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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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怪獣の歌

「うお……母さんが作る朝ご飯、マジで久しぶりだ。この味噌汁だ。懐かしいな」

「近いんだから、もっと泊まりなさいよ。味噌汁くらいいつだって作るんだから」

「家が近いから逆に泊まるのが面倒になるけど、今日会社休みだからさ」


 そう言って兄貴は母さんが作った味噌汁を飲んだ。

 昨日BBQで、兄貴は久しぶりにうちに泊まった。なんだか久しぶりで嬉しくて、一階の和室に俺と清乃で集まってぷよテトしたけど楽しすぎた。

 母さんは卵焼きを机に置いて、


「そういえば淡浜のフェス。忠之ただゆきさん真広にヘルプ出したって聞いたけど」

「もうすぐ臨月で、夏にはもう生まれてるだろ。そりゃ無理だ。俺が手伝うよ」


 兄貴はそう言って頷いた。

 もうすぐ淡浜で毎年夏に行われる淡浜フェスの準備が始まる。

 淡浜に舞台を置いて漫才やライブ、夜には花火も上がる淡浜のビックイベントだ。

 地元の店が総動員で出店を出し、俺たち地元の高校生は会場設置に駆り出される。 

 俺がバイトしてる道の駅も忙しくなるけど、淡浜に年で一番人が集まり、一番分の収益を上げる大きなイベントだ。

 明日海の家の酒屋はビールを鬼ほど売り、年間の収益をすべてそこで上げるらしいんだけど、今年は夏前に雪見さんが出産するので、そのヘルプに兄貴が呼ばれているらしい。

 雪見さんの旦那さん……忠之さんと兄貴は同じ大学出身で、新作のお酒ができると兄貴のところに持ってくる仲らしいんだけど……。

 お互いに好きだったけど恋人にならなかった幼馴染みの男女、片方が結婚して子ども産むからって、ヘルプで兄貴が呼ばれるのが……しかも呼んだのが雪見さんの旦那さん……というのが、信頼関係みたいのが見えて、なんかすげーなと思ってしまう。俺だったらどこのポジでもモヤモヤしそう、わからん。

 朝ご飯を食べ終えて外に出ると、兄貴も出てくれて見送ってくれた。

 

「はえーな。登校ってこんなに早かったっけ」

「今日日直なんだよ」

「日直! 響きが懐かしいな。来週また家くるんだっけ」

「明日海またそれ言ってる? 兄貴迷惑じゃねーの? 頻繁すぎて」

「いいや、楽しみにしてる。田見さんも連れてきなよ、優真と田見さん見てるの、なんか昔の俺と雪見みたいで楽しい」

「なんだよ、それ。それを言うなら俺と明日海だろ?」

「関係性の話だ」


 そう言って兄貴は朝の空気を気持ち良さそうに吸い込んで俺を見送ってくれた。

 さっき兄貴と雪見さんと旦那さんのことをグルグル考えただけあって、なんだか妙な気持ちになって自転車をこぎ始めた。

 だって幼馴染みだから、それを言うなら俺と明日海じゃねーの? 関係性ってなんだ?

 気持ちを切り替えるように朝の淡浜を自転車でかっ飛ばして学校へ向かう。あと一ヶ月もしたら淡浜フェスの機材とか? セットの道具? みたいなのが運び込まれて、淡浜がゴチャゴチャしはじめる。何もなくて景色が最高なのは今だけだ。

