第十三話
先日、宇宙の墓場から持ち帰ったジャンク品を買い取ってもらえたお陰で、どうにか貧乏生活からも脱出し、さらにはラスティさんの紹介で食料品の卸問屋を教えてもらえたので、グリムリーパーの食糧庫も潤っていた。
セレナはひたすらネットで帝国の状況を確認しているようだった。
「そりゃ、自分が寝ている間に親兄弟は……だし。その逆賊、実行犯がノウノウと新たな帝国を名乗っていたら、心中穏やかにはいかないよね。早く、祖父母の所に届けてあげないとね」
直美はチェーンブロックというチェーンと滑車を使って、重い物を持ち上げる機械を操作しながら、最近取り組んでいたピストンを荷台に移動させた。
「ふぅ。とりあえず完成かな。後は実際にエンジンに取り付けたいけど……これ一人じゃ重くって無理だね。はぁ~艦内だけ無重力とか、そんな都合良くはいかないか。これも、酸素生成装置も宇宙に出てから付けるようだね。皆、どうやって船の修理してるのかな」
「あんな、艦長はん。重い物を上げたり下げたりするのは、しょっちゅうあるんやその度に人手集めたりできるかいなぁ。そやから、ドックのどっかに折り畳み式のクレーンがあると思うで」
「えぇ!! マジで~それを早く言ってよ!!」
直美は大きな声で叫んでしまった。
「そんな事言われても、ワイも船外では、カメラを向けてくれんと何をやってるか把握出来んのや、声で相談してくれんと無理やで」
「うむむ。それもそうだね。それじゃ、そのクレーンを探すの手伝ってね」
直美はタブレットを持ちながら、ドックの中を歩き回ることにした。
「あー、艦長はん。あったで、その黄色い奴が、折り畳み式のクレーンや……そう、それ、それ。それの足の所を広げて横のロックをかけたら出来上がりや。えっと、それは魔力無しなら二トン、魔力ありなら八トンまで持ち上げれるらしいから、大丈夫やろ」
「おお、すごい!! 何て便利!! 一家に一台欲しいって感じだね……いや、要らんか」
一人でボケとツッコミをしながら、クレーンと台車に乗せたピストンを船内に運び込んだ。
クレーンについている操作レバーを直美が握ると、一気に魔力ゲージが上がっていく。ピストンに牽引ロープを縛り付けクレーンでゆっくりと持ち上げていく。
「ほっほー、これは便利。あーこれが昨晩あれば、ピストンの加工も、もっと早くできたのに~あの徹夜は何だったのよー」
ぶつくさ言いながらも、新しいピストンの取り付けが出来た。
そのまま、今度は空調室にクレーンを運んで行って、酸素生成装置の交換作業も終わらせた。
「おおー、遂に!! 遂に完成したよ、オオサカ!! ほら、見て見て!!」
タブレットを持ったまま、ぐるりと空調室を一周し、再び機関室に戻って、エンジン周りもオオサカに見せて回った。
「艦長はん、ほんまにお疲れさん! いやーワイもここまで綺麗に修理されたグリムリーパーを見るのは二百年ぶりやな」
「へっへー。さっそくメインエンジンの試運転をしてみよう!!」
直美は、タブレットを持ちながら、艦橋に上がった。
「あれ、直美。嬉しそうですわね。ひょっとして修理が終わったのですか?」
「そうなの! セレナ、遂にすべての修理が完了したんだよ。これからさっそくメインエンジンの試運転をするんだ」
直美は艦長席に座ると、外に繋がるハッチを全て閉じた。そのまま慣れた手つきでグリムリーパーの起動シーケンスを走らせる。
「おおー本当にオールグリーンだ。初めて警告表示が出ていない画面を見たよ。それではメインエンジン始動!」
直美の操作でメインエンジンが静かな唸り声を上げた。わずかに艦内に響いて来る振動。それはまるでグリムリーパーの鼓動のようにも思えた。
「うん、うん。メインエンジンもしっかり安定している。空調も問題なし。食糧庫も満タン。武装も修理したし、何なら壊れてた第一主砲は口径をアップさせたのに換装したし。お待たせしたね。セレナ、これで“ゴルディア・セントラル”まで送れるよ」
「はい! これからも、よろしくお願いしますわ」
「ついでに言っておくと、艦内の修理工房で例の魚雷も量産しておいたで、宇宙出てからでええから、魚雷用の弾薬庫に入れといてな。そこに入れとかんと、いざという時に発射管に装填出来んからな」
「うん。そうだね。それが、この船の切り札だもんね。使える状態にしておかないとだね」
その後も、不備が無いか点検して、再びエンジンを停止させた。
「よーし! 今日は修理完成祝いで外に食べに行きましょう!」
「おーー!」
グリムリーパーを降りて、直美は後ろを振り返る。そこには、色々と汚れは目立つが白銀の船体があった。穴だらけだった装甲も修理を終え、ほっそりとした流線形が復活している。左右の側面には収納された副砲が並び、船体上部には第一、第二主砲、すぐ後ろは、少しなだらかに盛り上がった艦橋がある。艦橋のさらに後ろには第三主砲が一直線に並んでいる。
