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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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はじめましてのあの人は

「と……とっても……緊張したけどっ……楽しそうっ……やってみたいっ……」


 私は蜂谷さんたちと別れて、そのままスタジオに行くことにした。

 蜂谷さんが思いついた音楽のスタンプラリー……とっても面白そうで「実はチケット半分くらい売れてなくて、申し訳ないわ-」と言っていた浮遊0さんの役に立てるかも! と思った。

 やらせてもらえそうで良かった!

 ……けれど。

 蜂谷さんと大波さんと明日海さんは昔からの仲良しで、私だけ新参者、よそ者。

 もともと人と話すのが苦手なのに、もう出来上がっているグループに入るとかもっと苦手で……正直一緒にいるのがつらい。

 それに私は人が怖くて、人間観察するクセがあるんだけど(怖そうな人から距離を取りたい)……大波さんは蜂谷さんを好きなんじゃないかな……。

 視線と距離感、話し方、視線とか……わりと当たる……私の観察眼。

 明日海さんと蜂谷さんと、大波さんと蜂谷さんの距離感は違う……と思う。

 大波さんはずっと蜂谷さんを見てる。

 それは私が助けてほしくて蜂谷さんをいつも見てるから気がつくんだけど。

 ゴニャゴニャしてる人間関係は、どこに地雷があるのか分からなくて怖くて仕方がない。

 恋愛が入ると更にぐわんぐわんするのを人間関係観察してて知ってるけど、大波さんはかなり大人っぽくて何だかそこの安心感はある。

 いつもの私なら逃げ出すけど、浮遊0さんと音楽作れるの、ちょっとしたい。

 だって浮遊0さんが弾いてくれた私の曲はとても素敵だったから。

 ううう……色々怖い……でもスタジオ外に聞こえてきている音楽すてき……!

 

「ただいまっ……!」

「おかえり、笑衣子ちゃん」


 スタジオに戻ると、浮遊0さんはお父さんと一緒に作業中だった。

 浮遊0さんは椅子に座って嬉しそうに「音楽のスタンプラリー、楽しそう」と言ってくれた。 そしてギターに触りながら、


「最初からチケットヤバいんじゃないかなって話してたんです。ほぼ引退状態のONEにフェス埋められるのかなって。声かけたの、田見さんですよね」


 とお父さんを見て言った。

 お父さんはニコニコしながら、


「僕は長くONEさんのファンですから。ビール飲みながらするフェスなんて、あの人好きでしょう」

「大正解です。ずっと『もう仕事はいいや~』って言ってたのに、これに誘われて『やろっかな~』って即言いましたからね」

 

 そう言って浮遊0さんは笑った。

 私も気になって調べたけどONEさんは表での活動をほぼしていない。

 でも教えて貰ったんだけど、有名なネイロ、何曲もONEさんが関わっていた。

 浮遊0さんがそれを聞かせてくれたんだけど……、


「確かにONEさん……裏のギターのうねりと、コードが……そうですね」

「太ったから表に出たくないだけ。裏では好きにやってるのよ。でももう表には出たくないって言ってたのに、田見さんに誘われたら出てくるの、あの人っぽいなって」


 そう言って浮遊0さんはふわりと甘く微笑んだ。

 やっぱり元旦那さんの話をする時の浮遊0さんはなんだか可愛い感じがする。

 浮遊0さんは話している間にスマホを見て、


「そろそろ来るね、姫が」

「姫?」

「駅前で自転車借りたって聞いたけど、位置情報見るかぎり、結構遠くない? これ」

「淡浜駅から自転車で来ると30分くらいかかりますけど」

「30分?! ビール飲んでるから車出せないって言ったら、自転車で行くって言ってたけど、あの子そんなに自転車乗れるのかしら」


 そう言って浮遊0さんは立ち上がって、スタジオの外に出た。

 スタジオ前の駐輪場に駅前にあるレンタル自転車が走り込んできた。

 その自転車に乗っているのは、黒いフリフリなワンピースに白いブラウス、それに前から見ても分かるくらい頭に大きなリボンを付けた女の子……、


「カルマ」

「!!」


 私は思わずお父さんの後ろにスサササササと隠れた。

 カルマさん?! えっ……あのたぶん、世間で言うところの地雷系のファッションをしているのが……カルマさん?!

 私は突然すぎてお父さんの後ろに隠れたけど、カルマさんだったら、私のすぐに目の前に来るっ……と怯えていたけど……待っても……来ない……?

