君に添える花
暗い淡浜に浮かぶ無限のスマホのライト。
みんなそれを手に持ってゆらゆらと揺らしている。
そこから田見さんたちが作ったスタンプラリー用の曲が流れはじめた。
そして俺が作った映像が、淡浜フェスの巨大モニターに映し出される。
「!!」
そうか、この曲をライブで扱って貰えてうれしい……と思ったけど、映像も流れるのか。
自分が作ったものを、こんなにたくさんの人たちが同時に見る……そんな経験ははじめてで、鳥肌が立った。
淡浜に置くスタンプラリー用の映像……それはもう、淡浜の映像だけで良いだろう、俺はそう決めてこれを作り始めた。
俺はずっと淡浜に住んでいる。
小学校、中学校、そして今もずっと淡浜にいる。
そしてアニメを作るのが好きだから、背景によくこの淡浜を使っている。
だからもうかなりの量の淡浜の映像や写真がある。
昔からアニメの背景に写真を使うのはよくあることで、映像のストックとして取ってあるのだ。
俺はこの映像を作るために、昔のHDDを紐解いて、写真を探した。
流れ始めた映像を見て、俺は頭を掻く。
……そういやこの写真を使ったんだった。
最初に出て来たのは、母さんが撮った俺だった。
どうして俺のHDDに母さんが撮った子どもの頃の写真が入っているんだろう……と思ったけど、それは写真をスマホで撮影したものだった。
小学校の時に「子どもの頃の写真を持って来てください」と言われて、母さんに聞いた。
そして出てきた写真をスマホで撮影したのだ。
幼稚園だろうか。黄色の帽子を被った俺が、淡浜を走っている。
次は小学校の時に遠足で来た淡浜、はじめて手伝った淡浜フェス……それにはかなり若い頃の自治会長が写っていて、それをこっそり入れた。
こんな風に舞台で大きく流されるなら、プライバシーにもうちょっと配慮したのに……と見ながら笑ってしまう。
正直映像なんて誰もみないだろうと思って、淡浜関係者のプライベート写真満載にしてしまった。
小学校の社会見学で船に乗り、淡浜周辺を移動した時のもの。
淡浜で友だちと凧揚げしている俺。髪の毛がグシャグシャで妖怪みたいだと笑われた。
淡浜でしていたビーチバレーに飛び入り参加したけど、まったくどうにもなってない俺……これを撮影したのはきっと明日海だ。
座って海をみている清乃……これを撮ったのはきっと父さんだ。この頃、父さんは清乃を外に出そうと躍起になっていた。
横に座っている母さんは若くて、それでも今より疲れているように見える。
清乃の手術が終わって退院してきたばかりの頃だな……と少し心が痛む。
気分を変えるように、砂に埋められていく今はもういない同級生が映る。
学校の朝行事で淡浜の掃除に召喚されて、掃除している写真、透明なクラゲをトングで掴んで投げている。
朝日が昇ったばかりの早朝。
学校にいく時にみる船がいる朝、漁師に手を振る俺。
テスト終わりにコンビニでスナックを買って淡浜でお昼を食べている俺たち。
夕方の美しい空と、泳いでいるトライアスロンの人たち。
丸い月と、深夜の淡浜、花火を持つ清乃の笑顔。
どのときも、俺は淡浜と共にいて、撮影していた。
そして季節。
春には桜が見える所から撮影して……ああ、これはアニメのオープニングに使った。
夏はとにかく淡浜フェス。毎年たくさん写真を撮るから、それを使った。
秋冬は寒くてあまり写真がなくて、たまに凧揚げをしている。
音楽がサビになるころには、最近の写真になった。
淡浜を歩いていたら、穴を掘っていた田見さんに会った。
