君は特別
「ここに来て優真さんに会えて良かった」
「……!!」
そう田見さんに言われて顔が熱くなった。
でもそれはここ最近……特に淡浜フェスの準備が始まってから気がついていた。
俺もちゃんと言おうと言葉を考えるけど、田見さんほどストレートに言葉が出てこない。
手を開いたり、閉じたりしながら、
「……俺も。田見さんといるのが一番楽しいわ」
と答えた。田見さんはふにゃああ……と笑顔を見せて「嬉しいです」とお茶を一気に飲んで、
「次は花火大会の会場設置ですね。あのお茶を一本買って行っても良いですか? 昨日作業しながら思ったんですけど、淡浜の日差しがちょっと厳しくて」
「田見さん帽子かぶってないからだと思うよ。ちょっとまって」
俺は星野酒店に入って大きな麦わら帽子を持って来た。
これは明日海が配達のときに被っているものだ。
それを田見さんの頭に乗せて、顎の下でリボンを縛る。
淡浜の強風でも飛んで行かないし、つばが広く日陰が大きく取れる。
田見さんはアゴを持ち上げて、俺がリボンで縛るのを待っている。子どもみたいで面白い。
縛るとパッと顔を下げて俺を見て、
「どうですか!」
「淡浜っ子になった。これ淡浜の海の家で数年前まで売ってたんだよ」
「欲しいです、今は買えないんですか」
「もう引退したおばちゃんの手編みなんだよな。でも親が知り合いかも、聞いてみるわ」
「欲しいです、軽くて快適、すごいです、それに赤のチェックのリボンが可愛い!」
そう言って田見さんは顎の下のリボンをキュッ……と引っ張った。
もう俺の前では裏声ではなく、まっすぐに地声で、表情をクルクル変える姿を見て、これが本来の田見さんなんだろうな……と安心する。
淡浜の花火会場に向かうと、有坂と芝崎さん、それに生駒らしき人もいた。
なんで「生駒らしき」……かというと、田見さんと同じ淡浜麦わら帽子、それにサングラス、鼻から首にかけて黒い布、そしてハイネックの黒に、袖までぴっちりした服に、足首の一欠片も見えないような長ズボンを穿いていたからだ。
「髪の毛の色とメンバーで察するに生駒……だよな?」
「はろー、優真! やっと会ったね! 私昼間仕事したくなくて、ぜーーんぶ夜しかしてなかったけど、今日は花火みたいから昼間働く! でももうアホなのこの日差し? 信じられない、無理」
椅子を3,3で持って来た田見さんは生駒さんを見て頭を下げて、
「おはようございます!」
「田見さんじゃん~~。昨日の曲聞いてたよ~~。才能の塊ってやつ~~?」
「あっ……、ありがとうございます! 頑張りましたっ……!」
そう言って田見さんは頭を下げた。
俺たちは「暑い」「重い」「地獄」と文句を言いまくりながら椅子を延々と運んだ。
近くの砂浜にちょっと並べる程度なら良いけど、今年から高台にも椅子を並べるので、それがあまりにキツい。
有料席が3500円で、高台のS席が5000円らしい。1500円の重み、1500円か! と言いながら椅子を運ぶと、高台に設置されはじめていたミニ屋台に、
「こうちゃん~~~~! みなさぁ~~~ん! ここに冷たいお茶ありますよお~~!」
「げっ?!?! トーコさん?! ちょ、マジで無理、ダメダメダメ、なんでここにいるんですか、店は?!?!」
有坂のお母さんと言う名のすごいお姉さん……の透子さんがいた。
今日もTシャツに張り付いた身体の形がちょっとすごい……。
有坂は椅子を放り出して駆け寄って、
「ここにも店出すんですか?!」
「そう。ここ上客が来るから2500円の寿司出すの。7割予約で売り切れてる」
「すごいっスね、去年はここ無かったのに、会長に売り込んだんですか?」
「会長うちの常連だし~~。あ~~みなさん、こうちゃんの母です~~」
こっちに向かって楽しそうに手を振る透子さん……俺と田見さんは目だけ移動させて生駒を見る。
生駒は般若のような顔をして、ズカズカと透子さんに近づいて、
「はじめまして、生駒と申します。有坂浩介くんとお付き合いをさせて頂いてます」
「もう別れただろ?!」
「いえ、復縁予定です」
「はあ?!」
