驚きの出会い
「うん……素晴らしい山が出来た。美しい、ビューティフル……」
「お姉ちゃん、ちゃんとタイム測ってる?!」
「6.8。手じゃなくて足で止めてるよ」
「なんなのその芸~~~」
私の横に碧は転がり込んで叫んだ。
夏休みに入った。淡浜は本格的にフェスの準備が始まり、物がたくさん置かれていて練習できそうな雰囲気ではない。
いつも淡浜で練習している碧たちはどうするんだろう……と思ったら、淡浜から少し離れた海岸で練習するということで、ついてきた。
ここは私有地の先にある砂浜で、海側から歩いてくることは出来ない。
どうやらここら辺りはミョーンと飛び出している岬が多く、それは私有地か別荘地になっている。
その横にある砂浜は、別荘を持っている人たちだけのプライベートビーチらしい。
ここはトライアスロンの春日コーチの伝手で借りている私有地奥の場所で、かなり広いのに途中からガスンと砂浜が無くなる特殊構造で、満ち潮になると一気に消えるから時間に注意するように言われている練習場所だ。
いつも人が入らない場所だから、砂がものすごくキレイ。すごい、サラサラで気持ち良い。
長いフェンスにある鍵を開けないと入れない所だから、誰もいない、静か、砂がキレイとなると、することは棒倒ししかない。
あー……サラサラの砂で作る山楽しい。上手に崩していくのも楽しい。
この砂浜、干潮時は長さが20mくらいあってかなり長い。
碧は朝からずっとここを走ってタイムを図っている。砂浜で走りにくくて、私もさっきやってみたけど7秒切るのがすごーくしんどい。
それなのに碧はさっきから7秒以下を連続していて、妹ながら天才!
私は砂を集めながら、
「夏の大会楽しみだね」
「ねーー! めっちゃくちゃ楽しみ。私小学生部門、絶対勝ちたい! 四国にあるスクールの子たちもみんな集まるんだよ。結果発表で名前しか見たことなかった子達に会えるー。よっし、あと10本」
「おお~。頑張れ頑張れ」
私はスマホのタイマーをゼロに戻した。
碧はここに引っ越す前、東京からトライアスロンの小学生大会に出たことがある。
その時は惨敗で、悔しがってすごかった。本物の海で練習してる子たちには歯がたたないみたいだった。
でも今回の碧は違う! だから気合いが入ってるみたいだ。
私も運動は好きだし、見てるのも好き! だから楽しみ。
足の指で碧が走ったタイムを図りながら、私はずっと砂山を作って倒している。
「お。清乃ちゃんからLINEだ。スタジオに寄ったら私も行きます……と」
砂山を削っていたら、清乃ちゃんからLINEが来た。
今日は明日海さんのお姉さん、雪見さんが出産を終えて一ヶ月経ったので、蜂谷さんと清乃ちゃんは赤ちゃんに挨拶にいくみたいだ。
赤ちゃん「はじめまして」の時に、私も一緒に「はじめまして」は違う気がして、今回は遠慮させてもらうことにした。
だってそんなの大変と大変の合わせ技で、私ならイヤだし……。あとで合流する。
私は砂を集めながら、
「……清乃ちゃん、すごかったなあ……」
と呟いた。制服を借りた清乃ちゃんはひとりで通信部の教室に向かった。
あの後ろ姿を見ると、私も頑張る! という気持ちが沸いてくる。
なにより部室に一緒にきた怪獣のぬいぐるみを作ってくれた市川さんが「夏休み中に小さいのも作ってプレゼントします」と言ってくれた。
ほしい……! 音楽や作ったものを認めてもらえるの、うれしい。たのしい。もっと作る、今の私はやる気の塊だ。
「ら、らら、あーー……ら、ら、ら……のがキレイに入るかな」
私はスマホの録音機能を立ち上げてすぐに録音した。
木陰で砂山を作って海を見ていると、頭のなかに無限に音楽が浮かんできて、作曲がはかどる。
先日、交換REMIXしたカルマさんの曲の反応は大きく、一週間で落ちるのが当然のネイロランキングにまだ入ってるのを見た。
なにより驚いたのは、浮遊0さんが交換REMIXしたカルマさんの曲! 曲調だけ同じで完全に別のハードロックになっていた。
話しかけてくるカルマさんに答えたのが私なら、ドアをぶち壊して入ってくるのが浮遊0さんで爆笑してしまった。
私は砂をサララと集めて、海風を吸い込んで顔を上げる。
ひとつの曲。
それでもそれに触れる人で受け取り方も、どう昇華するかも、その人によって違う。
同じ曲でここまで違うのを聞かされると、もう笑っちゃう。本当に同じ曲聞いてる? って。
でも違って良いんだなーっ思えて、私は私の作りたい曲を作ってればそれで良いって気持ちがむくむくして今作曲が楽しすぎる。
碧がスイムして淡浜に戻るというので、私は崖を登って帰ることにした。
ここはプライベートビーチなので、まともな出入り口がない。なんと太いロープが一本木に縛ってあって、それで降りて上る。
碧の荷物を背負って崖をオラオラと登る。
これちょっと楽しくて好き。紐を持って体重をかけると、手に紐がめりこむ。
そうすると、この世界って重力があるんだって思うから。重力好き。地球に沈めそうで。
歌いながら自転車に乗り、スタジオに戻ると、庭に自転車があった。誰だろう……と思って中に入ったらお父さんがいた。
「笑衣子。すごいなスタジオ。めちゃくちゃキレイじゃないか。お父さん感動したぞ」
「えーーー、明日なんじゃないのーー?」
「楽器も磨いてくれてるのか。ピアノの鍵盤の掃除も。カーテン新しくしたんだな。いやー。二階もきれいですごいな」
「全部私がしたんだよ!」
「一週間一週間。いやー、こんなに快適空間なら、お父さんもう少し仕事しようかな」
「だめーーー!!」
私は入り口で地団駄踏んだ。そういえば明日からお父さんがこのスタジオを使うんだった。
いやすぎるーー!! ここは私のお城なのに!!
