恋をするならこんな風に
「……あの、助手席に乗る人は、私が、はじめで、で、すかね?」
「そうだよ」
「あ、あの、それを私がしても、良いんで、しゅかね」
「どうぞ?」
「あっ……はっ……はえ」
俺と清乃は「くっ……」と笑う。
兄貴の車を横にして、明日海がロボットみたいに動いてて面白い。
兄貴は車を買ったばかりで、実際この車で出かけるの、俺と清乃もはじめてだ。
仕事で使うことも想定しているのか、後ろに車椅子が乗せられるかなり大きな車だ。
俺の横にスサササササと寄ってきた明日海が、
「ちょ……やっぱ無理、心臓発作で死ぬ。LED必要かも」
「光ってるやん、AEDだろ」
「今日の真広さんかっこよすぎる。身体が熱い、横に優真置いて水冷しないとダメかも」
「お前はメカか。いいの? 俺が初の助手席座って。全然いいけど」
「ちげーーよ、清乃ちゃんが助手席座って、私と優真が後ろに座るって話をしてんだよ」
と、明日海は俺を睨んだ。イミフな言動にガンマ切り。幼馴染みが怖いです。
別に全然いいけど……と思って清乃を見たら、清乃はふんふんと首を振って、
「明日海ちゃん。ダメだよ。これは後悔するやつ」
「ですよね~~~。後悔するやつっスよね~~。明日海行きます!!」
明日海は気合いを入れて車の助手席にスススと座り込んだ。
俺たちも乗り込むと、おおー、新車の匂いだ。兄貴が両親に挨拶を済ませて車に乗り込んで、
「んじゃ行こうか。一時間半かかるから地味に遠いな」
俺はシートベルトをしながら、
「やべー、めっちゃ座り心地良いじゃん。もう眠くなるわ」
「会社の営業車に比べると、やっぱ運転しやすいわ。運転したかったから今日楽しみにしてた。清乃大丈夫?」
「まーにい、運転できるの?」
「仕事で毎日ずっと乗ってるんだから、そこは信用してくれよ。明日海ちゃん、寒くない?」
「ぜんっぜんっ……平気ですっ……!!」
「そ、じゃあ、行ってくるよ」
兄貴は車を動かしながら玄関で見送る両親に手を振った。
俺はそれを見ながら、
「おおー、なんかいつも運転してる親がそこにいて、兄貴が運転してるの、すげー新鮮」
「仕事で毎日乗ってるし、休みはあんま出かけないから、車要らないかもなーと思ったけど、自分の車で気楽に出かけるの、全然良いわ。あ、一応カーナビ使おうかな。明日海ちゃん俺のスマホ、ちょっと鞄から出して」
「はひっ!! ……良いんですか、真広さんの鞄をあさって」
俺はその言い方に爆笑してしまう。あさるって、泥棒か!
兄貴はケラケラ笑いながら、
「どうぞ? あさって? あ、今出して」
「はいっ」
「顔認証、こっち向けて……はいおっけ。アプリ入ってるから立ち上げてくれない? それでイオンモール入れて」
「はひっ……、あ、はい、出来ましたっ……!」
「じゃあこれそこにセットして」
兄貴に言われて明日海はスマホを運転席横にセットした。
どうやら車のカーナビは新車なのに更新が必要みたいで、なんだか訳が分からないらしい。
こうなってくるとスマホのカーナビのほうが使いやすそうだ……と思っていたらLINEが入った。
それは前の席の明日海で『顔認証するとき、私の顔をまっすぐに見た真広さんの顔認証の顔が、真っ直ぐだった!!』
……日本語崩壊してるんだよなあ……。
そして目の前に座ってる相手とLINE会話してる状況が面白すぎる。
俺は明日海に頼まれていたことをふと思い出して、
「そういえば兄貴。今年もあれあるの? 会社のバーベキュー」
と聞いた。
兄貴の会社では毎年七月頭に会社でバーベキューをする。
ここから一時間半くらい行った山の中で、横にキレイな川があって、すげー景色が良くて良いなあと思っていた。
兄貴はミラーごしに俺を見て、
「あるよー、行く?」
「去年兄貴さ、来年は車買うから、そしたらみんなも一緒に行こうって言ってたじゃん」
「去年までは先輩の車乗ってたから連れて行けなかったけど、今年はいいよ」
「やりー。清乃は……紫外線キツいよな」
「無理だと思う」
「明日海は?」
「いっ……ても……よろしいなら……ぜひとも参加したく……て……」
「いいよ、明日海ちゃん料理上手だし、絶対みんな喜ぶよ。現役女子高生だからな。そんな肩出しとか、スカートとか、そういう服装じゃないなら」
「はいっ……! これは今日はお出かけだったのでしただけで……」
「そういう可愛い服装は、山に向いてない」
「か、可愛い! 可愛い! はい可愛いので止めておきます!! あ、もちろん服装が、ですよね、いえ分かってるんですけど」
