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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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24/85

ゆっくりと世界を変えて

「おい、清乃大丈夫か」


 朝、自分の部屋からフラフラと出てきた清乃の顔色は真っ白だ。

 これは完全に徹夜している。

 同級生に会ってしまったショックからわりと早めに復帰したと思ったら、今度は頑張りすぎというレベルで絵を描いている。

 清乃は深夜に散歩する以外、時間を自由に使って生活している。

 起きたら絵を描いて眠くなったり寝て、食事の時間もグチャグチャだ。

 でも少し元気になってきた今、朝だけは皆がいるリビングに顔を出す。

 清乃は母さんが出した牛乳を飲んで、


「うん……なんかね、わかるの。朝こうやって来て、いってらっしゃいすると、みんな安心するでしょ?」

「お、おう……そうだけど……」

「だからもう寝るけど、おはようはしようって思ってるの」

「そうか」

「じゃあちょっと……みんなに見て貰って……いってらっしゃい、おはよう、ぐっどないと……」


 そう言って清乃はリビングから自分の部屋に戻っていった。

 本当にその通りで、俺たち三人は清乃が朝部屋から出てくるのをなんとなく清乃のメンタルメーターとして見ている。

 調子が良いとああやって起きてくる。

 父さんは朝ご飯を食べながら、

「本当に良かった……。また部屋から出てこなくなるんじゃないかって心配してたけど」

 俺はパンをかじって、

「いや……今まで俺が悪かったのかも。何かあると清乃が気になって我慢できなくて、色々世話焼きすぎてた気がする」

 母さんは俺のカップに牛乳を足して、

「ええ? 優真、そんなことないわよ」

 俺は首を振って、

「いや……ただ世話を焼いて、それに気がついてくれたら立ち直ってくれると思い込んでたというか……それが清乃のためになってたかな……」

「なってたわよ~~」

「なってるだろ~~」


 父さんと母さんは同時に首を振った。

 清乃のことが大切で大好きだけど、それを受け取る側の気持ちを本当の意味で分かってなかった気がする。

 でも最近は清乃が少し元気になってきたのもあって『自分』が見えてきている。

 『俺』はもう少し『俺』を好き勝手にしたほうが良いんじゃないかなって思うんだ。

 だからアニメを作ってるのが、今ガチで楽しいんだよな。

 そう思いながら、スマホを開いてアニメ研究部の共有フォルダーを開いた。

 そこには清乃が描いた絵コンテが置いてある。

 絵コンテは、この内容には、この絵を付けますよ……と説明するもので、一週間くらい前に田見さんに見せてOKを取った。

 そして先日から作画工程に入った。

 コンテを見ながら『このカットはこういう感じ』『色はこんな風にしたい』と清乃が決めて、どんどん描いていく。

 昨日は一番大切な子どものサクラちゃんが顔を上げるシーンを描いていたようだ。

 真っ黒なフードを持って顔を上げるサクラちゃん。その瞳はどうしようもなく力強くて迷いがない。

 それはまるで、やっと一歩歩き出した清乃のようで、個人的にはすごく印象的だ。

 さあ、どんどん作って行こう。

 田見さんと話したくてワクワクしながら、自転車を漕いで学校に向かう。



「(……休み……か?)」


 俺は教室の後ろのドアをチラチラ見て、スマホで時間を見た。

 あと10分でHRが始まるけど、田見さんが登校していない。ギリギリな事は何度かあったけど、ここまでギリギリなのは珍しい。

 スマホを見ると、朝送ったLINEは既読になっている……というか、ものすごい速度で既読になった。

 アニメ研究部はdropboxに共有フォルダーを作って、そこに全てのデータをアップしている。

 音楽の最新バージョン、アイデア、キャラのメモ、コンテ、今朝清乃アップした動画……全部そこに入っている。

 今日清乃が描いたレイアウトと、短い動画をアップして、田見さんに『見てね!』とLINEしたらすぐに既読になって『最高です!!』と返信がきた。

 だから体調が悪いとかじゃないと思うんだけど……席に居ない。

 机に鞄もない。

 これは本格的に休みか……?

 いや……でもちょっと待てよ……。

 俺はフラフラと中等部側を散歩する田見さんを思い出して席を立った。

 そして下駄箱にいくと、靴があった! でも上履きがない。

 つまり校内にいるんだ。

 ならもう部室一択。

 もうHRがはじまってしまうので、校内に人は少ない。

 とりあえずLINEするけど返信はない。電話してみても出ない。

 いやこれ……体調不良で倒れてたり……と一瞬不安になる。

 田見さんは深夜歩き回るし、体力があるとはいえ、昨日最新の曲がアップされてたけど、その時間は深夜三時だった。

 遅すぎる。俺はクリエイターは寝ろ寝ろ教を唱えているので、田見さんにもちゃんと寝てほしいんだけど。

 俺はスマホで時計を見て全力で部室棟まで走った。そもそもここから部室棟はメチャクチャ遠い。

 そしてお約束の五階だ。俺は体力はあるほうだと思うけど、それにしたって走って登るのはキツい!

