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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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田見さんの裏とオモテと、川の音

 車は高速に乗り、山の間を走って行く。

 俺はわりと地図とか路線図が好きで、ここら辺のマップは全部頭に入っている。

 ここは三つの道路が交わるここら辺ではちょっと大きなPAだからちょっと楽しい。

 道路が立体的に重なってるのみると興奮する。カッコイイ。

 俺は窓の外を見て、


「うお、ヤバい、道がめっちゃ重なってる」

「優真は今も道路好きなのか」

「好き好き。立体交差好きすぎる」


 俺の言葉に兄貴は「分かる」と言ってくれたけど、明日海と田見さんは「?」顔だ。

 今道の駅でバイトしてるのも、親が働いてるのもあるけど、あそこからだと山から降りてくる車のライトがキレイ……というのもある。

 正しい間隔を空けて降りてくる車のライトが、山を飾り付けているようで。

 時刻表を見るのも好きだし、机上旅行するのもわりと好きだ……と話している間に別荘に到着した。

 車から降りた瞬間、吸い込む空気に小さな水が含まれているような気持ち良さがあって、最高ー!

 俺たちが深呼吸をしていたら、そこにひょろひょろと身長が高い男性が近づいて来た。


「お~~。明日海ちゃんがきたきた~」

「中村さん、お久しぶりです」


 明日海は近づいてきた男性に頭を下げた。

 その人は中村さんと言って、兄貴と同じアパートに住んでいて、この前明日海がハンバーグを作った時、兄貴に呼ばれた人のようだ。

 中村さんは明日海に駆け寄って背中に手を回して、


「今日来るって真広から聞いて、楽しみにしてたよ。俺たち金曜から前乗りしてたから、真広と明日海ちゃんもどうって誘ったんだけど真広がさあ」

「高校生簡単に外泊させられないだろ。中村、はい荷物持って」

「おっけ~~~、明日海ちゃんこっちこっち、紹介するよ」


 そう言って中村さんは明日海を連れて歩いて行く。

 そういえば、ハンバーグの時に「同僚が気に入ってた」って言ってたけど、あの人か。

 妙に軽いノリが気になるけど……と振り向くと田見さんが両手で三つ編みを持って完全に隠れていた。

 まるではじめて会った時のようで、俺は三つ編みに完全に隠れた田見さんの頭の上から、兄貴から渡された名札をかけた。


「はい、田見さんの名札。こういう風にみんなここに付けてるから、それみて挨拶するだけ。大丈夫。兄貴と俺の後ろにいれば良いよ」

「は、はいっ……!」


 兄貴は俺と田見さんを連れて、会場にいた人達に挨拶を始めた。

 

