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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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16/85

最大限の味方を


 次の日の朝、清乃がコンビニ前まで行けたことを明日海に言いたくて教室まで行ったけど、まだ居なかった。

 『昼に部室で話そうぜ~』とLINEしたら『今起きた』と返信が来た。

 は? 学校が始まるまであと30分……間に合うのか?

 田見さんは……と思って教室に行くが、田見さんもまだ来ていない。

 田見さん、前は早かったのに、最近は遅いんだな……でも深夜まで曲を作ってるから寝坊してたし……と思ってふと窓の外を見たら、トコトコとグランドを歩いて中学校の敷地側に消えていく田見さんが見えた。

 よく机を見ると鞄がかけてあった。

 散歩は校内でもしてるんだろうか。俺は話したくて中学校側に行ってみることにした。

 春岡高校はここら辺りで一番大きな中高一貫の私立校で、海が見える高台にある。

 海が近いこともあり、ボート部や、潜水部、つり部もあり、その少し変わった部活を目当てに遠方から入学してくる子も多い。

 ボート部は毎年全国大会に出ている実力があり、そのために寮があるほど学校は力を入れている。

 だから海側まで学校の一部だったりして、とにかく敷地が広い。

 田見さんはどこに行ったんだろう……と中学校側に歩いて行くと、


「おっと、蜂谷くんだ。おはよう」

「中田先生、おはようございます」

「どう、清乃ちゃん」

「元気です」


 中学校側の敷地で、清乃の担当教師、中田晶子先生に会った。

 春岡高校は中高一貫校で通信学部があり、清乃はそこの生徒だ。ネットで見る専用の動画がアップされていて、それを見て勉強。

 課題を終わらせテストを受ければ普通に進学できる。

 中田先生は通信学部の先生で、清乃と連絡を取っている窓口のような人だ。

 中田先生は笑顔で、


「清乃ちゃん、課題出すのめっちゃ早くてもう二学期の範囲まで終わっててすごいよ~」

「好きな時間に授業が受けられて楽しいみたいです。それに俺も動画を少し見ましたけど、すごく分かりやすいですね」

「嬉しい~! こだわって作ってるんだよ~。編集も大変で~。あっ、蜂谷くん授業動画の編集手伝ってくれてもいいよ?」

「あれ学校の手作りなんですか?!」

「前は買ったの使ってたけど、最近は私監修! 私、不登校専門の塾教師出身でね、ずっと塾動画見て勉強してきたからコツ分かるみたいな!」

「なるほど」


 清乃が見ている動画を俺も後ろから見たら、ものすごく分かりやすくて、課題をする時間も間に挟まってて、動画を編集する俺からすると『コレは手間がかかる……』と思ってしまった。

 まさか中田先生の手作りだとは。

 中田先生はiPadをいじりながら、


「でも清乃ちゃん……一年生の時から一度も登校日に来れてないけど、やっぱり体力的に厳しい?」

「実は昨日四年ぶりくらいにコンビニまで散歩出来たんです」

「おおおおすごいね頑張ったね……! でもそっか、四年間家から出られてない……くらい体調が悪い感じだ」


 そうじゃないけど……俺は黙ってしまう。

 通信学部には毎月一度登校日があり、その日に課題の話をしたり、軽い面談がある。

 引きこもりがちになり、慢性的に運動不足になる通信学部の生徒たちに家から出てきてもらう目的があり、必須ではないが5割以上の生徒は出て来ているようだ。清乃と同じような境遇の子も何人かいるようで、月に一度でも家から出られれば……とは思うけれど、清乃はその周辺になるとお腹が痛くなり寝込んでしまう。それほどまだ行きたくないのだ。

 ただその腹痛は精神的な所から来る物だし、心臓にもう問題はない。

 本当に心と体力の問題の所に来ている。

 中田先生はiPadをいじり、


「秋の文化祭で、今年も通信部は巨大アートを作ろって話になってるから、清乃ちゃんが来てくれたら嬉しいなって思って。でも来なくても絵だけ提出してくれたらモザイクアートだから全然問題ないけどね! 体調が厳しいなら無理しないで」

「……はい、伝えておきます。去年のモザイクアートも素敵でした」

「でしょー? 蜂谷兄妹のアニメ、見てるよ~! あれの再生数の10は私が回してるっ!」

「ありがとうございます!」


 中田先生はiPadの画面を落として、


「課題して提出物も出してちゃんとしてる。それに趣味もある! だから清乃ちゃんは今のままでも100点だよ。学校なんて人格のるつぼだから、元気じゃないと来られない。でもここにも味方いるよって、会いたいなーって思ってる先生も、大人もいるよって思って貰えると嬉しいな」

「……はい、伝えておきます」

 

