動物園で撮影
「くそ……仕方ないけど、なんで今日なんだ……」
俺は自転車を漕ぎながらため息をついた。
今日、清乃と田見さんは橋下に制服を作りに行っている。
今日の午前中は母さんがなんとか仕事を休めそうで、田見さんも大丈夫そうということで、ずっと前から今日に決まっていた。
そこに突然大波から連絡が入って「淡浜動物園、撮影許可出たの明日なんだけど、どうかな?」と誘われた。
音楽のスタンプラリーを大波と俺たち春岡高校アニメ研究部∞でやることになり、俺は主に映像を担当することになった。
本番まで三週間弱。10カ所撮影して編集するのにはギリギリの期間だ。
渋谷さんは「URLはもう作ったから、映像は当日でも良いくらい」と笑っていたけど、それはさすがに怖すぎる。
なるべくはやく撮影だけでも終わらせたいな……と思っていたところ、淡浜動物園の撮影許可が下りた。
それが今日……清乃が制服を買いに行く日だった。
俺の横で自転車を漕いでいる明日海は、
「私もココス行きたかったよーー。でも作務衣の試作品貰えるみたいだし、まあいいかなって」
とペダルを踏み込んだ。
淡浜フェスで花火の案内係の女子は、上が作務衣みたいになってるけど、下は裾が広いパンツみたいになっていて、後ろに大きなリボンが付いている変わった服が配布される。
それは淡浜グランドホテルの従業員が着ている作務衣で、可愛いくて有名だった。ユニセックスなデザインの良さから「販売してほしい」という声が根強くあった。
その声を聞いた淡浜環境協会側がグランドホテル側と長く話し合って、今回スタッフ用に製作、販売が叶ったらしい。
女子のものは裾がピンクで可愛く、どうやら今日明日海に渡されるらしい。
明日海は自転車を漕ぎながら、
「早く出来た分を本店のカフェで着てくださいって! あの服、前閉じだから授乳中にも楽そうで、お姉ちゃん早く欲しい~って言ってたから」
「なるほど。前は浴衣みたいに縛ってるだけだもんな」
「前開きのああいう服って授乳に最適だけど、浴衣は動きにくいし、普通の作務衣は可愛くないんだよね。でもあれは可愛いし! それは早く欲しいけど、淡浜動物園は正直飽きてるんだよね……」
「それな」
俺は明日海のほうを見て深く頷いた。
淡浜動物園は、俺たち淡浜民は「もういいです」ってくらい遠足で行くので、正直飽きている。
話しながら自転車を淡浜動物園の駐輪場に停める。明日海は鍵を閉めながら、
「懐かしいな。最近全然来てなかった。え、いつが最後だっけ」
「小六のあれだろ……写生で来た気がする」
「そうだ! 私、存在しないパンダを描いた」
「お前は写生のこと何だと思ってるんだ」
俺は笑いながら、大波まだかな……とスマホを取りだしたら、背中がトンと叩かれて、
「優真と明日海ちゃん! おはよう。突然でごめんね」
「おお、大波、おはよう。いや、淡浜動物園周辺にスタンプラリーポイント、三つくらいあるから、早めで助かるよ」
「園長さんの取材日が今日でね、今日なら案内できるって言われたから、くっ付けちゃったの」
「なるほど、それで急遽だったのか。取材は淡浜フェスの?」
「そう。淡浜フェスの花火って夜からでしょ? 昼間に動物園きて、夜花火って家族連れが多いみたいでアピールしたいって」
「へ~」
淡浜フェスは三日間あり、最終日夜に淡浜で花火が上がる。
それが終わった~という感じで俺も好きなんだけど、淡浜混雑すぎて正直子どもは危ないと思う。だから淡浜動物園でみてほしいという願いを込めて、花火の日は夜10時まで営業してるみたいだ。俺も知らなかった。
俺の横に明日海が立って、
「大波ちゃん、やっほー! この前の司会すごすぎた。もう同年と思えないくらいしっかりしてたよ」
「大丈夫だった? もう私緊張しちゃって、部屋で何度も原稿読んで練習して! 色々やってみたいってお父さんに言ったら任せてくれたんだけど、もう失敗ばかりでさあ」
「偉いよー。司会とか、撮影に付き添いとか、うちにも来てくれてたじゃん、記事みたよ、ありがとうー!」
