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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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気持ちを言葉で見せるならば

「淡浜で穴が掘れないので、探した結果、ここでしてます」

「あははは……! やっぱり掘るのが好きなんだ、笑う」


 俺は大きな岩の上に座った。

 夏だから太陽の光をたくさん浴びた石は、夜がはじまるこの時間になっても温かい。

 ここは淡浜からぐるりと移動して別荘地側に入る砂浜だ。

 途中に岩場もあり、かなり奥まった場所で地元の人しか入ってこない。

 田見さんはそこの砂浜をジャコジャコと掘っていた。どう考えてもやっぱり面白い。

 大波と一緒に春岡高校に行ったら、過去と今が混ざって、妙な気持ちになっていた。

 でも淡浜奥に来たら、いつも通りの田見さんと、温かい岩の温度で少し落ち着いて波音を聞いている。

 田見さんはせっせと穴を掘りながら、


「なんと。カルマさんがスタジオに見えました」

「えっ!」

「スタンプラリー用に一緒に音楽作るじゃないですか。それにワクワクしたみたいで。ちょうど大阪にいたみたいで、浮遊0さんがいるこのタイミングで挨拶に見えました」

「へええ~~。あのネットでグイグイメッセージくれてた人だよね。突然来るなんてやっぱり押しがすごいね」


 俺がそう言うと田見さんはザクッ……とシャベルを砂に刺して俺のほうに歩いてきて、横に座った。

 そして置いてあったペットボトルの水を飲み、


「カルマさん。私と同じ系統の人でした」

「えっ、同じ系統……って、穴を掘ってたの? この横の穴?」

「っ……! 蜂谷さん、あの、そうじゃないです! この横の穴は私がさっき掘ったもので……っていうかあの、私の系統って……穴を掘る、ですかっ……?」

「いや、分からなくて。とりあえず今で言うと穴を掘る……かなと」

「すいません、ちょっとツボに入ってしまって……どういうことですかっ……くっ……!!」


 田見さんは少し咳をしながら口を押さえて笑った。

 どうやら違うらしい。田見さんは目元を指で押さえて、少し落ち着いてから、


「……人見知りで、はじめて会う人とバリバリ話せる人ではなかったです」

「えっ、そうなんだ、意外だな」

「びっくりしました。ネットで話しているときはあんなに強いのに、実際会うと全然で。むしろ浮遊0さんの後ろに隠れてて」

「え~~~。意外だな。でも分かるな。文章だと打ち込むだけで話せるけど、会話はちょっと違うじゃん。容姿とか、ほら、田見さんの声みたいに。声はネットの文字だと分からないよね。そういう差はありそう」

「そう、です……そうなんですよ。私の声は当然だけど、文字にはなくて……そうなんですよね……」


 そう言って田見さんは立ち上がって再びスコップを握って海を見た。

 そしてざくりと掘って、


「ネットで話してるときはメチャクチャ押しが強いから、そういう人だろうって思ってました。でも全然違って……私が見てるもの、感じてることって、全部見えてるものだけだなって。ものすごく片面だけ。断片的。自分だってそうなのに、それを忘れていた。本当はどんな人とか、全く分からずイメージだけでカルマさんと浮遊0さんのことを見てました。私。ずっと自分の声が嫌いで、こんな自分はこう思われてる、こんなことをしたらそう思われている、そう感じている……それをたくさん積み上げて、自分の居場所と、カタチを作ってきたんだなーって、すっごく思ったんです」


 田見さんはポツポツと語りながら穴を掘り続ける。

 俺は横でお茶を飲んでそれを静かに聞く。

 月が上がってきて、波が落ち着いてくる。

 これはいつもそうなんだけど、理論的にそうではないらしい。

 でも月が上がってくると、海は落ち着くんだ。一緒だから静かになる、そんな感じがする。

 それを見ながら田見さんの静かな声を聞いた。

 田見さんは掘りながら、


「たぶんそんな風に思ってない人もたくさんいたのに、痛くて、つらくて、自分を守るためにきっと痛い言葉を集めてまとって、自分を守っていたんだなって。私が思ってるように、思ってる人は……もちろんいるんですけど、そっちを集めすぎていたのかなって」

