第十五話
艦内に響き渡る警告音。直美がこの世界に来てから、よく耳にする音だった。
「オオサカ、何が起きたの?」
「接近警告や、どこかの船が数隻、ワイらの進路上にいるようやで、これは待ち構えているんちゃうかな」
「とりあえず、艦橋に戻らないと……それまでに、何処の船か調べておいて」
そう言うと、直美は壁を蹴りながら艦橋を目指して飛んで行った。
艦橋に入り、素早く艦長席に座る。
「高熱源感知! 艦影、七、いや八……駆逐艦五、軽巡二、補給艦一!」
セレナの声が跳ね上がる。オオサカの方で艦種に合わせて番号が割り振られて行く。
続けて、オオサカが監視レーダの詳細表示を正面のモニターに出した。
「帝国識別コード確認。旗艦は、《ガーディアン》――マルセン伯爵家所属の守備艦隊?」
『私は、マルセン伯爵家に仕えるジャン・ピエール騎士爵だ。貴艦にはルーナ・ベータの湾施設の破壊および重罪人幇助の容疑がかかっている。速やかに機関を停止しこちらの指示に従ってもう。なお、抵抗するようなら撃沈の許可も得ている』
オープン回線から、問答無用な命令が言い渡される。
「これは、誤魔化しは難しそうね。でも、こっちも、おとなしく捕まる訳にはいかないのよね。オオサカ、戦闘準備!」
「ま、そうなるわな。設備の破壊については、こっちに非はあるけど、あちらさんとしては、それよりも皇女ちゃんの身柄を拘束することが目的やな。ほい。全砲門、準備完了やで」
「それじゃ行きますか! 機関、最大戦速。第一、第二主砲は敵の軽巡を狙って。セレナ、駆逐艦の動きに注意して、副砲は自動迎撃に切り替えて」
直美の音声入力に従って、主砲が標的に向けて回頭する。
グリムリーパーは往年の勢いを取り戻したかのように、一気に加速を始めた。
『き、貴様! そんな時代錯誤の軽巡で、最新鋭の我々に歯向かう気か!』
「ごちゃごちゃとうるさいやっちゃな。平和ボケした軍相手に、戦乱を生き抜いたグリムリーパーが戦い方を教えたるわ」
オオサカが、戦略システムを起動させる。正面モニターには、敵の予想進路とこちらの理想進路が表示された。
「へぇ、これに従えば、ある程度勝てるのね」
「そうやな。完全とは言わんけど、過去の戦闘経験をもとにシミュレーションしとるから、悪くないと思うで」
直美は提示されてコースに沿うように操縦桿をひねる。
「駆逐艦が左右に展開。全艦から対艦ミサイルが来ますわよ!」
セレナが叫ぶ。
「こんな物! 第一主砲、射角左二十二、仰角十一。第二主砲、射角右十八、仰角十!」
直美はミサイルを副砲に任せながら、操縦桿を捩じるように倒していく。
「すれ違いざまに一発、お見舞いするよ!」
グリムリーパーに向かってくるミサイル目掛けて、副砲がパルスレーザーを発射する。
その間も、どんどんと加速して、左右に展開した駆逐艦を無視して、中央に陣取っている敵の軽巡の間を目掛けて進んでいく。
「正面、敵軽巡、高エネルギー反応! 防御シールドを展開するようですわ!」
管制席からセレナが敵の状況を知らせてくる。
「遅い! 第一、第二主砲発射!」
ズド、ドォォン!
二つの主砲から同時に発射された粒子砲が二隻の軽巡目掛けて、光の矢となって飛んでいく。
外部モニターから見える敵軽巡が大きく傾く。不十分な防御シールドを突き破って、それぞれの艦首付近に直撃したのだ。
「駆逐艦が後ろに回り込んで来ますわ」
「第三主砲、射角百八十。牽制で良いから発射! 対艦ミサイル、チャフの準備!」
「ほう、ここでチャフか! 艦長はん、やるなぁー。面白いな……よっしゃ、準備できたで」
「相手の目つぶしするのは、この前、大男に追われた時に有効だなって思ってね」
直美は、大男に追われた時に、小麦粉のお陰で逃げ切れたことを思い出した。
「対艦ミサイル、旗艦に向けて発射!」
ドン! と言う音と共に船体を振動が走る。対艦ミサイルがグリムリーパーの船尾付近から飛び出した。
「ハッ! よりによって、それを旗艦にぶつけるか。ほんま容赦ないな」
「セレナ、短距離ワープ。目標はペルデギウス方向ならどこでも良いよ」
直美の声を聞いて、セレナは慌てて航図を開いて、短距離ワープの目標地点を設定する。
「はい、設定完了。それじゃ、行きますわよ! 三、二、一!」
「ワープアウトしますわ。三、二、一! ワープアウト完了! えっと周辺に艦影は無し」
「それじゃあ、もう一度、短距離飛んで。進路は同じくペルデギウスで」
直美たちは、数回、短距離ワープを繰り返した後、今度は長距離ワープで本来の目的地である“ゴルディア・セントラル”に向けて飛んだ。
「いやぁ、艦長はん。やりおるな! 基本は戦略シミュレーションに従いながらも、チャフをバラまくっちゅうオリジナリティを混ぜ込んだ上に、短距離ワープで、目的地を惑わすとか、海賊みたいやな。これで追跡するのは骨がおれるやろうな」
「へっへー。前の世界で見たアニメで、この方法で攪乱していたのを咄嗟に思い出してね。うまく行くか分からないけど、やっておいた方が良いかなって思ったんだ」
「あら、前に言っていた直美が居た世界の話ですの? まだ、別の世界と言うのはピンと来ませんが、そんな戦闘訓練がありますのね」
セレナが目を丸きしながら言った。
「ううん。戦闘訓練じゃなくって、アニメって……わかんないか。えっと娯楽だよ。劇みたいなものなんだけど――」
「ああ、わかったわ。昔の皇女教育用ホログラム絵巻みたいな感じね? 政治とか礼儀作法を歌と踊りで教えるの」
セレナは、うんうんと頷きながら言った。
「うーん。大体あってそうだから、そのイメージで良いかな。……セレナの言うソレ、何となく面白くは無さそうだけど」
「それは、そうと。今回は領軍相手やったから良かったけど、帝国軍が相手だと経験が物をいう事もあるからな。艦長はん、戦闘シミュレーションで訓練しておいた方がええかも知れへんで」
オオサカの話では、軍人が行う戦闘訓練があるらしい。これをグリムリーパーの性能と武装にカスタマイズするから、それで訓練しようという事だった。しかし、オオサカの持っているシミュレーションを順番のやっていると何か月もかかるので、それを凝縮した物を用意すると言うのだ。
「へぇー。それはゲームみたいで面白そうね。それに生き残るには運や勘だけではなく、知識と技術が大事だものね。分かった、やってみるよ」
「ほな、皇女ちゃんが乗っていた救命カプセルの中でやるから、今晩はカプセルの中で寝てな~」
「うん。りょうかーい。セレナ、カプセル借りるね」
「はい。頑張ってくださいね」
その時は、気軽な気持ちで答えた直美だったが、オオサカのいう訓練は軍人用の戦闘シミュレーションだ。ゲームではない。
この日から一週間、死ぬほど後悔するのだった。




