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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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27/85

最初にして最高の

「……やばい、このカット……秒数が、足りない……?」

「ええっ……ここにきて? 締め切りまであと3時間だよ?!」


 ネイロ組の締め切り日になった。

 今日の夜20時までにサイトにアップ、明日から投票期間が始まる。

 今日は日曜日で、俺たちは朝からずっと最後の編集作業をしていた。

 田見さんは編集ソフトを横からのぞき込み、


「……これ……私が最後にやり直した所です……そうだ……伸ばしたんだ……それを言うのを忘れてました……」


 そう言って青ざめた。

 そのブロックは最後まで田見さんが悩んでいた所で「やり直す」と決めた所だった。

 そこの音楽が伸びたのを伝達せず、最後まで作ってしまった。

 明日海は、


「最後の絵をリピートさせる? 髪の毛のなびきだから、それでいけない?」

「いや……ここテクスチャーを画面内で引っ張って動かしてるから、最後をリピートさせると……」


 俺が後ろの足りない部分に、前の部分を足して再生させると、背景が行って戻って……ガクガクとしてしまった。

 明日海は、


「ダメか。じゃあ他にリピートできる所……」

「いや、ここはこの音に合わせてるから、ずらさないほうがいい。だよな、田見さん?」

 

 俺が言い切って田見さんを見ると、田見さんは三つ編みを掴んで俯いていたけれど、コクン……と頷いた。

 俺はその秒数が足りない絵と音をすぐにiPhoneで撮影して、清乃に送った。

 そして電話をかける。


「清乃。1秒絵が足りないんだ。見てくれないか」

『……なるほど。音が伸びてたんだ。じゃあ……目パチを足して……とにかく直す、今やる、ここはタイミング変えちゃダメだと思う。だから今すぐやる』

「おっけー。待つ。何かあったらすぐ伝えてほしいから通話繋げたままにするな」


 俺は清乃と通話を繋げたままのスマホを机に置いた。

 一番山場のシーンで、音に完璧にタイミングが合っている所なので、ここを変えてしまうのは変だ。

 見ている人は、きっと気にしないけど、作ってるほうの『絶対』なのだ。

 電話を切って振り向くと、田見さんが三つ編みを掴んで俯いていた。

 俺はすぐ横に座り、


「ごめん、仮の絵の状態で俺が気がつくべきだった」

「……私が伝達をミスってました……気持ち良く……自分ひとりでこのタイミングって……伸ばしてました……自分勝手に……いつも通り……たぶん何も考えて無い……ごめんなさい……それを皆さんに言うのを忘れていたなんて……やっぱり私はひとりで作る癖が抜けてない……ただただひとりで気持ち良くなってるだけです……ごめんなさい……」


 田見さんは久しぶりに三つ編みのカーテンに隠れて丸まってしまった。

 ここで何をどう言っても「私が悪い」と閉じこもってしまいそうで、かける言葉が見つからない。

 田見さんと居るようになってから強く思うんだけど、俺は清乃に対して「優しくしようとして傷つけていた」気がする。

 それを自覚したからこそ、むしろ田見さんをどういう風に慰めればいいのか、分からなくなる。

 いやでも、ここで何も言わないのが正しいと、どうしても俺は思わない。

 清乃と田見さん、どっちの心も知ってる俺だからこそできる関わり方があるはず。

 というか、それを見つけていかないとダメだ。

 俺は音楽が作れるわけじゃない。絵が描けるわけじゃない。

 でもたぶん、良いアニメを作りたいと思ってるし、なにより四人で作ってるのが最高に楽しい。

 俺は田見さんの横で静かに、


「はじめて四人で作ったんだ。今、形になろうとしてるんだよ。だから、泣かないで、最後まで頑張ろう」

「蜂谷さん……すいません……」

「いや俺楽しくて。いやもちろん締め切りまであと三時間……いや二時間半だけど、楽しくて」

「優真はドMだな~~。でもさ、私もめっちゃ楽しいよ。音楽があると全然違うわ~」

「明日海さん……」

「俺もそう思う。むしろあと二時間半で終わるのが淋しいくらいだ。だから、次に活かそう」

「はいっ……っ!」


 そう田見さんは三つ編みの隙間で涙目で言った。

 清乃は「あと30分でなんとかする」と言ってくれたので、通話を繋げたまま、俺たちは最終確認に入った。

 他に尺が足りてないカットはないか、画面のサイズに合っているか、音楽は最新か、そして応募がギリギリになるので応募サイトを開いて、要項を記入しはじめた。そしてはじめて気がついた。


「……グループ名を記入……?」

 

 応募する所に『グループ名を記入』と書いてあった。

 たしかにこのコンテストは、ネイロPとアニメ作家などが『組んで』作品を応募するのが大会の旨趣だ。

 だからみんなネイロ名と作家名を足したような名前で応募している。

 横に明日海が来て、


「え。田見ちゃんのチャンネル名じゃダメなの?」

「ダメですっ……! だって私だけじゃないし!! むしろ春岡高校アニメ研究部で……」

「俺たちだけじゃないだろう。みんな足してるな。春岡高校アニメ研究部……花鳥加音かちょうかおん……え、足すと何だ?」

「あの! アニメ研究部の一員になれて……嬉しいので……アニメ研究部のが良いですっ……」

「うーん……? それだとちょっと趣旨と違わないか……?」


 何か足りなくね?