「うんまあ、俺はずっと言ってるけど田見さんの声すげー好きだから。最近地声で話してくれてるじゃん。いいわーと思ってる」

「!! そう、ですか。もうさすがに部活の人たちには……そのままで良いかな……という気持ちになってきました」

「うん。学校でもそうだと思うけどね。さっき自分で言ってたみたいに、自分の予想通りでは、無いことのがきっと多いよ」

「地雷系でした。カルマさん」

「地雷? なに? 地雷みたいに声が大きいってこと?」

「……蜂谷さんって、たまにおじいちゃんみたいですよね……現代の言葉を知らなさすぎる……」

「ちょっと田見さん、誰だって知らないことあるよね?!」


 田見さんがため息まじりに酷いことを言うので笑ってしまう。

 でもこれも心を許してきてくれている証拠という気もする。

 俺が文句を言うのと同時に田見さんはふにゃ……と笑ってシャベルを砂浜にさし、スマホをポケットから出して俺の横に座り、


「地雷系っていうファッションがあるんです。フリルがたくさん付いてるスカートに可愛いブラウス……もう女の子の夢です、こういう服装は」

「あっ……お人形さんみたいなやつだ。すげえ、意外。いや俺も知ってるよ、でもこういうのは男に見せたくてしてるんじゃないんだろ?」

「そうです! その通りです。女の子が着たくて着ている服、それがこういう服装です。フリルがたっぷり付いたシャツにベルトがたくさんついたスカート……

すっっごく可愛かったです」


 そう言って田見さんは微笑んだ。

 明日海がネイル好きで、長い休みでバイトがないと、吸血鬼みたいな爪を着けるのを知っている。

 あの爪を首に当てたら人を殺せると思うんだけど。Dead by Daylightみたいに。

 俺は「そんなんじゃチャックも閉められないだろ?!」って言ったら「指が長く見えて先まで盛れて可愛いでしょ」と言われた。

 ちなみに生活は鬼不便で、財布から100円玉が掴めないと言われた。

 自己満足の世界……それは知っている。

 田見さんは自分の胸元の服をキュッと掴んで、


「……なんか、嫌いなのをかき集めないで、好きをちゃんと集めたほうが良いなって思いました」

「好きな音楽を作ってた人が、好きを選んで集めてる人だったからだ」

「!! 蜂谷さん、天才ですか? そうです、そういうことです!!」

「あはははは!! 面白い、田見さんはやっぱり面白いな。面白いよ」


 俺のほうをみて目を丸くした顔があまりに面白くて爆笑してしまった。

 好きだな、楽しいな、でも誰もいないなと思っていたところで、田見さんに会った。

 それは俺が好きだったことを肯定してくれる人で、それが何より嬉しかったんだ。

 そう伝えると田見さんはふにゃあ……と笑顔を見せたけど、突然ペットボトルを開けたり閉めたりし始めた。

 そして俺を見て、


「あのだからと言ってはなんですけど……明日海さんから言われたんですけど……あの、あの、彼女さんとか出来ても、部活を長く続けていただけると私は嬉しいです……」

「はあ? 突然なに? あーっ、大波? えっ、明日海何か言った?」

「いえ、逆に気を遣って頂いて。あの、私が挙動不審を極めていたのか明日海さんが『私たち三人は古い友人だけど、田見ちゃんとの絆もそれくらい深いと思ってる』って言ってくれて……すごく嬉しくて……でも私は考えすぎの病にやられているので、お邪魔では……と思ってしまうんですけど、あの……大波さんもそうなんですけど、彼女さんとか出来ても……という比喩的な……ああ……上手に言えません……」

「大波は中学で一緒だっただけ。小学校と中学校が同じだから、明日海と同じくらいの付き合いの長さはあるけど」


 田見さんから『彼女さん』という言葉が出たのは意外で少し動揺した。

 なんか『そういうこと』とは程遠いというか、全く興味がないのでは……と思っていたからだ。

 田見さんはペットボトルの蓋を開けたり閉めたりしながら、


「私あの『好き』を集めたいなって思った時に、一番は部活の皆さんと活動してることだって気がついたので、あの彼女さんとか出来たりするのは普通の流れだと思うんです。蜂谷さん、すっっごく優しいし、居心地良いし、安心感ダンチだし、分かるんです」

「いやだから彼女とか……うん、ありがとう……」


 彼女とか作るくらいならアニメ作りたいんだってと言おうと思ったのに、すっごく褒められて黙った。 

 急発進して急停車する車みたいになってしまい、お茶を飲む。

 その前に「中学で一緒だった」説明もちょっと違うけど「大波に一度告白されて断った仲」って説明も変だろ。

 ……いや、さっき話した感じでも……、


「大波は明日海と同じくらい長い付き合いの友だち。今は別の高校行ってる。田見さんは大切な仲間。彼女作るよりアニメ作りたい。田見さんの次の曲がすげー楽しみ。これが全部」

「はいっ……! おおう……ちょっと緊張しました。あまりそういうこと気にしないですけど今がすごく楽しくてやっぱり安心してしまいました……蜂谷さんの気持ちが、こう……部活にあって」


 俺はよく分からない気持ちになり、


「……俺は田見さんが浮遊0さんを連れてきたとき、俺以外と普通に話せるんだなーって一瞬変な気持ちになった」

「!! 浮遊0さん、女性ですっ……!!」

「驚いた。カッコ良くて。イケメンすぎる」

「あ……それは同意します……カッコイイですよね……身長高くてショートカットでロックンロールファッション……」


 田見さんはフム……と頷いた。

 こんなことまで言う気なかったけど、心の奥の言葉を聞かせてくれた気がして、だったら俺も言いたくなった。

 俺は「曲っ、カルマさんがひな形作ってて」と言いながら穴を掘る田見さんを見ながら時間を過ごした。

 まさかその30分後に満ち潮になって、砂浜自体が消えるとも知らず。

 俺も田見さんも靴をずぶ濡れにして、笑いながら砂浜から逃げた。

 やっぱり俺、田見さんといるのがメチャクチャ好きなんだよな。





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― 新着の感想 ―
穴を掘っては埋めさせる、という拷問があったけれど、田見さんなら嬉々としてこなしてしまうかも。 田見さんといるのが好きなのかな。田見さんが好きだから、一緒にいるのが楽しいのかな。
>現代の言葉を知らなさすぎる…  あ~、鷹羽もそうです。  ネット用語とかSNS系とか、全然わかりません。  ん~、恋愛絡まずに「一緒にやって楽しい」が続いてくれる関係だと嬉しいなぁ
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