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第十四話


暫くゴミ箱の中で様子を伺っていたが、大男も赤毛の海賊も戻ってこない。


「大丈夫そうだね。ひとまず、船に戻ろう。まったく、何なのよあいつらは! 突然追っかけて来て」


直美はブツブツ言いながらも、セレナを連れてゴミ箱から這い出て来た。


「あぁ、何だか臭いますわ……まだ、服に変な汁が付いてないだけマシですが……それじゃあ、通りに出て、タクシーを探しましょう」


セレナも、自分の服をクンクンと匂いを嗅ぎながら言った。

二人は、お互いの様子を確認し合って、人前に出ても奇異の目で見られない程度の状態であることを確認し、大きな通りを目指して歩いて行った。



二人は何とかタクシーを見つけて、グリムリーパーを停めている貸しドックまで戻って来れた。


「せっかく、おいしい料理を食べて気分が良かったのに……そうだ、オオサカ、お風呂とかシャワーとかは使えるのかな? 確か、水の生成装置も修理したけど、あれって飲み水用?」


直美は、宇宙船の墓場から回収してきた機材で色々な物を修理していた。その中で、水を作り出す装置も修理していた。


「大丈夫やで、あれは酸素が作れんかったから、動かんかったけど、今は両方直っとるから問題ないんや、シャワーでもお湯を溜めて浸かることも出来るしな。この前、皇女ちゃんと買い物行ったときに石鹸もちゃんと買っておいたから抜かりはないで」


艦橋内に投影されたホログラムにはドヤ顔のオオサカがいた。



直美は、オオサカの顔に少し思うところはあったが、ゴミ箱に飛び込んだ時に着いた匂いが気になったので、何よりも先にお風呂に入ることにした。


「ふぅー。久しぶりにお風呂に入れたよ。ほんと、一時は生きるか死ぬかの状態ばっかりだったから、

なんだか生き返ったような気分だよ」


直美とセレナは久しぶりにゆったりとお風呂に入ることが出来た。直美は艦長席に、セレナはレーダー監視や通信を行う管制席に座って、冷やしたレモン水を飲みながらゆったりと寛いでいた。


「艦長はん、ちょっとマズイことになりそうやで。帝国の捜査当局からの通達でコロニーの全て港を閉鎖したって情報が流れてきたで。皇族の名を騙る不審者の取り調べらしいわ」


「えぇ!! それってセレナの事がバレたってことだよね?」


「……」


このコロニー、ルーナ・ベータに入港するときに、港管制官のAIが入港を拒否しようとしたときに、思いっきり、セレナ・ルクシア・ヴァルディス第七皇女と名乗って入港した経緯がある。

その、セレナが亡くなっていることになっていると気がついたのは、入港した後の事、さらに、実はセレナは現皇帝が前皇帝を弑逆した証拠を握っており、その上、前帝国の軍事機密情報である帝国全土のルミナス・チャートを持っている。


「入港管制官からルーナ・ベータを統治しているマルセン伯爵に連絡が入って、伯爵から皇家かどこかに連絡が行ったのかもな。当然、現帝国からすると皇女ちゃんが失われたルミナス・チャートのありかを知っているかも知れんから秘密裏に連れ出して尋問したいんやろ。それで本当に知らんのやったら、余計な事を公表される前に完全に始末したいちゅうことやろな」


艦橋には、空調の音だけが聞こえる。

ゆっくりと、セレナが立ち上がった。


「直美、私。この船を降りますわ。今までありがとうね。本当は助けてくれたお礼をしたかったけど、ちょっと難しそうですわ」


セレナは、そう言うと頭を深々と下げた。皇族が頭を下げるという事は、ありえない事だったが、セレナには他に出来る事はない。だからこその、せめて感謝の意味を込めて頭を下げたのだ。


「何を言っているの! セレナは、このままだと私たちが帝国軍に追われることになるから、出て行こうって思ってるんでしょう!」


「でも、相手は帝国軍ですのよ。一隻や二隻の海賊とはわけが違いますわ! とても、この船一隻で何とか出来る相手ではありません。私が出て行けば貴方たちは事は、気にしないかも知れませんわ」


「いいえ、私なら、皇女と名乗った人を乗せていたのだから、何か聞いているかも知れない。何かを託されているかも知れないって絶対に捕まえるよ。でも、私が気にしているのは、そんな事じゃない! 友達を見捨てて、自分は逃げ出すなんて好きじゃないのよ!!」