「あはははは!! そこは『私が可愛い~』って調子乗る所だろ」
俺は手を叩いて爆笑してしまった。
明日海に「今日! 毎年恒例のバーベキューがあるのか、連れて行ってもらえるのかを絶対絶対私がいるタイミングで聞いてくれ!」と頼まれていた。
ずっと行きたかったみたいで、兄貴が車を買うのを待っていたようだ。
兄貴に電話したら会社の女の人が出たことあるし、部屋に行ったら女物の服や私物も見たことあるし、会社でもモテてる風だから、明日海はもうアピールしたくて仕方ないんだろうな……と見てる分には楽しい。
俺の横で清乃が、
「田見さん……誘ってみたらどうかな。夏はボート選択するんでしょ?」
「そうそう。やってみたいって言ってた」
その言葉を聞いて助手席から明日海が振り向く。
「えっ?! 二学期の選択授業?! 田見ちゃんボートって言ってるの? 絶対やめたほうがいいのに! 髪の毛がすーーごく痛むんだよ。風強くて帽子飛んでいくからかぶれないし」
兄貴は運転しながら、
「俺も選択したけど楽しいよ」
「あ、あれを選択する女子はかなりレアかなと……いやでもちょっとまてよ、田見ちゃんビールの段ボールヒョイヒョイ運んでたな……まさか女子初のボートに入る人になるのかな……」
「明日海の店のビールが6本入ったやつを、田見さんは持てるんだ」
「そうなんですよ。腕に重りつけて歩いてるみたいで」
「あはは! ぜひ挨拶したいな」
そう言って兄貴は軽く笑った。
そうだ、声かけてみようかな……でも……と少し俯くと清乃が横で、
「もちろんたくさんの人がいるところ、田見さんも苦手だと思うから、もしよかったら……って。川とか自然、田見さん好きそう」
「そうだよな。ああ、断ること前提で誘ってみる」
「だと嬉しいかも」
そう言って清乃は目を閉じた。
こういうの……すごく清乃の優しさっぽくて俺は好きだ。
確かに人が多いけど、田見さんは川とかバーベキューとか、すごく楽しんでくれる気がする。
断ってくれて構わないというのをちゃんと言ってから、誘ってみよう。
「まずは靴が欲しいの」
「おっけー。運動靴?」
「そう。体力が全然なくて散歩を始めたんだけど、運動靴が小さくて。今日も歩くから歩きやすいの」
「じゃあABCマートだー」
到着したイオンモールで、明日海と清乃は歩き始めた。
久しぶりに病院以外の場所に来たけれど、清乃は全然元気で明日海と一緒に、あとは何が欲しいのか話している。
天気が良くて大きなリボンが青空の下でふわふわ揺れている。
兄貴が俺の横で、
「すげー元気じゃん。もうこの後ろ姿だけで泣けるの、なんとかなんね?」
「分かる。俺たち清乃が部屋から出ないの気にしてたじゃん。でも田見さんが、心が元気じゃないときにされる心配は毒だって」
「まあ言いたいことは分かるけど、そうしないのが、なにより難しいよな」
「俺、清乃のためになんでもしてあげたくて、いやそれは今もそうだけど……ちょっと落ち込んでるな……と思ったらスイーツ買ってきたり、コソコソ気を遣ってたんだよな」
「それが嬉しい時と、ウザったい時……って言われても困るよな。優真はよくやってるよ。そういうことで悩める時点で優しすぎる。もっと適当で良いんだよ、お前は」
兄貴はそう言って俺の横で小さく微笑んだ。
俺が清乃をずっと見てたからか、兄貴は俺のほうを見てくれていた気がする。
不安になった時、いつも兄貴が「もっと適当でいいよ」と言ってくれた。
そこに今は田見さんも居て……。
「田見さんが俺の元気が一番大切だって言ってくれてさ、その視点、兄貴と一緒に嬉しいな……思ったんだ……だから俺の元気のためにさ、俺が愛用してるプリンター、変に縦の線が入るんだよ。新しくしたいんだけど、高くて」
「良い話だ……と思ったのに、会話が繋がってないぞ、今の」
「モノクロレーザー……いや新しいのだとネットワークで接続できるから、清乃も使える。つまり清乃のためだよ、おにいちゃま」
「自分で買え! バイトしてるだろ!」
「兄貴ぃ~。ヨドバシ、ここにはヨドバシがある。ヨドバシには何だってある」
俺は兄貴の腕を引っ張ってヨドバシに連れ込んだ。
俺がずっと使ってるレーザープリンター、最近妙な黒い線が入るようになって、トナーカートリッジは最近変えたばかり、30,000枚印刷できるはずがどうしてこうなった?! 兄貴~兄貴~と言っていたら、スキャナーも付いてるやつを買ってくれた、やりぃ!