 お父さんの後ろからチラリと前を見ると、なんと浮遊0さんの後ろにリボンのスカートが見える。

 そして浮遊0さんの隙間からチラチラと私の方を見ている。

 ……え? ひょっとして……。

 浮遊0さんはケラケラと笑いながらカルマさんの背中を押して、


「いま大阪にいるから挨拶行く! って突然来たのに、何してるのアンタ」

「だって……うほっ……どうしよう……やばい、やっぱ緊張しちゃう……良かったカエいて。いや、カエがいないと一生会えないって思ったから、今しかないと思ってきました、カルマです……って伝えて、早くっ!」

「聞こえてるでしょ、この距離なんだから。ずっと会いたくてストーカーみたいにメッセージ送ってたのに、どうして本人前にするとこうなるの、笑える」

「ダメちょっとまって、加音ちゃんがこっち見てるっ……」


 カルマさんは浮遊0さんの後ろからジーーッ……と私を見て、ゆっくりと顔を出し、


「は……じめまして……カルマです……私がカルマなんです……どうも……」


 そう言って浮遊0さんの後ろでアゴを前に出すような小さなお辞儀をした。

 同時に頭に付けている大きなリボンがへにゃと浮遊0さんの肩に乗り、浮遊0さんはそれを邪魔そうに払う。

 浮遊0さんの肩の向こうに見える顔……その顔はPVで見たことがある……あのド派手で超カッコいいダンスをしているカルマさん……の地雷バージョン……。

 カルマさんがPVに出てる時はラップをバリバリ歌って、スポーツ系? お腹が出ているような服を着て、凄まじい勢いで歌っている所しか見たこと無かったけど、ひょっとして……私はお父さんの後ろから細々と、