「甘酒本当に美味しかったよ。それにスタンプラリー用のビール本当に嬉しくて! 金城酒造のオリジナルビールが景品に付いてから問い合わせ増えたの」
「忠之さん気合い入れて作ったみたいだから、みんなに回ってほしいね」
「ねー! 頑張ったから、ビール売り切れくらいの勢いほしいよ~」
そう言って大波と明日海は笑いながら歩き出した。
俺たちは大波に連れられて案内所に向かい、そこで園長さんに挨拶。
どんな所を主に使ってほしいか話を聞いた。
園長さんはマップを広げて、
「実は淡浜動物園は、二年に一個、最新の遊具を入れてるんだよ」
明日海は目を輝かせて、
「小学校の時ここに写生の授業で来たんですけど、ずっとアスレチックで遊んでて何も書かなかったのを思い出しました。新しくてピカピカですごく楽しかったんです」
「動物はね、管理も大変だし命だし、飼育員の数も限られてるから増やせないけど、遊具は自信あるんだ」
そうだったのか。俺たちは「知らなかった」と言いあった。
淡浜動物園は森の一部が動物園になっているような小さな動物園で、目玉は体験ふれあいコーナー。
モルモットやにわとり、うさぎに犬がいて、目玉はフクロウだ。
鳥に力を入れていて、フクロウを腕に乗せてくれるコーナーがあり、俺たち淡浜小学校民は小学校低学年の遠足でここに来てみんな乗せている。
それ以外はやたら大きな猿山と、シカくらいしかいなくて、動物園という名前にしては「ちょっと……」と思ってしまう。
でも入園料は子ども300円で、フクロウとか様々な鳥を見られるなら……という場所だったけど、たしかに遊具が豪華だった。
遊具コーナーに行くと明日海は目を輝かせて、
「うおおおお、ターザンロープなんて前はなかった!」
俺も思わず駆け寄って、
「やばい、しかも高所から降りるタイプ。バカ楽しいやつじゃん!」
「優真押して押して」
俺たちはよいしょよいしょと高台に登った。そして明日海はターザンロープを掴んで俺の方を見た。
俺は持ったのを確認して後ろから明日海を押す。すると予想以上にすごい速度で向こう側に飛んで行って明日海の悲鳴が響く。
ヤバい、ターザンロープが楽しすぎる。
しかも足元にタイヤがあって落ちないやつ、最高上がる。
俺と明日海は交互に何度もターザンロープで遊んでしまった。
これはアピールせねばと明日海がターザンロープで移動している写真を撮った。
他にも公園では全く見なくなった回転する地球儀みたいなやつがあった。しかも進化して座る場所が付いていて、中に人を座らせて遊べるようだ。
俺たちは「やべえ!」と撮影しながら(半分以上楽しくなって普通に)楽しんだ。
「……ぜえ、ぜえ、ちょっとあれだね、かなり楽しんじゃったね」
「暑い、汗だくだ。もうこれだけ素材あったら余裕。てか全部の写真が明日海だ。お前Googleマジックで全部消すからな」
「全部サクラちゃんにしてよ~~。私って可愛いからそのまま使ったらストーカー沸いちゃうっ! てかマジで疲れた~~」
園長先生と一緒に動物の撮影もしたけど、7割は遊具で遊んでしまった。
バカにしてたけど楽しすぎる。ここは子どもにオススメだ。
「はあ~い、疲れたときにこれはどうかな?」
「えっ、大波ちゃんすっごい、なにこれ!」
「これ! 淡浜フェス前後一週間の間出す花火かき氷なんだって。ほら撮影撮影!」
「うおお、花火付き、すげえ!」
遊び疲れた俺たちの所に大波がかき氷を持ってきてくれた。
それにはアイスが乗っていて、パチパチとしたガチの花火が付いていた。
これ夜撮影すべきじゃ?! それじゃ色が分からないか……と俺は夢中で動画を撮影した。
そして溶けちゃうから食べて~~と言われて、俺と明日海は花火を手に持って、かき氷を食べた。
左手に花火、右手にかき氷。これは良い思い出になりそうだ。
明日海は食べながら、
「ん~~~。これ楽しい。よっしゃ、良い情報知った。これ真広さんと来るわ。めっちゃ良い。エモい、一緒に花火も出来てかき氷、インスタで映える、勝てる」
