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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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その『リアル』が

「ふおおお……! スタンプラリーのアプリに、ネイロが足されてますっ!」

「何とか間に合ったよ~。いや、通常のスタンプラリーをちょっとイジっただけだけど」

「すごいですっ!」


 私は画面を見て叫んだ。

 青島に椅子を運び終えて本部に戻ると、淡浜フェスのシステム担当の、渋谷さんがいた。

 今朝10時から音楽のスタンプラリーが始まっている。どうなんだろう……誰かやってくれてるのかな……と不安だったけど、渋谷さんはパソコン画面を私に見せてくれて、


「もう80人くらいが回り終えたみたいだよ」

「!! 80人?! クラス二つぶん?!」


 私がそう言うと渋谷さんはケラケラと笑い、


「ごめん、単位が懐かしすぎる。クラスで人数数えたことないわ……いや、昔はやってたか……? とにかくもう80人は回ってる。ほら、最後の音楽の視聴者数も120越えた。これリピート含まれない換算だから、クリアした人がURLを送ってそれで聞いてる人もいるね。これはもうモラルの問題かな」

「なるほど……でもとりあえず、80人もスタンプラリーを回ってくれたのが嬉しいですっ!」


 渋谷さんが見せてくれたパソコン画面は数字がたくさん並んでいて良く分からない。

 でも全部のスタンプを回った人が80人……それは分かった。

 横にいた蜂谷さんがそれをのぞき込みながら、


「どこから来たか……とかも見えたら、観光協会がすげー喜ぶデータになりそうですね」

「細かいのはアンケート付けなきゃいけないんだけど、この規模じゃ1%以下しか答えてくれないから、有効データとして使えないんだよね。偏りまくって無理」

「へえ~」


 渋谷さんと蜂谷さんはデータを見ながら話している。

 私もYouTubeチャンネルを見てくれてる人のデータをたまに見るけど「ふうん」と思うだけだ。

 聞いてくれたら誰でもいい。

 話していたら観光協会の建物のドアがカララッと開いて若い女の子4人くらいが入ってきて、


「すいませんー。あの音楽のスタンプラリーやりたいんですけどー。これなんか読み込めなくてー」

「!!」


 私はリアルなお客さんに驚いて蜂谷さんの後ろにスサササササと隠れる。

 でもどんな人たちか見たくて隙間から見る。蜂谷さんはクスクス笑いながら、


「(この曲を作った人がここにいるって誰も思わないから、隠れなくていいのに)」

「(声が大きいですよっ……! もっと蚊みたいな声でっ……!)」

 私の横に明日海さんも来て、

「(20代くらい? OLさんとかかな。嬉しいね、田見ちゃん~~~)」

 私はどうしよもなく落ち着かなくて、明日海さんにグイグイくっ付いて、

「(はいっ……!!)」


 と何度もコクコク頷いた。

 女の人はスマホを見せて渋谷さんに質問して、渋谷さんはそれに答えていた。

 数分経つと問題は解決したみたいで、女の人たちは「ありがとうございますー」と言いながら出て行った。

 私は明日海さんにしがみついたまま、


「見ましたか?! スマホにカルマさんのステッカー入ってました!」

「サクラちゃんのぬいぐるみも付いてたよね?」

「あれ三年前の天極祭てんごくさいのものなので、結構レアですっ……!」

 私の横にいた蜂谷さんは外に歩いて行った四人を見て、

「リアルなファンが来てくれたな、すげー」

「すげーです、すげーですよ。あっ、読んで、読んでますよっ!! QRをっ!!」


 私は興奮が止まらず、すげーですを連呼した。

 女の子たちはQRを読んで「わー、出てきたー!」みたいな感じで話をして、ヘッドホンをして音楽を聞いているように見える。

 さっきまで『YouTubeチャンネルを見に来てくれてる人のデータをふぅんと見ている』と思ってたけど、リアルに遭遇すると全然違う……!!