 五階まで駆け上がって部室のドアを開けると、そこに思いっきり机に突っ伏して眠っている田見さんがいた。


「……!! 田見さん! 大丈夫?!」


 俺が叫ぶと田見さんはすぐに身体を起こした。

 その瞬間「(あ、体調不良とかじゃなくて良かった)」と安心した。

 田見さんは突っ伏した状態で目だけフニャ……と開いたけど、すぐに状況を理解してスマホを見て、


「んへええっ?! えっ、あっ、嘘っ……ああーーーっ! いつの間にか寝てましたーー!!」

「もう行こう、一回行こう、こんなので遅刻取られるのバカだから、とりあえず鞄だけもって!」

「あああああ……すいません、ありがとうございます!」


 田見さんは鞄を抱えて走り始めた。

 うちの学校は遅刻にメチャクチャ厳しくて、三年間で20回以上遅刻すると推薦に響く。

 だからみんな気をつけてるんだけど……。

 俺は横を一緒に走りながら笑い出してしまう。

 

「田見さん、片方だけ、三つ編みが取れちゃって、ふわふわなびいているよ」

「あっ!! 眠る時いつも右側を下にするので、なんかたぶん眠くなった時に取っちゃったんですうう!!」

「あははははは!!」


 俺は声を出して爆笑してしまった。

 田見さんが半分だけ髪の毛が解けた状態で、しかも顔には鞄の跡が付いていて、しかも地声で表情がクシャクシャで叫んでいる。

 ふたりで階段二段飛ばししてギリギリ教室に駆け込んだ。

 田見さんは走りながら適当に三つ編みしたようで、左右の高さが全く違う妙な髪型になっていて、それも笑ってしまう。




「すいませんでしたっ……!」


 お昼休み、すっかりいつも通りに髪の毛を縛り直した田見さんは、鞄を抱えて俺に頭を下げた。

 俺は横をゆっくり歩きながら、


「朝早く来て部室で作業してたの?」

「はいっ……あの、清乃さんが描いて下さった絵がもう最高で嬉しくて、我慢できなくて! それにグループワークのスライドも作りたくてっ……」


 俺は鞄を背負い直して、


「え。スライド作り、担当分は全部終わったよね?」


 グループワークのスライドはみんなで作ることになっていて、田見さんは改善案を出してくれた人なので、その部分のスライドを担当することになっている。もう出来たと言っていたけど……。 

 田見さんは首を振り、


「生駒さんが色んな所のお守りを持っていて、その写真をくれたんです」

「それは生駒の担当部分じゃん」

「調べてみたら、ものすごく色んな伝説とセットになっているお守りが多くて……楽しくて調べちゃってる感じです。あっ、生駒さんはちゃんとお守りのスライド作りました」

「うーん……曲作りもアニメ作りもあって、スライドまで追加しなくて良くない?」

「いえ、面白いんです。好きでやってます。……それに」


 田見さんは階段を上って鞄を抱き寄せて、


「空気じゃないのが嬉しくて」

「? 空気?」

「私ずっと、ずーーっとひとりで、一言も話さずに学校生活してきたので、こういうグループでする作業の時は、空気だったんです。いや……空気がないと生活出来ないから、空気に悪いな……何も無い、無、見えない扱いをされてました。言葉を発することは許されない、いや、存在しないので、誰もみない。それが私でした。この前みんなで行かせて頂いた写真を撮影にいく……みたいな時は、普通に教室に置いて行かれました」

「げ。酷くない?」

「いえ……小声で……あ、それは今も変わらないんですけど……本当に話してなかったんです。だから気味悪がられて無視されるのは、仕方ないです。でも怖くて……何も出来なかった、何の関係ない言葉でも私を否定してる気がして、私がいることで空気が悪くなるなら、教室に残されたほうが幸せでした」


 どう考えても酷すぎるだろ……と思って眉をひそめると、田見さんは俺のほうを見て、


「でも蜂谷さんに声をかけてもらって、本当に世界が変わりました。意見も聞いてもらえて、それに資料を写真で送って貰えて。私グループに入れてる……見えてる、話しかけてもらえる……もう嬉しくて嬉しくて仕方がないんです。だからもっとスライドも作りたいし、みなさんの役に立ちたいんです」

「……無理しすぎない程度にね。俺的にはアニメ研究部のほうに気合い入れてほしいから」

「それはもう、ばっちりです!」


 そう言って田見さんは鞄をグッと抱きしめた。

 俺はきっと田見さんに出会って世界が変わり始めている。

 同じように田見さんの世界も変わってきてるなら、それはすごく楽しいことだと思うんだ。

 俺と田見さんはレイアウトを見ながら語り合うために部室に入った。


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