明日海たちに合流すると、清乃はもう新しい靴を履いていた。
黒くて少しツヤツヤしていて、足の形に一番合ったのだと微笑んだ。
「どうかな」
「いいじゃん。ちょっとオシャレな靴とか買わないの?」
明日海は横に立って、
「そういう店はABCマートじゃなくて、服見ながら買うんだよ。ほら行こう! ……てヨドバシの袋持ちすぎじゃない?」
「いや兄貴におんぶに抱っこ、最高~。もう俺バイト代金ソフトのサブスクに半分以上消えてるもん」
「真広さんのボーナスを使わせるなんて」
と明日海が言うと、兄貴は清乃が持っていた古い靴が入った箱を持ち、
「こうして清乃の買い物してくれるの助かるから、俺も明日海ちゃんに何かプレゼントするけど?」
明日海はその言葉にハッ……と指を口元に持って来て、
「……この女が近くにいるんだなとバーベキューに来た人たちが思えるような証明物……貴金属は将来のお楽しみなので今はなしで……あ、スマホケースくらいがいいな。真広さんiPhone15。あ~~~っと、私iPhone12だぞ。お揃いありますかね? いや、iPhoneならいける。よっし、ヨドバシだ」
「思考が全部出てて打算も全部出てて、怖い」
横で兄貴はケラケラ笑ってるけど、がち怖いだろ、こんなの!
結局「あとで一緒にいこう」とはぐらかされて(? いや本当にいくのか?)清乃の服を一緒に見るために歩き始めた。
清乃が「こんな感じのがいい」と言うと、明日海は店の中から「じゃあこんな感じで合わせたら?」とどんどん商品を持ってくる。
それが清乃によく似合っていて、感心してしまう。
俺の横で見ていた兄貴は、
「……明日海ちゃん、学校でモテるだろうに、もったいない」
「あんなこと言われてモテるって思える兄貴どーにかしてるって!」
「まあ確かに高校生だから、あんなこと言ってても笑って居られるのかも」
「兄貴こそどうなんだよ! 前に電話したら女の人が出たじゃん」
「好いてくれる人はいるけど、なんかみんな最後には俺を支配しようとするから、イヤになるんだよな。考えてもみろよ、俺のスマホに着信があって、それに勝手に出る女だぞ」
「……確かに、ダメだな」
「そんなのばかりだ。どうしてだろ」
「兄貴は優しすぎるんだよな~~。それでみんな『私のこと好きなの?』って誤解するんだよ」
「それは優真も同じだろ。すげー優しい」
「俺はオタクすぎてまったくモテないけど!! てか女子がどーのこーのしてる間にアニメ作りてぇよ」
「あはは」
兄貴はケラケラと笑った。
見たいアニメも映画もドラマも無限にあるし、作りたい作品も学びたい技術も山ほどある。
常に時間が足りない!
結局服もたくさん買って(オール親&兄貴がスポンサー。いやずっと何も買ってなかったんだから、ありだろ!)美容院に行き、清乃は久しぶりに長すぎる髪の毛を写真で送った通りのボブカットに切った。
それはシンプルだけど少し大人っぽくて、兄貴と感動して震えた。
清乃が可愛すぎる。
さあ田見さんに会える準備が整った。
週末には会おうと約束していて、ものすごく楽しみだ。




