すぐ近くにある見えていないコト
穴掘りって何だ??
体育の授業中、俺は思い出して笑っていた。
夜、散歩に行ったんだけど、まさか田見さんを淡浜で発見するなんて。
遠目で見たら、本当にヤバい人で、清乃から「夜田見さんが淡浜にいるらしい」って聞いてなかったら近づかなかった。
俺ずっと淡浜住んでるけど、砂浜掘ってる人、はじめて会ったかも知れない。
「……面白すぎる」
思い出して笑っていたら、目の前で有坂が華麗な3Pシュートを決めた。
すげぇ! 俺は拍手をして点数ボードをめくった。
有坂は中学の時からずっとバスケしてるから、有坂がいるチームが優勝するのは当然だろ。
有坂とは中一の時に隣の席になって仲良くなった。
バスケ部に一時期所属したのも有坂に頼まれたからだ。
でもまあなんというか、わりと記号的に女子が好きで……分かりやすく言うと、胸が大きい子が好きで……バスケ部の時も、横の女バスの女の子の胸ランキングを作ってるのを聞いて……俺はどーにもそういうことするのが好きじゃなくて(たぶん清乃が身長小さくて学校に来てなかったのもある)、ちょっと距離を取っていた。俺の視線に気がついたのか有坂が寄ってきて、
「優真。どーよ、俺のスーパーゴール。10点くらい入れといて」
「さすがバスケ部」
「俺スリーポイント入れたくてバスケやってるからな~、人生常に一発逆転狙いたいっしょ」
そう言って有坂は外で縄跳びをしている女子を見た。
俺はそういれば生駒さんが変なこと言ってたな……とふと思い出してさぐりをいれて見ることにした。
「……最近どうなん?」
「何が?」
「彼女関係」
「別に何もねーけど。って、優真のほうが気になるわ。田見さんと付き合ってないの? めっちゃ仲良いじゃん。優真と一緒にいるようになってから、全然違うよ。最初ずっと髪の毛の森に隠れてたけど、最近隠れないじゃん。同じ部活だしさ」
「どっかの誰かみたいに部活に所属してるヤツ全員食うみたいな話すんな。でもまあ言われると思って明日海を入れてるんだよなー。仲の良さでいったら明日海のほうが飛び抜けてるだろ」
「山口先輩が明日海ちゃん好きで告白したけど、好きな人がいるって断ってた。まだ真広先輩が好きなん?」
「へえー……。あいつやっぱモテてるんだな。いや、無理だろ。兄貴に病気」
「病気!!」
そう言って有坂は笑ったけど、ガチで病気。
結局イオンモールに買い物に行った時も、兄貴とお揃いのスマホケースを買って貰って、嬉しすぎて見るたびに撫でてる。
世界に何人同じスマホケース使ってるヤツがいると思ってるんだよ。
週末にBBQがあるんだけど、お前はどこのシェフだって? って感じでメニュー練ってる。
ちなみに「無理なのは分かってるけど」って、田見さんを誘ったら、なんと来ることになった。
どうやら釣りが大好きみたいで、渓流釣りが出来ると言ったら、一瞬で「行きます」って答えた。
釣りはひとりでするものだろうから(詳しく知らない)田見さんっぽい気がする。
有坂は横で座り直しながら、
「でも優真はたぶんみーーーんな思ってたけど、妹ちゃんの事大切すぎて、ちょっと変だったから最近楽しそうでいいじゃん。妹に何かあったから……って部活抜けて帰る姿、ちょっと異様だったぜ」
そんなことはじめて言われたから驚いて目を丸くする。
でも確かに、何度か母さんから電話かかってきて、部活の最中に帰った気がする。
「親から電話かかってきて、しかも理由が『妹が大変で』って変じゃね? 自分の人生なんだから、自分で勝手に生きればいいのになーって俺は思ってたけど。だから今の姿のが健全だろ」
そう言って有坂は笑った。
俺が中一になった頃、一番清乃が荒れていて、よく母さんから電話がかかってきた。
『清乃がパニックになって止められない』とか『清乃がトイレに閉じこもった』とか。父さんは簡単に仕事を抜けられないけど、俺の部活なんてたいしたことない。そう思って抜けていたけれど、他にそんなヤツがいるかと言われたら……確かにいない。
それを俺に有坂が伝えられるくらい、今が普通になっているのか……と少し思う。
歓声が聞こえて外を見ると、女子が縄跳びをしていて、田見さんが恐ろしい勢いで二重跳びをしている。
空飛んでね……? それを芝崎さんが爆笑しながら見ている。
それを見て有坂も爆笑して、
「ヤバいヤバい、田見さん空飛んでるだろ、なんだあれ、どうなってるんだ」
「体力がすげーんだよ。腕に重りつけて散歩してるんだって」
「お。芝崎さんも飛ぶ。いや綾飛びしかしないんかーい」
「縄の形が保たれすぎてるだろ」
「いや、ぽいわ。ぽい。あまりにぽい」
ぽい、ぽい、と何度も有坂は言った。綾飛びをずっとするのが芝崎さん「ぽい」って…。
「ぽい」って感じるのって、わりとその人を知ってないとそう思わない気がするけど。
俺が田見さんのハイパー二重跳びを見て「ぽいな」と思うのは部活でよく話しているからだし。
おお……? 俺にも恋愛触覚が……? ピコピコ……。
「あのっ……私今日、図書館に寄ってから帰ります」
「あ、そうなん? じゃあ俺も寄って行こうかあ。本返してないし」
「私もー。月5冊目標でしょ? これでポイントくれるなら楽だけどー」
部活終わり、帰ろうとしたら田見さんが本を抱えて言った。
