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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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38/85

すべて飲み込んで(田見視点)

 家で晩ご飯を食べてからスタジオに来た。

 窓の外から波音が少し聞こえるから、今日は風が強いのかもしれない。

 ここに引っ越してきて三ヶ月。ずっとここにいるから、海とお天気に少し詳しくなってきた。

 私は波音を聞きながら、椅子の上に足を置いて膝を抱えて、ため息をついた。


「……カルマさんのファイルきれい……。完成されすぎてて、何かしようと思えない……」


 私はスタジオで、カルマさんの音楽ファイルを見ていた。

 ボカロ組で初参加で1位を取った副賞として、カルマさんの曲を編曲することになった。

 編曲は、その人が作った曲を自分色に染め上げて「そういうのはどうですか?」と見せる行為だと思っている。

 他のネイロ使いがアップした曲はどれも大好きで「このネイロPさんがすると、こうなるのか!」といつもワクワクして聞いている。

 でも自分がするとなると……、


「……カルマさんの曲だなあ……と思うだけで、これを私が編曲とか要らなくないかな……って思っちゃうんだよなあ」


 私は椅子の上で膝を抱えて、テコンと首をのせた。

 ここ6年くらいでDTMの世界は一気に変わってきている。

 昔は、CDで売っている曲と同じように「Aメロ」「Bメロ」「サビ」……みたいにフォーマットを守っているものが多かったけど、最近はサビが存在しないようなネイロ曲もたくさん生まれているし、テンポも曲調も含めて「自由」になっているのを感じる。

 ネイロも昔は直貼りするのが当たり前だったのに、細かな調整が当たり前で、声が裏返る瞬間……つまり「失敗」さえ再現可能だ。

 つまりただ音楽を発表する時代は終わり、個性の時代に突入している。

 だからこそ自分の個性を持ったものたちが、人の作品に関わり、別の顔を見せる。

 それを聞いている分には、すっっごく面白いんだけど……。


「私の曲は、私のメンタルが音楽になってるだけで、編曲とかアレンジに特性とかないし……」


 カルマさんのファイルを閉じて、自分の曲を開く。

 私はピアノが得意だ。幼稚園の頃からずっとピアノだけが友だちで、ピアノで会話を試みたことがあるレベル。

 お父さんはそんな私をみて爆笑して、一緒にピアノで会話してくれたけど、お母さんと碧は心底心配していた。

 言葉も気持ちも感情も、自分の声が嫌いすぎて全てピアノで何とかしようとしてきた私にとって、ピアノは自分の一部だ。

 だから私が作る曲の下地はすべてピアノで構成されていて、ピアノで形成したラインの一部をギターやドラムにふって作っている。

 つまりピアノが私なんだけど……。


「……そんなの別にたくさんあるし……私って感じじゃない……」


 ってつぶやいて、私は自信がない、イヤだと言いながら、結局『自分』をアピールしたくて仕方がないのか? となんだか恥ずかしくなってくる。

 だったらもうとりあえず、私がいつもするようにカルマさんの曲のラインを全てピアノで弾いて加工するのが正解だって! と顔を上げて、


「そんなのカルマさんの曲をピアノで弾いただけ……なんだよなあ……」


 みんな、みーーーんなそんな風にはしていない。

 元の楽曲の個性を拾って、ちゃんと自分風にしているのだ。

 というか、たぶんこれは……自信がないのだ。

 自分に自信がなさすぎてグルグルしはじめている。

 主張は怖いけど、主張している他の人の曲好きすぎてしたいと思う境界線で埋もれている。


「うう……」

 

