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ぼっちなヒロインの育て方 ~傷ついて孤独な女子のために俺なら出来ること~  作者: コイル@オタク同僚発売中


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13/85

怪獣がいる国で

「これをなんとかしようと思って……そしたら朝日を見てました……」

「大丈夫? 昼休み、寝てても良いよ」

「いいえ……あのこれ、いつも完成してからYouTubeにアップしてるので、こんな状態で人に聞かせたことがなくて……でも……366日のアニメがとっても嬉しくて……だから、あのっ……」


 田見さんはそう言って、いつもの高さに結び直したらしい三つ編みで顔を隠しながら、せっせと話した。

 俺が何も言わずに待っていると、うつむいて顔を隠したまま、首にしていたヘッドホンを取ろうとして……、おでこを机に打ち付けた。


「本当に原曲の状態で……あの曲の赤ちゃんというか、あの、うぐー……」


 うぐー?

 横に座っている明日海が話しかけそうになるけど、俺は静かに首をふって止めた。

 何か言いたいことがありそうな、しかもその言いたいことを言えずに生きてきた人の出足をくじいちゃいけない。

 それは頑張ってる人からすると「早く言え!」と言われてるのと同義語なんだ。

 俺はこれを清乃で何度もして、清乃が言いたい言葉をへし折った(たぶん)。

 清乃が居なかったら、今こんな風に田見さんに余裕を持って接することが出来てないだろうな……と待ちながら思う。

 俺と明日海は黙ってお弁当箱を片付けていると、田見さんはオデコを机につけたまま、もぞ……とヘッドホンを取った。

 そこからは微かに音楽が流れてきている。

 新曲だ! めっちゃ聞きて~~と思うけど、ここはぐっと我慢。

 どうやらYouTubeにアップしてるのは完成版だけど、今俺たちに聞かせてくれようとしてるのは、未完成なものらしく、今まで誰にも聞かせたことがないらしい。それは単純に緊張するよなーと、プリッツを食べながら待つ。

 田見さんは机にオデコを付けたまま、


「そもそも……曲を人に聴かせて、目の前で感想を貰うのも慣れてないのに……なんかちょっと……朝、これはイケるぞって元気いっぱいだったんですけど……あのでも……もう動いたほうが……そうだっ……」


 そう言って田見さんは机から顔を上げた。

 ぐいぐいと机のへりに頭を押しつけて載せていたので、おでこに赤い線が入っている。

 田見さんは俺を見て、


「今日のグループワークで勇気ももらったので私は動ける! あのこれ!」


 そう言って田見さんは俺に向かってヘッドホンを差し出した。

 受け取ると、そこから流れてきたのはいつも通り転げ落ちるようなピアノの音と、高音から低音まで自在に移動して歌う歌声……歌声?!

 この曲を作ったのが田見さんなら、この歌声は田見さんだ?!

 話し声も小声な田見さんの歌声?!

 俺は心底驚いたけど、この動揺を田見さんに知られないように身動きひとつせずに聞き続ける。

 シンプルなコード進行に合わせて、田見さんが歌っている。

 その歌声は、今まで一度だって聞いたことがない……裏声の高音……そこから地声の低音の間で、うねうねと転がって、声と声を繋いでいる。

 それが言葉は悪いけど、すごく……あえぎ声……こんなの絶対本人には言えない……苦しそうなのに快楽に満ちているようで、吐息が歌っているようだ。

 ごめん……エロすぎる……。

 そして歌詞は、どうやらこの世界は当然のように怪獣がいて、でもこの町だけは、いつも怪獣が入ってこられない。

 主人公は町の中で怪獣が歩いていくのをいつも見ている。

 そして『君が怪獣で良かった』と、どうしようもない憧れと、怖さと、美しさを感じている……そんな曲だ。

 でも最後に涙の海をこえて怪獣が彼女の前に来る時、彼女は『ここからずっと』と歌い終わる。

 高く残った高音と、広がる声に俺は妙に泣きそうになり、ヘッドホンを外して、


「……すご。なにこれ。かっこよ」

「!! 大丈夫、ですっか……?」

「大丈夫っていうか、田見さん歌声すげーいい」


 俺がそう言うと、田見さんは三つ編みで顔をばっと隠して、


「歌を聴かせたくなくて、ものすごく悩んで……前にあ、あ、あえぎ……みたいだと言われたので、もう一生人前では歌わないと決めてるんですけど、あの仮の、最初の曲はこうやって作ってるんです……歩きながらiPhoneに歌うんです、それで形をつくって……ピアノとくっ付けて……ネイロを付けるのは最後だから……どうしても最初は私の歌で……うう……」

「うん。いや、うん……」


 iPhoneのスピーカーの横で歌ってるから、吐息がすごいのか。

 耳元で歌われているような臨場感?  がすごい。

 めちゃくちゃ好きだけど、たしかに人前では歌わないほうがいいかもしれない。

 ハスキーな声の繋ぎが、ちょっと……なんだろう、上手いとかじゃない、特徴的にバラバラなんだ。

 でもそのアンバランスさが、かすれている声が、めっちゃくちゃエッチだ。

 女の子で声がエッチと言われて喜ぶ人はあまり居ない……と思う。

 だからって、良いと思った気持ちを伝えないのは違う。俺は顔を上げて、


「何度だっていうけど、俺は田見さんの声まじでいいと思うから。それだけは、マジで。今まで裏声だと思ってたけど、その声も田見さんの一部なんだな。音域がめちゃくちゃ広いのか。知れて良かった。高い声も、低い声も、俺はどっちも良いと思う」