むううう……と睨んでいたら、駐車場に車が来た。えっ、明日からなんじゃないの?
私はスサササとお父さんの後ろのほうに隠れた。お父さんは、
「なんか趣味で近くに滞在してるみたいで、淡浜に用事があるから一回挨拶に来るって」
「もお……。じゃあ私二階に隠れてるね」
「子どもの頃に会ってる人だから、覚えてるかも知れないぞ。俺が東京でBBQ行ってた頃あっただろ。あの時一緒に遊んでくれた人だよ」
「川流れてたことは覚えてるけど、どんな人だったか覚えてないよ。やだやだ」
話している間にドアが空いて、男性……いや違う……ものすごく身長が高くてショートカットなイケメン女性が立っていた。
ショートカットでサングラスしてて肩とお腹が出てて露出がすごい。パンツはボロボロだし、これまた布が足りない。
大きすぎる安全ピンがついたゴツゴツした靴……これはロックンローラーさんだ!
前なら知らない人が来たら一秒で逃げ出すけど、趣味が同じ畑の人は実は大丈夫……怖くない……と蜂谷さんや清乃ちゃん、それに明日海さんで知った。
だからよく考えたら音楽が趣味の人なら大丈夫かな……それに一緒に川流れてた人が、同じ音楽してるの、ちょっと興味ある……と、二階に逃げるのは止めた。
女性はお父さんをみてサングラスを外して、
「田見さん、無理言ってすいませんでした」
「司馬さん。おひさしぶりです。相変わらずカッコイイですね」
「いえいえ、35すぎて、こういう服装はどうなんだって言ってる父のがハードロックですよね」
「先日お会いしましたよ。司馬さん来てくださると現場がすごく楽なんですよ。やはり安心感があります」
「鉄板が入った靴で行ってるみたいで、ないわー……と思ってますけど……え。娘さん、ですよね。昔一緒に遊んだ笑衣子ちゃん……って聞いてるけど、もう10年以上前だから覚えてないよねえ」
そう言って司馬さんという女性は私のほうに近付いて来た。
全然分からないけど、大丈夫そうな気がする……。
私は一歩前に出て小声で、
「田見、笑衣子です。よろしくお願いします」
「司馬楓です。私は川流れて遊んだこと覚えてるよ。今、高校生かな?」
「はい。春岡高校の一年生です」
「春岡ってこの前ちょうどね……ん。ちょっと待って。笑衣子ちゃん、ネイロしてるんだよね、お父さんから聞いてるけど」
「はい。少しだけですけど」
「ちょっとまって春岡高校って……ネイロ組で出してたよね?」
「えっ……あっ……はい」
私は戸惑った。
実は今回、お父さんが休み期間、作曲とMIXすることになった人の音楽を事前に聞いている。
それはアコギを使ったのんびりとした曲で、カントリーソングに近いというか、生歌とアコギがメイン。
だからあんな曲を歌う人がこんなハードな服装で来るんだ……と少し驚いていた。
だから絶対ネイロなんて知らないと思っていたのに。
司馬司さんはスマホを立ち上げてSNSのホーム画面を見せて、
「私浮遊0。ねえ、ひょっとして笑衣子ちゃん。花鳥加音の加音ちゃん? 春岡高校アニメ研究部∞じゃない?!」
私はスマホの画面を見て、びっくりして飛び上がった。
「ひええええ……ひえ……ひえええええ……!! なんで……そんなっ……!!」
「わ、そうなんだ。え、嬉しい。えーー、田見さん、娘さんネイロの期待の星じゃないですか!」
「そうなのか笑衣子~~?! いや笑衣子はネイロ発売当初からやってるからね~。えー? 司馬さんネイロもしてるの? 驚きだな。えー、よく付いていけるね。俺ちょっと厳しいんだよね。面白さは理解出来るけど、歌ったほうが早いだろって思っちゃう」
「面白いですよ、ネイロ。それにお金になります。アコギじゃご飯食べられなくて始めたんですけど、今収入の9割はネイロですから」
「え~~、そんなに儲かるのか。お父さんの将来安泰だな~~、なあ笑衣子~~」
お父さんと司馬さんはニコニコしながら私のほうを見てるけど、司馬さんが浮遊0さんなの……?!
ええ……。私はその場に立ち尽くした。