 到着した朝の学校は誰もいなくて、ちょっと楽しい。俺は鞄を教室において、中学と高校の間にある建物に向かった。

 そこにある教材室から荷物を運んでほしいと昨日頼まれていたからなんだけど。

 教材室に入ろうとしたら、中から通信学部の中田先生が背中から出て来た。


「!! ごめんっ!」

「大丈夫ですか。手伝いますよ」

「蜂谷くんだ! ごめん、じゃあパソコンの本体持って来てくれると助かる-」

「了解しました」


 教材室の中にはパソコンやモニター、古いプリンターとかも置いてある。

 言うなれば物置だ。俺は中田先生に指示されたデスクトップパソコンを持った。

 横で先生はモニターを持っているけど、かなり昔のやつで、これまた重そうに見える。

 俺はパソコンを持って階段を歩きながら、


「大丈夫ですか。俺が一回教室に運んで、その後モニター運んでも良いですよ」

「平気。行き来が一回で済んで助かったよ-。なんか突然点かなくなって。もうこれ付き合うだけ無駄だなって」

「わかります。突然きますよね」

「ねーー。原因探すのは後で良いかなって」


 俺と中田先生は二階の奥にある通信学部の教室までパソコンを運んだ。

 通信学部は中学校と高校の間の建物にあり、両方の生徒が所属している。

 中学高校合わせて40人の生徒が所属しているが、そのうち30人は清乃みたいにネット越しに授業を受けている。

 10人前後が学校に来たとして最大人数らしい。

 中田先生は机の上にモニターを置いて、


「ここに置いて-」

「了解です」


 俺はもうすでにデスクトップが置いてある所の横に、持って来たものを置いた。

 どうやら配信に使うメインマシンが立ち上がらないようで、中田先生はケーブルを全て抜いて横のパソコンに付け替えた。

 俺はケーブルが全て抜かれたデスクトップを使っていなさそうな机に移動させた。

 中田先生は「これでどうだ!」と電源を入れたら立ち上がった。どうやら本当に壊れたようだ。

 バタバタとパソコン周辺をいじっていたら、教室の入り口に女の子が見えた。

 中田先生がその子に気がついて、


「市川さん! おはよう!」

「おはよう……ございます……」


 市川さんと呼ばれた子は中学校の制服を着ている。

 知らない高校生が教室にいるのが落ち着かないのだろう。学校のカバンをギュッ……と抱きしめたまま、教室に入ってこない。

 ここにいない方が良い。俺は中田先生に向かって、


「先生、俺じゃあ戻ります」

「あ、ありがとうねー! あっ、そうだ、蜂谷優真くんじゃん。市川さん、市川さんがすごく気に入ったアニメを作ったアニメ研究部の部長さんだよ」

「えっ……!」


 そう言って市川さんは俺のほうを見た。

 俺は市川さんを見て驚いた。だってそのカバンには、この前のアニメで清乃がデザインした怪獣が、人形になってくっ付いていたからだ。

 一つ目で真っ赤、身体に蛇がくっ付いていて、手足の量が多い……絶対にそうだ。

 俺がそれに気がついたと、市川さんも知り、


「あのっ……! 著作権大丈夫でしょうかっ?!」

「えっ?! いや、ちょっとまって。やっぱりこれ、清乃が描いた怪獣だよね。え、ちょっとまって……すご……再現率すご」


 俺はカバンのぬいぐるみを見て言った。

 市川さんはカバンを抱っこしていたが、顔を隠すようにカバンを顔の前に持ってぬいぐるみを俺のほうに見せて、


「あまりに可愛くて、勝手に作ってしまったんですけど、著作権的に問題があったら廃棄しますっ!」

「いやいやいや、そんなこと絶対清乃言わないよ。え、ちょっとまって。ゆっくり見せてもらって良いかな?」

「はいっ……! あのっ……あまりに好きで気がついたら作ってしまってたんですけど!」

「わあああ……すげえ、立体だ。うわ、触っても良いの? あ、一回手を洗ってからにしようかな。パソコン埃すごかったから。大切なぬいぐるみ汚したら悪いから」


 俺がそう言うと市川さんはパアと笑顔になった。

 俺はすぐにトイレで手を洗ってきて、市川さんがカバンから外して置いてくれたぬいぐるみに触れた。


「……すげぇ。ふわふわ。ちゃんとぬいぐるみの生地だ」

「今はそういう生地が安価で売ってるんです。それで作りました」

「いや、すごい目の刺繍がそっくりだ。え、赤だけじゃなくて色々色いれてたの、ちゃんと再現されてる」

「刺繍が好きなんです。だからこの大きくてとっても可愛いおめめ、絶対100%で表現したいと思ってイオンモールの手芸店行きました」

「おおーー。あそこ手芸店もあるんだ。いやすごい。ちゃんと宇宙っぽくなってる」


 俺の言葉に市川さんは目を輝かせて、


「やっぱりこの青! 宇宙ですよね!」

