ヒロイックのスキル
月日が流れ、俺、アダスは7歳になった。
幼児ではなく、立派な少年になったのだ。
背も村にいる同世代の中では上の方になるくらいに伸びた。
生活は毎朝、父アダムスとの基礎体力や戦闘の訓練をし、昼は家事の手伝いや母ルミナスの趣味であるポーション作りの見学をして、残った時間はケイトと一緒に村周辺の散策をしている。
村周辺の散策は最初、母に止められていたが、父の説得という助けを得て許可をもらえた。
そんなある日の昼過ぎのことだった。ケイトと二人でいつも通り村周辺の森で散策していると、
「アダス兄様。新しい発見をしたと言っていましたが、何を発見したのですか?」
金髪ポニーテールに健康的に日に焼けた肌のケイトが俺に質問する。
「あぁ、実は『ウィンドウ』で見るステータスの画面は今見ているものだけではないということがわかったんだ。」
実際に『ウィンドウ』を唱えてステータス画面を出して見せる。
「見ていてくれよ。」
俺はケイトの目の前でステータス画面をスライドさせる。
すると、ケイトは驚いた表情を浮かべた。
「これは!アダス兄様のステータス画面が別の表示になっている!?」
そう、俺の『ウィンドウ』には体力や魔力などがわかるステータス画面以外にもう1つの画面があるのだ。
2つ目の画面は、『ヒロイックオンライン』のキャラクターであるアダスが覚えていたスキル、技能の一覧が表示されていた。
「さて、問題はヒロイックのスキルを実際に使えるかだ。」
俺は試しに近くに生えている木に向かってスキル名を唱える。
「『気弾』」
すると自然に体が動き、蹴りの姿勢になり足を振り抜くとエネルギーの塊が飛び出し、木に当り粉砕した。
「おー、できたな。」
「アダス兄様、これは兄様の十八番であるスキル『気弾』ですね。」
「十八番って……まぁ、ヒロイックの時はコストも軽いからよく使ってたけどさ。」
『気弾』とはヒロイックオンラインのスキルの一つで気による衝撃波を放つスキルである。
普通、気弾って聞いたら手から出ると思うんだけど、なぜかヒロイックオンラインの素手プレイをすると気弾は蹴りで放つ技になってるんだよね。
「フフフ、アダス兄様。はしゃいでいる姿がとても素敵ですよ。」
俺が粉砕した木にケイトが近づき、スキルを発動させる。
「『分解』。分解した素材は私が有効活用します。」
「おー、ボロボロだった木が一瞬で木材になったな。」
錬金術や鍛冶などの生産系のスキルには共通して『分解』というスキルがある。
分解は文字通り、倒した魔物や倒れた木を分解して木材や布などの素材にするスキルなのだ。
ただし、生きているものは分解できないのはお約束だな。
おっと、じゃあアイテムを保管する『ボックス』のスキルも使えるよな。
「『ボックス』」
と唱えると『ウインドウ』は違う半透明の画面が現れた。
「な、これはっ!?」
「どうしたんですかアダス兄様?」
俺のアイテム画面にはなんと、ヒロイックで使っていたアイテム達が入っていたのだ。
全種類の薬品アイテムやメインキャラやサブキャラ達の装備していた武具や防具などがぎっしりと。
「まじかぁ、ヌルゲーか?」
いや、まてよ?
薬品などのアイテムは消耗品だし、この世界でヒロイックと同じような高能力な薬品を作り出すことができるとは限らないし大事にした方がいいかもしれない。
あと、高級品に見える防具なんて堂々と着てたら盗賊とかに狙われるのも面倒臭いような。
「アダス兄様?」
「あぁ、悪い。実は…」
俺はケイトに『ボックス』の中にあったヒロイックのアイテムや装備品について話した。
「なるほどぉ。ヒロイックのアイテムがあるのは幸いですね。」
「でもある意味貴重品だろ?おいそれ出せる物じゃないとは思うぞ。」
「そうですね。私達はまだ子供ですし……では大人になるまでアダス兄様の『ボックス』に保管しとけば問題ないんじゃないんですか?」
「いや、そうなんだけどさぁ。」
ヒロイックのアイテムのせいで俺のボックスはパンパンなのである。
新しいアイテムを入れられないのだ。
「でしたら私の装備品と素材を私の『ボックス』に入れましょう。」
おー、なかなか良い案じゃないか。
「よし、その案でいこう。では」
ケイトに、ケイトがヒロイックに装備していた物と素材を渡した。
素材いくつかと言われたが全部渡したのは愛嬌だ。
その後、俺とケイトはヒロイックのスキルに問題がないか試せるだけ試して帰宅した。
森の一部が空き地にはなったが、時がたてばもとに戻るだろう。