第十一話
セレナが持っていたペンダントは直美の居た地球で言うとメモリーチップになっていたようで、中には重要な情報が保管されていた。
「艦長はんには、ルミナス・チャートの意味があまり分かってないやろうから、説明するけどな。宇宙空間と言うのは目印があってないような物なんや、そのくせ、デブリ帯、強い引力区域、異常な電磁場区域、可燃性ガスが漂う区域と、迂闊に立ち入ると即終わるような場所があるかと思ったら、何もない空間になると、何光年も星ひとつ見当たらん暗黒空間もあるんや。そんな宇宙区間を無事に航行するのに重要なのがルミナス・チャートちゅうわけや。別名、航行ログとも言うけどな」
オオサカが言うには、ルミナス・チャートというのは“先人の無事に通ったルート”という事のようだ。
広大な宇宙空間を無事に航行できるのは、、ルミナス・チャートに沿って航行するから出来るのであって、それも無しに航行するのは、罠だらけの暗闇を何日もかけて手探りだけで目的地を目指すようなものらしい。
「それでな、このコロニーに着いてから、最新情報をネットから拾い集めていたんやけど、ヴァルディス帝国が保持していたルミナス・チャートを失ってもうた影響で、今のノイ=ヴァルド銀河帝国は、行けなくなっているコロニーがあると言う噂や」
「ちょっと待って、それなら、私たちがこのルーナ・ベータに辿り着けたのは奇跡のような物なの?」
直美が驚いて尋ねた。
「そんなわけあるかいな。ワイが保持していたルミナス・チャートを使ってるから来れてるんや。とは言え、今回のように割と近場を巡航速度以下でトロトロ走るんなら、無くてもたどり着けるけど、軍事行動は厳しいな」
「私が持っていたのは、父が持っていた物だとしても、帝国の母星であるペルデギウスにも当然保管していましたわ。それはどうなったのかしら。それを手にすれば、ヴァルディス銀河帝国のルミナス・チャートも手に入るはず……手に入らなかったのなら、お母さまかお兄さまが破棄したんだわ!? 敵の手に渡らないように……」
実際に何が起きたのかは推測の域を出ないが、セレナは事態を確信したようだった。
「ねえ、二人とも。何となく、そのルミナス・チャートと交戦記録が今のノイ=ヴァルド銀河帝国にとって、喉から手が出るほど欲しいし、下手に利用されたらマズイ情報ってのは分かったよ。それで……このコロニーに入る時、セレナの名前を言ってしまったけど大丈夫なのかな? だって、セレナは死んでいる事になっているんだよね」
「「……あっ!!」」
セレナとタブレットから流れるオオサカの声が重なった。
「確かにマズイなぁ。ノイ=ヴァルド銀河帝国からすると、皇女ちゃんがルミナス・チャートや逆賊の証拠を持っているか、知らんでも、余計な口は塞いでおいた方が、ええって判断するかもな。と、とにかく、売れる物をとっとと売って、必要な機材を買って、早めに出よか!!」
貸しドックが立ち並ぶ湾岸を一歩ばかり裏通りに入ると、そこはジャンクヤード、多くのジャンク屋が立ち並んでいる。辺り一面、腐臭と油の混ざった独特の空気に包まれていた。
直美とセレナは、何に使うのか分からない機材を並べている店先を見て歩く。
ブラブラと歩く二人の目に留まったのは、ジャンク屋ゴールドラッシュ。
店先には、無精ひげにオイルまみれの作業着という典型的な“裏通りの住人”といった風貌の親父さんが、一人でせっせと商品を磨いていた。
「このお店、他の店よりも商品が綺麗に陳列されているね。私、この店に声をかけてみようかな」
「そうですわね。私も良いと思いますわ。商品を大事にする人の方が、商売人としては良い人のような気がします」
「あの、すみません。こちらはジャンク品の買取も行っていますか?」
「ん? ああ、やっとるよ。お嬢さんたち……お使いかい? ただ、ここは宇宙船関係の物しか扱ってないからな。日用品やら美術品などは買い取らんぞ。そういう物は、もっと中心部に近いところ――」