地球の船とは異なる姿。直美は、どこか新幹線を思い出し懐かしく感じた。
「はぁ、おいしかったね。魚料理なんて、すっごい久しぶりだったよ。さすがに日本食は無かったけど、ちょっとスパイシーで美味しかった」
貸しドックが立ち並ぶ湾岸を抜けて先に行くと繁華街と言えるようなエリアが広がっていた。直美たちは自動タクシーのような乗り物に乗って、外食を堪能したのだ。
「直美、日本食というのは何ですか?」
「ああ、えっとね。私の故郷の料理かな。もう自分で作るしか食べる事は出来ないのかもね。いつかセレナにも作ってあげたいけど、日本食用の調味料がないんだ。もし手に入ったら作ってあげるね」
「……艦長はん、気ぃ付けてや。誰かつけて来てるで。男が一人、サイボーグが一人や。早めにタクシーに乗った方がええよ」
直美とセレナが話していると、直美の片耳に付けたイヤホンにオオサカの声が聞こえた。
外出先だとオオサカと話すのにタブレットを出さないといけないのでイヤホンを付けてる。
「セレナ。誰かが付けて来ているらしいよ。男が一人とサイボーグが一人だって。早くタクシーを捕まえよう」
「ええ、それが良いですわね……でも、タクシー通ってませんわ。このままだと人通りの少ない道になりますわ。そこを曲がって繁華街に戻りった方が良さそうですね」
「アカン、艦長はん。皇女ちゃんと手を繋いで走るんや」
オオサカが切羽詰まった声で呼びかけて来た。
「セレナ! 走るよ!」
直美はセレナの手を掴むと走り出した。
「あ! クソっ待て、お前、この前のボロ船の艦長……直美だな。それより、隣の人は……セレ――」
後ろから喚き声が聞こえてくる。その声に直美も聞き覚えがあった。チラリと振り向くと、赤毛の背の高い男の人とその後ろにも男の人が二人、追いかけてくる。
「おい、リム=ザップ、何やってやがる。お前もあいつらを追いかけろ!」
赤毛の男が後ろを振り向きながら叫んでいる。
「ああ、もう!! あの海賊船の人だ! オオサカ、後ろの人たちは何処からつけて来た?」
「おそらく、店を出た後からや、ひょっとすると同じ店内に居たのかもな。それで艦長はんの声で気がついたんちゃうか」
オオサカの声がイヤホンを通して聞こえてきたが、反対の耳には地響きにも似た重量のある物が向かってくる音が聞こえて来た。
思わず、後ろを振り向くと、そこには両腕と頭部も金属性といかにもサイボーグな人。身長二メートルを超え、横幅も直美の三倍ぐらいある大男が地響きを立てて走って来る。
「うわ! 追い付かれる!!」
咄嗟に片手はセレナを手を引っ張りながら、もう一方の手で路地の角を掴むようにして強引に曲がる。
その瞬間、大男は曲がり切れずに直美たちの後ろを通り過ぎた。
ドオオン!!
なにやら、背後で大きな音がしたが、もう振り返っている場合では無い。必死で路地の中を走っていく。
セレナの息遣いが荒く聞こえてくる。もうセレナの限界が近い。
再び重戦車が近づくような音が聞こえてくる。しかし、前方には先ほどのような曲がり角は無く、両サイドはレンガが覆われた直線の道が続いている。
路地に面して店の裏口が見えるが、その木製の扉は閉まっている。
「おーい!!」
直美は大きな声で叫びながら、通りすがりに扉を激しくノックした。
「ウッせーぞ。誰だ!!」
直美たちのすぐ後ろで、店の扉が開く音が聞こえた。
ドオン!
チラリと後ろを確認すると、直美のノックに反応した、店の人が扉を開けたところに追って来てた大男が突っ込んだようだ。
何屋さんだったのか分からないが、あたり一面に白い粉が濛々と広がる。そして店の人と思われる怒鳴り声も聞こえて来た。
「しめた! 何かに突っ込んだんだ」
しばらく走ると十字路が見える。そのわきに大きなゴミ箱のような物も見えた。
「セレナ。ここに隠れるよ! 早く入って」
息も絶え絶えで、返事さえも出来ないセレナを連れてゴミ箱の中に飛び込み蓋を閉めた。
息を殺して、暫くすると、ドドドという地響きが近づいてきた。
「……ボス、見失った。……小麦粉でセンサーがやられた……了解、戻る」
ドスドスドスという音が徐々に遠ざかっていく。
「ぷはーー。死ぬかと思いましたわ!」
どうやら、セレナは荒い呼吸音が漏れないように息を止めていたようだ。
少しだけ蓋を開けて、外の様子を見る。辺りは、まだ白い粉に覆われてた。
「オオサカ、どう? 奴らは近くに居そう?」
「いや、わからんなけど、あの大きな足音は近くに無いから大丈夫やと思うで」
ゴミ箱の中で、二人は顔を合わせながらホッと胸をなでおろした。