「小鷹さんと地味に戦うのやめろ」
「田見ちゃんも手持ち花火大好きだって話してたから、連れてきてあげたい~。てか、うちらのメンバーで田見ちゃんだけ淡浜動物園来てないんじゃない? 引っ越し組だし」
「確かに。これも喜びそうだし、なによりターザンロープに乗ってる絵が浮かぶ」
「絶対好きそうーー!」
俺たちがケラケラ話していると横で食べていた大波がかき氷を食べながら、
「田見さんって、あの音楽のスタンプラリーの? そっか、春岡高校からの編入組だよね」
「そう、四月に引っ越してきたんだ。淡浜に穴掘るのが趣味で、その前は岬ホテルまで散歩してたから、俺たちで止めたんだよな」
「危ないよね、あそこら辺り。でも最近よくなったのかな」
「うん。お守り出してからかなり良くなったって聞いてるよ」
「あの岬の適当伝説考えたのも田見さんなんだよ」
話していたら清乃からLINEが入って『ミスド買って帰る?』と店の写真が送られてきた。
俺は慌てて明日海に写真を見せて、何を買ってきてもらうか決めて、電話した。
「もしもし? 俺ポン・デ・リングと、抹茶スペシャルと、ベーコンパイと、チョコファッション。明日海がフレンチクルーラーとエンゼルフレンチとチョコリング」
『多いよ!!』
「ミスド橋下でしか買えないんだから、いいだろ。制服買えたのか?」
『買えたよ。写真送ってあげる。じゃあ買って帰るね』
「おう」
俺は電話を切って、清乃から届いたのはピンクのスカートを穿いた清乃だった。似合ってて可愛すぎる。
そしてそれを明日海と大波に見せた。大波はさっきより目を丸くして、
「えっ、清乃ちゃん、学校行けるようになったの?!」
「田見さんがネイロ好きで、それがきっかけなんだ。今もふたりで橋下で買い物してる」
「えー……びっくり……。ずっと学校行けてなかったよね」
「そう。この前終業式に行けて。まだ学校通えるか分からないけど、自分の意志で制服買いたいって言ったんだよ」
大波は両手を顔の前で合わせて、
「おめでとう……えー。びっくり。優真……良かったねえ……。すごく心配してたの見てたから……良かったねえ……」
そう言って大波は少し涙声になった。
そうだ、大波にそれを伝えてなかった。
「言えば良かったな、ごめん。ちょっと前の事なんだ」
「そっか。そうなんだ、良かったねえ……なにより優真良かったね。じゃあちょっと心配減ったんだねえ……」
「おう、減った減った」
俺は軽く頷いた。
なんだかずっと気にされてたことが気恥ずかしくて、でもきっと大波みたいに気にしてた人はたくさんいるんだろうな……と思った。
そして大波が持って来た作務衣の試作品は、めちゃくちゃ可愛くて、作業着なのにすげーなと思った。
大波は少し落ち着いて、
「田見さん多才ですごいなあ。世界変えちゃってるね」
「大波もすごいと思うけど。高校生でこの仕事量ヤバいだろ。なにより引っ越したばっかりなのに新しい環境でよくやってるよ」
俺がそういうと明日海は深く頷いて、
「いやマジで。田見ちゃんは鬼才変人の頂点って感じがするけど、大波ちゃんはシンプルに仕事ができる、すごい」
俺たちが「なあ」と頷きあうと、大波は力が抜けた笑顔になり、
「そっかな。それは嬉しいな」
と笑顔を見せて「市長でも目指すか……」と煙草を吸うふりをした。
ここまでできる大波が言うと出来そうでヤバい。
撮影を終えて家に帰ると、そこにはミスドの箱があって、俺と明日海は興奮してミスドを食べた。
やっぱミスドはマジでテンション上がる。
制服はスカートの丈直しとかあって、全部揃うのは二週間後だと清乃はドーナツを食べながら話してくれた。
一緒に買いに行けなかったのは残念だけど、憂鬱な夏休み終わりに全身着た清乃に会える可能性があるから、それは楽しみだ。
俺は清乃と、明日海をGoogleマジックで消して笑った。
消えた所に清乃はサラサラとさくらちゃんを書いて良い感じだった。
さあ、作り始めよう。