だから俺たちも帰る前に図書室に寄ることに決めた。
うちの高校は中高同じ図書室を使うからだろうか、かなり広くて開放的な場所にある。
そして蔵書も多くて月に五冊本を読むと国語でポイントが入る。だからみんな読んでなくても借りて返す。
俺も借りるけど読んで無いのがほとんどだ。その点田見さんはほんとすごい。
俺は田見さんのほうを見て、
「それは何?」
「『怪物に出会った日』ですっ……!」
「SF?」
「違うんです、ボクシングで怪物と言われている井上尚弥さんと戦って負けた人にインタビューした本なんですけど、これ今の所今年のナンバーワンです。すっごくすっごく面白かったです。すっごく面白かったのもあって、図書室で順番待ちがあるみたいで、芝崎さんに『読んだら持って来て』と言われたので一日で読みました」
「その分厚さを……?」
「余裕でした……! これ本当にオススメです、これを読んであまりに興奮したので、昨日は碧とスパーリングしたんですけど……はじめて勝てました……!」
「何度もしてるんだ……」
「ボディーに的確にいれるのが大切なんだなって思いました」
「くらえおらああああ!!」
「おえええ明日海てめぇ!!」
田見さんが「ボディー」と言った横から明日海が腹にパンチを打ち込んできて叫んだ。
明日海のケツを蹴飛ばしていたら、図書室に到着した。ドアを開いた中に芝崎さんがいて、人差し指を口元に1本ス……と置いて俺たち三人を見た。
廊下の奥からうるさくてすいません。
田見さんは本を持ってスススと芝崎さんに近づいて、
「読みました、ありがとうございます」
「もう読んだんだ。ヤバい。面白かったでしょ」
「最高でした。気がついたら読み終わってました。強くなれそうですっ……!」
「いや、田見さんはもうこれ以上強くならなくて良いよ」
「くっふ……」
俺と明日海は同時に笑った。
最近体育の授業のたびに田見さんが意味わからない動きをしていて、色んな運動部から誘われていると聞いて笑ってしまった。
いや分かるけど。田見さんは誰かが教室にくるたびに音速で逃げ出してどこかに隠れているようで、みんな俺の所に聞きにくる。
俺だって田見さんがいつもどこに隠れてるか知ってるわけじゃないけど、保護者だと思われている可能性が高い。
田見さんは「次の本行きます」と棚の奥に消えていった。
明日海は「ねえ田見さん、大人な男が主人公を無条件に溺愛してくれる小説教えて~ロンゲ白髪がいい」と後ろをついていく。
そんな都合が良い本が……と思ったけど、まあまあありそうな気がする。
俺も読んで無いけど借りた本を返すと、芝崎さんが俺に向かって手をヒラヒラさせて、
「これ有坂くんにお願いされたから、選んでみたけど、どうだろ。趣味から離れてないかな」
「有坂から……?」
「うん? 最近蜂谷くんに本すすめられて、ちょっと興味出て来たから選んでほしいって言われたんだけど」
「ほっおぅ……?」
有坂、俺を使って嘘をつくな。
てかそういう適当な嘘を付いたなら、それを俺に言っておいてくれ。
でもまあ有坂の趣味なら分かる気がする……と本を見ると、
「スポーツテーピングと料理。テーピングは分かるけど、料理?」
「有坂くん、お母さん居ないんだって? この前グループワークで岬に行った時、有坂くんのマフラーぶっ飛ばされて木に刺さったでしょ」
「そんなことあったな」
「それを見たら穴が空いてて。そのマフラー、お母さんから貰ったものだったみたいで、すごく落ち込んでたから直したのよ。マフラーとかってわりと簡単に直せるのよ。チョイチョイって糸で周りひっぱるだけ。だから料理。お母さんいないと料理必然的にするでしょう」
「そうなのか。俺知らなかった」
「あ、隠してたかな。だったらごめん、秘密にしてて。うーん、料理じゃ押しつけがましいかな」
「いや……それを芝崎さんに話したなら、それを知った上でチョイスしてくれるの、嬉しいと思うけど」
「なるほど」
「でも俺は黙っとくよ。有坂から聞いてないし」
「蜂谷くんは優しいね。うん、それがいい。ありがとう」
そう言って芝崎さんは本を棚の下に隠した。
俺有坂と家の話とか全くしてなかったけど、バスケの時に清乃の事で家に帰る俺に向かって「好きに生きれればいいのに」って言ってた気がする。
芝崎からそれを聞くと、あの言葉がもう少し重くて……それでいて有坂は俺のことを気にしてくれてたのに、俺は何も知らなかったなー……ただのおっぱい足顔星人だと思ってた。
もうちょっと話してみるか……と思った。
結局明日海は田見さんに薦められた白髪ロンゲ男が表紙の本を数冊持って来た。
確かに俺は田見さんと会う前より、外に興味を持てるようになってきた気がする。
去年は兄貴が車を持ってないのもあるけど、BBQに行きたいなんて思ってなかった。
俺がいない間に清乃に何かあったら……と怖かったからだ。
嬉しくなって、横の田見さんを見ると、田見さんは笑顔で『斬首の森』という本を持っていた。
そして笑顔で、
「首がたくさん切られて置かれる森のお話みたいで、楽しみです! 私もそんな森に行ってみたい……」
「へえ……? 行きたい……?」
田見さんは奥深い……。
世界が強制的に広がってる可能性がある……。