「あ、いえ、いえ。宇宙船関連の物です。ただ量が多いので、直接見に来てもらうことになりますが」
セレナを見たからか、親父さんはお屋敷などで出た不用品の買取の店を勧め始めたので、直美は慌てて遮った。
「ほう、お嬢さん方が宇宙船のねぇ。それで、大量とはどれぐらいだ?」
直美は何か無いかとあたりを見渡した。
「あ、あのトラックでいうと二杯分ぐらいです」
「あぁ? あのモスグリーンのトラックか!? 多いな、それは大仕事だな。ただ商品にもならんゴミなら買い取る事は出来んぞ。何はともあれ、一度見てみないことには話しにならんな。物は何処にあるんだ? ……ああ、貸しドックか。良し分かった。それじゃ、今からワシが見に行ってやる。案内してくれ」
そう言うと、親父さんは店の中に入って行くと、若い人を連れて戻って来た。二人の風貌や、時折聞こえてくる会話から、親父さんの息子のようだった。どうやら店番を彼に任せて、親父さんが物を見に来てくれるようだ。
直美とセレナは、親父さんを連れて借りているドックまで戻って来た。
貸しドックには大きく分けると二種類あるようだ。一つはオープン型と呼ばれる屋根も壁も無く、直美の感覚では駐車場に似ていた。
もちろん、ドックと言うだけあって、修理工具や重い物を吊り下げるためのクレーンなども備え付けられている。もう一つが、今回、直美たちが借りているクローズ型だ。こちらは大きな倉庫のようになっており、すっぽりと船を入れて作業が出来るようになっており、大規模な修理やオーバーホールなどに適している。もちろん、賃料も高い。
「なんとまぁ、年季の入った船だな。こいつは、二百年ほど経ってるんじゃないか? これ、ほんとうに飛べるのか?」
ジャンク屋の親父さんはびっくりした顔をしながら、グリムリーパーの船体を優しく撫ぜた。
「飛べはしますが、メインエンジンも駄目だし、酸素生成装置も駄目になっているから、それ修理か換装したいんですよね」
「エンジンなぁー。この船は何のエンジンを積んでいるんだ?」
「テルマス=ヴァルディック社製のVA-200-TT型熱融合炉“ヘルハウンド”よ。圧縮ピストンが駄目だし、第六次反応制御リングも割れてるわ。炉内もデブリが冷え溜まっていて取れないし……」
直美はサラサラとエンジンのメーカーと型番を答えた。墓場で散々探し回ったのだ。酸素生成装置とエンジンについては完全に覚えている。
親父さんの目つきが変わる。直美の言葉に、技術屋同士が分かり合える。何か“マニアックさ”を感じたのかも知れない。
「はぁぁ、そりゃ丸ごと換装した方が早そうだが……ピストンとリングなら何とかなるぞ、正規の方法じゃ無いが、オーバンツァイス重工のNRX-99用のを少し加工すればいけるはずだ。お嬢さんなら出来るんじゃないか、どうだいやってみるか?」
「NRX-99って重巡とかに使うデッカイ奴よね……おじさんの店に部品あるの?」
直美は記憶の中から、該当のエンジンを思い出した。
「おお、あるぞ。長い事、売れ残っていてな。爆発したエンジンから使えそうな部品だけ取ったのは良かったが、その部分だけ欲しいって客はなかなか居なくってな、邪魔になっていたんだ。使うんならタダでやるぞ」
「本当!! それは嬉しい。デブリの所為で燃焼効率は悪いけど、ピストンと制御リングさえ直れば動けるからね。補助エンジンだけよりもずっと安心だよ」
直美は嬉しくなって、親父さんの手を取った。
「お、おぅ! ただ、加工は自分でするんだぞ。ここの機械があれば出来ると思うからよ」
親父さんも若い子に手を握られ、満更でもないようだった。
「じゃ、いっちょ持って来るよ」と言って親父さんは帰りそうになる。
「ああ、ちょっと待って、先に買い取り品を見て行ってよ~」
直美が慌てて、親父さんに声を掛けると、親父さんは後ろ頭をかきながら、戻って来た。
「すまん、すまん。何しに来たか忘れとった」




