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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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初遭遇

「ち、小さいっ……! すごい、赤ちゃんすごいな」

「お兄ちゃん見て、手が小さいよーー」

「うおおお……でも手だ、手だな!」


 俺と清乃はふたりで興奮した。

 一ヶ月前に明日海のお姉さん、雪見さんが子どもを産んだ。

 カフェで働いていたら陣痛が始まったみたいで、40時間も病院で苦しんだと聞いて震えている。

 子どもを産んで一ヶ月経つと神社行ったり? 実家行ったり? 何か色々あるみたいで、そのタイミングで俺たちにお披露目会となった。

 雪見さんはソファーに座って瑠海るみちゃんと名付けられた女の子を抱っこして、


「いや、もうモンスターだよ。まっっじで寝ない……ちょっと驚きのパワー……」

 俺は近くに座って、

「まわりをめっちゃ見てるのが分かります」

「そう、警戒心が強くて。でも優真くんのことすごく見てるー。抱っこしてみる?」

「あ、無理です。見るだけで大丈夫です」


 俺は横で断った。

 雪見さんがいう通り、雪見さん以外誰が抱っこしても泣くし、それに見てるかぎり恐ろしいレベルでフニャフニャで人間だと思えないほど小さい。

 こんなの怖くて触れることが出来ない。

 台所からお盆を持ってきた明日海が、


「お姉ちゃん、ご飯ーどうぞー。切り干し大根とひじき多めに作っといたよ。あと豚汁。冷凍庫に枝豆入ったおにぎり」

「明日海~~、助かる~~」

「明日の夜にまた作るよ。配達もあるし。やっぱ車ないとキツいけど、一ヶ月の辛抱かな」

「ごめんねえ……明日海に頼りっぱなしで……」

「好きに寝たいんでしょ、いいよ瑠海ちゃん可愛いし! 欲しいものは?」

「なんか甘い物……」

「おっぱい詰まるって助産師さん言ってたじゃんー」

「甘い物おーー!!」


 雪見さんは瑠海ちゃんを抱っこしたままションボリした顔になって叫んだ。

 雪見さんはビール店内のカフェで働くのが楽しいらしく、来月には赤ちゃんを見ながらゆっくりカフェを復活させるらしい。

 でも本家の嫁である雪見さんが実家のビール店に併設されているカフェで働いているのを金城酒造の大婆様が良く思っていないみたいで、雪見さんはご飯を食べながら、


「あー……明日のお宮参り、何言われるか怖いよおお……大婆様がくるーー!」

「すごいよね。昭和一桁。言葉を選ばず言うなら、現世で生き延びた妖怪」

「おっめ……大婆様に殺されっぞ……」

「なんかジャンプに出てきそうなキャラみたいな話し方になった」

「私結婚前の挨拶、結婚式……それ以降会ったことないんだよ。明日は瑠海のために出てくるって。もう蔵が大騒ぎになって忠之帰ってこない」

「あ、そういえば結婚式で人間と電動車椅子が一体になったハウルの動く城みたいな人がいたけど、あの人が大婆さま?」

「おめー、たぶん超能力で聞いてっぞ! 全部知ってるんだ、大婆さまは!」


 雪見さんはめちゃくちゃ美人でおっとりしてるのに、明日海の前だと孫悟空みたいで面白い。

 確か兄貴から聞いたことあるんだけど、金城酒造のもろみ? お酒の元? みたいなやつは、今も大婆さまが食べてからお酒にするらしい。

 なんかすげえ。そんな由緒正しき(?)ところ、結婚したら普通に大変そうなのに入って行く雪見さんがすごいと俺は思ってしまう。

 瑠海ちゃんがウトウトしはじめたので、雪見さんも寝てほしくて俺と清乃と明日海はお店の方に移動した。

 このビール店は元々明日海の実家で、明日海の家族が経営していた酒店だ。

 ビールや地元のお酒を取り扱っている小さな店だったけど、オリジナルビールが売れて道の駅に出した店のほうがお客さんが多くなった。