あまりに面白くて、その姿を遠くから撮影したんだ。見事な月と、宇宙にたったひとつしかないみたいに輝いてみえるコンビニ。
俺はお茶とファミチキを持っていて、田見さんはスコップを持っている。
変な写真すぎる。俺が少し笑うと、横でスタンプラリー用の曲を聞いていた田見さんが俺のほうを見て、
「……これ。いつのまに撮影してたんですか」
そう言った田見さんの目からは大粒の涙が流れていて、俺は慌てて首にかけていた淡浜フェスのタオルを田見さんの首にかけた。
田見さんは泣きながらスタンプラリー用の曲を聞いていたけど、俺のタオルで顔をぐいぐいと拭いた。
そして力が抜けるようにパタンと座った。
その横顔があまりにキレイで、俺は横に座って背中を撫でる。
座ると更に真後ろのスピーカーから音が襲いかかってくる。
揺れるような音を背中から感じる。みんなが手に持って振っているスマホの光が美しい。
俺はどこか撮影をする、映像を、アニメを作りたいという気持ちが強すぎて、この絵を空から撮影したいと思っていた。
歌うONEさん、舞台に向かって光る無限の光、そこから流れるスタンプラリーの曲……じゃない、どうやら今日田見さんがタイトルを決めたみたいだ。
俺は田見さんの横に座って、
「……真夜中のダイナソー。良いタイトルだね」
泣きながら舞台を見ていた田見さんは俺の声で少し落ち着いてこっちを見て、
「……実はアニメ研究部∞の時に、清乃ちゃんが海から怪獣が来る話を考えてくれたじゃないですか。それもどこか頭にあったんです」
「そうなのか。いやうん、すげーいいな。……あ、ヤベ。俺完璧なことしちゃったかも」
「……え?」
「こんな風に舞台で流れると思ってなかったから……やば、ちょっと恥ずかしいかも……」
俺は砂浜にお尻を着けて丸まった。
サビが終わり、映像は続く。
高校に入ったタイミングでスマホを新しいものにしてもらえて、毎日持ち歩けるようになったので映像が増える。
淡浜の早朝の動画が多い。俺は少しでも早く家を出られるときは淡浜を撮影してから自転車で学校に向かう。
田見さんから借りたスタビライザーを借りて、淡浜を撮影したこともある。
田見さんはそれを見て、
「あっ、私が貸したスタビライザー……」
「そう。ここまではいい、ああ、このまま終われば良かった……」
そして音楽が終わり、エンディング部分になった。
最後の映像は……、
「えっ、あの怪獣のぬいぐるみ!」
「そう。可愛かったから清乃と海で撮影したんだよ」
「良いじゃないですか、あっ、サクラちゃんっ、これ清乃ちゃんがココスに行った時に持ってたやつです」
「そうなんだよね、清乃が大切にしてるぬいぐるみで……ううう……」
俺は恥ずかしくて座り込む。
画面手前に置かれた怪獣のぬいぐるみ……これはアニメ研究部∞の作品を見てくれた子が作ってくれたものだ。
ひとつ頂いたのを清乃はすごく大切にしている。その横に置かれたサクラちゃんのぬいぐるみ。
風に吹かれてコテンと落ちる。俺はそれを横にしっかりと戻して、ふたつを横向けてキスさせた。
そして画面上部に大きなピンクでハートを描いて『だいすき』……にしたんだ。
会場からは大きな拍手と歓声が響き、舞台上ではONEさんとカルマさん浮遊0さんが手を振っている。
うわあああああ……なんでそんなぬいぐるみ同士をキスさせて『だいすき』とかファンシーな文字を出してしまったのか。
これを作ったのは最後で徹夜のテンションで、頭おかしくなってた、はずかしいうわああああ……!!
