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第十六話


プシュゥゥという音がして、救命カプセルの蓋がゆっくりと開いた。


「あぁ、も、戻れた……。ここは本当に、現実世界?」


「艦長はん、お疲れ様~。シミュレーションはどうやった。面白かったやろ。現実世界では一週間しか時間は経ってへんけど、気持ち的には一月ほど戦っていた気分やろ?」


「も、もう疲れた……オオサカ、何よこれ……何度も死んだよ……」


「はっはは。大体、新米の軍人がベテランと呼ばれるレベルに達するまでに経験する戦闘をぎゅっとまとめたダイジェスト版で絶え間なく経験出来るんや。しかも本当の体は寝ているから、シミュレーション中に寝る必要も休憩も要らんねん。夢の中みたいなもんやから、脳だけ無休の強制労働やけどな」


直美は、夢の中とは言え、現実時間として百六十八時間ぶっ続けで戦い続けていた。シミュレーション中は前ぶりも無く、いきなり戦闘シーンから始まり、死んだ、もしくは終わったと思ったら、すぐに次の戦闘が始まると言う鬼仕様、行った戦闘回数は三千回近くにのぼる。初めのうちは、すぐに死んだため、ドンドンと次の戦闘が始まってしまい回数が延びたのだ。


「まあ、実際に、あれだけの戦闘数をこなして生き残った者がおったら、伝説の人になっとるけどな」


「あぁ、そりゃ私も何回死んだことか――」


そこまで言うと、直美は意識を手放した。ゆっくりと救命カプセルから浮かび上がって宙を漂い始めた。


「ありゃ、あんなに寝てたのに。また寝てもうたな……。うーん、脳内疲労の蓄積か……ちょっと改良の余地がありそうやな……」


オオサカは、直美が入っていた救命カプセルからデータを取り出して、分析を始めながら、直美を運ぶためにセレナを呼び出すことにした。



「おはよう。直美、大丈夫? 急にオオサカに呼び出されて行ったら、直美が白目をむいて漂っていたからびっくりしましたわ」


直美が目を覚ますと、セレナが覗き込んできた。あれから、更に丸一日寝てしまっていたようだった。


「おはようセレナ。大変な目にあったよ~~。あぁ、お腹すいた」


「ふっふふ。そうなんですね。でも、私も、直美と同じシミュレーション受けてみようかしら……」


セレナは、一週間前の直美のように気楽に言った。


「ああ、それはアカンわ。あれは普通の人間には無理があったみたいや。あれから、艦長はんの生体データ確認したけど、ほんまに死にそうなほどの疲労やったわ。ちょっと改良せんと、シミュレーションやのに、ほんまに死んでまうとこやったわ」


意外にも、今回はオオサカ自身が止めた。


「マジか……やっぱり、現実でも死にかけてたか」


「すんません。ちょっと改良するんで、そしたら艦長はん、もう一度テスターになってもらって――」


「いやいや、もぉー大丈夫だから! あんなに何度も死ぬ疑似体験は、本当に精神的にキツイからね」


「そおぉ? 初めは数秒ごとに死んでたけど、五時間後には分単位になって、三十時間たった頃には、時々戦闘終了まで生き残れるようになったやん。そんで、最後の方なんか九割は生き残ってたで、ま、合計の死亡回数は三千回やけどな」


「ははっ……やっぱり、私は心が壊れそうなので遠慮しておきますわ」


オオサカの話を聞いてセレナもどれほど過酷なシミュレーションか理解できたみたいで、あっさりと前言を翻した。


「うん。その方が良いよ。結構、死ぬ時もリアルに感じるからね。しっかりと痛いし、熱いし、苦しいしで、そこまでシミュレートする必要があるのかと思ったよ」


「うわっ、つらい目にあったね。さぁ、ご飯を食べましょう! 直美はちゃんと生きてるわよー」


セレナに同情されながら、ご飯を食べることにした。食事は、自動調理機能が動いていて、食材は人の手で入れないと駄目だが、調理は自動で行ってくれるのだ。直美は眠りから覚めたばっかりなので、胃に優しい野菜スープとパンにした。