 だから明日海の両親は基本的にあっちで仕事している。この本店は雪見さんと忠之さんが近所に配達するのと、ビールが飲める小さなカフェをしている。

 雪見さんが出産でお休みになっても配達は普通にあり、それを頼りにしているお店も多い。

 だから明日海と俺と、今年の夏休みは清乃も手伝うらしい。なんだか嬉しいし、楽しい。

 俺と清乃で頼まれていたビールを発注と合っているか、確認する。明日海の酒店は40種類もビールを扱ってるから間違えたら大変だ。

 田見さんも来るみたいだけど……と思っていたら、店の駐車場に軽トラックが止まった。

 軽トラ? お客さんかな……と思ったら、中から田見さんと身長が高いカッコイイ男の人が下りて来た。

 田見さんは何度も何度も頭を下げて「ささ」という感じで店のほうのその人を誘導している。

 お父さん……じゃない……っぽい……けど……あの人見知りの田見さんが部活以外の誰かと一緒なの珍しい気がする。

 田見さんは車から降りてきた男性と俺たちの方に来て、


「あっ、蜂谷さん! 蜂谷さんだ。こんにちは、遅くなりました。えっとあの……お父さんのスタジオが一週間使えなくなるってお話したと思うんですけど、お父さんの古い知り合い……なんと浮遊0さんで、どうしても春岡高校アニメ研究部∞の皆さんにお会いしたいということで、連れて来られて……しまいました」


 田見さんは少し緊張した表情だったけど俺の顔を見て、いつも通りふにゃと微笑み、紹介を始めた。

 ていうか、あのネイロPの浮遊0さん?! 

 俺が驚いていると、男性はサングラスを取り、スマホでSNSのホーム画面を見せて、


「はじめまして浮遊0です、35才女バツイチ、趣味はカントリーソングと釣り、収益の元はネイロだよ! 君が∞のリーダー、優真くんだね」

「!! は……はじめまして、蜂谷優真です」

「わあ、男子高校生と話したのって何ぶりだろ。おばさん緊張しちゃうな。失礼なこと言ったらごめんね。君が∞になる前に作ったアニメも見たよ。ふたりで作ってたんだって? いやすごいな。青春だ」

「ありがとうございます。妹の清乃と一緒に作ってました」


 俺が探すと、俺の斜め後ろで清乃が口元を押さえて目を丸くしている。

 浮遊0さんは俺も名前を聞いたことがあるから、清乃はもっと知っているだろう。

 俺の後ろからスススと近づいてきて、


「は、はじめまして。蜂谷清乃です」

「はじめまして! ∞になる前のアニメもすごかったし、なによりカルマに作ったやつ、すごく良かったー! カルマを上手に活かして作ってて感動したよ」

「ありがとうございますっ……!」

「そして……星野酒店!」

「はいっ?!」


 突然呼ばれて明日海が手を止めて顔を上げる。

 浮遊0さんは明日海の手を握って、


「ホテルで飲んだこの店の地ビール最高に美味しかったから、淡浜買いに来たの! 地方発送できる?! ONEがビール大好きだから送りたいのよ」

「あっ、はい、ありがとうございます。こちらで発送出来ます」

「ここだと金城酒造の木もとが予約できるって聞いたんだけど、それも?」

「あ、それは来週からですね。申込書はありますよ」


 そう言って明日海に連れられて浮遊0さんは店内に入っていった。

 俺の隣で田見さんが「はあああ……」と長くため息をつき、俺のほうを見て、


「すいません、突然。私もちょっとかなり動揺してて……今から星野酒店行くって行ったら、行く所だった! とおっしゃるので……」

「いやかなりびっくりしたけど、すごく良客なんじゃないか? めっちゃビール買ってる。木もとって日本酒の元みたいなやつだろ? それに、あれ、釣り……だよね?」


 俺は浮遊0さんが乗ってきた軽トラックの後ろを見て言った。

 浮遊0さん自身はロックンローラー! といった雰囲気なのに、乗っている車は軽トラックで、しかも荷台に釣り竿やバケツ……それに田見さんが渓流釣りの時に着ていた服が見えた。