砂に埋まって隠れてええええと思ったら、俺の横にチョコンと田見さんが座って、俺の手をギュッと握り、
「すっっごく素敵ですっ!!」
「いや……田見さんが悪く言わないのは分かってるんだけど……いや……これ完全な深夜テンションで、こんな大勢の人に見られると思ってなかった……」
「あの、怪獣のぬいぐるみを使う所も、その横にサクラちゃんを使う所も、すっごく優真さんらしいですっ」
「うう……」
俺はどう言われても何だか恥ずかしくて頭をかく。
すると俺の手をグイと引っ張って、田見さんはまっすぐに俺を見て、
「大変だったんです、スタンプラリーの曲を三週間で作るの。はじめてのことばっかりで分からなくて、はじめての人もたくさんで、大変だったんです」
「……うん」
「でもその大変な思いして生み出した子どもに、すっごく素敵な服を着せてもらって、すっごく素敵なご飯と、お家を準備してもらったような気持ちになりました」
「……そっか。うん、なんかそれは、したかったことかも。田見さん頑張ってたし、そうだな、手助けになれば……とは思ってたかも」
「あの怪獣のぬいぐるみが清乃ちゃんで、サクラちゃんが私……みたいな感じがして、嬉しいです。私が知らなかった応援を、今ここで、この最高の空間で見せてもらえた気がします、ありがとうございます!」
そう言って田見さんは真っ赤な目をこすって、目を細めて、ふにゃあと笑った。
なんで最後そうしたのか俺も分からなかったけど、清乃と田見さん、両方で終わりたかったのかもな……。
真夜中のダイナソーが終わり、俺たちはスピーカーの前に座って、大人たちがビールを飲みながら、最後の方は歌ってるのか踊ってるのか、よく分からなくなっていくONEさんのライブを見た。
アンコールに声を上げて、大きな拍手をして……ONEさんは大量のビールを飲みながら声を乱さず紳士的に、それでも全力で笑い、ライブを終えた。
本当に楽しかった。
会場から出ていく人たちはみんなタオルで汗を拭きながら頬を上気させている。
ビールをのんで、歌を口ずさみながら、みんなすごく楽しそうな笑顔で、それを最高だと思った。
俺は舞台の写真を撮り、お気に入りのボタンを押した。
俺の淡浜写真コレクションがまた増えた。
「……それはそうと、なかなかすごい景色だな」
感動のライブだったんだけど……会場にはビールを飲みまくった大人たちがゴロゴロ転がっている。
ライブ会場はそのまま席で飲める場所になってるんだけど、新しくビールを買った人たちが転がってる人を踏んでビールをこぼしている。
さっきまで感動で泣いていた田見さんはそれを見て、
「……死屍累々とは、このためにある言葉なんですね……」
「まあうん、楽しそうではある」
「ええ~~~」
そう言って田見さんは俺を細目で睨んだ。え? 楽しそうじゃね?
俺たち高校生組は落ちているゴミ拾いと、ビール瓶の片付けを始めた。
舞台の上ではONEさんを囲んで大人たちが飲んでいて、その中に田見さんのお父さんも見えた。
田見さんのお父さんは両手にビールを持って交互に飲んでクルクル回って転がった。
田見さんはそれをつめたい目で見て、
「……あのままあそこで寝れば良い」
「あははは!!」
俺は爆笑してしまった。
ああ、ライブ、最高に楽しかった。
「もおおおおお……お兄ちゃん、なにあれ、もう病院ですっっごく笑われた、もおおおお……!」
家に帰ると清乃が怒っていた。
どうやらフェスの映像はそのまま病院屋上に流れていたみたいで、映像に清乃がたっぷり含まれていたので、それをいじられたようだ。
酔っ払った兄貴は画面を見てめそめそと泣き、会社の人たちにドン引きされていたらしい。
今22時。ちなみに今も帰ってきてない。清乃曰く「先生たちに連れられて飲みに消えた」らしい。
俺は田見さんに言われる前だったら恥ずかしくて「ごめん」と言ってた気がするけど、なんだか自信満々になり、
「良かっただろ。あの映像」
「もおおおお……良かったけど! 良かったけども!!」
「タイトルの真夜中のダイナソーって、アニメ研究部∞で清乃が描いたあの怪獣が含まれてるんだって」
「え。じゃあお兄ちゃんはそれを知っててあの映像を作ったの?」
「田見さんがあのタイトル付けたのは今日だから、偶然なんだよ」
「え~~。そりゃすごい、何も話してないのに打ち合わせしたみたいになってる」
「そうなんだよな」
俺はお風呂に入りに行った清乃を見送って、あの映像を見返した。
何も話さなくても偶然同じことを考えていたのが、どう考えても嬉しくて。
俺はまだ熱が残る自分の手をキュッ……と握った。