「……ネット弁慶……ですか」

「ちげーーしっ!! そんなんじゃねーし!! ほんの少し緊張してるだけだしっ!!」


 ……と、カルマさんが浮遊0さんの後ろで言っている。

 あんなに私にたくさんのメッセージを送ってきて、グイグイ来ていたのに、本人はこんな人なんだ……と思ったら拍子抜けして、私はお父さんの後ろからススス……と出て、


花鳥加音かちょうかおんの加音です……本名は田見笑衣子です……」


 私がそう言うと、浮遊0さんの後ろに隠れていたカルマさんもススス……と出てきて、


「カルマです……本名は加藤祐子……」


 私がお父さんから離れず小さく頷くと、目の前で浮遊0さんが爆笑して、


「その地味すぎる本名言う必要無くない?!」

「だって、加音ちゃんが言ったからっ……!」

「あっ、言ったほうが……信用されるかなって……」

 私がそう言うとカルマさんは小さく首を振って、

「いや、信用してないからこういう距離感なんじゃなくて……こういうタイプ……なの……です……」

「あ、はい……わかります……はい……そうみたい、ですね……」

 私たちは距離を保ったまま「あ、はい……」「あ……どうも……」と頷きあった。


 驚いたことに、私とカルマさんはお互いに初見の人間と話すのが苦手で、距離を測って話すタイプだった。

 浮遊0さんはカルマさんを見て、


「曲一緒に作る事になったから、興奮して押しかけてきました……ってちゃんと話しなよ」

「その言い方棘があることない?! あ……よ、よろしくお願いします……」

「あっ……はい……よろしくお願いします……」


 私とカルマさんは向き合ったまま無言になった。 

 あ……これ……ミラーで気持ちが分かるから何も言えなくなくタイプの人……。

 私から先に話すべきなのか、その前にどこから何の話をすべきなのか……、向こうから話すのを待つべきか……まさか同じタイプだなんて……。

 ふたりで困っているのが空気で分かる。

 私は話す相手が私みたいに話すのが苦手な場合、徹底的に黙る。

 それは向こう側も「心が傷つきやすいから黙っているのだ」と分かっているから。

 黙っている人間には理由がある。

 浮遊0さんは笑って防音室の中からアコギを持ってきてカルマさんに渡した。


「ユウはそっちのソファー行って。笑衣子ちゃんそこの椅子。私は横に座るね」


 浮遊0さんは私の横にある椅子に座った。そして更にその奥にあるソファーにカルマさんが座った。

 つまり視線が合わない……横一列に三人で並んだ形になった。

 カルマさんは私の横で、


「チケットが売れてないのよ。だから言ったじゃん、ネイロ曲もやらないと無理だって」

 さっきまで挙動不審だったカルマさんはアコギを持ってポロ……と軽く鳴らし、私の視線から離れた瞬間に普通の話し方になり、

「ONEさんのライブでネイロって、それは無いわー……と思って。久しぶりにONEさんが歌うのに、私たちのネイロ客で埋めるなんて迷惑じゃない」

「でもここまでチケット売れてないのも草なのよねえ。だからライブでは歌わない。ね? 笑衣子ちゃん?」

「あっ……はいっ……音楽のスタンプラリーってのを考えてくれて」


 私がそう言うとカルマさんは私のほうを見ないままアコギを弾きつつ、


「それかなりマニアックだと思うけど、そんなことしたい人いるのかな」

「私とカルマと笑衣子ちゃん三人で作る新曲だよ? フォロワー足したら6万人いくし、興味持ってくれるひとはうまぽてより多いでしょう」

「それはそうだけど……。いや別にネイロやるのは良いけど、ONEさんの迷惑じゃない? 私それがずっと気になってるんだけど」

「ONEは『楽しそうじゃん~』って言ってたわよ」

「迷惑にならないならやりたいよ。だってカエ、ずっと私とネイロやってくれなかったじゃん」

「これだけ顔合わせてたら、ネイロは別で良いじゃんって思ってたけど。笑衣子ちゃんも一緒なら楽しいし」


 肩をトンとされて、私はちょっとピョンと跳ねて、


「はいっ……! お二人に比べたらひよこみたいなものですがっ……!」

「そんな才能あるヒヨコいてたまるかよ……まっじでポメトリー良かったっってんだよ……!」

「あっ……ありがとうございます……?」


 私に言われたんだよな……? とカルマさんのほうを見たけど、カルマさんはアコギに触れながら叫んでるだけで、私のほうを見て言っていない。

 なんだかびっくりするくらい親近感を感じてカルマさんのほうを見て、


「私の曲もすっごく素敵なラップで……感動してました……ありがとうございます」


 そう言うと、アコギから一瞬顔を上げて私の方を見た。

 目があったら、すぐにアコギに戻って軽く触りながら、


「加音ちゃん……本物のサクラちゃんじゃんっ……!! 雰囲気とか、髪型とか、可愛いねっ……」

「カルマさんも……お洋服すごく可愛いですね」

「すごく緊張すると思ったから、正装を急遽買ったの! あーー、ごめんね緊張してるわあ……はじめて苦手すぎる……文字なら平気なのに」

「わ、私も顔合わせて話すの、苦手ですっ……あっ……私はネットも……」

「ごめんね、ネット弁慶で」

「いえ、すいません……私も言葉が悪かったです……」

「そんなことないよっ……!」

「……このふたり会話してんの? なのにふたりとも空虚に向かって叫んでるの?」


 お茶とお菓子を持ったお父さんが私たちの前で笑っている。

 でも私にはカルマさんの緊張が手に取るように分かる。

 だって今この部屋に「はじめまして」はカルマさんだけだ。

 私がいるこの空間はお父さんのスタジオだし、浮遊0さんとはもう知り合いになった。

 私だったらこの空間、ものすごく緊張する。

 カルマさんは浮遊0さんにしがみ付いて、


「ねえ、曲、私たち三人とも作り方違うと思うけど、どうするの? 合曲で三週間って無理ゲーじゃん?」

「ひな形はカルマが作ってるのがあるから行けると思ったの。この前加音ちゃんと作るならこんな曲~って歌ってたじゃん。あれ良いと思ったけど。単純に聞きたい」

「あれかあ……撮ってあるけど……あ。見て、これも買ったの」

「可愛い。ロングワンピもいいね」

「でしょー? これSecret Honey大阪先行発売の新作なんだけど……じゃなくて。あ、あったこれ……でも私かあ……加音ちゃんがどうやって作るのか知りたいし……ねえカエが聞いてよ」

「いや、聞こえてるやろ……って言いたいけど、聞けないのがカルマだね」

「もお、バカにしないでよっ、私終電で帰るんだから早く話すすめてよ!! カエが話して!!」

「私の部屋に泊まりなよ。ホテルあるよ。マリーナ近くに」

「マ? でも明日東京戻らないと。仕事あるのよ」

「朝イチで駅まで送るよ」


 そう言って、浮遊0さんはふんわりと微笑んて、カルマさんの頭を撫でた。

 その表情がすごく甘くて、元旦那さんのことを話している時より全然甘くて、浮遊0さんはすごくカルマさんを大切にしてるんだなあ……と思った。

 安心出来る人と一緒に曲作り……そんな関係良いなあ……と見ていた。

 


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― 新着の感想 ―
メッセージとかのプレッシャーと、実際の本人とは全然違うんですねえ。 人は会ってみないとわからないかぁ。 仕事というから社会人なんでしょうね。格好は可愛らしくても、社会不適合者レベルかも。田見さんもそう…
 ネット弁慶…(^^)  ぐいぐいくる人だと思ってたのに、よそ向いて喋る人だったかぁ(^^)
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