 私は思わず、


「私が作った音楽って……ひょっとして……人間が聞いてるのかも知れませんね……」 

 蜂谷さんは身体を震わせて笑って、

「っ……! 何をそんな当たり前のことって思うけど、ライブとか出ないと、実際自分の曲を聞いてくれてる……って実感できないかもな」

「そうですよ、そうです。ただの数字といってはあれですが、ただの数字でしかないんですよ、PV数でしかなくて。でもああっ……次の所へ……! 明日海さん、蜂谷さんっ、後を追いましょう!!」

 蜂谷さんは手を叩いて爆笑して、

「刑事なの?!」

 明日海さんは笑いながら、

「さっきあんなに隠れてたのに! でも私、道の駅に行くからそこまでなら付き合うけど。てか優真も次道の駅でしょ」

「そうだけど」

「さあさあじゃあ行きましょうか!!」


 私は嬉しくて恥ずかしくて、でも私の作った音楽を聞いている人がスタンプラリーで音楽を集めているのを見たくて、自転車に跨がって四人を追うことにした。

 蜂谷さんと明日海さんは「ヤバい、尾行だ」と笑ってるけど、そんなことより興奮していた。

 別に誰かに聞かれたくて曲を作ってるわけじゃない。

 別に誰かが聞いてるという保証もない。だってただ流れているだけかもしれない。

 プレイリストを再生したら、自動的に流れているかも知れない。

 私のことを知っている? サクラちゃんが好きなだけで、私の曲を選んで聞く人なんているんだろうか。

 ずっとそう思っていたけれど、蜂谷さん、明日海さん、清乃ちゃんに出会い、少しずつ感じていた実感が、リアルになって目の前に出てきた。

 私は自転車を漕ぎながら、


「……正直、リアルに集めている人に会ったら恥ずかしくて無理……むしろヤダ……と少し思ってましたけど、全然違いますっ……こうワンワンって言いながら砂浜駆け回って穴掘りたいくらい興奮してます」

 蜂谷さんは爆笑して、

「いつもと変わらないじゃん」

 明日海さんも笑って、

「同じじゃん」

 私は慌てて、

「違います違います、もう、すっごく掘りますっ!」

 

 蜂谷さんと明日海さんは「いつもと変わらないじゃん」と笑ったけど、これはきっと『そわそわ』。

 浮ついて、空も飛べそうで、でも嬉しくて、どんな人たちが聞いてくれてるんだろうって、足が地面から数センチ浮いてるみたいな感じがする。

 私はふたりの方をみて、


「あれです、あれ。船で6時間釣りをして、地上に降りた時の感覚です」

 明日海さんは私を見て、

「あのね、田見ちゃん。普通の高校生は船に六時間乗らないの」

 蜂谷さんは真顔で、

「さっき浮遊0さんが椅子を運んだご褒美に青島で釣りするって去って行ったなー……」


 それは羨ましい……じゃなくって! 私は四人を発見して自転車を止めて隠れた。

 後ろで明日海さんと蜂谷さんがクスクス笑っている。

 もうっ……! ここで見ているのがバレてしまう。

 今まで人生でこんな言葉を使った事はないけれど……、私はふたりを見て真顔で、


「(シャラップ!!)」

「どうして英語っ……くっ、田見ちゃんダメ、面白い。倉庫行くわ、あとでね!」


 笑いが我慢出来ないみたいで、明日海さんは離れていった。

 四人は道の駅にある足湯に来た。道の駅は、ここと店内にスタンプラリーが設置してある。

 四人はまずQRを読んで音楽をゲットしてから、靴下を脱いで100円支払った。

 入り口に自販機があり、100円支払うと温泉タオルが買える。いつもは普通の白いタオルだけど、今だけ淡浜フェスの文字が入った特別仕様だ。

 四人はそれを持って足湯に入り、音楽を流している。

 おおおお……ちゃんとふたつスタンプ集めた時の音楽が流れてるーー!!

 私が興奮して見ていると、蜂谷さんはアプリを立ち上げて、


「田見さんはスタンプラリーしないの?」

「アプリのダウンロードはしてあるんですけど、淡浜のスタンプ読んでくるの忘れてました、興奮して」

「10カ所だし、係の仕事しながらだと結構大変だから……」

「あっ……蜂谷さんっ……そんなっ……!」


 話ながら蜂谷さんは四人がいるほうにトコトコと歩いて行って、普通にスタンプを読み込んで戻ってきた。

 私は蜂谷さんの服を引っ張り、


「近づきすぎですよ!!」

「別に他にもいるから大丈夫だろ。ほら、他にもきた……おお、読んでる」

「おおおおおお……!!」


 私は言われてスタンプラリーの方をみた。女の子四人の他に、地元の子だろうか……小学生がスタンプラリーだけ読み込んで店内に向かった。

 すごい、すごい……! 集めて貰えてる……! 興味を持ってもらえてる……!