「あっ、この前優真くんが話してくれた女の子かな。か、可愛い~。お目め、ぱっちり! こんなに全身隠してるのにメイクだけ崩れてないのすごいわね。え~~、その上着汗逃がしてひんやりするやつでしょ? 楽? 暑くない?」
「あっ……はい……」
「やだ、爪めっちゃ盛ってるじゃん。これ自ネイル? え、可愛い~~! こんなに可愛くして椅子運びなんてバカみたい。そんなの男にやらせて、こっちでお店しましょう~!」
「あ、はい」
透子さんは一瞬で生駒の毒気を抜いて、お店の中に引っ張っていった。
ふたりを追って有坂が「ちょっとちょっと!!」と叫びながら付いていく。
さすが有坂寿司でトップを仕切る人……生駒を掌の上で転がすなんて余裕か。
俺の横で芝崎さんが、
「あの人、有名だよね。有坂寿司に来た有名人に岬ホテルのVIPルームを紹介してくれるから、岬ホテルも有坂寿司の出前入れ始めたって聞いた」
「有能だな」
「お姉ちゃんがうちのホテルに来てほしい~って言ってた。マフィアの愛人でメチャクチャ良い大学中退してるって聞いたけどネタかな?」
「あり得そうで怖い……」
俺の横で田見さんが目を輝かせて、
「マフィア……ビルから飛び降りて高速にダイブするやつですね!」
芝崎さんは静かに、
「それトムクルーズじゃん?」
俺はそのやり取りを聞いて爆笑してしまう。
俺たちは透子さんが怖いので「椅子のがマシだ」と本部テントに戻って、ひたすら椅子を運んだ。
田見さんはやはり体力が違う。芝崎さんが疲れてお客さんの誘導に移動してからも、笑顔で椅子を3,3運んでいた。
体力がすごすぎる。
「圧巻ですっ……!」
「これ全部5000円だからな」
「行きますよ優真さん、5000円、5000円、5000円……!!」
「うおおおおお」
俺と田見さんは並べた椅子を「5000円!」と雑巾で拭きながら叫んで移動した。
淡浜から少し上った高台に並べた椅子の数80。田見さんと下品な計算をしながら笑った。
昼すぎてそろそろ花火目当てのお客さんたちが来ているように見える。
田見さんはスマホのアラームを確認して立ち上がり、
「そろそろ星野酒店でお着替えして、お客さんの誘導に向かいますっ!」
「おっけー。俺も少し休憩したら戻るわ」
「はい、あとで!」
そう言って田見さんは星野酒店のほうに向かった。
俺は有料席に座って海を見ながら息を吐いた。
この席すげーキレイに花火見えるだろうな。しかし5000円かー……安いのか高いのかわからん。
俺がお茶を飲んでいると、前から大波が来た。
「優真、姿が見えた~」
「大波。おお、特注カラー」
「えへへへ。可愛いでしょ? 本部だけの特注カラー」
俺の所に来た大波は、淡浜グランドホテルの作務衣を着ていたが、それは他の人とは違う全体が淡い青色で、真っ白なリボンのものだった。
大波は立ち上がってクルリと回り、
「可愛い?」
「似合ってる。良かったな、中学の時からの夢が叶って」
「ね、嬉しい。でもこれが一歩目。今年ここまで関わって問題点が山ほど見えたし、やってみたいことも分かった。昨日のライブ、まっじで最高だった。あのスマホを振るの、何~~? 優真たちが決めたの?」
「いや、ONEさんがあの場で思いついたって聞いたよ。すごかったよな」
「昨日偶然新聞社の人が取材にきてて、あのライブを上から撮影したんだよ、ほらほら。この写真バズってるの!」
大波が見せてくれたのは昨日のスマホを振って歌った会場を少し高台から撮影したもので、幻想的な雰囲気になっていた。
そしてその写真は新聞社のSNSにアップされて、かなり拡散されているようだ。
大波は目を輝かせて、
「音楽のスタンプラリー、評判良くて、お父さん来年もしようって言ってくれたよ」
「おお、来年も出来そう? 良かった」
俺は拍手した。
田見さんすげー喜ぶだろうな。
でも田見さん、規模が大きくなると絶対怯えるだろうな。映像も来年もやるって分かってるから一年かけて準備してもいい。
音楽もまた浮遊0さんとカルマさんと作るんだろうな。
一年あるからゆっくり曲も作れるだろうし、撮影もアニメ研究部∞で行きたいな。
さっそく田見さんにLINEしようとスマホを取り出すと、大波が俺の手をスマホごと握った。
そして俺をまっすぐに見て、
