なるべくデスカリオンから見える面積が小さくなるようにしっかりと垂直を保ちつつ逃げる。


それに対して、デスカリオンは容赦なく砲撃と対艦ミサイルを飛ばしてくる。


「天上方向からミサイル三! 右舷側に巡洋艦二、左舷に巡洋艦一、後方から駆逐艦三」


「まだ、囲まれるわけにはいかない! 左舷巡洋艦に対して、対艦ミサイル三発、さらに第一主砲も発射! 第二主砲は右舷の牽制撃て!」


グリムリーパーの攻撃と同時に、正面のデスカリオンの主砲が、グリムリーパーを襲った。


ズン、ズドドォォン!!


大きな音と衝撃が船体を揺るがす。自分が発射したミサイルの音、デスカリオンから受けた砲撃、それらが重なりあって、凄まじい音となった。


「マズいで。左舷、装甲と副砲がごっそり削られた。ミサイル迎撃が足りんかもしれんで」


「こっのぉ!! なけなしの装甲を壊さないでよ!!」


直美は操縦桿を目一杯真横に倒し、その反対側のペダルを踏み込んだ。

グリムリーパーは急激に船体を真横に倒し、左舷を下にしてそのまま滑り落ちるようにして移動していく。


「右舷、第二主砲と副砲でミサイル迎撃!」


今度は、ミサイル攻撃に対して、正対する面積を最小かつ、今できる最大の迎撃態勢を取った。

主砲と副砲を使って、何とかミサイルを迎撃したが、そのうちの一発が至近距離での迎撃となってしまった。


「艦長はん。至近弾の影響で、第二主砲が回頭できんなった。右舷九十度で固定状態や。副砲も半数が駄目になったわ」


「残りは第一主砲と切り札の亜空間魚雷だけか、第一主砲は正面ゼロ度に戻して」


「直美、左舷の巡洋艦一隻は砲撃の直撃を受けて大破、船足も落ちましたが、右舷の巡洋艦二は無傷で接近中。後方の駆逐艦も接近中ですわ……それでも、デスカリオンを目標地点に引っ張り出すことに成功しましたわ!!」


『さあ、どうだ。そろそろ降参する気になったか? もう完全に包囲されて逃げきれんぞ。おとなしく、偽者を渡してもらおうか』


また、デスカリオンからユーグの声が届いた。さすがに相手も忙しいのか、音声だけの通信だった。

その呼びかけを直美は無視して、音声入力による攻撃指示を出した。


「良し、これで最後だ!! 全ミサイル、デブリ三十二番に向けて――発射!」


ドドド!!


という地響きのような音を立てて、六発のミサイルがデブリ三十二番と呼ばれる小惑星に向かて解き放たれた。


『何をしたいのかね? 恐怖のあまり、とち狂ったのか?』


呑気なユーグの声が聞こえてくる。


デブリ三十二番は六発のミサイル攻撃を受けて弾き飛ばされる。


「いっけー……よし、次も当たった!」


三メガトン級の岩塊が加速して次の岩に激突していく。もともとは単なる障害物だった浮遊物が、それぞれ干渉しあいながらその運動エネルギーが跳ね上がって動き出していく。もう誰にも止められない。


「第十一衝突も予定通りや、反射進路も問題ない! ――デカブツへの命中確率六十七パーセントや』


「六十七なら大丈夫。いけいけ!!」


次々と連鎖しながらデブリがぶつかる。まるで宇宙規模のビリヤードだ。無重力、無音のはずの戦場に、岩の奔流が咆哮する錯覚すら覚える。


『何を!! 貴様!! 防御シールド最大出力!!』


デスカリオンも咄嗟に気がついたが、巨大戦艦ゆえに瞬発性は低い。艦体に真横から巨大な岩石が直撃する。得意の防御シールドも巨大な質量攻撃に耐えきれない。モニター越しでも、装甲が弾け飛び、砲塔が折れ、船体の一部から火花を散らしている様子が伺える。


「逃げるよ!! 短距離ワープ起動! 目標は――」


ドオォォン!


デスカリオンからの、苦し紛れの砲撃がグリムリーパーを直撃する。


「何を! しつこい!! オオサカ、ダメージは?」


「艦長はん。マズイ。メインエンジンも補助エンジンもやられてもうた。短距離ワープどころか全く動けんわ」


「「……」」


「オオサカ。亜空間魚雷セット! まずは前方のデカブツに四発当てるよ!」


直美は最後の悪あがきだと分かっているが、それでも諦める気は無かった。


ビィィ―、ビィィ―。


「直美! 空間異常!! 何かがワープアウトしてくる!!」


「なぁん?? この期に及んで、何が化けて出てくるのよ!!」



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