再び王都へ
戦闘が終わり、俺は首をへし折ったグールを担いでパラダマ村へ持ち帰った。なぜなら、見せなきゃいけない相手がいるからだ。
夜が訪れると、俺たちは村の井戸に向かった。村長も同行したいというので一緒に向かった。井戸の周囲には、夜の闇に包まれて不気味な雰囲気が漂っていた。風が吹き抜け、木々のざわめきが一層不安を煽る。
突然、女性の悲鳴が聞こえたかと思えば、井戸の中からバンシーの姿が浮かび上がった。彼女の姿は前回と変わらず、不安げでありながらも、どこか安堵の表情を浮かべているように見えた。
村長がその姿を見つめ、少し震える声で呟いた。
「セレナ……本当に、セレナなんじゃな。」
「………。」
バンシー、セレナは父である村長の方に顔を向けるが何も話さない。
「これが、お前さんの心残りにしていたやつだろ?」
俺はグールの死体を井戸の前に置きながら、セレナに話しかけた。
「………..。」
セレナは無表情でグールの首を見つめ、その表情が少しだけ和らいだように見えた。セレナはグールの首に触れ、一言
「ありがとう」
と語り、彼女の姿がゆっくりと消えていった。井戸の周囲には穏やかな静寂が戻り、夜の闇も少しだけ安らかになった。気付けば空は少しずつ明るくなってきた、夜明けだ。
村長は静かに井戸を見つめながら、心の中で祈りを捧げた。
「セレナ、どうか安らかに。」
しばらく祈りを捧げた後、村長が立ち上がり俺たちを見る。
「本当にありがとうございました。」
村長は俺とサラに深くお辞儀をして感謝の意を示す。
「何年も、村の井戸から夜ごと聞こえてくるあの声に怯えていたんじゃ。夜闇に浮かぶバンシーの姿が、ただ恐ろしくてな…。だけど、まさかバンシーがワシの娘だったなんて…。バンシーになって、ずっと苦しんでいたのに気づけなかった。気づいてやれなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいじゃ。でも、お前さんらがセレナを救ってくれたおかげで、ようやく娘は解放されたんじゃな。本当にありがとう。あの娘が安らかに眠れるようになったことが、ワシには何よりの救いじゃ。心から感謝している。」
「そんなに感謝されるほどのことはしてない。俺たちがしたのは、ただやるべきことをやっただけだ。」
村長としばらく話した後、俺とサラは村長の家に戻った。玄関を開けると、商人ダニエルが待っていた。ダニエルは少し心配そうな表情を浮かべていたが、俺たちの無事を確認すると安堵の笑みを浮かべた。
「無事に戻ったんですね、お二人とも。村はもう安全になったのでしょうか?」
「ああ、ダニエル。話すると長いから簡単に言うと、村の家畜を襲っていたのはグールだったよ。んでそいつを倒して、さらに井戸にいたバンシーもなんとか成仏させたよ。」
「そ、そうでしたか、それは本当に良かったです。私もこの村にお世話になってたので、本当にありがとうございます。」
と、ダニエルに簡単に状況を説明した後、俺たちは少し休むことにした。
村長の家で身支度を整え、旅への準備を済ませると、再び俺とサラ、ダニエルの3人で王都へ向かうためだ。
「よし、さぁ、行こうか。」
俺はサラとダニエルに声をかけ、再び旅路に出発した。村の人々が見送る中、俺たちは歩き始めた。村の道を抜け、再び王都への道を進む。
「アダス兄、王都に行ったら美味しい料理を食べたいにゃあ。」
サラが期待に満ちた声で言った。
「美味しい料理か。王都には色々な食堂や屋台があるから、何か美味しいものが見つかるだろうな。」
「何が食べられるかにゃあ…。お肉とか、お魚とか、甘いデザートとか、考えるだけでお腹が空いてくるにゃ!」
サラは嬉しそうに話しながら、ぴょんぴょん跳ねている。
「そうだ、ダニエル。商人なんだから王都詳しいよな? おすすめの料理とかある?」
俺はダニエルに尋ねた。
「王都にはたくさんの美味しい料理がありますけど、特におすすめなのは王都で最近人気がある『焼きそば』ですかな。具材とソースのバランスが絶妙で、一度食べたら忘れられない味でしたよ。」
「焼きそばって良い響きにゃあ! 絶対に食べてみたいにゃ!」
サラの目が輝く。
ダニエルは笑って続けた。
「実はその焼きそば、どこかの貴族の子供が提案した料理らしいです。その提案を受けた料理人が試行錯誤して、王都の屋台で作られるようになったのが最近だとか、様々な種類のソースとトッピングがあるんですよ。特に地元の特産物を使ったバージョンが人気ですね。」
「気になるにゃあ。食べてみたいにゃあ~!」