「優真が好き」
「大波」
「私はこれから大変な道を歩く。たぶんかなりしんどい。私が目指す高みは淡浜を、この一帯を一大観光地にすること。本州で飛行機に乗らずこられる最高の砂浜をもっと有名にしたい。そしてこの場所をキレイに保ちたい。それはお金がないと無理。両立は難しい。敵も増える、現時点で規模が大きくなりすぎてるって言う人が出て来ている」
大波は椅子から立ち上がって、
「淡浜のスペックはこんなものじゃない。青島だって必ず観光協会に入れる。したいことが山ほどあるの」
そう言ってクルリと振り向いて俺を見て、
「……でもすごく怖い、したい事の壮大さと、私が釣り合わない。優真が近くにいてくれたら、優真が話を聞いてくれたら、私は頑張れる。だから私の彼氏になってほしい。ただ私の横にいて、話を聞いてほしいんだよ」
大波は真っ直ぐに手を差し出して言った。
俺は座ったまま大波の手を引き、優しく握った。
「応援してるけど、好きかと言われたら違う。それに好きじゃなくても大波を支えるよ。いつだってここにいる」
「やだやだやだやだ、何かあったら一番に話を聞いて欲しくて、何かあったら最初に思い出してほしい、夜中に文句言いたいし、甘えたい、優真には甘えられる。優真以外には出来ない。私、頑張り屋さんすぎるんだから!!」
頑張り屋さんすぎる……それは的確に大波のことだ。
「確かに。でもその頑張りを『好き』『嫌い』で支えるのは間違ってないか。好きだから支えるんじゃなくて、嫌いだから辞めるんじゃなくて、応援してるよ」
「分かった、間違えた、仕事があーのこーの言って卑怯だった、そう言ったらオッケーしてくれるかも、って思った! 優真が好き。優真がいいのーーー!!」
大波はついに声を荒げて叫んだ。
俺は座ったまま大波の手を優しく包み、
「俺は好きな子がいるみたいだ」
「……田見さんだ」
「そう。スタンプラリーが来年も出来そうだと聞いて、真っ先に田見さんに連絡しようと思って今スマホ取り出した。何かしよう、何かあった時に、真っ先に思い出すのが田見さんなんだよな。この事を話したら田見さんどういう顔するかな、なんていうかな、そればかり思う」
「くっそ……酷い男だよ、私が持って来た話を好きな子にするってワクワクするなんて……」
「あ、ごめん」
「くっそ……あーーーん、優真に優しくされる一番の女の子になりたかったのにーーー!」
そう叫んで大波は俺の手を振り払った。
そして俺を睨んで、
「後悔するよ。私ボスになる女だし」
「おお……カッコイイ」
「あの時OKしとけば逆玉だったって、泣いても遅いんだから」
「何でもするよ。来年のスタンプラリーも、なんだって。俺にできることなら何でも手伝う。本当に淡浜のことを盛り上げようとしてる大波を応援してるんだ」
「二番目に優しくするなーーー!!」
「いや、本当にすごいと思ってるし、ガチで応援してる」
「くっそーーーー!! もうボスになって蜂谷ラーメンをこき使ってやる!!」
「大歓迎だ」
話しながら、明確に自分の気持ちが見えてくる。
何を聞いても田見さんにまず伝えたいと思う自分がいる。
スタンプラリーを来年も出来そうだと聞いたら、どんなに喜ぶか。
それを想像するだけでソワソワする。それを直接伝えて、顔をみたいと思う。
たぶんこれが俺の「好き」……「特別」なんだと思う。
大波は髪の毛をキュ……と縛って顔を上げて、
「後悔して泣かせてやる」
「かっけーって言ってるんですよ、それが」
「よし、行く。じゃあ後で」
そう言って大波はさっきは繋ごうと俺に見せた掌をグーに握って俺に見せてきた。
俺も掌をグーに握って大波のその掌にぶつけた。ゴツンと強くぶつかった塊の向こうに見えた大波の表情は強くて。
マジでカッコイイな……と思った。
「えっへん、おっほん。どうでしょうか、私が完璧にメイクさせていただきました」
「……なんだかどうにも盛りすぎでは……と思うのですが……」
「……いや、良いけど……仕事するのにそこまで盛る必要は無い気が……しなくもないけれど……?」
「女の子は盛るのがお仕事です~~~!!」
そう言って明日海は田見さんのかんざしの位置を直した。