「営業の飯島さん、こんにちは。来週佐藤病院、どうします?」

「おお、蜂谷。そうだな、一緒にいてくれると楽かな。佐藤は女医が多いからさあー。お、真広の弟? そっくりだ」

「はじめまして。優真です。よろしくお願いします。後ろは同級生の田見さんです」

「よろしくお願いします!」

「ゆっくりしていってー!」


 大体この流れだ。参加するのは兄貴の会社の人たちだけじゃなくて、お医者さんとか、病院関係者もいるみたいで、とにかく多い。 

 だからみんな名札をぶら下げていて、名前が分かるだけで気楽だ。

 そこに身長が小さくて、BBQに来るには露出が多い服を着て、髪の毛をふわふわに巻いた女の人が手を振りながら兄貴の所の来た。


「真広くん!」

小鷹こたかさん、おつかれさま。この前はお土産ありがとうございました」

「いえいえ。こちらは真広くんの弟さんかな? カッコイイ~! なんか真広くんを若くしたって感じだ。若い若い! ピチピチだ!」

「高校一年生です」

 小鷹さんと呼ばれた女の人は手をパチンと叩いて、

「あれだよね、同じ高校なんだよね? うちらと」

 兄貴は俺を見て、

「春岡高校の先輩なんだよ。俺のふたつ上」

 俺は小鷹さんに向かって頭を下げて、

「あ、はい。俺も春岡高校で、こちらの田見さんも同じです」

「真広くん含めて全員後輩だー! よろしくねー! 私春岡時代すっごく楽しくて、今も制服取ってあるもん。今もボートの授業あるの?」

「はい」

「あれ見てるの好きだったなー! なっついー! あ、真広くん、あっち行かない? 佐藤病院の岸田さんがすごい刺身持って来てくれたのー」


 そう言って小鷹さんと呼ばれる女の人は兄貴の腕を引っ張った。

 兄貴はその手をやんわりと抑えて、


「ごめん、今日優真の幼馴染みの子が来てるから、その子ひとりにしたくなくて。現役JKだから」

「あ~~。中村くんが楽しみにしてた子だ。気になる! じゃああっちかな」


 そう言って二人は外のBBQコーナーに向かった。

 ふうう……これで一息かな……と振り向いたら、田見さんがはにわみたいになっていた。

 完全に疲れ果てている。俺は田見さんの背中に手を置いて、


「これくらい挨拶すればもう平気だよ。いこっか」

「はあっ……人が人の洪水が、人が……私大丈夫でしたか」

「全然大丈夫だったよ。ここは仕事関係者の人が雑談する場所だから、みんな自分の仕事に関係ある人とか、興味ある人のことしか見てないっぽい」

「お邪魔じゃないかと、心配で心臓が痛いです……」

「川に行こう。飯作りを手伝ったほうがいいかなと思ったけど、明日海がめっちゃ囲まれてる。兄貴いるから平気だろ」

「明日海さんひとりでこんな野獣だらけの世界に置いていって大丈夫なんですか?」


 田見さんが真顔で震えながら周りの人を「野獣」とか言うので吹き出してしまった。

 俺は田見さんの横に一歩近づいて小声で、


「あれ見てよ……中村さんは明日海のことめっちゃ気に入ってるじゃん。ほらハンバーグの時に呼ばれたって人」

「なんか話す内容とか、車から出てきたらすぐに背中に手を回したり、明日海さんに対して距離が近すぎるのではっ……と私はちょっとモヤモヤしましたっ……」

「いやでも良くみてくれよ。中村さんが明日海に近づくのを……兄貴がちゃんと上手にブロックして」

「おお~~?」

「それを明日海が『世界で一番幸せですっっ!』て顔して『あっ……私を守ってくれるんですね真広さん結婚したいっ』って言ってる」

「……くっ……あの、蜂谷さん、そのアフレコどうでしょうか、たぶん言ってない、ですよね?」

「心の中で絶対言ってるだろ。『真広さんっ、この男が近いんですっ!』『真広さん助けてっ』『真広さんっ!』……ごめん、ちょっと楽しくなっちゃったけど、たぶんあれは、明日海喜んでるから大丈夫だよ」

「そう、ですか……では……川へっ!! あ……蜂谷さんはご飯食べたかったら、全然私ひとりで渓流釣りしますが……」


 田見さんは鞄をぎゅっと持って俺のほうをじっと見て、


「誰かに話しかけられたらもう無理なので、一緒に来てほしいです……」


 その言葉にちょっと「(お、嬉しい)」と思いつつ、


「いや俺も兄貴以外の知り合いいないから、田見さんと渓流釣りのが絶対楽しい。清乃とも来たいから教えてよ」

「はいっ!!」


 田見さんはさっきまでずっと三つ編みをモミモミしながら半分隠れていたけど、その手をパッ……と退けて笑顔を見せた。

 俺と田見さんはBBQ会場である別荘を出て、すぐ横を流れる川に来た。

 川に近づくと、どんどん空気が変わる。空気に含まれた細かい水があまりに気持ち良くて俺は一気に深呼吸した。

 田見さんは数分間、じーーーっと川を見て、岩をジャンプして上流のほうに上がっていく。

 そして川の流れを見て、落ちていた落ち葉をバサッ……と投げて岩の上にチョコンと座り込んでそれを見ていた。

 別荘の横にある川は、思ったより大きくて幅が広い。田見さんはかなり長い間川を見ていたけど、鞄を置いて中から真っ赤なジャケットを取り出した。

 そしてそれを被って準備を始める。


「ライフジャケットだ」

「そうです。これは自動拡張型なので、川に落ちたら自動的に膨らみます」

「すご。普段小さくてかさばらないの良いね」

「父がこれを付けないと川に近づけさせなかったので……あ。だから蜂谷さんはそこで見てるのは良いですけど、これ以上川に近づいたらダメです」

「あっ……はい」

「普通に死ぬので」


 そう田見さんはしっかりとした声で言った。

 さっきまで俺の後ろで怯えていたのに、川に到着した途端、別人のようにキリッ……とするのバグだろ。

 俺は大きな石の上に座ってサクサク準備する田見さんを見守った。

 めちゃくちゃ天気が良くて風が気持ち良くて、最高だーー。

 岩の上に転がっていたら、田見さんが準備万端で川の中に入り、慣れた手さばきで釣り竿をシュッ……と振っている。

 すんげーカッコイイの。川の空気で揺れる太い三つ編み、そして自然の音以外何もしない世界。

 田見さんは釣り竿を持ったまま一言も話さず、ひたすら水面を見て……くっ……と釣り竿を持ち上げた。

 すると先に魚がもう居た。田見さんは俺のほうを見て、


「いいですね、読み通り」

「はっや!!! 嘘だろ、釣りってこんな簡単に釣れるの?!」

「さっき投げた落ち葉がまだあそこにあるんです。つまりこの川は魚が居る場所が限られています。だからそこに餌を投げ入れるだけですね」

「ほえ~~~」

「足元をみると荒らされてもいない岩場で。さすが私有地。だから単純に魚が空腹というのが大きいです」


 そう言って田見さんは捕まえた魚をサッ……と針から外して、持って来ていた折りたたみ式のバケツに入れた。

 魚はその中を思いっきりグルグルと泳いでいる。

 