 俺は考えて、考えて……ハタ……と気がついた。

 いやでもなんだか……さすがにちょっと恥ずかしくて……いやでも……なんかめっちゃそんな感じで……。

 もじもじして口元を押さえていると明日海が俺の顔をのぞき込んで、


「何? 何か思いついた?」

「いや……笑うな。笑うなよ? 絶対笑うなよ。あのさ、俺と清乃は『蜂谷』じゃん……まあ、8…だよな。それで田見さんが、田見……ごめんね、名前呼ぶよ、笑衣子で……エイト……じゃん……どっちも8から……横に倒して∞……みたいな……無限大のパワー……みたいな……」


 俺がそうもじもじというと、明日海が真顔で、


「厨二やん」

「すごく良いと思いますっ!! じゃああのっ……春岡高校アニメ研究部∞! でどうでしょうかっ!!」


 冷たく言い切った明日海の横で、田見さんが目を輝かせていた。

 そして繋げている通話の向こうで、清乃が小さな声で、


『明日海ちゃんの海も無限に波がくるし……良いと思う』

「ですよねっ!!」

 

 清乃の通話に田見さんが普通に返した。

 あれ? ふたりって、今はじめて通話で会話したのでは……? と俺は少し思う。

 なんだか嬉しいな。

 というわけで明日海は「厨二すぎない? ∞ってヤバくない? 高校生になって使う言葉?」と言っていたけれど、ろうそくで封筒を閉じる女に言われたくないんだわ。

 俺達は、春岡高校アニメ研究部の横に∞マークをつけて応募することにした。

 直後に『直した』と清乃から連絡が入り、俺たちは修正作業に入った。

 まず線画のみの状態で編集ソフトに入れて、尺に間違いがないか確認……オッケー。今度は問題ない。

 もうフィニッシュまで持って行ったカットなので作業工程は分かっている。

 レイヤーをバラして、清乃が足した絵の所だけ色を塗り直してテクスチャーを伸ばして……。

 俺と明日海は手早く作業をした。そしてもう一度コンポジット! 締め切りまであと30分……。

 書き出して編集ソフトに入れると……、


「どうだ」

「……完璧ですっ!」

「おお~~。いいじゃん。出来たって感じ~~~」


 1分半。田見さん特有のピアノから曲が始まり、真っ白な世界の雲の向こう……そこから蛇を身体にまとった怪獣……が立っている。

 それを海際にぽつんと一人で立って見ている黒いフードをかぶり、赤い靴を履いた音色サクラ。

 世界は白い煙に囲まれていて、遠くにシルエットで廃屋が見える。

 音色サクラはランドセルを背負っていて、手には縦笛を持っている。横に置いてある楽譜(それは一応弾けるものらしく、田見さんが描いた)。

 そして遠くをゆっくり歩く怪獣を見ながら縦笛を練習している。

 縦笛に合わせて響くピアノの音色とサクラちゃんの歌声。

 ずっとここに100年ひとりでいると歌い、ボロボロな縦笛練習シートにチェックマークをつける。

 波際を笛を吹きながら歩く音色サクラ。その横を一緒に歩く怪獣が見える。

 朽ち果てている世界、美しい音楽、響く田見さんの曲と共に、縦笛練習シートにチェックマークが増えていく。

 そして最後のチェックマークの日。海を渡って怪獣がやってくる。

 はっ……とする音色サクラ。

 足が酸のようなものでドロドロに溶けながら、ゆっくりと音色サクラの前に来る怪獣。

 緊張した表情から、ふにゃ……と最高の清乃の作画で音色サクラが微笑む。

 そして最後の縦笛練習シートに、怪獣の酸が落ちて穴が空く。

 怪獣の口が開いて、ポン……とピアノの音が響いて、このままずっと一緒だと怪獣が歌う。


「……出来た」


 俺は完成形を見て感動する。すげえ。田見さんの曲と清乃のアニメが完全にコラボした。

 見ているとポン……とディスコに一枚の絵がアップされた。

 それは黒地に白文字で『春岡高校アニメ研究部∞』と描かれたエンディングテロップ用の一枚で、そこに俺の名前、横に清乃の名前。そして明日海、その横に田見さんの名前が描いてあった。

 俺は通話に向かって、


「これ、最後に付ける?」

『みんなが最後の修正作業してる間に作ったんだけど、どうかな』

「清乃ちゃん、天才~~! ちゃんとデザインすると∞でも、まあいっかって気がしてきた~~!」

「清乃さんっ……カッコイイですっ!!」


 田見さんが通話が繋がっているスマホの前に行って地声で叫んだ。

 その声に清乃は静かに、


『……ありがとう……ござい、ます……』


 と外向きの声で答えた。

 おおおお……! と感動してる間に応募時間だ!

 俺たちはアウトプットした動画を、もう記入しておいたサイトで添付して、応募ボタンを押した。

 その時間、終了の五分前。

 春岡高校アニメ研究部のメルアドに『受領しました』とメールが来て、俺たちは拍手した。

 春岡高校アニメ研究部∞で、最初の作品が完成した!

 嬉しくて楽しくて、それを鑑賞しながら晩ご飯を食べたくて、三人プラス清乃と通話を繋げたままコンビニに行った。

 相変わらず岬は風が強くて、気持ち良くて、みんなで自転車で走った。

 やべえ、すげえ楽しかった。

 


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