花火大会が始まる。それに会わせて女子の案内係はみんな淡浜グランドホテルの作務衣に着替えた。
淡いピンクに波の白。そしてふわふわとしたピンクのリボンが揺れている。
なにより明日海が田見さんをヘアメイクしたみたいで、メチャクチャ可愛く盛ってきた。
ツインテールにさしてあるかんざしは波のように青くて揺れていて、鈴がついている。
金色のキラキラしたラインが動くたびにキレイで、なにより前髪横に付けられたイチゴ柄のピンが可愛い。
先が巻かれた長い髪の毛がリボンと同時にふわふわと揺れている。
メイクも盛りに盛られて、田見さんに淡い黄色のアイシャドーが塗られていてキラキラ輝いている。
普段塗ってない口紅も明日海によってツヤツヤするように塗られていて……、
「仕事するのにここまで必要か?」
「最終日に女子がするお仕事は可愛くすることです~~~」
「俺たちはビール運びだけど?」
「あの、どうですか?」
田見さんがイヤリングに触れながら俺を見た。
さっき気持ちを自覚したのもあって、強烈に意識してしまう。
いやいつも通り、さっきと同じようにひねらずに……、
「いや、可愛い……と、思う」
「! 良かったです。えへへ……明日海さんにやり過ぎなんじゃないかって言ったんですけど、最終日は盛るの! と言われまして……」
いや去年ここまで盛ってたか? と思うけど、去年の事なんて何も覚えてねえ!
俺が戸惑っていると、田見さんと明日海は、芝崎さんと生駒……生駒?! さっきの全身ガードを脱ぎ捨てて誰より盛っている。
その後ろにその100倍盛ってる透子さんがいて、もう何も言うことない……と俺は思った。
それに透子さんがボスみたいに女子を全員引っ張っていて、透子さんがいれば悪いことする男はいなさそうだと安心した。
「おおおお……始まるね、さあ頑張ろうか!」
「はいっ!」
透子さんに連れられて女子たちは案内係を始めた。
席が細かく分かれる淡浜の花火大会は、それぞれの席に向かうために色んな方向からお客さんがくる。
その人たちを誘導するのが案内係の仕事だ。
俺たちは注文される商品を作っている屋台のヘルプだ。
花火が始まるまでが勝負。屋台の人たちに出されるヘルプを聞きながら延々と運んで仕事を続ける。
そして花火が始まる19時になる頃には淡浜はすっかり暗くなり、お客さんたちも着席、案内係の女子も、屋台もお客さんが落ち着いた。
俺たちは広めの道路に集まった。
ここから花火がすげーキレイに見えるけど、花火が始まって道が通行止めにならないと座れない場所で、働いた学生たちのための場所だ。
飲み物が配られて、一緒に有坂寿司の稲荷も貰った。はらへったーーー。
明日海は座り込んで、
「うぐうう……疲れた。今年はお客さんが多いなーー。去年の二倍はいる」
芝崎はお茶を一気に飲み、
「岬ホテルも予約マックスだよ。去年は数部屋空いてたのに」
生駒はメイクを直しながら、
「若い人が多くない~~? 私100人くらいにナンパされちゃった」
有坂は地面に転がったまま、
「もう無理だ。これ以上稲荷寿司見たくもない、死ぬほど疲れた」
田見さんは俺の横で、
「楽しみです~~~、淡浜の花火、はじめてみます~~~」
俺はお茶を飲んで、
「まずは青島からくるよ、すこし高台に行こう」
はじめて見るなら、ちゃんと見せてあげたい。
集団から離れて少し高い縁石の上に田見さんと移動する。
見上げた瞬間に青島方面から、ドン……と大きな花火が上がった。
はじまった。
淡浜全体を使って行われる花火大会は毎回ものすごく豪華だ。
音楽に合わせてテンポよく色とりどりの花火が上がって気持ちが良い。
横で田見さんは拍手をしたり、歌いながら、楽しそうに花火を見ている。
俺は田見さんの方をみて、
「さっき大波に会って、来年もスタンプラリー出来そうだって」
「?! 本当ですか!」
そう言って田見さんは今まで見たことないくらいパアアアと笑顔になった。
同時に大きな花火が上がって、その上気した頬を美しく見せる。
俺はこの笑顔が見たかったんだよな……とシンプルに迷い無く思う。
田見さんは「わああ、わあああ、嬉しいです、本当に嬉しいです、やったーーー!」と両手を挙げて喜んだ。