「で、でも、このままだと貴女もお尋ね者になりますわよ」


「上等だよ!! 困っている友達を見捨てるぐらいなら、お尋ね者になろうが、軍を敵に回そうが構わない。オオサカ! メインエンジン始動シーケンス!!」


「了解!! 貸しドックの扉はどうする? 港自体を閉鎖されてるから、お金払っても開けてくれへんで」


「セレナ、諦めるのは、まだ早いよ! 私が絶対に“ゴルディア・セントラル”に届ける! オオサカ、第一、第二主砲起動!」


艦長席の横に投影されたホログラムのオオサカがニヤリと笑った。


「ちょっと、直美!! ……でも……ありがとう……」


グリムリーパーの前方には二つの主砲があり、後方にも一つ付いている。その中でも第一主砲は壊れていたので宇宙船の墓場から回収してきた大口径の主砲に換装されている。


「メインエンジン起動完了。第一、第二主砲準備完了や」


「第二主砲、目標はドックの扉。第一主砲はコロニーのゲート。連続して吹っ飛ばすよ。セレナ、席に座ってシートベルト絞めて」


直美も艦長席のシートベルトを締めと、横目でセレナもシートベルトを締めるのを確認した。


「主砲、連続発射!」


ドォン!


ズドォォン!!


第二主砲から出た粒子砲があたりの空気に反応して赤い光を放ちながら、ドックの扉を吹き飛ばした。

続けて第一主砲から発射された光が、コロニーの入港ゲートを吹き飛ばす。


「メインエンジン、全開! ドックと繋いでいる固定金具を引きちぎるよ!!」


メキメキという音と共に時折ピキーンと金属が千切れ飛ぶ音が混じる。

固定金具から解き放たれたグリムリーパーは、そのままの勢いで入港ゲートに向かって飛び出していく。

まさに、その様は戦時中の軍艦が行う緊急発進さえも越える勢いであった。


外部スラスターが青白い炎を吹き上げ、破壊された入港ゲートをすり抜けて一気に飛び立った。


後部の艦外カメラには、応急バブルシステムが、粘着性の泡でエアー漏れの箇所を覆って気密を保とうとしている様子が映っていた。



――数時間後。


宇宙空間を滑るように進むグリムリーパー艦内。

直美は、修理工房で作成された亜空間魚雷を弾薬庫に移動させていた。


「良し! これで、全部だね。これって、ここに入れておくだけで使う時には順番に発射管に装填されるんだね。何か手で発射管に運ぶイメージだったよ」


「はっはは。そんなもん、戦闘中にいちいちやっとれんやろ。ちゃんと動力で動かして発射管に装填されるんや。それから、目標や距離などを設定して発射するって感じやな。まぁ設定入れるのも数秒やけどな。それにしても、グリムリーパーに魚雷発射管が残ってて良かったわ」


「あ、そういえば、亜空間魚雷の設計図を見つけたとき、軍事機密って言っていたよね。それなら、この魚雷って入手しにくいの?」


直美は、食料倉庫の片隅に放置されていたコンテナから亜空間魚雷の実物と共に設計図が出て来た事を思い出した。


「そうやな。入手しにくいと言うか、ほぼ絶滅しとるやろうな。この船が現役やった頃は亜空間魚雷を作ってたんや、けどな、一時、敵の攻撃を自動的に回避する機能の付いたミサイルやら、誘導弾やら自動追尾やらの方が流行ってな、直前までレーダーには映らんけど、基本、撃ったら直進するだけの亜空間魚雷は廃れて行ったんや」


「ふーん。でも、それがこの船の切り札って言ってなかった? 一昔前の武器なんだよね?」


「それが、また時代が変わってな、この船が退役する頃には、AIの登場で、回避したり、操作できたり、追っかけたりするミサイルにも対応して、迎撃できるようになったんや。そうなると、今度はやっぱり、亜空間という名の超・超単距離ワープしてくる魚雷の方が迎撃が難しいとなったんや、けどな……」


「あぁ、なるほどね。ワープ空間にいるときは迎撃できないからワープアウトした後を狙うしかないけど。その時は既に至近距離で迎撃が間に合わなくなるって事か、しかし、時代が経ちすぎて、亜空間魚雷の製造方法は、時代に波に飲まれて失われていたって事ね」


直美は何とか、亜空間魚雷の時代背景を理解していたその時――


ビィィ―、ビィィ―。


艦内に、直美にとってトラウマになるぐらい良く聞いた警告音が流れた。



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