「それで、現状を確認しておきたいんだけど、進路は“ゴルディア・セントラル”に向けたままだよね。私が寝ている間も、新たな故障は無かった?」


「大丈夫やで。進路に変更は無いし、あれから敵にも会って無いし、新たな故障とか問題は起きて無いで」


オオサカの声がセレナが持っているタブレットから流れて来た。


「そうですわね。私にとって一番衝撃的な事件は、直美が白目をむいて、浮かんでいた事ですわ。本当に死んでしまったのかとびっくりしましたわ」


セレナは少し呆れたような声で言った。その目は優しそうに笑っていた。おそらく、昨日も一日中寝ているのを心配していたのだろう。


「はっはは、まあ、それが一番大きな事件なら良かったよ。心配かけちゃったね。ありがとう」


「ふっふふ。直美が無事でよかったですわ。まさか訓練とはいえ三千回も死ぬ体験をしていたとは思いもしませんでしたわ」


「いやーあれは失敗だったと反省しとります。徐々に難易度を上げて行くべきやったな。軽巡一隻で帝国軍の艦隊相手に戦うのは、さすがに難しかったな」


「オオサカ、難易度の話では――」


ビィィ―、ビィィ―。


セレナの説教が始まる前に、直美にとって聞きなれた警告音が艦内に流れた。


「タブレットを見せて! ……オオサカ、戦闘準備! 左舷四十度、仰角マイナ十五度に進んで! 艦橋に移動する。セレナは管制席へ」


セレナはタブレットを見る暇もなく、直美の指示に従って後ろをついていく。


「この数からして、オオサカ、敵は帝国軍?」


「そのようや、ガッツリ帝国軍の大御所や、ノイ=ヴァルド銀河帝国軍の第一天宙艦隊らしいで」



直美たちが艦橋に上がると、既に正面のモニターには敵の情報、進路予想など様々な情報が表示されていた。


「セレナ、現在の進行方向に小惑星を含むデブリ帯があると思うの。そこに逃げ込みたいから、その中で比較的大きな小惑星をピックアップしておいてもらえる? 盾として使うの」


「分かりましたわ。この船が隠れられる大きさの惑星だけを、今の位置から近い順に番号を振っておきますわ」


『こちらは、ノイ=ヴァルド銀河帝国、第一天宙艦隊の総司令官ユーグ・アムシェル・ノイ=ヴァルドだ。グリムリーパー艦長、話がしたい』


映像付きの通信がオープン回線ではなく、グリムリーパーだけに限定した秘匿回線でもたらされた。

ユーグ・アムシェルと名乗った男は金髪の三十代ぐらいに見える。目鼻、顔立ちの整った爽やかな貴公子と言った感じだ。しかし、直美には、モニター越しでも彼の瞳びは冷酷な光が宿っているように思えた。


「あ、あれは……従兄弟のユーグです。彼は、伯父の次男になります」


セレナが、管制席からモニターを見上げて、声を上げた。しかし、そのセレナの顔色は、決して親しみを感じさせるものでは無かった。


「おう、おう。第二皇子様ってことかぁ。かなりの大御所登場やな。それで、艦長はん、返事どうするんや?」


「そうね。本当に話し合いで戦闘が避けれるなら大歓迎だけど、まあ、そうはいかないよね。それでも、一応、話ぐらいはしておくよ」


直美は、艦長席のマイクを使って音声だけで通信することにした。相手は、第一天宙艦隊の旗艦、超大型戦艦<デスカリオン>に座乗する総司令官ユーグ・アムシェル・ノイ=ヴァルド。


「こちらは、民間船のグリムリーパー。艦長の直美です」


すこし緊張気味ではあったが、何とか声を震わせることなく話すことが出来た。


『ほう、報告の合った通り、若い女性が艦長とはね。それで、単刀直入に聞くが、そちらに乗っているヴァルディス銀河帝国の皇女様を騙る偽者を引き渡してくれないか。その者を渡してくれたら、君たちには何もしないどころか、重罪人を捕まえてくれたという事で報奨金を渡そう。どうだ、そちらにとっても悪くない話だろ』


口調は丁寧であったが、モニターに映るユーグは、決して穏やかとは言い難い目つきで、確実に直美を見下しているように見えた。



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