 田見さんはコクコクと頷いて、


「私、渓流釣りが好きじゃないですか。昔一緒に遊んでいた方が浮遊0さんだったみたいです。それに今も釣りがお好きで、あの東町にマリーナあるじゃないですか」

「企業保有の?」

「そうです! 今あそこ近くのホテルにいるみたいで、船も置いてるらしいんです」

「すごいな。あそこ会員権すげー高いらしいけど」

「お父さんもそれ聞いて『乗せてくれーーー!』って叫んでました。私も興味あります。淡浜沖、クロダイが釣れるんです。クロダイは一度やってみたかったんです。クロダイはすごくセンスが必要みたいで、そんなこと言われたらやってみたいと思うのが釣り人なんです」


 田見さんは一気に話した。 

 相変わらずの釣り狂で笑ってしまう。

 結局浮遊0さんは明日海の店でかなり大量の買い物をして、10本ほどのビールを買って軽トラックで去って行った。

 田見さんはいつもふたつに分けて縛っている三つ編みを、くっ……とポニーテールにして、


「さて、配達頑張りますっ!! 私電動自転車なら淡浜岬から、駅向こうの国道まで行けます」

 明日海は爆笑して、

「本当に?! え、じゃあこれ国道向こうの居酒屋なんだけど、行ける?」

「いけます!」

 そう言って田見さんはビールを自転車の前カゴに積み始めた。

 俺はそれをなんとなく手伝う。田見さんはビールを積みながら、


「……スタジオに行ったら突然浮遊0さんが来て、もう……メチャクチャ驚きました。前に話しませんでしたっけ、『うまぽて』さんで、淡浜のフェスに出るそうです」

「あ、前に言ってた別の名前で活動してるってやつだ」

「そうなんです。あのさっき言っていた……前の旦那さんがONEさんみたいです……」

「えーー、へえええ~~~。へええーー。大人の世界だな」

「カルマさんは25才らしいので、ちょっと年齢が離れてるみたいなんですけど……カルマさんは釣りに興味ないらしく、フェス前日くらいに来られるみたいです」

「へえ」


 ここに来てずっと苦手にしていたカルマさんと田見さんが会うのか……と思うけど、さっき話した感じ浮遊0さんはすごく大人だし(褒められて正直良い気分だ。何より清乃も明日海もアゲてくれたのが、すげー嬉しかった)、田見さんもちょっと距離を置きつつ、それほど苦手そうじゃないから、カルマさんの前クッションとして良い気がする。

 田見さんはビールを積みながら、


「……正直……私はじめての人は本当に苦手で……突然浮遊0さんが来たときに二階に逃げようって思ったんですけど、あの私、蜂谷さんや清乃ちゃんと明日海さんと知り合って……お、お友達で、えっと部活に入れていただいてから……趣味があう人なら、そこまで怯えなくても、最低限ラインが守られているというか、まだ同じ世界に住めている……という安心感がある……話せるって、自信がついてきて」

「おお、そっか」


 はじめての人と田見さんが一緒にいる……と俺も少し驚いたけど、そういうことなら少し嬉しい。

 田見さんは俺のほうを見てふにゃと笑い、


「趣味が同じ人なら、そこまで怖くなくなってきました」

「そっか、それは良かった、うん」


 俺は頷きながらビールを積んだ。

 実は田見さんが知らない人と一緒に車から降りて来たとき、俺たち以外の人と話せるのかと少し驚いて、そんな自分に驚いたんだよな。

 だってそんなの有坂とか、兄貴とかとも話してるんだし、そんな驚くことでもないんだけど。

 俺ってひょっとして、田見さんと一番話せるのは俺で、田見さんが一番頼ってるのは俺……って思ってるのかも……と思って恥ずかしくなった。

 清乃含めて、俺たぶん頼られるのすげー好きなんだよな。「誰だ……?」と思ったのが、なんか恥ずかしい。

 俺は電動自転車で思いっきり漕いで少し遠くの店まで配達した。

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― 新着の感想 ―
それでも、田見さん彼と知り合っていなかったら、もしかしたら浮遊0さんにそんな風に接することが出来なかったかも。 しかし、富裕麗さんでもあるのね。さすが、業界の人。
>田見さんが一番頼ってるのは俺……って思ってるのかも……と思って恥ずかしくなった  友達にそういうの感じることって、結構あります。  独占欲強いので。  友達にとって特別な人でありたい…
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