 私は興奮が止められない。四人は足湯から出てタオルで足を拭いて、道の駅内に向かう。

 私も四人を追って道の駅内に入った。もうストーカーでも何でも良いっ!

 道の駅は、まだ午前中なのにいつもの五倍くらいのお客さんがいて、淡浜フェスってすごい!

 お店にも行列が出来ていて、この時間なのにお土産やさんも、明日海さんの酒屋さんもすっごくたくさんのお客さんがいる。

 スタンプラリーが設置してあるほうに行くと、


「おおおお……! 蜂谷さん、皆さんスタンプラリー読んでますよっ!!」

「はい。田見さん、これを着て変装しよう」

「はいっ……?! あっ、ラーメン屋さんの、はいっ、お手伝いしますっ……!」


 私がスタンプラリーをしてる人たちを見ていたら、蜂谷さんにスルーと蜂谷さんの家が経営しているお店のエプロンをかけられた。

 たしかにこれを付けていたら、お店の人。ストーカーしていても問題がない。

 私はエプロンを付けてスタンプラリーをしている人たちを観察した。

 若い女の子、地元の子、それに男の人たちもいる……! そうだ、カルマさんのファンは男性も多い。

 それにお年を召した方も結構いる。すごいすごーーい!

 蜂谷さんもスタンプラリーを読み込んで、流れる映像を私に見せてくれた。

 それはこの道の駅にあるお店の紹介がメインで、


「我が家のラーメンの映像が一番長い」

「それはもう、何の問題もないと思います……!」

「だろ? 俺お店のCMかよってくらい頑張って編集しちゃったよ。これで売り上げ上がったらバイト料上げて……あっ、田見さん、あの四人うちの店の食券買ってる!」

「おおおお……お仕事、お仕事しましょう、お仕事」


 私と蜂谷さんはワタワタとラーメン屋の方に行った。

 スタンプを集めている四人の女の子はみんなピリ辛メンマラーメンを注文した。

 私がこっそり見ていると、お盆を持った蜂谷さんが私を手招きで呼んだ。

 そしてお盆を持たせて、そこにお水を何個も乗せた。

 え……お水はセルフサービスでは……? それに運んだことないけど……たぶんいける! 働けますっ……!

 私は蜂谷さんに持たされたお盆にお水を乗せて、トコトコと歩いた。

 蜂谷さんは私を連れて、さっきの四人の所にきた。


「!!」

 私は驚いて蜂谷さんの後ろに棒立ちになってしまうけど、蜂谷さんは私のお盆からお水を取ってお客さんの前に立ち、

「いらっしゃいませ。音楽のスタンプラリー回られてるんですか?」

「あっ、はい、そうですー」

「ネイロが好きなんですか?」

「そうなんです、カルマさんと浮遊0さんと、それに加音ちゃんの曲も最近聞きだして。良いねって言ってるの」

「!!!」


 私はお盆を抱えて叫びそうになるけど、なんとか耐える。

 蜂谷さんは、


「そうですか、ありがとうございますー。ゆっくりしていってください」


 と言って歩き出した。

 私も慌てて蜂谷さんの後ろを歩く。

 興奮が止まらなくて、蜂谷さんのエプロンの後ろを引っ張り、


「ふおおおお……!! リアルです、これはリアルですよっ……!」

「笑う。歩きにくいって!」


 そう言って蜂谷さんは笑うけど、私は興奮しながらラーメン屋さんで皿洗いをした。

 うおおお……どんどん出てくる洗い物、無限、ゴミ箱がすぐに一杯になる、うおおお……!

 リアルに音楽を聞いてくれる人に出会えて、楽しくて、嬉しいっ……!!


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― 新着の感想 ―
コメント書きたいと思っている間に、すっかりたまってしまいました… リアルなレスポンスが嬉しい、っていうのはとてもよく判ったりします。エッセイとかに投稿すると、それが2時や3時であっても最初の一時間が…
 田見さん、今までで一番可愛いかも(^^)
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