「すげぇ、これ食べられるの?」

「ニジマスですね。はい。炭火で焼くと美味しいです。ニジマスはハサミで裂けば処理完了ですから、簡単です」

「ハサミで裂く……? ……っておっわ! 何か虫がいる、虫っ、田見さんっ……虫!」

「サナダムシ。これは最高の餌ですね」

「ひっ……!」


 田見さんは俺の横にいた虫をむんずと掴んで、ざっくり針に刺した。えーー?!

 そしてすぐにその釣り竿を川に投げて、数分後には次の魚を釣り上げていた。マジでヤバい。

 俺は世界が滅亡する前に田見さんの所に来ようと決めた。魚を釣って滅亡を待とう。

 釣りを終えて別荘に戻ると、明日海が駆け寄ってきた。


「優真! 川寒かったんじゃない? スープパスタ取って置いた。何も食べてないでしょ?」

「明日海……お前天才か~~? 靴が水没した、凍えて死ぬ」

「笑う~~! はい。どうぞ。こっちこっち」


 川であまりに虫が寄ってくるから別の場所に行こう……と立ち上がったら、滑って右足だけ結構大きめな岩と岩の隙間にスポッとハマってしまった。

 すぐに抜けたけど、そこは水たまりみたいになっていて、膝から下が濡れてしまった。

 入り口でスリッパを借りて靴を脱いだけど、このパンツの濡れ、絶対帰りまでに乾かない……。

 明日海は笑いながら俺をソファー席に連れて行ってスープパスタを出してくれた。

 クリームソースで、食べるとすげー温まる。川の水冷たすぎだろ。

 そこに中村さんが来て、


「あ、良いな。俺もスープパスタ食べたい」

「すいません、これ、あと優真と田見ちゃんの分しか残してなくて」


 中村さんは若干酔っ払っているのか、お酒の匂いをさせながら軽く笑って、


「ほんと真広のミニ版って感じで面白いね。明日海ちゃんも、真広がダメだったら、こっちにすればいいのに」


 こっちって……と俺が思うと明日海はスッと立ち上がって中村さんを見て、


「優真は大切な幼馴染みで、誰の代わりにもならないです」


 ……おおー……。なんかカッケーし、なんか嬉しいな。

 俺は思わず「ほえー」と小さな声で言ってしまった。

 それを聞いた中村さんは軽く笑いながら「冗談だって!」と明日海の二の腕をトントンと叩いた。

 そこに兄貴が来て、


「中村。あっちにポタージュがあるぞ。酔い覚ましに飲んでこい」

「そんな飲んでないって! でもポタージュはいいな。小鷹ちゃん~」


 そう言って中村さんは台所に向かった。

 兄貴はため息をついて俺の横に座って明日海を見て、


「そんなにアイツと話さなくて良い。もう優真の近くにいてくれ。心配で目が離せない」

「っ……!! いえあの、話しかけられるから話しているだけですっ……! 真広さんの同僚を無視なんて出来ませんっ……!」

「……それはありがたいけれど、アイツらは女の子だと思って接してるから、無法地帯の男だと思って接したほうがいい」

「あっ、はいっ! ……ていうか、何か今悲鳴聞こえませんでしたか?」


 兄貴と明日海良い感じじゃん~と思って静かにスープパスタ食べてたら、台所から悲鳴が聞こえた。

 皆で見に行くと、田見さんがハサミでニジマスのお腹をザクザク切って鬼の勢いで処理していた。それを横で中村さんと小鷹さんが震えながら見ている。

 明日海は田見さんに駆け寄って、


「すっご! これ全部田見ちゃんが釣ったの?!」

「明日海さん、さばけますか? 結構釣れたので」

「えーー、すごいーー! そっか、ニジマスって足が速いって図書館の本で読んだよ」

「そうなんです。即絞めて即開く。これが基本です」

「殺し屋みたい~」 


 明日海は爆笑しながらも、田見さんに習いながら器用に魚を捌いていく。すげーな。

 でも即塩焼きにしたニジマスは、今まで食べた川魚とは次元が違う旨さだった。ちゃんと深みがある味だー!

 ただちょっと伝説の人になっている気がする……。




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― 新着の感想 ―
>俺は世界が滅亡する前に田見さんの所に来ようと決めた。  どういう覚悟だか…(^^;)  川魚焼いたの美味しいですよね~~。  イワナ食べてみたい…  天然の鮎はレベルが違う…
人見知りだけど、ワイルドだなあ。 荒野の中でも一人で生きていけそうw
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