 私は立ち上がって台所で紅茶をいれることにした。

 うんうん考えていたら、もう22時すぎていて、そろそろ帰らないといけない。

 この時間にカフェインを取ると、びっくりするほど眠れなくなるので、ノンカフェイン。

 それをいれながら、そういればこれは清乃ちゃんが好きだって言ってものだな……と思い出す。

 正直……一緒に活動する人が出来て、嬉しくて楽しくて、でもやっぱりひとりのが楽だと思ってしまう自分がいる。

 今までの私だったら絶対カルマさんみたいな有名な人の編曲アレンジなんてやらない。

 怖い。カルマさんは『強い』。

 カルマさんは意志も、曲も、パワーみたいなものがすっごくあって、なにより私が逃げても無視してもメッセージを送り続けてくるメンタルの強さがある。

 ずっと無視してたのに、そんなこと気にせずにグイグイくるパワー、すごすぎる。

 私だったら「嫌われている」と思ったら、一生関わらない。

 自分に自信がなくて、私自身が自分を好きじゃないので、嫌われていると「そうですよね」と自らを更にえぐることになるから、絶対近づかない。 

 実はカルマさんはいつも曲をアップすると、URLをSNSのDMで送ってくる。

 一応相互なので、いつも曲がアップされたことは知ってるし、すぐに聞いてるんだけど、私があまりにSNSに顔を出さないからなのか、毎回送ってくる。

 私はそのメッセージを返信するのは怖くて、そのアプリはボタンで『いいね』が送れるので、それだけポチリといつも押している。

 なんかこう上手に言えないけど、教室の隅に私が座っていて、その入り口にはテープがしてある。

 廊下にカルマさんが100人くらいいて「おーい」「おーい」って居る感じ……とにかく怖い。

 でも曲もラップもダンスも毎回すっっごく素敵。

 押しが強くて何も考えてなさそうなのに(失礼)ファイルはとんでもなく整頓されていて、几帳面な性格が見える。

 私のほうがファイナルファイルは汚い。グチャグチャしていて感覚で作っているのが分かる。

 つまりカルマさんは理詰めの人だ。……カッコイイ。

 気になる人なのは間違いない。


「……すっごく美人さんだし……」


 私は音楽ファイルと一緒に入っていた写真ファイルを見てつぶやく。

 なんと編集用に渡された音楽ファイルと一緒にカルマさんの写真が添付されていたのだ。

 ダンスをされるので動画で顔を見たことはあるけど……髪の毛の色が緑色? で毛先が白くて……なんだかすごい。

 目鼻立ちもシュパアアアアってしてて、すごい……というか、なんで写真を添付してきたんだろう……反応待ちなのかな……分からなくて一瞬開いて悲鳴あげて閉じた。どうしたら良いのか分からない。

 たぶん私がこんなに悩むのは、相手がカルマさんだからだと思う。

 気になっていて、怖くて、でも曲はすごく好きで個人的にもファンだから……怖い。

 部活じゃなかったら、蜂谷さんに会わなかったら。清乃ちゃんがサムネイルを描くって言わなかったら、たぶん断ってる。

 部活だから……とここまで考えて紅茶パックをゴミ箱に投げ捨てた。


「……この愚か者めっ……」


 引き受けたんだから、ちゃんとする。

 人のせいにしない! 楽しいことのが多い。だからもう、やるって決めたらする!!

 私は紅茶を飲んで、結局何もしなかったパソコンの電源を落としてスタジオから出た。

 六月も後半の海は静かで、でも全然寒くなくて、風が心地よい。

 もっと雨が降ってじとじとするかと思ったけど、からりとした風が首を抜けていく。

 ふわふわと踊る髪の毛も、踏むとサクリと音を立てる草も好き。

 私は庭に立って背を伸ばして、


「……よし。穴を掘ろう」


 そう決めて、庭にあった大きなシャベルを持った。

 深夜の散歩を禁止されたので、新しい趣味として穴掘りを始めた。

 スタジオからすぐそこにある淡浜の砂浜は、白くて粒が小さくて、すごく気持ちが良い。

 それをシャベルでほりほりすると精神が落ち着く。

 何が楽しいって、場所によって下から海水が湧き出す速度が違うのだ。

 これはここ一週間毎日穴を掘って気がついたことだ。

 たぶん満潮とか、さっきまで海水があったとか、そういうので全然違う。

 