「そうそう。清乃はこの目の中が宇宙だって言ってた。この赤いのはマグマの惑星らしいよ。そういう怪獣なんだって」

「そうなんじゃないかって思ったんです。この目の中だけ3D動いててすごいなって」

「そう。清乃に言われて俺が作ったんだ」


 俺がそう言うと、興奮して話していた市川さんはスン……っと静かになって俺を見て、


「えっ……天才ですか……?」

「いや、プラグインであるんだよ。それを使っただけ。俺3D全然勉強中だから」

「この怪獣の表面がザラザラしてるのは?」

「コレ実は中学校の壁面を写真に撮って加工して怪獣の肌にしたんだよな。一枚貼ったんだよ。いやーあの追い込みを思い出す……」


 俺は市川さんが流してくれたアニメ研究部∞で作ったアニメを見ながら呟いた。

 怪獣の目の中は清乃が「宇宙なの」と言うので、俺は白目むきながらblender(3Dソフト)で宇宙を作った。

 まだ勉強を始めたばかりで、正直訳が分からなかったけど、ギリギリなんとかなった。

 画面全体に貼っているテクスチャー、実は学校付近も多い。写真に撮って加工すると全然別物になるので、楽しかった。

 俺がそう説明すると市川さんは目を輝かせて、


「あの、私怪獣が大好きで。ネイロも大好きで、わあ怪獣が出てるアニメがあるってすごく気に入って見てて、投票もしたんです」

「おお、ありがとうございます」

「それで、そのアニメを学校で見てたら、中田先生が『それうちの部活で作ってるんだよ』って言うから、びっくりしちゃって!」

「それを知らずにネイロと怪獣から見てくれたんだ、ありがとう」

「こちらこそ、こんな素敵なものを生み出してくださってありがとうございます、存在に感謝です! 私本当に怪獣が大好きなんです!」

 

 そう言って市川さんは目を輝かせた。

 これはまた田見さんとも清乃とも違うタイプの趣味が濃い人だ。

 どうやらパソコン復帰に成功した中田先生がツイと市川さんの横に来て、


「見せてみたら? 蜂谷くんは絶対バカにしないよ」

「えっと……私の絵……見てもらってよいですか?」

「良いなら是非」


 そう言うと市川さんがスケッチブックを取り出した。そこにはドロドロと溶けている系の怪獣や妖怪……異形と呼ばれるものがたくさん描かれていた。

 俺はそれを見ながら、


「清乃がよく描いてるやつだ。ごめん、俺はあんまり詳しくないけど、これ、ゾンビ映画に出て来たラスボスだよね。木の妖怪みたいなやつ」

「そうです!! 木が集まってガバババッて形になる所が大好きで!」

「清乃も同じこと言ってたなあ。結構古い映画じゃない?」

「異形が好きで、それが出ている作品はかなりの量をチェックしてると思います」

「最近はゲームも多いよね」

「そうなんです!」


 そろそろ授業が始まる時間になり、俺は市川さんに許可を貰って、怪獣のぬいぐるみと、スケッチブックに描かれた絵を数枚写真撮影した。

 清乃に見せたい。もう授業が始まる時間になるので、俺と中田先生は古いパソコンとモニターを持って教室を出た。

 中田先生は階段を降りながら、


「あの子、異形とかドロドロ系の絵が大好きで、他の中学校でそれをずっと描いてたら変だって言われて不登校になった子なの。中二」

「いや、あの絵、すごく上手ですよね」

「そうそう。今年の春から来てる子なんだけど、濃いオタクだから清乃ちゃんと話合うと思うんだよね。だって私が教える前にアニメ研究部の動画見てたんだよ」

「いや、褒められてかなり嬉しかったですね」

「あのアニメマジで良いって~。新人1位も納得だよ。ていうか、ごめんね、資料取りに来たのに付き合わせちゃって」


 資料室に到着して、パソコンを置きながら中田先生は言った。

 俺は実はこっそり頑張った宇宙制作と、テクスチャー、それに清乃が描いた怪獣のデザインを気に入ってくれたのがすごく嬉しかった。

 なによりあのぬいぐるみ! 最近は「可愛いと思ったものはぬいぐるみにする時代です!」って市川さんが言ってたけど、いやいや、出来ないだろ。

 今日田見さんのスタジオで打ち合わせがあるから、みんなで写真みて話そうっと。



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― 新着の感想 ―
 優真くんは人の趣味を決して否定しないから。  「変だ」が褒め言葉になる人って珍しい。
どんどん人の輪が広がっていきそう。 ボッチなヒロイン、は成長するとボッチじゃなくなっていくのかな。というか、そうなるのが成長なのかな。
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