 中田先生は「じゃあねー!」と職員室に消えていった。

 小学校を卒業する頃が清乃は一番病んでて、公立中学は「入学手続きをしてください」としか言ってこなかった。

 そんな時に俺が先に入っていた春岡中学で中田先生に会い、清乃に紹介したんだ。

 あの頃は俺も母さんも「中学に入るタイミングで切り替えよう、チャンスだ」と焦りすぎてた気がする。

 中田先生が押しすぎず、引きすぎず、ずっと見ててくれるのは清乃の心の支えになっていると思う。

 なにより中田先生はアニメが好きで、俺たちが動画をアップするとすぐにコメントをくれるんだ。

 家族以外の味方がいるのは本当にありがたい。


「……んで、田見さんは……?」


 久しぶりに中田先生に会って話し込んでしまった。

 田見さんはどこに行ったんだろう……と広場の方を見たら、そこをトコトコと歩いている田見さんが見えた。

 お、見つけた。俺は広場のほうに向かって歩き出したけど、田見さんはすげー歩くのが早い。

 俯いたまま、ものすごい真剣な表情でトコトコ歩いている。

 そして姿が消えたと思って後ろを追ったら、今度は部活棟側に行き、そのまま海側まで歩いて行く。

 えええ……。あっち側は結構な坂道だけど……と思いながら見ていると、そのまま海が見える部室棟の裏側の道までトコトコ歩いて行く。

 あっちは行き止まりで、結局こっちに戻ってくる……と部室棟の前に立っていると、部室棟を一周した田見さんが戻ってきた。


「おはよう田見さん」

「!! おはようございますっ、なぜこんな所に蜂谷さんが」


 そう言って田見さんは耳からイヤフォンを外した。


「いやごめん、広場をトコトコ歩いているのが気になって付いてきたら、どんどん奥に行くから面白くなって付いてきちゃった」

「あっ……すいません、こっちの方いろいろあって楽しいので、よくこの外周を散歩しています」

「ボート部のボートがあるから楽しいよな。夏にボートの授業あるよ」

「!! ……すごいっ……」

「田見さん地味に強そう」

「体力には自信があります……! あのボート、気になってました」

「この世の終わりみたいに焼ける。女子はみんな嫌がって選択しないけど、すっげー楽しいから田見さん選択するといいよ」

「他の選択できるのは……」

「体育館でバスケ」

「断然ボートです」

「あはは!」


 俺は笑ってしまった。田見さんは弱気なのに体力に自信があって、なんでも挑戦してみようって思ってるのが面白い。

 田見さんはイヤフォンを入れ物に戻しながら、


「……コードがハマらなくて。すぐ横に答えがあるのに、全部違う。……こう……スッキリとハマる……違う、スッキリとハマらなくても良いんですけど、アンサーが無くて……歩いてるのが一番落ち着くので……昨日からずっと歩いてます」

「なるほど。だから校内を散歩してたんだ」

「こうだろってあるんだけど、そうすると違うことになって、ずっとなんとかしたくて、そうじゃなくて……」


 そう言って田見さんは三つ編みを両手で掴んでこねこねと揉んだ。

 俺は音楽なんて全く作れないから、田見さんの脳内でどういう風に音が生まれてくるのかなんて分からない。

 でも散歩が気分転換になるのは分かる。

 俺は田見さんを見て、


「昨日さ、四年間一度も自分の足で外を歩かなかった清乃が、坂の下のコンビニまで行ったんだよ」

「!! すごいっ……! 清乃さん、すごい……!」


 そう言って田見さんは三つ編みを持っていた手をパッと話してパチパチと手を叩いた。

 それは今までみた「ふにゃ」という笑顔ではなく、本当に「ぱあああっ」と嬉しいが表情に出て来ているような笑顔で、なんだか俺はそれがすごく嬉しかった。


「……だろ?」

「すごいっ……!」

「田見さんと打ち合わせしたいんだって」

「えっ……」

「まだコンビニにも入れない、ただ家から出られただけなんだけどさ、田見さんと打ち合わせしたいから、頑張るって」

「えっ、えっ、嬉しい! でもそんなの私が行きます……のはダメ、……だ」

「あのスタジオに自分で行きたいんだって。だから待っててくれよ」

「うぐっ……!」


 うぐ? 横を見ると田見さんは三つ編みを目の下に持って来て、潤んだ目を隠そうとしていた。

 俺は慌てる。


「ちょっと、髪の毛が!」

「ティッシュの代わりになるので……」

「ならないだろ! ああ、何も持って無い、もう教室戻ろ、はい行こう!」

「うっ……頑張ります……!」

「制服で拭かない! 分かったから、うん戻ろう、ありがとう」


 俺は三つ編みで顔を隠しながらえぐえぐと泣く田見さんを呼んで、高校側に戻ることにした。

 ここからだとすげー遠い!

 田見さんは走りながら落ち着いたのか笑顔になってきて、安心した。

 清乃の味方がたくさんいて、兄貴として嬉しい。


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― 新着の感想 ―
本文中、 明日海の担任、中田晶子先生 とありますが、これは清乃の担任、でしょうか?通信学部所属とあるので、明日海の担任ではないと思うのですが、後で「窓口」と表現しているので、果たして担任としていいのか…
 こんな先生いたらいいなぁ…
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