猫娘の小腹は小腹とは言えない
「おっと、忘れていたことがあったでござる。」
五明丸が立ち上がる。
「某は、王国騎士団に所属している身ゆえ、殿たちと行動を共にするには騎士団を辞任する必要がある。しばしの間、別行動させてもらうでござる。」
俺は頷いた。
「そうか、分かった。五明丸、俺たちは当分王都の宿にいるから済ませたら来いよ。」
「かたじけない。そうだ、忘れるところであった。騎士団にはロイドがいるので、声をかけるでござる。」
五明丸はそう言うと、俺に一礼し、訓練所を後にした。
「さて、五明丸にも会えたし俺たちもここから出ようか。」
俺たちは五明丸が立ち去ったのを見た後、詰所の奥まった通路へと足を進めた。
「このまま、入った時と同じ感じで戻るか?」
俺が軽く問いかける。
「にゃあ、さっさと出たいにゃ。五明丸兄も見つかったし、もうここに用はないにゃ。」
サラは気楽な表情で答える。
俺たちは出入口門の近くで門から死角にある所で塀を飛び越え、堂々と騎士団の詰所を離れた。陽射しが心地よく、のんびりとした空気が漂っている。
「さて、五明丸が合流するまでの間、どうしようか?さすがに五明丸と軽くだが手合せした俺はこれ以上動く気はないぞ。」
俺が2人に言うと、アーロンがメガネをクイッと指で持ち上げて言った。
「僕は、一度宿に戻って一息入れるのが良いと思います。アダス兄さんも疲れてると言ってますし、ここらで休憩しましょう。」
「そうだにゃあ、ウチも何か疲れた気がするにゃ。どうせ、五明丸兄も真面目だしすぐに追いついてくるしにゃ。」
サラが同意する。
「じゃあ、宿に戻るか。」
俺は笑顔で頷き、3人で宿へと向かって歩き出した。
「五明丸が戻ってくるまでには少し時間がかかるかもな。」
俺が言うと、アーロンが頷いた。
「そうですね。五明丸兄さんは王国騎士団を辞める気満々ですけど、上司である騎士団長さんとのやり取りが心配です。五明丸兄さんは騎士団でエース的存在でしたしね。きっと、騎士団を辞める際の手続きが大変だと僕は思うんですよ。」
「そうだな。いきなり仕事やめますって言って、はいどうぞなんてならないよな。しかもエース的存在を手放すなんて俺でも嫌だしな。」
俺は続ける。
「五明丸は一度言ったことを曲げない気がするから力ずくでやめてきそうだよなぁ。」
「確かににゃあ、五明丸兄はウチら14人の中で脳筋に部類するからにゃ~。アダス兄の言ってることは間違いないにゃあ。」
サラがヤレヤレとポーズを取っている。
と、話をしているうちに宿に到着した。サラが「小腹がすいたにゃあ!」と言うので宿屋の主人に頼んで軽い食事を出してもらうよう頼み、宿の食堂に入る。
宿の食堂に入ると、数人の宿泊客がそれぞれ食事を楽しんでいる。俺たちは空いているテーブルに腰を下ろした。
「何にしようかにゃ?」
サラがメニューを手に取りながら、目を輝かせる。
「軽い食事と言っても、いろいろあるな。サンドイッチか、それともスープにするか…。」
俺が考えを巡らせる。
アーロンはすでに決めたようで、メニューを閉じた。
「僕はトマトスープとパンにします。それに、冷たいハーブティーも。」
「ウチは…ミートパイと、チーズが入ったオムレツがいいにゃ。あ、デザートも頼むにゃ!」
「お前、本当に小腹がすいたんだよな?」
俺は苦笑しながらサラに問いかけるが、彼女はすでに注文を決めて満足げだ。
俺も適当にサンドイッチとスープを注文し、しばしの間、食事を待つことにした。外の風景を眺めると、街の活気が少しずつ落ち着いていく様子が伺える。夕暮れが近づいているのだろう。
「五明丸兄、やっぱりすぐには来ないかもしれないにゃ。」
サラがぽつりと呟く。
「そうかもな。でも、五明丸のことだ。早く片付けて合流しようと急いでるだろうさ。」
俺は彼女に笑顔を向けて安心させる。
アーロンも同意して頷く。
「ええ、五明丸兄さんは行動力のある人ですから、いずれ戻ってくるでしょう。それまでゆっくり休んでいればいいんですよ。」
しばらくして、料理が運ばれてきた。湯気を立てるスープの香りが食欲をそそり、サンドイッチのカリッとしたパンが食べる前から美味しそうだ。サラはミートパイにかぶりつき、アーロンはトマトスープを静かにすすっている。
俺もスープを一口飲む。温かく、優しい味が口の中に広がる。
たまにはこう、穏やかな時間を過ごせるのもいいな。