俺はその笑顔を見て、田見さんの手を柔らかく握った。
田見さんが「!」と俺のほうを見る。
俺は田見さんをまっすぐに見て、
「来年も出来ること、真っ先に田見さんに伝えたいと思ったんだ」
「嬉しいです、ありがとうございます……!」
「……俺、最近何かあると、田見さんに真っ先に話したいと思うようになったんだ。それを聞いて田見さんがどんな表情するのか見たいと思う」
「っ……」
「田見さんがどういう言葉でそれを言うのか毎回思うし、それが面白いと思う。だから何をするにも田見さんと一緒にしてみたい。そう伝えたいと思った」
俺がそういうと田見さんは俺の手をキュッ……と強く握り返してくれた。
何か言っているように口が動いているけど、花火の音で何も聞こえない。
俺は田見さんのほうに顔を近づけて、
「俺のなかで、田見さんは特別。淡浜フェスで、その気持ちに気がついたんだ。俺全然分からないけど、恋ってのを始めるなら、田見さんとしたい」
田見さんはボロボロと涙を流し、花火の音に必死に抗うように声を出して、
「優真さんがそうやって、いつだって私を認めてくれるから、やっと私は、私を好きになれたんです。私がやっと好きになれた私は、優真さんが大切にしてくれたからできた私です。その私が、優真さんを大好きだって言ってます」
あまりに田見さんらしい告白の返事に、俺は嬉しくなり、田見さんの手を腕ごと引き寄せた。
田見さんは俺に腕にしがみ付いて、ふにゃあ……と甘く微笑んだ。
……ヤバ。すげー可愛いんだけど……。
花火大会は大盛況に終わり、俺たちは夜空に向かって大きく拍手した。
大成功の淡浜フェスが終わった。
「……お兄ちゃん、どうかな」
「清乃最高だ。お兄ちゃんのお金でスカート買ってくれてありがとう……」
「まーにい、邪魔!! ていうか、もう家出ないと仕事間に合わないでしょ?!」
「今日は有休」
「キモ……。じゃなくて、お兄ちゃん、どう?」
俺の前で清乃は制服を着て笑顔を見せた。
8月29日、今日は春岡中学校通信部の始業式だ。
通信部は俺たちの始業式より数日はやく始まる。普通校の生徒に会わないように……という配慮だと思うけど、ゆっくり清乃の制服姿が見られて嬉しい。
「……似合ってる。これが本当の清乃の制服姿なんだな」
「えへへ。良かった。今日はなんと市川さんが家まで迎えに来てくれるんだって。だから私、市川さんと一緒に学校いくね」
「終業式、一緒に行っといて良かった~~~」
なんと怪獣のぬいぐるみを作ってくれた市川さんは、うちを通って学校に行くルートのようで、一緒に行こう……と夏休み中に打ち合わせしたようだ。
淡浜フェスで流れた映像も見てたみたいで「自信に繋がった」と言ってくれた、良かった。
チャイムが鳴り、清乃は靴を履いて玄関に立った。
そして俺たちに振り向いて、
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺と兄貴と母さんと父さんは玄関に立って、家から出て行く清乃を見送った。
あんなに重くて開かなかった玄関が清乃の手で開いて、清乃はピンク色のスカートを揺らして出て行った。
はじまりの日、おめでとう清乃。
清乃が学校に向かって数分後、実は家の近くでこっそり見ていた田見さんからLINEが入った。
『良かったですねえええ……!』
『ふたりで出かけない?』
『いいですね。どこに行きましょうか』
俺はスマホをポケットに入れて外に出た。
俺はずっとどこか、ひとりぼっちの田見さんを助けてあげたいと思っていた。
でもきっと助けられたのは俺のほうだと気がついた。
そうやって君とずっと。
(終わり)
「可愛い」「好き」だけではじまらない、色々抱えた男の子と女の子が、出会ったことでゆっくり色々解消して
自分中心である「恋」というものに気がついていく話を書こうかな~、ボカロ好きだからそれを使って……と書き始めた話です。
どうでしたか。評価と一言でも良いので感想を頂けると、次作の励みになります。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