「お……ここはあまり海水が出てこないから……深く掘れそうですね……」


 私はショベルを持ってグイグイと穴を掘った。

 すぐに海水が出てきてしまうと、大穴が掘れなくて楽しくない。やはり穴は大きいほうが良い。

 無心で穴をザクザク掘っていたら、


「た……み……さん??」

「ひぎゃああああ!!」


 突然声をかけられて悲鳴を上げた。

 穴を掘っていたのは海岸線からかなり離れた場所にあった砂浜だったんだけど、どうやら道路のすぐ近くだったみたいで、


「蜂谷さん、おつかれさまです。コンビニですか?」

「うん。そう。散歩に来たんだけど……田見さん……何をしてるの……?」

「あ。穴掘りです。穴を掘るのにハマっていて」

「……清乃に、田見さん夜淡浜に居るとは聞いてたけど……穴……? 俺、死体埋めてる人がいるんじゃないかって、一瞬悩んだ」

「いえいえ、ただの穴です」

「……うん……」


 蜂谷さんは全く意味が分からない……という遠い目をしつつ、買ってきたお菓子をその場でパリッ……と開けてくれた。

 夜に食べるハッピーターンは最高に美味しい。それを食べて私はひたすら穴を掘った。

 蜂谷さんは「すごく疲れるんじゃない、これ」と言いながら、優しく見守ってくれている。

 こういうところが、なんというかすごいと思う。

 私はたぶん、単純作業で身体を動かしてないと脳が動かないタイプで、それは普通の人には理解しがたいのは分かっている。

 でもそれをただ笑って見ていてくれる人が、どれほど貴重か分かっている。

 海岸線から離れているので、深さ40cmくらいまで穴を掘ることが出来た。


「これは海水が出てこない穴ランキング1位ですね」

「なにそれ、マジで面白いんだけど」


 そう言って蜂谷さんは「清乃に明日見せよ」とスマホを取りだした。

 その時には穴の奥から海水が染み出してきていた。

 ……ここまでか……。

 やはりこれ以上深い穴を掘るためには、スタジオ前の庭を掘ったほうが良いのかもしれない……と思っていたら蜂谷さんが撮れた写真を私に見せて、


「穴が月を捕まえたね」

「!! 本当ですね」

「今、月が真上にあるから、穴の真ん中に月が入ったんだ」

「……穴が、月を捕まえたって……いうのが、なんだか素敵ですね」


 言いながら、きっと今までも「こう」なったことはあったのだろう……と思う。

 でも蜂谷さんが横にいたから、穴の中に月が入ったことに気がついたのだ。

 真っ黒な穴の中に見える湧き出した海水と、果てしなく遠くにあるのにそれを飲み込んだ月。

 でもこれは一瞬のことで、すぐにここから逃げ出す。

 いつもそこにあったのに、私は持ってなかった視点で、頭の中がリフレッシュされた気がする。

 蜂谷さんは動画に切り替えて、


「おっわ! すごい、一気に海水が増えてきた」

「埋めます。埋めるまでが穴掘りなんです」

「帰りまでが遠足みたいな? ちょっとわかんないけど、まあ埋めたほうが安全ではあるね。これじゃ落とし穴だ」


 蜂谷さんは笑いながら、作業する私を動画に収めた。

 私はさっきまでグルグル考えていたことが少しだけ前に進んだ気がして、穴に沈めた月と、それを見つけてくれた蜂谷さんに感謝して、帰ろうと思ったけど、もう一度スタジオに入った。ひとりじゃないのって、心強い。 

 

 


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― 新着の感想 ―
>それを飲み込んだ月。  蜂谷くんは海水が月を捕まえたって言ってるのに、田見さんは月が海水を飲み込んだって取ってるのね。  さらっと違うこと思ってるのに繋がりはあって、感覚的な人だなぁ。
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