「!! 嬉しいですっ……えへへっ……」


 田見さんがふにゃっ……と笑顔を見せた瞬間、俺の真横でヘッドホンを使って聞いていた明日海が聞き終わって、


「田見さんが私の真横で歌ってくれてるみたいな吐息、やっば、すっご!」


 それを聞いた瞬間、田見さんは三つ編みを掴んで顔を隠して、


「……っ、iPhoneにふきかけて声出してっ……!」

「ごめん、声があーだこーだじゃなくて感動したんだよ! 特徴的な声で音域がすごいって分かった! そうか、下に広いんだ!」

「……そう、な、ん、でしょう……か……この時にしか、歌わないので何も分からないです……」


 俺と明日海に褒められて、田見さんはテンションをバカ上げしたり、どうしようもなく恥ずかしがったり、暴れたりしていたけれど、三つ編みの隙間で少し落ち着いたみたいだ。

 俺は田見さんの横の席に移動して、


「え。これ、ここからどうやって作っていくの?」


 田見さんは首にヘッドホンを戻してスマホをいじりながら、


「……全部、ここからなんです。メロディーラインを入れて、そこからコードをソフトに入れていきます。これだけで最低一週間……ううん……二週間……最初はただの入力で、そこからいじっていきます」

「うお、すご」

「メロディーのためにコードを変えることもしょっちゅうあります。コード展開を変えることも多くて……とにかく一曲作るのに最低でも一ヶ月かかるんですけど、それだと……ネイロ組にっ……間に合わなくて……仕方なく仮曲をお聴かせすることに……」


 ネイロ組?

 俺たちが「?」という顔をすると田見さんはスマホの画面を見せてきた。

 そこには『今年も開催! ネイロ組はじまるよ!』という文字が見えた。

 どうやら、ネイロPと絵描きなど数人が『組』を組んで、サイトにネイロ曲をアップする祭典のようで、審査員には有名なネイロPや、ネイロのアニメを作っている人が見えた。

 田見さんは、三つ編みで顔を隠しながら、


「この締め切りが二ヶ月後で……私、これに誰かと出るの、ずっとずっと、夢だったんです」

 俺は画面を見ながら、

「ネイロ組? はじめて知った、いいじゃん、やろうよ!」

「!! 本当ですか?!」

「うん。いいよな、明日海」

「え~~楽しそうじゃん。審査員にカルマさんいる。清乃ちゃんテンション上がるんじゃないかな。好きだよね、たしか」


 そう言って明日海がクリックしたのは、審査員のひとり、カルマさんという人で、最近特徴的なネイロ曲で有名になった人だ。

 顔出ししてダンスも踊っていて、その特徴的なダンスを真似てTikTokに投稿する子が増えている。

 曲もメロディーラインをネイロに歌わせて、ラップをカルマさんが歌っていてすげーカッコイイ。

 田見さんは三つ編みを両手で持って、


「清乃さん……気に入ってくれるで……しょうか……」

「その曲貰ってよい? 今まで田見さんが作った曲、清乃全部気に入ってるから、全然大丈夫だと思う」


 俺は田見さんからデータを貰って、清乃に送った。

 すぐに既読になり、


『え……やっば……なにこれ、新曲?』


 と返ってきた。俺はその画面を田見さんに見せた。

 田見さんは両手で持っていた三つ編みを離してふにゃ……と笑い、


「良かったです……うれしい……私ずっと……ネイロ組出たくて……でも誰もいなくて……さみしくて……だからすごく嬉しいです」

「清乃、この前のアニメもすぐに描き始めてたから、たぶんすぐに作業に入ると思う。どうする? 打ち合わせとかする?」

「あっ……しないと……ダメでしょうか……」

「怖い? 実は清乃もたぶん、田見さんに会いたいけど、まだ会えるくらい強くなくて。だから俺と田見さんが話して、そのイメージみたいなのを清乃に渡したら、キャラの絵とか方向性とか考えてくれると思う」


 清乃は366日を聞いただけで、あの女の子のイラストを描いた。

 この仮曲を聴いて、歌詞のイメージを伝えたら、そこから動き出せると思う。

 俺の横で明日海がシャーペンを持ち、


「まあまあ絵が描ける明日海ちゃんの出番ですね!」

「はいっ! えっと……女の子の涙は硫酸で、怪獣は溶けるのがいいです」

「りゅう、さん……?」

 

 横で楽しそうにシャーペンを持った明日海が手を止めた。

 田見さんは三つ編みを両手で掴んで、目をキラキラさせて、


「怪獣はシルエットで……うねうねしてて……蛇の塊みたいなのです」

「……作画……できる……のか……そんなものが……?」

「いや、無理やろ」

「女の子は泣きすぎて、顔に硫酸の線が入ってます」

「いや、目から硫酸出てたら、顔は溶けてるやろ」

「せやな、まず設定がわからんな?」

「その涙が島の周りに溜まっていて、煙が上がってる世界です」

「うーーーん……。田見さん、ちょっと色々話し合おうか、まったく付いていけない」


 歌詞のイメージを聞き始めたのは良いけど、意味が分からない。

 これ聞いたとして、俺たちの能力でそれが作れるの?

 話し合いが始まった。目から硫酸……? 骨も溶けて……あ、ロボにする?

 え、怖くね?




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